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2021年05月12日
欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2020年決算数値等に基づく現状分析-
1―はじめに
欧州大手保険グループの2020年決算数値が、2021年2月から4月にかけて、投資家向けのプレゼンテーション資料やAnnual Report等の形で公表されている。今回のレポートでは、2020年決算に関わる各社の決算数値等に基づいて、欧州大手保険グループの生命保険事業を中心とした地域別の事業展開の状況について報告する。
欧州大手保険グループを巡る経営環境は、世界的な金融緩和の長期化に伴う低金利環境の継続に加えて、2016年1月にスタートしたソルベンシーIIをはじめとした各種の規制強化・整備への対応、(現時点においては)2023年1月以後に開始する事業年度から適用が想定されている新たな保険契約会計基準への対応等、数多くの課題を抱えている状況にある。さらには、気候変動、パンデミック、DX(デジタルトランスフォーメーション)等といった新たな課題への対応も従前以上に求められてきている状況にある。各社ともこうした環境下で、それぞれの戦略に基づいた海外事業展開の拡大・再編等を進め、収益基盤の再構築を図ってきている。
昨年の基礎研レポートでは、欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況について、2019年決算数値等に基づく現状分析を報告した1。
これまでの基礎研レポートでも述べてきたが、以下の報告においては、例えば、分析用に開示されている保険料や営業利益2のベースや地域別の区分の考え方が、各社によって異なっており、各社の公表データのベースも必ずしも統一されていない。さらに、昨年のレポートでも述べたように、セグメント情報の提供において、必ずしも生命保険事業と損害保険事業を区分していない会社もあり、また各種の規制の動向等も踏まえて、これまでとは異なる経営指標や評価基準に基づく開示内容に変更してきている会社もある。加えて、2019年決算報告時とは異なるベースで2020年の決算報告を行っている会社もある。
以上のような理由から、今回の分析については、各種制約下で、各社間比較等も必ずしも十分なものとはなっていないが、筆者の判断で各種前提を置いて、一定比較可能と思われる数値を作成して分析を行っている3。そのため、各社がそれぞれの考え方に基づいて開示している地域別の事業状況等の数値が、このレポートで筆者が独自に採用したベースとは必ずしも一致していないケースもあることを述べておく。
なお、2020年決算においては、新型コロナウイルスCOVID-19による影響も重要なトピックであるが、これについては、先の保険年金フォーカス「新型コロナウイルスの感染拡大が保険会社に与える影響(2)-欧州大手保険Gの2020年決算発表による-」(2021.4.30)等で報告しているので、こちらを参照していただくことにして、このレポートでは詳しくは触れていない。
1 なお、2020年末のソルベンシーの状況については、筆者による、保険・年金フォーカス「欧州大手保険グループの2020年末SCR比率の状況について-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(1)及び(2)-」(2021.4.6及び4.13)を参照していただきたい。
2 各社によって、Operating ProfitやUnderlying Earnings等と英語の名称が異なるものを、このレポートでは、必ずしも正確ではなく、厳密な意味での同等な比較にはなっていないが、また本来的には「基礎利益」等と表現することがより適切なケースもあるかもしれないが、以下では、基本的には「営業利益」との表現を使用している。
3 以下の図表においては、昨年報告した2019年数値についても、適宜2020年ベースに修正している。
欧州大手保険グループを巡る経営環境は、世界的な金融緩和の長期化に伴う低金利環境の継続に加えて、2016年1月にスタートしたソルベンシーIIをはじめとした各種の規制強化・整備への対応、(現時点においては)2023年1月以後に開始する事業年度から適用が想定されている新たな保険契約会計基準への対応等、数多くの課題を抱えている状況にある。さらには、気候変動、パンデミック、DX(デジタルトランスフォーメーション)等といった新たな課題への対応も従前以上に求められてきている状況にある。各社ともこうした環境下で、それぞれの戦略に基づいた海外事業展開の拡大・再編等を進め、収益基盤の再構築を図ってきている。
昨年の基礎研レポートでは、欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況について、2019年決算数値等に基づく現状分析を報告した1。
これまでの基礎研レポートでも述べてきたが、以下の報告においては、例えば、分析用に開示されている保険料や営業利益2のベースや地域別の区分の考え方が、各社によって異なっており、各社の公表データのベースも必ずしも統一されていない。さらに、昨年のレポートでも述べたように、セグメント情報の提供において、必ずしも生命保険事業と損害保険事業を区分していない会社もあり、また各種の規制の動向等も踏まえて、これまでとは異なる経営指標や評価基準に基づく開示内容に変更してきている会社もある。加えて、2019年決算報告時とは異なるベースで2020年の決算報告を行っている会社もある。
以上のような理由から、今回の分析については、各種制約下で、各社間比較等も必ずしも十分なものとはなっていないが、筆者の判断で各種前提を置いて、一定比較可能と思われる数値を作成して分析を行っている3。そのため、各社がそれぞれの考え方に基づいて開示している地域別の事業状況等の数値が、このレポートで筆者が独自に採用したベースとは必ずしも一致していないケースもあることを述べておく。
なお、2020年決算においては、新型コロナウイルスCOVID-19による影響も重要なトピックであるが、これについては、先の保険年金フォーカス「新型コロナウイルスの感染拡大が保険会社に与える影響(2)-欧州大手保険Gの2020年決算発表による-」(2021.4.30)等で報告しているので、こちらを参照していただくことにして、このレポートでは詳しくは触れていない。
1 なお、2020年末のソルベンシーの状況については、筆者による、保険・年金フォーカス「欧州大手保険グループの2020年末SCR比率の状況について-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(1)及び(2)-」(2021.4.6及び4.13)を参照していただきたい。
2 各社によって、Operating ProfitやUnderlying Earnings等と英語の名称が異なるものを、このレポートでは、必ずしも正確ではなく、厳密な意味での同等な比較にはなっていないが、また本来的には「基礎利益」等と表現することがより適切なケースもあるかもしれないが、以下では、基本的には「営業利益」との表現を使用している。
3 以下の図表においては、昨年報告した2019年数値についても、適宜2020年ベースに修正している。
2―欧州大手保険グループの各社間比較-全体の業績と地域別業績について-
欧州大手保険グループとしては、欧州の主要国を代表する保険グループとして、AXA(フランス)、Allianz(ドイツ)、Generali(イタリア)、Aviva(英国)、Aegon(オランダ) 、Zurich(スイス)の6社を対象にしている。
AXA、Allianz、Aviva、Aegon及びGeneraliの5社は、これまで、FSB(Financial Stability Board:金融安定理事会) が選定していたG-SIIs(Global Systemically Important Insurers:グローバルなシステム上重要な保険会社)に指定されてきたことがある会社である4。なお、2年前までの基礎研レポートで含めていたPrudentialについては、2019年10月に、アジアと米国における保険事業を展開するPrudential plcと欧州における保険事業と投資管理事業を展開するM&G plcに分割され、これまでのベースの数値の取得が困難になったため、昨年のレポートの各社間比較から、除いている。ただし、引き続きPrudential は世界を代表する保険グループとして重要なポジションを有しているので、参考として各種数値を掲載している。
なお、以下の図表の数値は、特に断りがない限り、各社の公表資料に基づいている。
4 FSBは2017年以降、G-SIIsのリストを公表していない。
AXA、Allianz、Aviva、Aegon及びGeneraliの5社は、これまで、FSB(Financial Stability Board:金融安定理事会) が選定していたG-SIIs(Global Systemically Important Insurers:グローバルなシステム上重要な保険会社)に指定されてきたことがある会社である4。なお、2年前までの基礎研レポートで含めていたPrudentialについては、2019年10月に、アジアと米国における保険事業を展開するPrudential plcと欧州における保険事業と投資管理事業を展開するM&G plcに分割され、これまでのベースの数値の取得が困難になったため、昨年のレポートの各社間比較から、除いている。ただし、引き続きPrudential は世界を代表する保険グループとして重要なポジションを有しているので、参考として各種数値を掲載している。
なお、以下の図表の数値は、特に断りがない限り、各社の公表資料に基づいている。
4 FSBは2017年以降、G-SIIsのリストを公表していない。
以下の図表は、各社がグループ全体の指標として提示しているROE(Return on Equity:資本収益率)の状況を示している。このROEの数値の算出方法等についても、各社間で統一されているわけではないが、あくまでも各社が掲げている経営目標の1つとなっているので、参考として掲載しておく。
ROEについては、基本的には各社はグループ全体の数値のみを開示している。生命保険事業以外のウェイトもかなり高い4社のうち、Allianzのみが生命保険事業の数値も公表している。AXAやGeneraliはEV(Embedded Value)に対するリターンという形で、以前は生命保険事業に対するROEも開示していたが、2017年以降は両社とも開示していない。
これによれば、2020年の各社のROEは、2019年に比べて大きく低下しており、ほぼ8%から12%の範囲内にある。
ROEについては、基本的には各社はグループ全体の数値のみを開示している。生命保険事業以外のウェイトもかなり高い4社のうち、Allianzのみが生命保険事業の数値も公表している。AXAやGeneraliはEV(Embedded Value)に対するリターンという形で、以前は生命保険事業に対するROEも開示していたが、2017年以降は両社とも開示していない。
これによれば、2020年の各社のROEは、2019年に比べて大きく低下しており、ほぼ8%から12%の範囲内にある。
2|保険事業の地域別業績
ここでは、各社のセグメント情報に基づいて、保険事業に関する保険料と営業利益の地域別内訳を見ている5,6。
5 地域区分は、基本的に引受会社の所属国に基づいている。br> 6 2020年の数値算出において、会社によっては、地域別のセグメントの変更や算出方法等の変更を行っているケースもあり、これに伴い、昨年の基礎研レポートで報告した2019年の数値を変更している場合もある。
ここでは、各社のセグメント情報に基づいて、保険事業に関する保険料と営業利益の地域別内訳を見ている5,6。
5 地域区分は、基本的に引受会社の所属国に基づいている。br> 6 2020年の数値算出において、会社によっては、地域別のセグメントの変更や算出方法等の変更を行っているケースもあり、これに伴い、昨年の基礎研レポートで報告した2019年の数値を変更している場合もある。
各社別の地域別の構成比の概要は、以下の通りである。
AXAは、自国のフランスが27%、その他の欧州が35%、アジア・太平洋が12%となっている。なお、その他にはAXA XL や国際(International)の数値を含めている。
Allianzの生保は、自国のドイツで53%、ドイツ以外の欧州で27%となっているが、米国中心の米州やアジア・太平洋も有意な水準となっている(なお、「3―2|Allianz 」で述べるように、法定保険料ベースでは、米国のシェアは13%となっている)。損保では、国際部門や再保険の数値が含まれていることから「その他」の割合が31%と高くなっている。
Generaliの生保は、自国のイタリアが40%、イタリア以外の欧州で51%と高くなっており、欧州以外の構成比は9%に留まっている。
Avivaの場合、英国とアイルランドの合計が53%、英国とアイルランド以外の欧州とアジアが36%、カナダの損保事業である米州が11%となっている。ただし、後述するように、英国とアイルランド以外の欧州やアジアの事業については、2020年から2021年にかけて売却済又は売却予定である。
Aegonの場合、自国のオランダは12%で、オランダ以外の欧州が41%となっているが、米国及び中南米を含む米州が53%と、他社に比べてかなり高い水準になっている。
Zurichの場合、自国のスイスが生保で9%、損保で10%、スイス以外の欧州が生保で53%、損保で34%となっている。中南米を中心とした米州が生保で19%、損保で52%と、Aegonと同様に、これらの地域の構成比がかなり高くなっている。さらに、アジア・太平洋も、生保で19%、損保で8%と有意な水準になっている。
保険料という指標で見た場合、アジア・太平洋の構成比は、近年上昇傾向にあり、AXA、Allianz及びZurichでは1割を超える水準になっている。
AXAは、自国のフランスが27%、その他の欧州が35%、アジア・太平洋が12%となっている。なお、その他にはAXA XL や国際(International)の数値を含めている。
Allianzの生保は、自国のドイツで53%、ドイツ以外の欧州で27%となっているが、米国中心の米州やアジア・太平洋も有意な水準となっている(なお、「3―2|Allianz 」で述べるように、法定保険料ベースでは、米国のシェアは13%となっている)。損保では、国際部門や再保険の数値が含まれていることから「その他」の割合が31%と高くなっている。
Generaliの生保は、自国のイタリアが40%、イタリア以外の欧州で51%と高くなっており、欧州以外の構成比は9%に留まっている。
Avivaの場合、英国とアイルランドの合計が53%、英国とアイルランド以外の欧州とアジアが36%、カナダの損保事業である米州が11%となっている。ただし、後述するように、英国とアイルランド以外の欧州やアジアの事業については、2020年から2021年にかけて売却済又は売却予定である。
Aegonの場合、自国のオランダは12%で、オランダ以外の欧州が41%となっているが、米国及び中南米を含む米州が53%と、他社に比べてかなり高い水準になっている。
Zurichの場合、自国のスイスが生保で9%、損保で10%、スイス以外の欧州が生保で53%、損保で34%となっている。中南米を中心とした米州が生保で19%、損保で52%と、Aegonと同様に、これらの地域の構成比がかなり高くなっている。さらに、アジア・太平洋も、生保で19%、損保で8%と有意な水準になっている。
保険料という指標で見た場合、アジア・太平洋の構成比は、近年上昇傾向にあり、AXA、Allianz及びZurichでは1割を超える水準になっている。
2-2.営業利益の状況
次に、保険事業の営業利益の地域別内訳を見てみる。地域別の利益配分等にも各社の考え方が反映されているが、各国における子会社毎や各社間の収益状況の差異等も一定程度比較できるものと考えられる。なお、一般的には、国際部門や再保険関係の損益が「その他」に含まれていることから、グループによっては「その他」の構成比が、特に損保事業を中心に大きくなっており、その数値も比較的大きく変動している。
(1)2020年の結果
営業利益ベースでも、各社の地域別の構成比の状況は、保険料と基本的には大きくは変わらないが、地域別の収益状況や各地域での深耕度等を反映して、若干異なる傾向となっている。
各社別の地域別の構成比の概要は、以下の通りである。
AXAの生保は、アジア・太平洋が34%と高くなっている。
Allianzの生保は、米国が22%と高くなっているが、アジア・太平洋は構成比を高めてきて、10%となっている。
Generaliの生保は、イタリアが52%、イタリア以外の欧州が41%で、合計では保険料の構成比よりも若干高くなっており、営業利益ではより欧州に依存した形になっている。
Avivaは、英国とアイルランドでの営業利益が74%を占めている。
Aegonは、オランダが38%で、米国及び中南米を含む米州の営業利益が47%と極めて高くなっている。
Zurichの生保は、アジア・太平洋の構成比が19%であることに加えて、中南米を中心とした米州が14%と高くなっている。
営業利益という指標で見た場合には、アジア・太平洋の構成比は、AXAが34%、Zurichが19%と高くなっている。Allianz、Generali、Aviva、Aegonについては、その会社全体における位置付けを高めてきてはいるものの、いまだ営業利益での構成比は1割程度以下に留まっている。
次に、保険事業の営業利益の地域別内訳を見てみる。地域別の利益配分等にも各社の考え方が反映されているが、各国における子会社毎や各社間の収益状況の差異等も一定程度比較できるものと考えられる。なお、一般的には、国際部門や再保険関係の損益が「その他」に含まれていることから、グループによっては「その他」の構成比が、特に損保事業を中心に大きくなっており、その数値も比較的大きく変動している。
(1)2020年の結果
営業利益ベースでも、各社の地域別の構成比の状況は、保険料と基本的には大きくは変わらないが、地域別の収益状況や各地域での深耕度等を反映して、若干異なる傾向となっている。
各社別の地域別の構成比の概要は、以下の通りである。
AXAの生保は、アジア・太平洋が34%と高くなっている。
Allianzの生保は、米国が22%と高くなっているが、アジア・太平洋は構成比を高めてきて、10%となっている。
Generaliの生保は、イタリアが52%、イタリア以外の欧州が41%で、合計では保険料の構成比よりも若干高くなっており、営業利益ではより欧州に依存した形になっている。
Avivaは、英国とアイルランドでの営業利益が74%を占めている。
Aegonは、オランダが38%で、米国及び中南米を含む米州の営業利益が47%と極めて高くなっている。
Zurichの生保は、アジア・太平洋の構成比が19%であることに加えて、中南米を中心とした米州が14%と高くなっている。
営業利益という指標で見た場合には、アジア・太平洋の構成比は、AXAが34%、Zurichが19%と高くなっている。Allianz、Generali、Aviva、Aegonについては、その会社全体における位置付けを高めてきてはいるものの、いまだ営業利益での構成比は1割程度以下に留まっている。
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