2021年03月26日

中国経済:景気指標の総点検(2021年春季号)-1-3月期の成長率は20%を超えるのか?

三尾 幸吉郎

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1.中国経済の概況

(図表-1)COVID-19新規感染確認(百万人当たり) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行し始めて1年余りを経過した(図表-1)。

これまでのコロナ禍との闘いを振り返ると、19年冬に正体不明な感染症が広がったことで社会が混乱に陥り、1月23日には武漢を都市封鎖(ロックダウン)した。その後2月中旬になると感染拡大が峠を越え、新規確認症例が1日当たり1000名を下回ってきたため、中国政府は経済活動の再開に舵を切った。そして4月8日には武漢の都市封鎖を解除、5月下旬にはコロナ禍で遅れていた全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の開催に漕ぎ着けた。その後は財政金融両面から景気対策を本格化したのに加えて、新規確認症例が多くても1日当たり100名余りと沈静化したため、7月には映画館や国内団体旅行ツアーを再開するなど経済活動が徐々に正常化していった。年が明けて1月には河北省などで再び感染が拡大したものの、それも短期間で収束することとなった1
この間の成長率を見ると(図表-2)、コロナ禍で混乱した20年1-3月期に実質で前年比6.8%減に落ち込んだあと、経済活動の再開に舵を切った4-6月期には同3.2%増、7-9月期には同4.9%増、10-12月期には同6.5%増と3四半期連続で持ち直していった。そして、今年3月に開催された全人代では、経済成長の数値目標を「6%以上」と設定して臨むこととなった。

他方、インフレ動向をみると、消費者物価はアフリカ豚熱(ASF)の影響で20年1月には前年比5.4%まで上昇し、その後も長江や淮河流域の洪水被害の影響で食品が高止まりしていたものの、コロナ禍による需要減を背景に交通通信、居住、衣類などが下落し、アフリカ豚熱の収束とともに食品も下落したため、足元ではゼロ近辺で推移している(図表-3)。そして、21年3月に開催された全人代では、消費者物価の数値目標を「3%前後」と前年より低く設定して臨むこととなった。
(図表-2)産業別の実質成長率(前年同期比)/(図表-3)中国の消費者物価(品目別)
 
1 新型コロナウイルス感染症の経緯に関する詳細は「中国におけるコロナ禍との闘いを振り返って~今後の政策運営にどう影響するのか?」(ニッセイ基礎研レポート 2020-10-30)に記載している。
 

2.景気10指標の点検

2.景気10指標の点検

【供給面の3指標】
鉱工業生産(実質付加価値ベース)を確認すると(図表-4)、20年1-2月期にコロナ禍で前年比13.5%減まで落ち込んだあと、4月には同3.9%増と前年水準を上回り、その後も持ち直し傾向が続いて、20年累計では前年比2.8%増とプラスを維持することとなった。そして、21年1-2月期には前年同期に落ち込んだ反動もあって、前年比31.5%増と極めて高い伸びを示した。業種別に見ると、鉱業が前年比17.5%増、電力エネルギー生産供給が同19.8%増と相対的に低い伸びに留まった一方、製造業は同39.5%増と全体を上回り、特にハイテク製造業は同49.2%増と高い伸びを示した(図表-5)。なお、前年同期と比べた伸び率は反動の側面が強いため前月比を見ておくと、1月が前月比0.66%増、2月が同0.69%増と、年率換算すれば8%超の高い伸びを示している。
(図表-4)鉱工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)の推移/(図表-5)鉱工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上、21年1-2月期)
一方、PMIの動きを見ると、製造業PMI(製造業購買担当者景気指数、中国国家統計局)は(図表-6)、20年2月にコロナ禍で35.7%まで落ち込んだあと、3月には52.0%まで回復しその後12ヵ月連続で拡張・収縮の境界線となる50%を上回っている。但し、足元では今年2月に50.6%まで低下している。他方、非製造業PMI(非製造業商務活動指数、中国国家統計局)は(図表-7)、昨年2月にはコロナ禍で29.6%と製造業を超えるレベルまで落ち込んだが、3月には52.3%と製造業を超えるレベルまで回復し、11月には56.4%まで上昇することとなった。但し、足元では今年1月に52.4%、2月に51.4%と、コロナ禍の再発を背景に大きくて低下してきている。
(図表-6)製造業PMI/(図表-7)非製造業PMI
【需要面の3指標】
個人消費の代表指標である小売売上高を見ると(図表-8)、20年1-2月期にはコロナ禍で前年比20.5%減に落ち込んだあと、その後は徐々に持ち直したが、20年累計では年前半の不振がひびいて前年比3.9%減となった。但し、今年1-2月期は前年同期に落ち込んだ反動もあって、前年比33.8%増と極めて高い伸びを示した。内訳を見ると、特に飲食や自動車が高い伸びを示している。なお、前月比を確認しておくと、1月には河北省などで新型コロナ感染が再発したため前月比1.40%減と落ち込んだが、2月は持ち直して同0.56%増となった。但し、戻りの勢いは鈍い(図表-9)。
(図表-8)小売売上高の推移/(図表-9)前月比(季節調整後)で見た小売売上高の推移
他方、投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)を見ると(図表-10)、20年1-2月期にはコロナ禍で前年比24.5%減と落ち込んだが、早くも3月には同0.2%増(推定2)と前年水準を上回り、20年累計では前年比2.9%増とプラスを維持した。そして、今年1-2月期には反動もあって前年比35.0%増と極めて高い伸びを示した。なお、前月比を確認しておくと、1月が前月比2.51%増、2月が同2.43%増と堅調ではあるものの、昨年3月の同4.51%増ほどの勢いは無い。

また、輸出(ドルベース)は1-2月期にはコロナ禍で前年比17.1%減まで落ち込んだが、その後は防疫関連品(医療機器、マスクなど)やデジタル製品の好調に支えられて持ち直し、20年累計では前年比3.6%増とプラスを維持することとなった。そして、今年1-2月期には前年同期に落ち込んだ反動もあって、前年比60.6%増と極めて高い伸びを示した(図表-11)。
(図表-10)固定資産投資(除く農家の投資)の推移/(図表-11)輸出(ドルベース)の推移
 
2 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。
【その他の4指標と景気の総括】
以上で概観した供給面3指標と需要面3指標に、電力消費量、道路貨物輸送量、工業生産者出荷価格、通貨供給量(M2)を加えた10指標に関して、それぞれ3ヵ月前と比べて上向きであれば“○”、下向きであれば“×”として一覧表にしたのが図表-12である。

まず、需要面3指標の推移を見ると、消費の代表指標である小売売上高は、新型コロナ感染が広がると“×”、沈静化すると“〇”という展開が続いており、足元では河北省などの感染拡大を受けて3ヵ月連続の“×”となっている。他方、投資の代表指標である固定資産投資は、新型コロナ対策でV字回復したあとのスピード調整で7ヵ月連続の“×”となっていたが、新年を迎えるとともに“○”に転じ、底打ちの兆しがでてきた。また、輸出は11ヵ月連続で“○”となっており、世界で新型コロナが引き続き猛威を振るっていることを背景に、好調な展開が継続している。

次に、供給面3指標の推移を見ると、鉱工業生産はコロナ禍からのV字回復でマグニチュードの極めて大きい“〇”となったあとのスピード調整で“×”が続いていたが、今年2月には9ヵ月ぶりに“〇”となり、スピード調整終了の兆しが見られる。但し、製造業PMIが2ヵ月連続の“×”、非製造業PMIも3ヵ月連続の“×”となっており、まだ楽観できる状況には至っていない。

最後にその他の景気指標を見ると、電力消費量が11ヵ月連続で“〇”、道路貨物輸送量が11ヵ月連続で“〇”、工業生産者出荷価格も4ヵ月連続で“〇”と、景気の上向きを示す指標が多い。但し、通貨供給量(M2)が3ヵ月連続で“×”となっており、新型コロナ対策として導入された“疫情融資”(モラトリアム的な特別金融措置)の期限が迫る中で、金融引き締め懸念が高まってきた。
(図表-12)景気評価総括表(○×表)

3.年明けの景気インデックスは20%超!

3.年明けの景気インデックスは20%超!

最後に、月次の景気指標の推移を基に実質成長率を推計した「景気インデックス」の状況を紹介しておきたい。中国で毎月公表される景気指標は数多あるが、実質成長率に対する連動性が高い指標もあればそうでない指標もある。中国の成長率は、欧米先進国とは異なって主に生産面から推計されているため、個人消費、投資、純輸出といった支出面の景気指標との連動性はそれほど高くなく、農業、製造業、建築業、サービス業といった生産面の景気指標との連動性が高いという特徴を持つ。そこで、生産面の景気指標を説明変数として実質成長率を説明する回帰モデルを開発することとした。具体的には、鉱工業生産、サービス業生産、建築業PMIの3つを説明変数として選択し、実質成長率を推計している。なお、コロナ禍が襲来する前は、鉱工業生産、サービス業生産、製造業PMIの3つを説明変数としていたが、コロナ禍で連動の傾向に変化があったため、製造業PMIを外し、建築業PMIを加えるという微修正を施している。

ここもとの「景気インデックス」の推移をみると(図表-13)、コロナ禍に見舞われた20年1月は前年比5.8%減、2月は同11.9%減、3月は同2.9%減と3ヵ月連続でマイナスに落ち込んだあと、4月には同0.8%増とわずかながらも前年同月のレベルを上回り、その後も徐々にプラス幅を拡大することとなった。そして、今年1月は前年比21.6%増、2月は同20.7%増と、前年同月にコロナ禍で大きく落ち込んだ反動で極めて高い数値となった。但し、3月は前年同月のレベルが若干高くなるため反動も小さくなる。したがって、4月16日に公表される1-3月期の実質成長率は前年比+17%台になると予想している。

なお、今年の経済動向を見極める上では、“前年同期比”だけでは不十分で“前期比”も同時に確認する必要があると言えるだろう。コロナ禍に見舞われた昨年の中国経済は、急収縮したあとV字回復するという経過を辿ったため、今年の前年同期比は乱高下しやすいからだ。中国国家統計局が発表した前期比(季節調整後)のGDP統計を元に筆者が年率換算した数値を見ると(図表-14)、20年1-3月期に大幅マイナスに落ち込んだあと、4-6月期には急回復し、その後もコロナ前(5%前後)を遥かに上回るスピードで経済成長を続けることとなった。したがって今年は、前年同期比では急減速しているように見えても、前期比では安定成長しているという状況があり得る。
(図表-13)経済成長率と景気インデックス/(図表-14)前年同期比に換算した成長率(季節調整後)
 
 

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三尾 幸吉郎

研究・専門分野

(2021年03月26日「Weekly エコノミスト・レター」)

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