2021年03月31日

PHR(Personal Health Record)サービスに求められる要件~新型コロナ接触確認アプリの利用意向を踏まえて

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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健康・医療・介護のデータを利活用するための基盤を整え、効果的な医療・介護等サービスを行おうとするデータヘルス改革が進められている。新型コロナウイルスの感染拡大にともなって、健康・医療関連情報の集約と利活用が諸外国と比べて遅れている現状を認識することとなったほか、オンライン化に対する国民の関心が高まっていることを踏まえ、2020年7月に行われた第7回データヘルス改革推進本部会議では、上記8つのサービスのうち、特に3つのサービスについて、「新たな日常にも対応したデータヘルスの集中改革プラン」(集中改革プラン)の構築を図り、実現に向けて議論が進められている。

3つのプランとは、「全国で医療情報を確認できる仕組みの拡大」「電子処方箋の仕組みの構築」「自身の保健医療情報を活用できる仕組(PHR:Personal Health Record)みの拡大」である1。このうち、「自身の保健医療情報を活用できる仕組み(PHR)」については、国がつくる基盤を使って、健康増進サービスを提供する民間PHR事業者が参入することが期待されている。

現在、日本には、まだ本格的なPHRサービスは少なく、PHRという言葉もあまり認知されていない。また、一般に、自分自身の健診結果等の健康情報をサービス提供会社に提供することへの抵抗感は強く、サービス提供システムへの信頼性やセキュリティへの信頼性を強く求める人が多い。

本稿では、PHRサービスではないものの、国が推奨するオンラインサービスの1つとして、新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)の利用意向やセキュリティ不安を紹介しながら、健康に関連するオンラインサービス・アプリ等がどのようにすれば受け入れられるのかについて考えたい。利用したデータは、2020年7月からニッセイ基礎研究所で定期的に実施してきた「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査2」である。
 
1 村松容子「データヘルス改革 集中改革プラン~いよいよPHRシステムが稼働」ニッセイ基礎研究所 保険年金フォーカス(2021年1月26日)
2 第1回(2020年6月26日~29日、有効回答数2,062)、第2回(2020年9月25日~28日、有効回答数2,066)、第3回(2020年12月19~21日、有効回答数2,069)、第4回(2021年03月26日~29日、2070)。インターネット調査。対象は、全国に住む20~69歳の男女個人(株式会社マクロミルのモニタ)。
 

1――新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)の利用意向

1――新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)の利用意向

2021年3月に実施した「第4回新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」によると、新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)の利用意向は、「ぜひ利用したい(もう利用している)」が16.4%、「場合によっては利用したい」が12.9%で、これらをあわせた利用意向有者は29.3%とこの3か月間でさらに低下した(図表1)。
図表1 接触確認アプリ利用意向の推移
接触確認アプリの利用意向が、「どちらともいえない」「今のところ利用したくない」「絶対に利用したくない」「利用したことがあるが、現在は利用していない」だった人に対して、どうなったら利用を考えるかを、「その他」を含む11項目から複数回答で、または「利用するつもりはない」を選択してもらった。その結果、「セキュリティの不安がなければ」が最も高く35.2%、次いで「システム障害がなくなったら(28.0%)」「陽性者が確実に登録すれば(25.8%)」「アプリ利用者がもっと増えたら(18.2%)」「通知で検査が受けられれば(16.5%)」だった。前回と比べると、「システム障害がなくなったら」が大幅に上昇した(図表2)。「セキュリティの不安がなければ」は、前回よりさらに上昇していた。去年9月末以降、一部のスマートフォンの利用者に対し、感染者との濃厚接触があった場合でも通知が行われていなかったというトラブルが発生していたことが、今年2月に大きく報じられたことに起因すると考えられる。システム障害の発生に何か月も気づかなかったこと等も含めて、システムの性能だけでなく、セキュリティ面にも不安を与えてしまった可能性がある。
図表2 接触確認アプリをどうなったら利用するか(複数回答)
この接触確認アプリは、リリース当初から繰り返しアナウンスされていたとおり、位置情報や個人情報を取得する仕組みではないので、情報漏洩等のリスクはそもそも少ない。それでも利用者は、システムの信頼性やセキュリティに対して慎重であると考えられる。
 

2――PHRについての考え方

2――PHRについての考え方

一方、今後展開されようとしているPHRシステムは、利用者の健康診断や医療機関の受診歴をオンラインで確認できるサービスである。さらに、利用者のニーズにあわせて、これらのデータを民間PHR事業者に連携することができるものである。工程表によれば、マイナンバーが付与されている全住民について、すでに乳幼児健診の結果と特定健診の結果は搭載されている。こういったサービスについては、どのように受け止められているのだろうか。
 
今年2月に開催された厚生労働省による「健診等情報利活用ワーキンググループ(民間利活用作業班)」では、PHRサービスの利用等についてのアンケート調査(民間PHRサービス利用者へのアンケート調査)の結果が報告された3。2020年12月に実施されたその調査によると、「パーソナルヘルスレコード(PHR)」という名称について、66.7%が「まったく知らない」と回答しており、まだ一般的に知られている状況にないことがわかる。また、名称の認知だけでなく、こういったシステムが稼働していること自体を認知していない人も多い可能性がある。

同報告によると、PHRの現利用者が過去利用者(離脱者)と比べてサービスについて多く回答している項目として、「ユーザビリティ」「アプリ利用による健康意識の変容を実感」「アプリ利用による心理的安心感を実感」をあげており、これらの項目がサービスの継続利用の促進要因と捉えることができる4。一方で、離脱者のほうが現利用者より多く回答している項目として、「データ登録のコスト知覚(入力が面倒)」「セキュリティ不安(個人情報の漏えいが心配)」「PHRサービスやアプリ同士の連携にかかる手間が面倒」をあげており、これらの項目はサービスの継続利用の阻害要因と捉えることができる。つまり、セキュリティに不安がないこと、利用しやすいこと、効果の実感を持てることが、サービスを利用してもらうための要素となっていることがわかる。
 
3 厚生労働省「健診等情報利活用ワーキンググループ民間利活用作業班(第6回)」資料3:PHRサービス利用者へのアンケート調査結果等
4 弊社調査によっても、「利用しやすいこと」「効果の実感が得られること」「楽しいこと」が健康関連サービス継続利用のポイントとして確認できている。村松容子、井上智紀「健康関連サービス・商品、継続利用のポイントは?」ニッセイ基礎研究所 基礎研レター(2020年11月10日)
 

3――PHRサービスに求められる要件

3――PHRサービスに求められる要件

今後、国による基盤を使った民間PHR事業者によるサービスが増えてくると思われる。健診結果や受診歴等のセンシティブな情報を扱う可能性があることから、事業者には多くのセキュリティに関する要件が求められている。しかし、接触確認アプリの利用意向でも見られるとおり、データ漏洩はもちろんのこと、システムの不安定さが利用者の不安につながる可能性がある。まずは、安定的なシステムの提供が求められるだろう。

また、現在のところ、PHRという言葉を知らない人も多い。国による健診等データを搭載した仕組みが構築されていることを知らない人も多い可能性がある。どういった情報が搭載されているのか、誰がどう活用するのかといった仕組み自体について、周知を図る必要があるだろう。

最後に、PHRサービスは、現在のところ、健康保険組合などの保険者が契約をして加入者個人に利用させるケースが多い。実際に契約利用している健康保険組合へのヒアリングによると、契約時にどの事業者のサービスを使うのが良いか判断に困ったことがあるようだ5。PHRサービスを充実させるためには、セキュリティ対策やサービス内容につき、一定基準をクリアしている事業者を国等が認定して開示するなど、利用者が安心してサービスを選択するための仕組み作りが必要になるだろう。
 
5 厚生労働省「健診等情報利活用ワーキンググループ 民間利活用作業班(第5回)」(2020年12月)資料
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

(2021年03月31日「基礎研レター」)

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