2021年04月13日

貸出・マネタリー統計(21年3月)~日銀による資金供給量の伸びが2割を突破、現金残高は約5年ぶりの高い伸びに

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.貸出動向:駆け込み需要が伸び率を押し上げ

(貸出残高)                                                                  
4月12日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、3月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比5.91%と前月(同5.83%)を上回り、2カ月連続の上昇となった。コロナ禍が長引いていることで企業の根強い資金需要が続いているうえ、民間金融機関での実質無利子・無担保融資が3月末で終了することを受けて、一部で駆け込み需要が発生したとみられる(図表1)。実際、同融資の裏付けとなる信用保証協会による保証承諾額は直近判明分である2月の段階で5カ月ぶりの高水準となっている(図表4)。
 
業態別で見た場合には、都銀の伸び率が前年比6.74%(前月は6.67%)、地銀(第2地銀を含む)の伸び率が前年比5.21%(前月は5.11%)とともに前月からやや上昇している(図表2)。
(図表1) 銀行貸出残高の増減率/(図表2) 業態別の貸出残高増減率/(図表3)貸出先別貸出金/(図表4)信用保証実績
(図表5)銀行の預貸ギャップと有価証券保有高 なお、新型コロナの流行以降、銀行貸出は高い伸びを示しているものの、預金の伸びには及ばない。2月時点の銀行バランスシート(平残ベース)を確認すると、預金の伸びは前年比10.2%と貸出の伸び(同6.0%)を大きく上回っていることから、預金残高から貸出残高を引いた預貸ギャップは319兆円と一年前と比べて50兆円増加している。 

そして、このギャップを埋めているのが証券投資であり、この間に銀行の有価証券保有高は41兆円も増加している。

コロナ禍における各種給付金や消費抑制などが銀行預金の増加を促し、その結果としての余資の増加が、銀行の有価証券投資を活発化させた形になっている。

2.マネタリーベース:資金供給量の伸びは11カ月連続の上昇、今後は一服か

4月2日に発表された3月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベースの伸び率(平残)は前年比20.8%と、前月(同19.6%)を上回り、2017年2月以来の高い伸びとなった(図表6)。伸び率の上昇は11カ月連続で、コロナ禍において通貨供給量の拡大が続いている。
 
日銀当座預金の減少要因となる政府による国債(国庫短期証券を含む)発行は、コロナ対応の歳出拡大を受けて引き続き高い水準で推移しているが、日銀もコロナ前より国債買入れを拡大して資金供給を拡大していることで(図表7)、日銀当座預金残高の伸びが拡大している。また、前年比での比較対象となる昨年3月の日銀当座預金が一時的な特殊要因1によって押し下げられていたことも伸び率上昇の一因になっている。

その他の内訳では、日銀券発行高の伸び率が前年比6.0%(前月は同6.1%)と前月からやや低下、貨幣流通高は前年比1.9%(前月も同じ)と横ばいで推移している(図表6)。
(図表6) マネタリーベースと内訳(平残)/(図表7)日銀の国債買入れ額(月次フロー)
(図表8)日銀国債保有残高の前年比増減/(図表9)マネタリーベース残高と前月比の推移
なお、3月末時点のマネタリーベース残高は643兆円と前月末比28.9兆円も増加。3月は季節柄国債の償還(日銀当座預金増加要因)が多く、前月比でマネタリーベースが拡大しやすい時期にあたることに加え、今年は特に3月下旬にマネタリーベースが急増したことが影響している。こうした季節性や月内の動きを除外した季節調整済み系列(平残)では前月比で5.5兆円の増加になっている(図表9)。昨年末からは伸びがやや鈍化しているものの、コロナ流行前との比較では高い伸びが維持されている。
 
日銀は3月の政策修正で長期金利の変動許容幅を小幅に拡大した後、4月の国債買入れ予定額を引き下げた2。ETFの買入れもメリハリを付けるという名目で平時には縮小する方針であることから、マネタリーベースの伸び率上昇は今後一服する可能性が高い。
 
1 レポ市場の安定化のために国債売現先、ドル資金供給オペ実施に伴う担保用の国債供給が、合わせて23兆円の資金減少要因となった。
2 4月のオファー予定額は3月実績比で5500億円減

3.マネーストック:通貨量の伸び率上昇が一服、投資信託の伸びは4カ月連続で低下

4月13日に発表された3月のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比9.46%(前月は9.60%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同7.96%(前月は8.02%)と、ともに過去最高を記録した前月からやや低下した(図表10)。伸び率の低下はともに17カ月ぶり3になる。

M3の内訳では、普通預金等の預金通貨(前月15.8%→当月15.2%)の伸び率が低下し(図表11)、全体の伸び率低下の原因となった。預金の増加に繋がる貸出の高い伸びが続いているほか、政府による各種給付金等の支給、外出自粛傾向に伴う消費の抑制などから、預金通貨残高は前月から増加したものの、比較対象となる前年3月に預金通貨の増勢が加速して前年比でのハードルが上がったことが伸び率を押し下げた。

一方、引き続き、高額紙幣を退蔵する傾向(タンス預金化)の高まりが背景にあるとみられるが、現金通貨の伸び率が前年比6.2%(前月6.1%)と2016年5月以来の高水準を記録した(図表11)ほか、CD(譲渡性預金・前月7.2%→当月14.6%)の伸びも大きく拡大した。定期預金などの準通貨(前月▲2.2%→当月▲2.1%)は前年比2%強ペースでの減少が続いている(図表12)。
(図表10) M2、M3、広義流動性の伸び率/(図表11) 現金・預金の伸び率
(図表12)投資信託・金銭の信託・準通貨の伸び率 なお、今回、投資信託を中心に過去に遡って改定された4広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率は前年比5.90%となり(前月は5.92%)と、過去最高であった前月からわずかに低下した(図表10)。

内訳を見ると、既述の通り、M3の伸び率が低下したほか、比較的規模の大きい投資信託(私募やREITなども含む元本ベース、前月2.8%→当月2.5%)や外債(前月0.2%→当月0.0%)、国債(前月▲5.3%→当月▲5.9%)の伸び率が低下し、全体の重荷になった。

今回大きく訴求改定された投資信託の伸び率はコロナ流行後にプラスに転じ、しばらく上昇幅を拡大した。しかし、昨年末に低下に転じて以降は3月にかけて4カ月連続で低下が続いている(図表12)。世界的な株価の大幅上昇を受けた利益確定売りや高値警戒感が伸び率低下の背景にあると考えられる。
 
3 小数点以下第3位まで計算した場合
4 詳細は以下の日銀ホームページ参照
https://www.boj.or.jp/statistics/outline/notice_2021/not210413a.htm/
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2021年04月13日「経済・金融フラッシュ」)

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