2024年04月05日

不動産バブルの日中比較と中国経済の展望

基礎研REPORT(冊子版)4月号[vol.325]

三尾 幸吉郎

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1―低迷を続ける中国の不動産市場

中国では不動産不況になかなか歯止めが掛からない。そして住宅価格はじりじりと下落している。新築住宅価格は政府統制の影響が色濃いので、中古住宅価格の推移を見ると、2021年7月をピークに2023年12月には約1割下落した。チャイナショックに見舞われた2014年後半から2015年前半にかけても5%ほど下落したが、今回はそれを大幅に超える下落幅となり、しかも底打ちする兆しもない。

その背景には販売不振がある。2023年の不動産販売( 面積)は1,117平方kmと、直近ピーク(2021年)のおよそ6割となった。過去を振り返ると、リーマンショック(2008年)やチャイナショック(2014~15年)の時にも約1割減少したが、数年後にはそれぞれショック前のレベルを回復したこともあって、当時は大問題とならなかった。

しかし、今回の落ち込みは極めて深刻で、不動産販売の8割超を占める住宅在庫(含む仕掛かり在庫)が積み上がっており、現在のような販売不振が続くと、在庫処分だけで数年を要しそうである。

不動産業はかつて中国経済の牽引役だった。国内総生産(GDP)を見ても、不動産の実質成長率は1990年代が年平均10.3%増、2000年代が同10.7%増と、2桁成長が当たり前だった。しかし、2010年代には同4.7%増とその勢いは鈍化、2022年には前年比3.9%減、2023年には同1.3%減と、2年連続でマイナス成長となってしまった。そして不動産デベロッパーの多くが経営不安に直面している。中国政府は2022年11月に「16条措置」を発表し、金融支援に乗り出したものの、その効果は一時的にとどまり、不動産不況から抜け出せずにいる。

こうした不動産不況は、日本が1990年代に経験した不動産バブル崩壊と類似した面が多々ある。

2―日本におけるバブル「形成」とその「崩壊・後始末」

中国における不動産バブルを見る前に、日本における不動産バブルを振り返っておきたい。不動産バブルとは一般に、不動産価格が説明のつかないほど値上がりすることを指し、それが泡の膨らむ状態に似ていることから「バブル」と呼ばれている。ここでは、不動産価格が高騰しバブルが膨らんでいくプロセスを「形成」段階、そのバブルが破裂して不動産価格が急落し、それに伴って不動産デベロッパーが経営破綻したり銀行が不良債権を抱えたりして、その対応に追われるプロセスを「崩壊・後始末」段階と形容して、それぞれ簡単に整理しておこう。
1|バブルの「形成」段階
日本で不動産バブルが形成され始めたのは1987年頃だった。東京都発行の「東京の土地」によれば、1986年の東京都区部のマンション75㎡当たり価格は4,185万円(年収倍率は6.7倍)だった。それが1987年には6,608万円、1988年には9,420万円、1989年には10,785( 同15.8倍)と、まさに不動産価格が説明のつかないほどに値上がりしていった。

その背景には土地価格は必ず上昇するという「土地神話」があった。1985年の「プラザ合意」後、日本は急激な円高に見舞われた。そして日本企業は海外で現地生産を進めたり、合理化・省力化でコスト削減に努めたりして円高適応力を高めることとなった。さらに円高不況で外需依存から内需主導への構造転換が必要となったため、日本銀行は公定歩合を5回に渡り引き下げた。

こうして低金利となった日本では「財テク」ブームが起こった。その投資対象として注目を浴びたのが不動産である。特に日本の土地価格は、その歴史的推移を見ると、何度か下落したことはあったものの、数年後には回復するなど長い目で見れば右肩上がりの上昇を続けており、消費者物価や労働で得られる賃金の水準を恒に上回る伸びを示していたので、土地神話が信憑性を高めることとなった。

そして不動産デベロッパーは先行的に不動産投資を増やし、一般企業も不動産取得を活発化し、個人の間でも借入金によるマンション投資が流行り、金融機関もそうした投資行動をファイナンス面から支えることで不動産バブルを謳歌することとなった。こうして日本全体が高値警戒心を失い、不動産は説明のつかないほどの高値まで上昇していった。
2|バブルの「崩壊・後始末」段階
こうして形成された不動産バブルも1990年前後に転機を迎え、前述した土地価格・マンション価格は1991年をピークに下落に転じた*1。その背景には1989年以降に実施された、(1)公定歩合の引上げとそれに端を発する長期金利の上昇、(2)土地基本法が成立して以降に行われた税制の見直し、(3)不動産業向け貸出(公的な宅地開発機関等に対する貸出を除く)の増勢を総貸出の増勢以下に抑制する「総量規制」があった。そしてひとたび価格が下落し始めると、沈む船から逃げるネズミのように、不動産デベロッパーも一般企業・個人も続々と撤退していった。そして土地価格・マンション価格は2000年前後にバブル形成前の水準に戻り、日本の不動産バブルは崩壊した。

その後の日本は不動産バブルの後始末に追われることとなった。金融機関は総量規制の下で不動産業向け貸出を抑制、金融機関からの借入金を元手に不動産投資を増やしていたデベロッパーは、資産サイドでは不動産価格の下落、負債サイドでは金利上昇によるコスト高に見舞われ、投げ売り(コスト割れで売却)で得た資金で借金を返済するバランスシートの両建て解消に動き出した。レバレッジ投資(金融機関からの借入金を元手とした投資)をしていた一般企業・個人もほぼ同様の動きを示した。

こうして投げ売りを余儀なくされた不動産デベロッパーは次々に倒産、レバレッジ投資していた一般法人の中には本業が黒字なのに倒産した会社が現われ、借金返済に追われ自己破産する個人も少なくなかった。そして金融機関の不良債権は急激に増加し、経営不安に直面した金融機関は「貸し剥がし」に奔走、信用収縮を招いた。こうした金融機関の経営不安を解消しようと、日本政府は金融機関に公的資金を注入、それまで減少傾向にあった政府債務(GDP比)は1990年63%を底に増加に転じた。さらに悪化した景気を建て直そうと大規模な景気対策を実施したため、政府債務はさらに拡大していった。なお、住むために住宅を購入した個人の投げ売りは目立たなかったものの、高金利の住宅ローンを抱えて消費意欲を減退させた。

そして不動産バブル崩壊後(1991~00年)の実質成長率は年平均1.3%増と、その前10年の同4.5%増から3.2ポイントも低下することとなった。
 
*1 土地の下落時期は地域間で異なった。東京で下落に転じた1988年前後に、大阪や名古屋などではむしろ上昇傾向を強めていた。東京に比べ割安感があった地域に資金が流入したためである

3―日本と中国の類似点・相違点

それでは現在の中国の不動産バブルと当時の日本を比較すると、どんな類似点・相違点があるのだろうか。ここではポイントのみをご紹介しておくこととしたい*2

類似点としては、(1)バブル度合いの深刻さ、(2)住宅需要のピークアウト、(3)不動産デベロッパーの相次ぐ経営破綻などがある。一方、相違点としては、(1)住宅価格変動の地域間格差、(2)マネーサプライの動き、(3)金融機関が抱える不良債権額、(4)その他(一人当たりGDPのレベル、有望な輸出先の有無、株式バブルの有無、不動産デベロッパーの負債構成)などがある[図表]。
[図表]不動産バブルの日中比較

4―中国経済の展望

以上の不動産バブルの日中比較を踏まえて、今後の中国経済を展望してみたい。

メインシナリオとしては、中国の大都市では不動産バブルがまだ崩壊していないとはいえ、現在の住宅在庫は積み上がっており、今後も住宅需要は減少傾向を辿ると見られるため、不動産業の不振が中国経済全体の成長率を押し下げる状態は長期化すると予想している。さらに中国は少子高齢化など人口問題を抱えており、財政発動の余地もそれほど大きくないことから、経済成長率はじりじりと鈍化し、10年後には先進国並みの2%台になると見ている。そして景気対策として財政を発動する度に中国の政府債務残高(GDP比)は上昇し、日本のそれに近づいていくことになるだろう。

但し、経済成長率がマイナスに陥ったとしてもそれは一時的だろう。そうした事態となれば、財政発動する余地はまだそれなりに残っているからだ。中国の政府債務残高は隠れ債務(融資平台)を含めてもGDP比で110%程度とまだ日本のそれを大きく下回っている。また、中国の一人当たりGDPのレベルは米国の6分の1に過ぎないので、EV自動車や動力電池など新エネ関連の輸出は堅調と見られ、情報通信・ITサービスも生成AIの活用などで2桁成長を維持すると見られるため、経済成長率を押し上げる要因も少なからずある。

とはいえ不動産バブルがハードランディングに陥るリスクは覚悟しておく必要がある。経営破綻した不動産デベロッパーの処理方法を誤れば社会不安を招く恐れがあり、上海などの大都市でもバブルが崩壊すればAMCの経営不安を招く恐れもあるからだ。しばらく中国の不動産市場から目が離せない状況が続きそうだ。
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三尾 幸吉郎

研究・専門分野

(2024年04月05日「基礎研マンスリー」)

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