2021年03月09日

貸出・マネタリー統計(21年2月)~コロナ禍で銀行貸出は高い伸びを維持、普通預金等の伸びは過去最高を更新

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.貸出動向:対面サービス業向けの貸出増加が顕著

(貸出残高)                                                                  
3月8日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、2月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比5.86%と前月(同5.69%)からやや上昇した。昨年夏以降、一部で予備的な借入金の返済や、短期借入金を長期社債へ切り替える動きなどによって貸出の伸びはやや鈍化してきたが、今年年初の緊急事態宣言発令を受けて再び企業の資金需要が高まったとみられ、5%台後半での高い伸びを維持している(図表1・2)。

業態別で見た場合には、都銀の伸び率が前年比6.70%(前月は6.46%)、地銀(第2地銀を含む)の伸び率は前年比5.13%(前月は5.04%)とともに上昇している(図表3)。
(図表1) 銀行貸出残高の増減率/(図表2)リーマンショック・コロナショック後の銀行貸出/(図表3) 業態別の貸出残高増減率/(図表4)信用保証実績
貸出先別では、1月にかけて大・中堅企業、中小企業ともに高い伸びが続いている(図表5)。また、業種別(四半期データ)では、昨年4-6月期から10-12月期にかけて、製造業のほか、飲食・宿泊などの対面サービス業向けの貸出が大きく拡大し、全体の伸び率を押し上げている(図表6)。特に飲食、宿泊、生活関連サービス・娯楽業向けの貸出伸び率(昨年10-12月期)は、それぞれ前年比35.0%、19.0%、18.4%に達している。これらの業種は新型コロナ拡大に伴う外出手控えや営業時間短縮の悪影響を強く受けているため、資金繰りの悪化に伴って運転資金需要が大きく高まったことがうかがわれる。
(図表5)貸出先別貸出金/(図表6)貸出伸び率の業種別寄与度

2.マネタリーベース: 通貨供給量の伸びは10カ月連続の上昇

3月2日に発表された2月のマネタリーベースによると、日銀による通貨供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベースの伸び率(平残)は前年比19.6%と、前月(同18.9%)を上回り、2017年4月以来の高水準となった(図表7)。伸び率の上昇は10カ月連続であり、コロナ禍において通貨供給量の拡大が続いている。

日銀当座預金の減少要因となる政府による国債(国庫短期証券を含む)発行は、コロナ対応の歳出拡大を受けて高い水準で推移しているが、日銀が大規模な国債買入れによって資金供給の拡大を続けていることで(図表8)、日銀当座預金残高の伸びが拡大している。

また、日銀券発行高の伸び率が前年比6.1%と2016年6月以来の高水準を記録したこともマネタリーベースの増勢加速に寄与している(図表7)。外出自粛が続くなかで、家庭などにおいて高額紙幣を退蔵する傾向(タンス預金化)が強まっている可能性が高い。
(図表7) マネタリーベースと内訳(平残)/(図表8)日銀の国債買入れ額(月次フロー)
(図表9)日銀国債保有残高の前年比増減/(図表10)マネタリーベース残高と前月比の推移
なお、2月末時点のマネタリーベース残高は615兆円と前月末比1.8兆円減少した。ただし、もともと2月は季節柄国債の発行超過(日銀当座預金減少要因)が大きく、マネタリーベースが拡大しにくい時期にあたるため、こうした季節性を除外した季節調整済み系列(平残)では前月比で6.7兆円増加している(図表10)。昨年末からは伸びがやや鈍化しているが、コロナ拡大前との比較では高い伸びが維持されている。
 
国内でもワクチンの接種が始まったが、経済活動の正常化にはまだかなりの時間を要する。政府による補助金等の支給がマネタリーベースの増加要因となるうえ、日銀が金利上昇抑制のために積極的な国債買入れを続けるとみられることから、マネタリーベースの伸び率は高止まりする可能性が高い。

3.マネーストック: 預金通貨の伸びが過去最高を更新、投資信託はプラス幅を拡大

3月9日に発表された2月のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比9.62%(前月は9.41%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同8.01%(前月は7.84%)とともに上昇した(図表11)。伸び率はともに2004年4月の現行統計開始以降の最高を更新している。
 
M3の内訳では、普通預金等の預金通貨(前月15.5%→当月15.8%)の伸び率が上昇し(図表12)、過去最高を更新、全体をけん引している。預金の増加に繋がる貸出の高い伸びが続いているほか、政府による各種給付金等の支給、緊急事態宣言再発令に伴う消費減少の結果、普通預金の増勢がさらに強まったとみられる。

また、既述のとおり、高額紙幣を退蔵する傾向(タンス預金化)の強まりが背景にあるとみられるが、現金通貨(前月5.7%→当月6.1%)の伸び率も前月から上昇している(図表12)。一方、CD(譲渡性預金・前月8.7%→当月7.1%)の伸びがプラス幅を縮小したほか、定期預金などの準通貨(前月▲2.2%→当月▲2.1%)の伸びは引き続きマイナス圏かつ小動きに留まった(図表13)。
(図表11) M2、M3、広義流動性の伸び率/(図表12) 現金・預金の伸び率
(図表13)投資信託・金銭の信託・準通貨の伸び率 なお、広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率も前年比6.01%(前月は5.66%)と上昇し、過去最高を更新したが、伸び率はM2やM3を大きく下回っている(図表11)。

内訳を見ると、規模の大きい金銭の信託(前月▲1.3%→当月▲1.1%)や国債(前月▲5.0%→当月▲6.3%)、外債(前月1.4%→当月1.2%)の伸び率が低迷し、広義流動性全体の重荷となった。また、世界的な株価上昇などを受けて資金流入が進んだ結果、投資信託(私募やREITなども含む元本ベース、前月0.8%→当月5.2%)の伸び率はプラス幅を拡大したものの、預金通貨の伸び率(当月15.8%)には大きく及んでいない(図表13)。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2021年03月09日「経済・金融フラッシュ」)

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