2021年04月08日

新型コロナ第4波の懸念が高まる-人の移動制限強化により不動産市場にも影響波及の恐れ

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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1――はじめに

新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が4月2日に、「重大なリバウンドの山に向かっていることは間違いなく、いわゆる第4波に入りつつあるという言い方で差し支えない」と述べたように、新型コロナウイルスの感染者数は再び拡大している1。政府は感染再拡大を受けて、大阪府、兵庫県、宮城県の1府2県に4月5日から、緊急事態宣言に準じる「まん延防止等重点措置」を初めて適用した2。人の移動制限が再び強化されるなか、これらの地域では対面型サービス業を中心に経済活動の落ち込みが懸念され、不動産市場にもその影響が波及する恐れがある。
 
1 NHK 「“第4波に入りつつある” 尾身会長 新型コロナ 全国の感染状況」 (2021年4月2日)
2 知事の判断で対象区域を絞ることができ、今回は大阪市、神戸市、芦屋市、西宮市、尼崎市、仙台市の6市が対象となる。対象区域では、飲食店への営業時間の短縮要請を午後9時から午後8時に前倒しし、従わない場合は20万円以下の過料を科すことができる。
 

2――懸念が高まる新型コロナ感染第4波

2――懸念が高まる新型コロナ感染第4波

日本全国の新規感染者数3は、感染拡大の第3波のピークである2021年1月12日に6,461人を記録した後、3月2日は982人まで減少したが、4月5日には再び2,474人まで増加している(図表 1)。

ただし、現在の感染再拡大における傾向は、これまでの感染拡大局面と様相が異なる。感染拡大の第1波から第3波までは、各局面で多少の違いはあるにせよ、感染拡大の中心は東京都であった。一方、2021年4月5日時点の主要7都道府県4の新規感染者数(人口100万人対比)5は、多い順に、大阪府(63人)>宮城県(54人)>東京都(28人)>愛知県(12人)>北海道(12人)>福岡県(6人)>広島県(4人)と、現在は大阪府と宮城県を中心に感染が拡大している(図表 2)6
図表1:日本の新規感染者数の推移
図表2:主要7都道府県の新規感染者数の推移
このうち大阪府では新型コロナウイルスの英国型変異株の感染が拡大している7。2021年3月30日時点で国内における変異株の確認数は34都道府県で678人に上るが、そのうち181人が兵庫県、130人が大阪府である8,9。英国型変異株は感染力が高いとされ、第4波の中心となる懸念がある。東京大学の仲田泰祐准教授と藤井大輔特任講師はモデル分析をもとに、感染力が高いとされる変異株が蔓延した場合には、感染を減少させるために経済活動を大きく抑制する必要があり、経済損失が大幅に増加するとしている10
図表3:各都道府県の変異株確認数(国内事例)
また、2021年4月5日時点の主要7都道府県の新規死者数11(人口100万人対比)は、多い順に、東京都(0.4人)>愛知県(0.3人)>大阪府(0.3人)>北海道(0.3人)>宮城県(0.2人)>福岡県(0.1人)>広島県(0.0人)と、東京都の新規死者数が最も多い(図表 4)。今後は、感染が拡大している宮城県と大阪府で死者数をどれほど抑制できるかが重要である。
図表4:主要7都道府県の新規死者数の推移
こうしたなか日本では、コロナ禍収束の鍵と期待されるワクチン接種で大きく遅れている12。2021年4月2日時点のワクチン接種率13を、世界全体と欧米先進国、日本で比較すると、高い順に、英国(46.3%)>米国(30.4%)>フランス(13.4%)>ドイツ(12.0%)>世界全体(4.6%)>日本(0.7%)となっている(図表 5)。日本では、4月12日から一部市町村で65歳以上の高齢者への接種を開始するが、集団免疫の目安とされる70%以上まで接種が完了するには時間がかかりそうだ14

アフターコロナへの道筋は今なお不透明で、今後もコロナ感染が拡大した場合は、人出を制限するなどして、経済活動の減速を余儀なくされるだろう。また、その影響は不動産市場に波及する恐れがある。そこで、次稿ではスマートフォンの位置情報による流動人口データをもとに、商業施設の来店者数とオフィス出社率の動向を確認する。
図表 5:ワクチン接種率の推移
 
3 7日移動平均
4 三大都市圏の中心である東京都、大阪府、愛知県、地方中枢都市である「札仙広福」が所在する北海道、宮城県、広島県、福岡県の7都道府県。
5 7日移動平均
6 日本の全都道府県の感染状況は、末尾の【参考資料】「各都道府県の新型コロナウイルスの感染状況の比較」を参照。
7 厚生労働省 「都道府県別の変異株(ゲノム解析)確認数(3月31日公表分)」(都道府県別の変異株(ゲノム解析)確認数について、2021年3月31日)
8 兵庫県は、3月15日~3月21日の新型コロナ新規陽性者91人のうち70人の変異株検査を行い、56人(変異株検査陽性率80.0%)が変異株陽性だったと発表している(兵庫県「新型コロナウイルス感染症(変異株)の患者数について」、2021年4月2日)。
9 大阪府は、3月28日~4月3日の新型コロナ新規陽性者3,462人のうち304人の変異株検査を行い、224人(変異株検査陽性率73.7%)が変異株陽性であった(大阪府「【資料1-2】変異株の発生状況について」、第44回大阪府新型コロナウイルス対策本部会議、2021年4月7日)。
10 詳細は、藤井大輔・仲田泰祐『日本でのCovid-19と経済活動』の「変異株シナリオ」(2021年3月30日)「変異株分析の政策含意」(2021年4月4日)を参照されたい。
11 7日移動平均
12 コロナ感染収束のもう一つの鍵である新型コロナの治療薬は、2021年末にも米国で使用が開始される可能性がある(日本経済新聞「コロナ治療薬、年内にも 米メルクなど治験終盤に 開発競争、世界で加速」(2021年4月4日朝刊3面)
13 1回以上ワクチンを接種した人の割合。
14 NHK「集団免疫「人口の70~90%が免疫持つ必要」米政府コロナ専門家」(2020年12月25日)
 

参考資料

【参考資料】 各都道府県の新型コロナウイルスの感染状況の比較

新型コロナウイルスの感染リスクを「(1)感染者数」、「(2)感染拡大率」、「(3)致死率」の3つの観点から示した(図表 6)15
図表 6:各都道府県の新型コロナウイルスの感染状況
 
15 高山武士(2020)「新型コロナウイルスと各国経済-コロナ禍を上手く乗り切っているのはどの国か?49か国ランキング」(基礎研レター、ニッセイ基礎研究所、2020年7月3日)
 
 

(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴
  • 【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2021年04月08日「不動産投資レポート」)

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