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コンテンツから見るノスタルジア消費-「ALWAYS三丁目の夕日」・「モーレツ! オトナ帝国の逆襲」・「西武園ゆうえんち」・「アメリカングラフィティ」から読み解く

生活研究部 研究員 廣瀬 涼
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6――なぜアメリカを懐かしく思うのか
7――まとめ-『ALWAYS 三丁目の夕日』と『モーレツ! オトナ帝国の逆襲』の違い-
一方、『モーレツ! オトナ帝国の逆襲』の最後は、しんのすけが両親を昭和ノスタルジアからの洗脳を解き、未来を取り戻すために戦うという構図となっている。作中で「古き良き時代」と「現在」が対立するモノとして描かれている。そもそも「20世紀博」と呼ばれる現代の昭和ノスタルジア化計画は、運営組織である“イエスタデイ・ワンス・モア”が物質主義そして拝金主義である現代社会に疑問を持ち、“人との繋がりを大事にした未来への希望ある昭和”を取り戻そうとしたことがきっかけにある。しかし、その“昭和”自体も彼らの記憶の中で美化されているモノに過ぎず、現在にある“正”の部分が見落とされていたと言う点が本作の肝にあたる。本作における“正”の部分は「日常」であり、過去も素晴らしいが、現在までの人生の過程や家族、思い出すべてが自身のアイデンティティを形成しており、今後もその連続性が不安定で先が見えない、しかし希望のある未来を形成すると提示している。我々の現実においては、タイムトラベルは不可能であり、どんなに切望しても古き良き時代に戻ることはできない。しかし、野原家は洗脳という方法で古き良き時代に留まり続けるという選択を取ることもできたのにも拘らずそれを拒み、未来を受け入れたのである。筆者はこれをノスタルジアの本質だと考えている。過去への哀愁は現代と表裏一体であり、決して戻ることはできないという現実を認識しているからこそ、過去が尊く感傷そのものになるのである。一方で、全ての人が野原家のように日常と未来に希望を抱いているわけではなく、過去にすがりたいと思う者ももちろん存在する。これこそがノスタルジアの役割であり、過去に浸ることが快楽として、我々を癒し続けるのである。
主な参考文献
- 石井清輝(2007)「消費される「故郷」の誕生:戦後日本のナショナリズムとノスタルジア」『慶応大学紀 要 哲学』,117,125-156
- 佐藤翼(2011)「ノスタルジア消費研究の意義~マーケティングにおけるなつかしさの検討~」水越康介研究所
- 細辻恵子(1984)「ノスタルジーの諸相」『自尊と懐疑―文芸社会学をめざして』筑摩書房
- 堀内圭子(2004)『“快楽消費”する社会―消費者が求めているものはなにか』中公新書
- 堀内圭子(2007)「消費者のノスタルジア――研究の動向と今後の課題――」『成城大学 成城文藝』,201,179-198
- 廣瀨涼(2016)「キャラクター消費とノスタルジア・マーケティング:第三の消費文化論の視点から」『商学集志』86(1), 69-84.日本大学商学部
- 間々田孝夫(2007)『第三の消費文化論―モダンでもポストモダンでもなく』ミネルヴァ書房
- 矢吹まい(2008)「なぜ今昭和に心惹かれるのか : 映画『ALWAYS 三丁目の夕日』に見る昭和ブーム」『表現文化』 (3), 96-111.
- 矢部謙太郎(2004)「ノスタルジーの消費 -映画『クレヨンしんちゃんオトナ帝国の逆襲』分析-」『ソシオロジカル・ペーパーズ』 (13), 41-52.早稲田大学大学院社会学院生研究会
- Davis, Fred (1979). Yearning for Yesterday: A Sociology of Nostalgia. NewYork: The Free Press.(間場寿一・ 荻野美穂・細辻恵子(訳)(1990)『ノスタルジアの社会学』世界思想社).
- Havlena, W. J., & Susan L. H. (1996). Exploring nostalgia imagery through the use of consumer collages. Advances in Consumer Research, 23, 35-42.
- Holbrook, M. B., & Hirschman, E. C. (1982). The experiential aspects of consumption: Consumer fantasies, feelings, and fun. Journal of Consumer Research, 9, 132-140.
- Holbrook, M. B., & Schindler, R. M. (1991). “Echoes of the dear departed past: Some work in progress on nostalgia. Advances in Consumer Research, 18, 330-333.
(2021年04月28日「基礎研レター」)

03-3512-1776
- 【経歴】
2019年 大学院博士課程を経て、
ニッセイ基礎研究所入社
・公益社団法人日本マーケティング協会 第17回マーケティング大賞 選考委員
・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員
【加入団体等】
・経済社会学会
・コンテンツ文化史学会
・余暇ツーリズム学会
・コンテンツ教育学会
・総合観光学会
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