2020年12月21日

資金循環統計(20年7-9月期)~個人金融資産は株高・給付金・消費低迷を受けて過去最高の1901兆円に、現預金も過去最高を更新

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.個人金融資産(20年9月末):前年比49兆円増の1901兆円に

2020年9月末の個人金融資産残高は、前年比49兆円増(2.7%増)の1901兆円となり、過去最高を更新した1。年間で見た場合、今年1-3月の株価急落などによって時価変動2の影響がマイナス1兆円(うち株式等がマイナス2兆円、投資信託がプラス1兆円)発生したものの、資金の純流入が51兆円あり、残高の増加に繋がった。

四半期ベースで見ると、個人金融資産は前期末(6月末)比で17兆円増と2期連続で増加した。例年、7-9月期は一般的な賞与支給月を含まないことから資金流入が途絶えるが、今年は特別定額給付金の支給が続いた影響3や経済活動再開後の消費回復の遅れもあり、例年を大きく上回る6兆円の純流入となった。さらに、世界的な金融緩和やワクチン開発への期待を受けて株価が回復したことで、時価変動の影響がプラス11兆円(うち株式等がプラス8兆円、投資信託がプラス3兆円)発生し、資産残高を押し上げた(図表1~4)。
(図表1) 家計の金融資産残高(グロス)/他 
(兆円)
(図表3) 家計の金融資産残高(時価変動)/(図表4) 株価と円相場の推移(月次終値)
(図表5)家計の金融資産と金融純資産 なお、家計の金融資産は、既述のとおり7-9月期に17兆円増加したが、この間に金融機関からの借入など金融負債が3兆円増加したため、金融資産から負債を控除した純資産残高は15兆円増の1554兆円となった(図表5)。

ちなみに、例年10-12月期は一般的な賞与支給月を含むことから、個人金融資産への資金流入が活発化する。また、今年は10月以降も株価が大幅に上昇していることから、現時点の個人金融資産残高は9月末を上回り、過去最高を大幅に更新している可能性が高い。
 
1 2020年4-6月期の数値は確報化に伴って改定されている。
2 統計上の表現は「調整額」(フローとストックの差額)だが、本稿ではわかりやすさを重視し、「時価(変動)」と表記。
3 総務省によれば、6月26日以降9月25日までに3.54兆円が支給された。

2.内訳の詳細: 依然として貯蓄偏重だが、投資がやや活発化した形跡も

7-9月期の個人金融資産への資金流出入について詳細を確認すると(図表6)、既述の通り、特別定額給付金の支給や消費回復の遅れによって現預金が純流入(積み増し)となり、現預金残高は1034兆円と過去最高を更新した。内訳では、例年、この時期に純流出となりやすい流動性預金(普通預金など)が明確な純流入となっているほか、定期性預金からの純流出の規模も例年を下回っている(図表7)。
(図表6)家計資産のフロー(各年7-9月期)/(図表7)現・預金のフロー(各年7-9月期)
しかしながら、定期性預金からの純流出は19四半期連続となっており、この間の累計流出額は51兆円に達している。一方で、この間の流動性預金への資金流入は141兆円に達している。特に、新型コロナ拡大後に流動性預金への流入が勢いを増したことから、9月末残高(519兆円)は前年比で11.6%も高い水準にある。この結果、流動性預金が個人金融資産に占める割合は27.3%と過去最高圏にある(図表8)。

預金金利がほぼゼロであるにもかかわらず、引き出し制限があって流動性の低い定期性預金からの資金流出には歯止めがかかっていない。定期性預金の残高は未だ410兆円もあるため、今後も大幅な資金流出が避けられない。これまで受け皿となってきたのは主に流動性預金だが、今後、定期性預金の資金の行く先に変化(株や投信、消費など)が出てくるかが注目される。
 
なお、リスク性資産への投資フローについては、代表格である株式等が0.1兆円の純流入(前年同期は0.4兆円の純流出)となったほか、投資信託も0.4兆円の純流入(前年同期は0.3兆円の純流出)となった(図表6)。例年この時期は純流出となる傾向が強いうえ、個人投資家は基本的に逆張りスタンスであり、株高局面には利益確定売りが入りやすいにもかかわらず、今回は純流入となっている点が目を引く。また、外貨預金への純流入も継続しており(図表9)、リスク性資産への投資がやや活発化した形跡がみられる。定額給付金が投資の元手となったうえ、在宅勤務で時間に余裕が生まれたことで、一部の家計が投資に前向きになったと推察される。「貯蓄から投資へ」の流れに繋がるのか、今後の持続性が注目される。

その他では、国債が純流出(0.4兆円)に転じている。一方、企業型確定拠出年金(401k)内の投資信託は基本的に積み立て投資であり、制度の普及が続いているため、堅調な資金流入が続いている(図表9)。
(図表8)流動性・定期性預金の個人金融資産に占める割合/(図表9)外貨預金・投信(確定拠出年金内)・国債のフロー

3.その他注目点: 企業が資金余剰主体に復帰、日銀の国債保有シェアは45%を突破

(図表10)部門別資金過不足(季節調整値) 7-9月期の資金過不足(季節調整値)を主要部門別にみると(図表10)、特別定額給付金の支給継続や消費回復の遅れによって、家計部門で大幅な資金余剰(4-6月期19.7兆円→7-9月期9.7兆円)が続いている。ただし、4-6月期と比べると、定額給付金の支給額減少や、消費の底入れなどから、余剰額は減少している。

一方、4-6月期に資金不足に陥っていた民間非金融法人部門は資金余剰に復帰している(▲0.9兆円→4.7兆円)。経済活動再開に伴って売上が底入れしたうえ、設備投資の抑制や政府・自治体からの各種給付金も資金余剰化に寄与したとみられる。

なお、景気悪化で税収が減少するなか、家計や企業への各種給付金支給を続けた影響で、政府部門は引き続き大幅な資金不足(▲20.4兆円→▲12.5兆円)となった。
(図表11)民間非金融法人の現預金・借入・債務証券残高 9月末の民間非金融法人の借入金残高、社債等の債務証券残高は、それぞれ6月末から1兆円増、3兆円増となった。コロナ禍の継続に伴って資金繰り悪化への懸念から手元資金を厚めに確保する動きが続いており、企業債務は増加している(図表11)。

こうした借入等の増加や政府・自治体からの給付金受給、売上の底入れなどの結果、民間非金融法人の現預金残高は309兆円と6月末から3兆円増加し、過去最高を更新している。
(図表12)民間非金融法人の対外投資額(資金フロー) なお、7-9月期の民間非金融法人による対外投資状況(フローベース)を確認すると、対外直接投資は2.9兆円と、4-6月期の5.7兆円から大幅に鈍化した。アベノミクス開始後(2013年~)の平均レベル(3.5兆円)に対してもやや下回っている4(図表12)。また、4-6月期にプラス(買い越し)に転じていた対外証券投資も再びマイナス(売り越し)に落ち込んでいる。

コロナ禍で収益が悪化したうえ、先行きの不透明感も強いことから、日本企業の間で海外投資を一部見合わせる動きが出た可能性がある。
政府による経済対策の財源として国債増発が行われた結果、国庫短期証券を含む国債の9月末残高は1201兆円(6月末比31兆円増)と急ピッチで増加した。主な経済主体の保有状況を見ると(図表13)、日銀の国債保有高が542兆円と6月末から21兆円増加した。全体に占めるシェアも45.1%(6月末は44.5%)と過去最高を更新し、初めて45%を突破している。政府の国債増発に呼応する形で、日銀が国庫短期証券を中心に国債買入れを積極化していることが背景にある。

また、銀行など預金取扱機関の保有高も6月末比6兆円増の171兆円(シェアは0.1%上昇)と、2018年3月以来の高水準になった。預金の増加に伴って余資運用のニーズが拡大したことが背景にあるとみられる。

なお、海外部門の保有高は6月末比で2兆円増の152兆円に留まった。残高は過去最高を更新したが、小幅に留まったため、シェアは12.6%(6月末は12.8%)へと低下している。海外投資家が円を調達する際に得られる上乗せ金利が7-9月期も低迷したため、海外勢による日本国債への投資意欲が抑制されたとみられる。
(図表13)預金取扱機関と日銀、海外の国債保有シェア/(図表14)公的年金の株・対外証券・国債投資(資金フロー)
なお、GPIFなどの公的年金は、7-9月期に対外証券を2.6兆円買い越した(図表14)。買い越し額は1-3月期の4.9兆円ほどではないものの、長期にわたって買い越しが続いている。GPIFは今年4月から外国債券への投資割合(目標値)を従来の15%から25%へと引き上げたため、7-9月にも目標値に向けて外債の積み増しを続けたとみられる。一方で、上場株式はこの間に若干売り越している。
 
4 2019年1-3月期の対外直接投資額は10.6兆円と突出しているが、これは国内製薬大手による総額6兆円の大型海外M&A完了という特殊要因が影響したものと推測される。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2020年12月21日「経済・金融フラッシュ」)

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