2021年04月20日

コロナ禍1年の仕事の変化-約4分の1で収入減少、収入補填と自由時間の増加で副業・兼業も

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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4――コロナ禍における副業・兼業の状況~過半数にコロナ禍の影響、収入減少の補填、自由時間の増加

1全体の状況~約15%が副業・兼業、うち過半数に収入減少や自由時間の増加などコロナ禍の影響
次に、現在の副業や兼業の状況について尋ねたところ、全体では「副業や兼業はしていない」(85.3%)が圧倒的に多い(図表6)。

一方で副業や兼業をしている14.7%のうち最も多いのは「コロナ禍の影響ではないが、副業や兼業をはじめた・増やした」(副業や兼業従事者に占める割合は34.2%、全体に占める割合は5.0%)、次いで「コロナ禍で収入が減ったため、副業や兼業をはじめた・増やした」(25.3%、3.7%)、「コロナ禍で時間ができたため、副業や兼業をはじめた・増やした」(18.1%、2.7%)と続く。なお、コロナ禍の何らかの影響があったのは副業・兼業従事者のうち56.6%(全体の8.3%)である(図表7)。
図表6 現在の副業や兼業の状況(単一選択)/図表7 現在の副業や兼業の状況のうち副業や兼業をしている者の内訳(単一選択)
2属性別の副業・兼業の有無~自営業の約4分の1、パート・アルバイトの約2割、正規雇用でも約2割
属性別に見ると、副業や兼業をしている割合は、性年代別には男性20歳代・30歳代・40歳代(全体より+14.8%pt、+7.1%pt、+5.6%pt)や女性20歳代(+10.5%pt)で、職業別にはパート・アルバイト(+5.2%pt)や自営業・自由業(+8.6%pt)で、業種別には建設業(+15.6%pt)や飲食サービス業(+10.3%pt)、生活関連サービス業(+14.2%pt)、複合サービス事業(+7.8%pt)で、個人年収別には800~1,000万円未満(+9.4%pt)で、世帯年収別には800~1,000万円未満(+5.1%pt)で多い。なお、男性20~40歳代で副業・兼業をしている者には嘱託・派遣・契約社員がやや多く10、女性20歳代副業・兼業をしている者にはパート・アルバイトが多い11。また、ここで業種別であげた業種で副業・兼業をしている者には嘱託・派遣・契約社員やパート・アルバイトが多い傾向がある(参考値)。つまり、副業や兼業は自営業や非正規雇用などの仕事の組み合わせが多い様子がうかがえる12。なお、公務員を含む正規雇用者でも管理職以外は2割弱、管理職でも約1割が副業や兼業をしている。
図表8 属性別に見た現在の副業や兼業の状況(単一選択)
 
10 男性20~40歳代全体で嘱託・派遣・契約社員は3.4%に対して6.6%(+3.2%pt)
11 女性20歳代全体でパート・アルバイトは23.8%に対して34.2%(+10.4%pt)
12 なお、厚生労働省「労働政策審議会安全衛生分科会」第132回資料「副業・兼業に係る実態把握の内容等について」によれば、本業と副業の就業形態は、パート・アルバイト×パート・アルバイトなど「雇用(本業)×雇用(副業)」の組み合わせが最も多い(50.8%)。また、正社員×自営業・自由業など「雇用×非雇用」は26.1%、自営業・自由業×自営業・自由業など「非雇用×非雇用」は15.2%、自営業・自由業×パート・アルバイトなど「非雇用×雇用」は7.9%。
3属性別の副業・兼業の状況~増えた副業・兼業は収入減少の補填、正規雇用者の自由時間の増加
副業や兼業をしている者の中では、コロナ禍で何らかの影響があったかを尋ねた項目については、「コロナ禍で収入が減ったため、副業や兼業をはじめた・増やした」は、職業別には自営業・自由業(+6.2%pt)で、業種別には飲食サービス業(+7.8%pt)や生活関連サービス業(+7.4%pt)で多い。また、「コロナ禍で時間ができたため、副業や兼業をはじめた・増やした」は、性年代別には男性20歳代(+8.7%pt)で、職業別には公務員(一般)(+5.6%pt)で多い。なお、男性20歳代で「コロナ禍で時間ができたため、副業や兼業をはじめた・増やした」者には正社員・正職員(一般)や公務員(一般)が多い傾向がある(参考値)。

つまり、コロナ禍で増えた副業や兼業の背景には、飲食業など苦境に立たされた業種の従事者の収入減少の補填のほか、例えば、テレワークによる通勤時間の減少などによって正規雇用者の自由時間が増えたことなどの影響があげられる。
 

5――おわりに

5――おわりに~コロナ禍で需要の増したギグワーカー、副業・兼業の今後の課題は

本稿で見た通り、コロナ禍で職業や勤め先が変わったのは全体の1割程度だが、約4分の1で収入が減少しており、特に自営業や非正規雇用者の多いサービス業従事者では深刻な状況が見られた。また、これらの層では減少した収入を補填するために副業・兼業をするといった、やむを得ない状況がうかがえた。一方、現在、正規雇用者でも管理職以外では約2割が副業や兼業をしており、コロナ禍でテレワークにより自由時間が増えたことなどを契機とした前向きな様子もうかがえた。

全体に占める割合は大きくないがコロナ禍で増えた副業や兼業の特徴は、インターネットを経由して企業や個人から単発の仕事などを請け負う「ギグワーカー」が増えたことではないか。公式な統計は無いが、主要サイトの累計登録者数は2020年5月末時点で前年末比約15%増という数字がある13。コロナ禍で需要の増した料理の宅配や物流倉庫業務などにおいてギグワーカーとして働くことは、労働需要に柔軟に対応でき、目先の収入の維持にもつながりやすいが、課題も多い。

ギグワーカーは雇用者ではなく、個人事業主としての業務委託契約となるため、最低賃金や労災保険など、雇用契約を前提としている日本の労働者保護の仕組みでは守れない部分がある14。また、発注側の企業が情報量や交渉力の面で有利になるなど格差が生じやすい。

副業・兼業の推進はコロナ前から「働き方改革」として進められてきたことであり、ポストコロナでもギグワーカーは増えて行くだろう。テレワークが浸透する中で副業や兼業などをしやすい環境が一層整っていくであろうし、中長期的にも国内の生産年齢人口が減少する中で、仕事と育児や介護との両立を図りたいと考える労働者は増えると見られる。また、2021年4月から「改正高齢者雇用安定法」により70歳までの就業機会の確保が企業に努力義務化されたため、今後はシニアのギグワーカーが増える可能性もある。

現在、政府でフリーランスの環境整備に向けたガイドラインの検討や、関連協会や仲介業者でもサポート体制の整備が進められているところだが、関係各所でギグワーカーを守るインフラ整備を進めることで、日本でもデジタルを土台とした労働市場が成長していくのではないか。

なお、ニッセイ基礎研究所では継続的に「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」を実施している。今後とも、副業や兼業の状況をはじめ、コロナ禍における働き方をはじめとした行動変容について分析していく予定だ。
 
13 「ギグワーカー100万人増 国内上期登録」日本経済新聞(2020/6/24朝刊)
14 フリーランス協会「フリーランス白書」や内閣官房他「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(令和3年3月26日)などを参考。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

(2021年04月20日「基礎研レポート」)

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