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- 中国経済:景気指標の総点検(2021年春季号)-1-3月期の成長率は20%を超えるのか?
1.中国経済の概況
これまでのコロナ禍との闘いを振り返ると、19年冬に正体不明な感染症が広がったことで社会が混乱に陥り、1月23日には武漢を都市封鎖(ロックダウン)した。その後2月中旬になると感染拡大が峠を越え、新規確認症例が1日当たり1000名を下回ってきたため、中国政府は経済活動の再開に舵を切った。そして4月8日には武漢の都市封鎖を解除、5月下旬にはコロナ禍で遅れていた全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の開催に漕ぎ着けた。その後は財政金融両面から景気対策を本格化したのに加えて、新規確認症例が多くても1日当たり100名余りと沈静化したため、7月には映画館や国内団体旅行ツアーを再開するなど経済活動が徐々に正常化していった。年が明けて1月には河北省などで再び感染が拡大したものの、それも短期間で収束することとなった1。
他方、インフレ動向をみると、消費者物価はアフリカ豚熱(ASF)の影響で20年1月には前年比5.4%まで上昇し、その後も長江や淮河流域の洪水被害の影響で食品が高止まりしていたものの、コロナ禍による需要減を背景に交通通信、居住、衣類などが下落し、アフリカ豚熱の収束とともに食品も下落したため、足元ではゼロ近辺で推移している(図表-3)。そして、21年3月に開催された全人代では、消費者物価の数値目標を「3%前後」と前年より低く設定して臨むこととなった。
1 新型コロナウイルス感染症の経緯に関する詳細は「中国におけるコロナ禍との闘いを振り返って~今後の政策運営にどう影響するのか?」(ニッセイ基礎研レポート 2020-10-30)に記載している。
2.景気10指標の点検
鉱工業生産(実質付加価値ベース)を確認すると(図表-4)、20年1-2月期にコロナ禍で前年比13.5%減まで落ち込んだあと、4月には同3.9%増と前年水準を上回り、その後も持ち直し傾向が続いて、20年累計では前年比2.8%増とプラスを維持することとなった。そして、21年1-2月期には前年同期に落ち込んだ反動もあって、前年比31.5%増と極めて高い伸びを示した。業種別に見ると、鉱業が前年比17.5%増、電力エネルギー生産供給が同19.8%増と相対的に低い伸びに留まった一方、製造業は同39.5%増と全体を上回り、特にハイテク製造業は同49.2%増と高い伸びを示した(図表-5)。なお、前年同期と比べた伸び率は反動の側面が強いため前月比を見ておくと、1月が前月比0.66%増、2月が同0.69%増と、年率換算すれば8%超の高い伸びを示している。
また、輸出(ドルベース)は1-2月期にはコロナ禍で前年比17.1%減まで落ち込んだが、その後は防疫関連品(医療機器、マスクなど)やデジタル製品の好調に支えられて持ち直し、20年累計では前年比3.6%増とプラスを維持することとなった。そして、今年1-2月期には前年同期に落ち込んだ反動もあって、前年比60.6%増と極めて高い伸びを示した(図表-11)。
2 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。
以上で概観した供給面3指標と需要面3指標に、電力消費量、道路貨物輸送量、工業生産者出荷価格、通貨供給量(M2)を加えた10指標に関して、それぞれ3ヵ月前と比べて上向きであれば“○”、下向きであれば“×”として一覧表にしたのが図表-12である。
まず、需要面3指標の推移を見ると、消費の代表指標である小売売上高は、新型コロナ感染が広がると“×”、沈静化すると“〇”という展開が続いており、足元では河北省などの感染拡大を受けて3ヵ月連続の“×”となっている。他方、投資の代表指標である固定資産投資は、新型コロナ対策でV字回復したあとのスピード調整で7ヵ月連続の“×”となっていたが、新年を迎えるとともに“○”に転じ、底打ちの兆しがでてきた。また、輸出は11ヵ月連続で“○”となっており、世界で新型コロナが引き続き猛威を振るっていることを背景に、好調な展開が継続している。
次に、供給面3指標の推移を見ると、鉱工業生産はコロナ禍からのV字回復でマグニチュードの極めて大きい“〇”となったあとのスピード調整で“×”が続いていたが、今年2月には9ヵ月ぶりに“〇”となり、スピード調整終了の兆しが見られる。但し、製造業PMIが2ヵ月連続の“×”、非製造業PMIも3ヵ月連続の“×”となっており、まだ楽観できる状況には至っていない。
最後にその他の景気指標を見ると、電力消費量が11ヵ月連続で“〇”、道路貨物輸送量が11ヵ月連続で“〇”、工業生産者出荷価格も4ヵ月連続で“〇”と、景気の上向きを示す指標が多い。但し、通貨供給量(M2)が3ヵ月連続で“×”となっており、新型コロナ対策として導入された“疫情融資”(モラトリアム的な特別金融措置)の期限が迫る中で、金融引き締め懸念が高まってきた。
3.年明けの景気インデックスは20%超!
ここもとの「景気インデックス」の推移をみると(図表-13)、コロナ禍に見舞われた20年1月は前年比5.8%減、2月は同11.9%減、3月は同2.9%減と3ヵ月連続でマイナスに落ち込んだあと、4月には同0.8%増とわずかながらも前年同月のレベルを上回り、その後も徐々にプラス幅を拡大することとなった。そして、今年1月は前年比21.6%増、2月は同20.7%増と、前年同月にコロナ禍で大きく落ち込んだ反動で極めて高い数値となった。但し、3月は前年同月のレベルが若干高くなるため反動も小さくなる。したがって、4月16日に公表される1-3月期の実質成長率は前年比+17%台になると予想している。
なお、今年の経済動向を見極める上では、“前年同期比”だけでは不十分で“前期比”も同時に確認する必要があると言えるだろう。コロナ禍に見舞われた昨年の中国経済は、急収縮したあとV字回復するという経過を辿ったため、今年の前年同期比は乱高下しやすいからだ。中国国家統計局が発表した前期比(季節調整後)のGDP統計を元に筆者が年率換算した数値を見ると(図表-14)、20年1-3月期に大幅マイナスに落ち込んだあと、4-6月期には急回復し、その後もコロナ前(5%前後)を遥かに上回るスピードで経済成長を続けることとなった。したがって今年は、前年同期比では急減速しているように見えても、前期比では安定成長しているという状況があり得る。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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三尾 幸吉郎
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