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中国経済の現状とリスク要因-共産党の100周年と6中全会、それに北京冬季五輪が波乱の種

三尾 幸吉郎
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1.中国経済の概況

但し、この急回復は前年同期がコロナ禍で落ち込んだ反動増という側面が強く、19年1-3月期と比べると10.3%増で、2年平均すれば5.0%増に留まっており、コロナ前の19年の実質成長率(前年比6.0%増)を1ポイント下回っている。なお、産業別に見ると、第1次産業は前年同期比8.1%増(2年平均で2.3%増)、第2次産業は同24.4%増(2年平均で6.0%増)、第3次産業は同15.6%増(2年平均で4.7%増)だった。
一方、消費者物価(CPI)は前年同期比で横ばいだった。アフリカ豚熱(ASF)や長江・淮河流域の洪水被害で高止まりしていた食品価格が昨年秋以降は下落に転じ、21年の抑制目標(3%前後)を下回る水準で推移している(図表-3)。他方、工業生産者出荷価格(PPI)は前年同期比2.1%上昇した。世界的な需要回復を背景に昨年末に下げ止まり、21年に入ると上昇の勢いが増してきた。
2.その他の景気指標
なお、ここもと海外旅行は低迷したままだが、国内旅行は急増している(図表-6)。国家統計局の劉愛華報道官は記者会見で、清明節連休(4月3~5日)に「鉄道旅客輸送人数は2020年同時期より225.8%増加」し、「映画興行収入は最高記録を更新した」と述べており、4月も良さそうだ。
3.コロナ禍の状況

COVID-19が猛威を振るい始めた19年冬、武漢市では医療崩壊が起きるなど中国は大混乱に陥った(新型コロナ混迷期)。そして1月20日に習近平国家主席が新型コロナ対策に全力を挙げるよう指示、1月23日には武漢を都市封鎖(ロックダウン)するなど防疫強化期に入った。その後2月中旬に爆発的感染が峠を越えると、中国政府は“復工復産”を旗印に経済活動再開に舵を切った。そして4月8日には武漢の都市封鎖を解除、5月下旬にはコロナ禍で遅れていた全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の開催に漕ぎ着け、財政・金融の両面で景気対策が本格稼働することとなった。
1 中国における新型コロナウイルス感染症の感染爆発とその対策、そして政府や社会の動きに関する詳細に関しては、「中国におけるコロナ禍との闘いを振り返って~今後の政策運営にどう影響するのか?」ニッセイ基礎研レポート、2020-10-30を参照ください
4.全人代と財政金融政策

中国では今年3月(5~11日)、第13期全国人民代表大会(全人代、国会に相当)第4回会議が開催された。その冒頭で李克強総理は政府活動報告を行い、今年の成長率目標を「6%以上」に設定した。国際通貨基金(IMF)などほとんどの国際機関が8%前後の経済成長を予想する中で、低めに設定した理由に関して、李克強総理は閉幕後の記者会見で「一時的に速く歩むことができても、必ずしも着実な歩みであるとは限らず、着実な歩みこそ力強いものとなる」と述べており、短期的に高成長を追求することよりも、「質の高い発展」に力点を置くという決意表明という意味合いが強いと思われる。ちなみに、「6%以上というのは可能性を残したもので、実際にはもう少し高くなる可能性がある」とも述べている。なお、その他の主要目標としては、消費者物価上昇率が3%前後、都市部調査失業率が5.5%前後、都市部新規就業者数が1100万人以上、住民所得の堅調な伸び、食糧総生産量は6億5000万トン以上、国際収支の基本的均衡、GDP1単位当たりエネルギー消費量の3%前後の引き下げを挙げている。
財政政策に関しては、2021年は「質・効率の向上を図り、より持続可能なものにする」という基本方針を掲げた。財政赤字の対GDP比は3.2%前後とし昨年の3.6%以上を0.4ポイント程度引き下げた。また、昨年は1兆元だった感染症対策特別国債の発行も今年は無くした。さらに「両新一重(新型インフラ建設、新型都市化建設、交通・水利などの大型建設)」に充てる地方特別債も昨年より0.1兆元少ない3.65兆元に留めた(図表-10)。なお、劉昆財政相は全人代開催中の取材スペースで記者に対し、「今後のリスクと試練に対応するための政策空間をあらかじめ残しておかなければならない」と述べており、財政の裁量余地を温存したい意向を示している。
金融政策に関しては、2021年は「柔軟かつ精確で、合理的かつ適度なものにする」という基本方針を掲げた。具体的には「通貨供給量(M2)・社会融資総量(企業や個人の資金調達総額)の伸び率が名目GDP成長率とほぼ一致するようにする」とした。昨年はコロナ禍で名目GDP成長率の大幅低下が避けられない状況下「前年度の水準を明らかに上回るよう促す」とし、景気を積極的に支援するスタンスを取ったが、今年は景気に対して中立に戻す意向と考えられる。また、今年の基本方針では「精確(中国語では精准)」という言葉を用い、必要な分野に十分な資金を「精確」に供給する“点滴灌漑”を実践することとなった。そして「精確」に資金供給する分野としては、科学技術イノベーション、グリーン発展、小企業・零細企業、自営業者、新しいタイプの農業経営主体、感染症による長期的な影響を受けている業種や企業を挙げている。
5.リスク要因
但し、中国経済のこれからを考えると、コロナ禍で緩んだ金融政策を引き締める過程で生じる不良債権増や住宅バブル崩壊に対する懸念、それにプラットフォーム企業に対する規制強化の悪影響といったリスク要因があるのに加えて、ふたつの波乱の種がある。
ひとつの波乱の種は米中対立でサプライチェーンが分断されることだ。米中両国は3月18~19日、バイデン米政権下で初となる外交トップによる直接会談を開催した。世界が注目する中で開かれたこの会談は、民主主義や人権といった価値観や安全保障をめぐる問題で激論を交わす異例の展開となった2。中国経済への打撃が特に大きいのは、米国が同盟国・友好国を巻き込んで“経済安全保障”を旗印とした中国排除の動きを加速することだ。世界で一つだったサプライチェーンが、米国と中国の二つを軸としたサプライチェーンに分断されると、グローバリゼーションは大きく後退し生産効率の悪化は避けられない。折しも今年7月1日には中国共産党100周年祝賀式典が開催される。習近平総書記(国家主席)は重要談話を発表する予定で、そこでは「中華民族の偉大な復興」、「共産党による領導(指導)」、「祖国統一」などに触れることになるだろう3。軍事パレードこそなさそうだが4、バイデン米政権の反応は読み切れない。さらに今秋には中国共産党第19期中央委員会第6回全体会議(6中全会)も控える。ここで米中対立がさらに激化すれば、米国が北京冬季五輪5をボイコットするような事態に陥る恐れもあるだけに、注視する必要がある。
もうひとつの波乱の種は北京冬季五輪で海外から変異ウイルスが流入することだ。前述のように中国ではCOVID-19を早期に抑え込み、その後も散発的にクラスター(感染者集団)が発生したものの、感染のリンクを追える状態をキープしている。しかし、世界では依然として新型コロナウイルスが猛威を振るっており、新たな変異ウイルスが次から次へと発生する状況にある。今のところワクチンの有効性は維持できているようだが、耐性を持つ変異ウイルスが現れる恐れもある。また、中国では約2億回のワクチン接種を実施したが、14億人を擁する中国のワクチン接種率はまだ低く、集団免疫を獲得するのは早くても21年末になりそうだ6。そして、北京冬季五輪に向けては世界から人が集まる機会が急増するため、海外から国内に変異ウイルスが流入する恐れも高まる。中国政府は水際対策を強化するだろうが、失敗すれば市中感染に陥る恐れもあり、予断を許さない。
2 米中対立に関しては「バイデン政権下で激化する米中対立と日本の果たすべき役割」(研究員の眼、2021-4-9)を参照
3 2016年7月1日に開催された中国共産党95周年祝賀式典では習近平総書記がこれらの問題に言及している。なお、中国共産党新聞によれば中国共産党第1回全国代表大会が開幕したのは1921年7月23日だが、創建記念日は7月1日とされている。
4 中国共産党中央委員会が3月23日に公表した100周年を祝う行事のなかに閲兵式は無かった。
5 北京冬季五輪は、2022年2月4日から2月20日までの17日間、北京市に隣接する河北省張家口市を会場として開催される予定。
6 中国疾病予防制御センターの高福主任は3月31日、「国内の新型コロナウイルスワクチン接種率を来年初めか、できるなら今年末までに70%~80%にして、基本的に集団免疫を実現することを希望している」と語った(澎湃新聞)。
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(2021年04月23日「Weekly エコノミスト・レター」)
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