2021年05月27日

世帯年収別に見たコロナ禍の家計収支の変化-中低所得層の現役世帯で夫の収入の減少幅大、給付金が家計を下支え

生活研究部 上席研究員   久我 尚子

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1――はじめに~低所得層ほど就労収入は減少、世帯年収200万円未満の約4分の1で1割以上減少

コロナ禍で旅行や外食などの外出型消費が大幅に減る一方、ゲームや食品、テレワーク関連製品などの巣ごもり消費が活発化している1。打撃を受けた消費領域とむしろ需要の増した消費領域との明暗が分かれているが、それはそのまま雇用情勢にも表れている。

ニッセイ基礎研究所「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査2によると、コロナ禍の影響で収入が減少した層は飲食業などの対面型サービス業従事者で多い3。また、収入減少層は、職業別にはパート・アルバイトなどの非正規雇用者や自営業で多い一方、正社員(特に管理職以上)では少ない。よって、個人年収や世帯年収が低いほどコロナ前と比べて収入が減少した割合が高い傾向があり、世帯年収200万円未満では23.5%で収入が1割以上減少している(図表1)。

昨年、政府はコロナ禍の家計支援策として、国民1人当たり一律10万円の「特別定額給付金」を給付した。しかし、コロナ禍の就労収入への影響は収入階級による違いがある。また、その違いは消費にも影響を及ぼしている可能性がある。
本稿では、総務省「家計調査」を用いて、年間収入階級別の家計収支の違いを分析する。
図表1 コロナ前と比べて就労収入が1割以上減少した割合(20~60歳代)
 
1 久我尚子「コロナ禍1年の家計消費の変化」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2021/5/20)
2 調査時期は2021年3月26~29日、調査対象は全国に住む20~69歳の男女、インターネット調査、株式会社マクロミルのモニターを利用、有効回答2,070。
3 久我尚子「コロナ禍1年の仕事の変化」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2021/4/20)
 

2――家計収支の変化

2――家計収支の変化~中低所得層の現役世帯で夫の収入の減少幅大、給付金が家計を下支え、貯蓄増

1家計収入の変化~特別定額給付金や(正規雇用)妻の収入増加で収入階級によらず実収入増加
年間収入五分位階級別に二人以上勤労者世帯の実収入4を見ると、いずれの収入階級でも2020年は2019年より増加している(図表2)。それは主に「特別定額給付金」を含む他の特別収入や妻の勤め先収入が増加しているためである。なお、各世帯の特別定額給付金の給付額の推計値は、世帯収入の上位20%が含まれる第V五分位階級で世帯平均人員数が最も多いため、給付額の推計値も最多で35.2万円(月当たりに換算すると2.9万円)である。最も少ない第I五分位階級では29.7万円(月当たり2.5万円)との幅があるが、おおむね30万円前後が給付されている(図表2(d))。

また、実収入の増加幅は第IV五分位階級を中心に大きい。第IV五分位階級では妻の勤め先収入の増加幅が大きく、妻の有業率も比較的高いため、他の階級と比べて妻の勤め先収入の増加による影響が大きくなっている。なお、第IV五分位階級では夫の勤め収入の減少幅を妻の勤め先収入の増加幅が上回る。

妻の勤め先収入は、コロナ禍でも全ての収入階級で増加している。その要因には、コロナ禍で需要の減る飲食業のパートなどの非正規雇用者は減少する一方、需要の増す医療・福祉業などで正規雇用者が増えることで、給与水準の高い正規雇用者の収入が平均値を押し上げている可能性があげられる。
図表2 年間収入五分位階級別に見た世帯当たりの収入と支出(月平均)(次頁に関連グラフ等を掲載)
図表2 年間収入五分位階級別に見た世帯当たりの収入と支出(月平均)(続き)
総務省「労働力調査」によると、2019年と比べた2020年の非正規雇用者数は男女とも減少しているが(男性▲26万人、女性▲50万人)、女性の正規雇用者数は増加している(+33万人)(図表3)。また、産業別には、特に女性で宿泊・飲食サービス業(▲20万人)や生活関連サービス・娯楽業(▲8万人)の雇用者数は減少する一方、医療・福祉業(+15万人)では増加している5。このほか、女性では不動産・物品賃貸業(46万人→49万人、+3万人)や情報通信業(62万人→65万人、+3万人)、金融・保険業(87万人→90万人、+3万人)などでも増加が見られる。

妻の勤め先収入は、正規雇用者の増加を背景に各収入階級の平均で見れば増加しているが、コロナ禍で雇用形態や業種によって状況が大きく異なることに留意すべきである。女性では従来から非正規雇用者が雇用者の過半数を占め、飲食業などのサービス業に従事する雇用者は約330~370万人で男性の約1.5倍、雇用者数に占める割合は13~14%で男性の約2倍を占める(いずれも2015年以降の値)。コロナ禍で苦境に立たされた業種の非正規雇用者では、雇い止めや収入減少などの厳しい状況にある。
図表3 2020年と2019年の雇用者数の変化
一方、夫の勤め先収入は第I五分位階級を除く全ての階級で減少しており、第III及び第II五分位階級では月平均1万円以上減少している。男性では女性ほど正規雇用者数は増えておらず、医療・福祉業従事者も多くない(女性の3分の1以下)。よって、妻の勤め先収入の増加要因としてあげた正規雇用者増による勤め先収入の平均値の押し上げ効果が見られず、むしろ、コロナ禍で苦境に立たされた業種における正規雇用者などの収入減少の影響が大きく表れているのかもしれない。

なお、第III五分位階級を中心に世帯主の平均年齢が若く6、18歳未満の世帯人員が多い7傾向がある。つまり、世帯年収下位20~60%の中低所得層に多い現役世帯を中心に、コロナ禍で夫の勤め先収入が比較的大きく減少している。また、これらの層では妻の有業率が高所得層ほど高くなく、妻の勤め先収入の増加幅も小さいため、夫の勤め先収入の減少を妻の勤め先収入の増加では補填できていない。

なお、実収入と他の特別収入(給付金を含む)の増加幅は、世帯収入の下位40~60%が含まれる第III五分位階級ではおおむね同程度であり、実収入の増加は給付金によるものと言える。一方、下位40%以下の第II及び第I五分位階級では実収入の増加幅を他の特別収入が上回るため(特に第II五分位階級)、収入減少による赤字が給付金によって補填されていることになる。つまり、低所得層ではコロナ禍の就労収入の減少を給付金によって支えられている。また、特に、現役世帯の多い世帯年収下位20~40%の低所得層で、その状況が顕著に見られる。

以前に給付金の使い道について調査をしたところ8、低所得層ほど生活費の補填の占める割合が高く、世帯年収200万円未満で約6割、200万円~800万円未満で過半数を占めていた9。一方、世帯年収1,000万円以上の高所得層では旅行や外食などの選択割合が高い傾向があった。
 
4 預貯金引出や財産売却、クレジット借入金などを除く世帯全体の収入
5 なお、総務省「労働力調査」では、産業別に雇用形態別雇用者数は公開していないが、先のニッセイ基礎研究所の調査によると、20~60歳代の女性就業者のうち民間企業の就業者のうち非正規雇用者の割合は61.1%だが、宿泊・飲食サービス業では81.0%(全体より+19.9%pt)、生活サービス・娯楽業は75.0%(全体より+13.9%pt)の一方、医療・福祉業では53.9%(全体より▲7.2%)である。また、これらの業種では半数以上が年収200万円未満である。
6 世帯主の平均年齢は第I五分位階級が52.1歳、第IIが49.2歳、第IIIが48.4歳、第Ⅳが49.2歳、第Vが50.1歳。
7 18歳未満の平均人員数は第I五分位階級が0.74人、第IIが0.95人、第IIIが0.99人、第Ⅳが0.97人、第Ⅴが0.95人
8 久我尚子「特別定額給付金10万円の使い道」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2020/7/9)
9 なお、レポートでは使い道のランキングとしては世帯年収200~800万円未満で同様であったため、世帯年収200~800万円をまとめて掲載してあるが、生活費の補填の選択割合は世帯年収200~400万未満で57.5%、400~600万未満で53.3%、600~800万未満で53.1%。
2コロナ禍の影響の小さな高所得世帯~年収1,000万円以上の7割超がコロナ前と就労収入の変化なし
ところで、実収入の増加幅は、上位20%が含まれる第V五分位階級と比べて上位20~40%が含まれる第IV五分位階級の方が大きいが、これは、より高所得層ではコロナ禍の就労収入への影響が小さい可能性があげられる。
図表4 個人年収800万円以上のコロナ前との就労収入の変化 コロナ前との就労収入の変化を見ると3、個人年収1,000万円以上では800~1,000万円未満と比べて「変わらない」割合が高い一方(+12.2%pt)、800~1,000万円では1,000万円以上と比べて「増加」(+4.5%pt)の割合も「減少」(+7.8%pt)の割合も高い(図表4)。

つまり、個人年収800~1,000万円では1,000万円以上と比べて、良くも悪くもコロナ禍の影響を大きく受けており、このことが先のIV五分位階級の実収入の増加幅が最上位の第V五分位階級の増加幅を上回ることに通じると考える。
3|消費支出と貯蓄の変化~給付金と消費減少で貯蓄は増加、就労収入は足元で前年同月を下回る
消費支出は収入階級によらず減少しており、減少幅は支出額の多い高所得世帯ほど大きい傾向がある(図表2(c))。また、いずれの階級でも実収入が増え、消費支出が減ることで預貯金純増10が増えているが、その増加幅は、実収入の増加幅の大きな第Ⅳ五分位階級を中心に大きくなっている。なお、低所得世帯でも、給付金効果で実収入が増えて消費支出が減ることで、預貯金純増は増えており、年間で約13万円増えたことになる。

数字だけを見れば、収入階級によらず貯蓄が増えており、全体的に消費余力があるようにも見えるだろう。つまり、現在のところ、コロナ禍で消費の向い先を失っているものの、ポストコロナでは消費が動き出す期待が持てるようにも見えるのかもしれない。確かに、ワクチン接種が進み、外食や旅行などの行動制限が緩和されれば、当面は外出型消費は強い回復基調を示すことが予想される。しかし、低所得世帯や子育て中の現役世帯などを中心に、経済不安から余剰金を手元に貯蓄としてとどめる傾向も根強いのではないだろうか。

先の給付金の使い道の調査において、貯蓄を選択した層では、将来的に教育費などの比較的大きな出費を控えている子育て世帯のほか、運輸・郵便・卸売・小売業従事者などテレワークによる在宅勤務が難しく、感染によって仕事に直接的な影響が及ぶ就業者などで多い傾向があった11。なお、これらの層ではコロナ禍による収入減少や経済的な先行き不安が強い傾向もあった。

また、ここまで年次データでコロナ禍の変化を見てきたが、月次データで見ると、実はコロナ前から実収入や就労収入の伸びが鈍化していることが分かる。

二人以上勤労者世帯の実収入(全体平均)の対前年同月実質増減率は、2019年後半頃から低下傾向で推移しており、給付金効果で2020年5~7月にかけて前年同月を大幅に上回ったが、2020年12月には前年同月を下回るようになっている(図表5)。また、年次データで見れば増加していた妻の勤め先収入も、やはりおおむね低下傾向を示しており、2020年の間は前年同月を上回っていたが、2021年2月以降、前年同月を下回っている。なお、年次データでも減少していた夫の勤め先収入は、2020年6月以降、前年同月を下回っている。

つまり、コロナ前から収入の伸びは鈍化していたが、コロナ禍で、ついに前年同月を下回る状況となっている。このような中では、やはり低所得世帯や子育て中の現役世帯などでは、中長期的に雇用や社会保障制度などを含めた経済状況全体に改善の見通しが立たない限りは、行動制限が緩和されて一時的に消費意欲が増したとしても、慎重な消費態度を根強く持つのではないだろうか。
図表5 二人以上勤労者世帯の収入(対前年同月実質増減率)
 
10 預貯金と預貯金引出の差額で、高所得世帯でも黒字(可処分所得と消費支出の差)の約8割を占める。
11 久我尚子「特別定額給付金の使い道(2)」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レター、(2020/11/17)
 

3――おわりに

3――おわりに~ワクチン接種で消費は大きく動く可能性が高いが、その後は?

今年4月から、消費税を含む総額表示が義務化された。その際、コロナ禍の需要減や原材料費の高騰などに苦しむ外食チェーンなどでは、表示額の変更に伴って値上げに踏み切った企業もある。一方で、コロナ禍でも需要のある普段着を扱うファストファッションメーカーでは、価格表示に上乗せされる税額分の値下げに踏み切る決断が見られた。つまり、コロナ禍でも経営体力のある企業では、消費者の低価格志向は根強いものと判断し、それに寄り添う形を取っているのではないか。

消費者の経済不安には目の前のコロナ禍による収入減少や失業への不安もあるが、コロナ前から若い世代を中心に将来の経済不安は強まっていた12。若い世代ほど非正規雇用者が増え、正規雇用者であっても家族形成期である30~40代で賃金が伸びにくくなり、賃金カーブが平坦化していた13。さらに、少子高齢化による社会保障制度の持続可能性への懸念もある。

ワクチン接種が進み、行動制限が緩和されれば、旅行や外食などの外出型消費を中心に消費は大きく動き始めるだろう。一方で、それは継続するものなのか、一時期の盛り上がりの後は再び将来不安による消費抑制という動きへと変わっていくのか、注視していきたい。
 
12 内閣府「国民生活に関する世論調査」にて2000年代では今後の収入や資産の見通しについての不安が高水準で推移。
13 久我尚子「求められる氷河期世代の救済-経済格差は家族形成格差、高齢期の貧困・孤立問題を生む」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2019/7/2)、「求められる 20~40 代の経済基盤の安定化」(2017/5/17)等
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

(2021年05月27日「基礎研レポート」)

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