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国際金融センター実現に向けた日本の取組み
坂田 紘野
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1――国際的に見た金融市場
ニューヨークは米国への企業・産業人材の集積を背景とした米国経済の水準の高さによる投資先の豊かさを強みの一つとする。証券取引所別の株式時価総額の推移を見ると、ニューヨーク証券取引所(NYSE)とナスダック市場の株式時価総額は他の取引所を大きく上回る(図表1)。2020年12月時点の世界全体の株式時価総額約110兆ドルのうち、約43兆ドルを米国のNYSEとナスダックが占める。また、世界の基軸通貨がドルであることも、ニューヨークの国際金融センターとしての発展を支える。BISによると、2019年の外国為替市場取引高の通貨別シェアにおいて、米ドルは88%を占める(為替取引は2通貨でなされるためシェアの合計は200%)。
2――国際金融センターインデックスランキング
日本の都市で最も高評価を得ているのは東京だ。香港、シンガポール、上海といったアジアの他都市とランキングを競う。近年は、ランキング上位のアジアの都市間での順位の変動が大きい。ニューヨークを除く上位都市の点数の差は小さく、国際金融センターの地位をめぐる争いは激しさを増している。トピックとしては、香港における国家安全維持法施行を発端とする政情不安が国際金融センターに与える影響が注目されている。また、シンガポールでは、経済の減速を受けて外国人のビザ取得の厳格化が打ちだされたこと等の規制強化がビジネス環境に与える影響が懸念される。最近の結果では、上海や北京など中国の都市の順位の上昇が目立つ。国際金融センターにおける中国の影響力が強くなりつつある(図表3)。
3――国内の発言・動向
さらに、昨年12月に閣議決定された総合経済対策2においても、「海外と比肩しうる魅力ある金融資本市場への改革と海外事業者や高度外国人材を呼び込む環境構築を戦略的に進め」ることで、世界に開かれた国際金融センターの実現を目指すことを明記した。
現在、日本においては、東京、大阪、福岡の3都市が国際金融センターを目指す方針を表明している。
このうち、最も早い時期から構想を打ち出していたのは東京だ。80年代からしばしば、アジアの金融ハブとして世界に冠たる国際金融都市を目指す、との戦略を打ち出してきていた。近年では、小池東京都知事を中心とした、「国際金融都市・東京」構想が2017年10月に示されている。現在は、構想策定から約3年を経ての、Brexit、香港の政情不安、新型コロナウイルス等の環境・国際情勢の変化を踏まえた構想の改訂に向けた検討が進められている。
大阪では、11月に吉村大阪府知事が国際金融都市を目指す方向性を表明したことで、本格的な検討がスタートした。大阪が目指すのは、「エッジを利かせた、特定の項目に集中した特徴のある国際金融都市」3だ。大阪は江戸時代に米の先物取引をはじめた、先物取引(デリバティブ)発祥の地だ。この歴史的経緯を活かし、アジアのデリバティブ拠点を目指す。同時に、2025年の大阪万博を踏まえ、ESG投資も推進する方針だ。アメリカという大国にありながら、世界最大のデリバティブ取引所という点でニューヨークとは異なる機能を有するシカゴのような、特徴ある国際金融センターを目指すと見られる。
福岡は、アジアに近いという地理的な優位性を活かしたい考えだ。外資系金融機関等の誘致を目指す産官学連携組織「TEAM FUKUOKA」を立ち上げ、一丸となって取り組む方針だ。
これらの各都市の方向性を表にまとめると(図表6)のようになる。
菅首相は、「東京の発展を期待するが、他の地域でも金融機能を高めることができる環境をつくりたい」と発言している。政府はこれらの3都市をまずは競わせる方針だ。
日本が国際金融センターを目指すことの効果としては、(1)雇用・産業の創出や経済力向上の実現に資する、(2)リスク分散を通し、アジアひいては世界の金融市場の災害リスク等に対する強靭性を高める、等が挙げられている。4また、各都市は国際金融センターとなることによる地域経済の成長や資産運用・形成への好影響を期待する。
1 首相官邸より
2 「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」(令和2年12月8日閣議決定)
3 吉村大阪府知事記者会見(2020年11月18日)
4 金融庁「令和2事務年度 金融行政方針」より(2020年8月)
4――国際金融センターに向けた日本の課題と取組み
海外人材の呼び込みという点から見ると、税の軽減措置が実施されること自体は望ましい流れだと言える。
もっとも、今回の税制改正では、税の公平性の観点から税率そのものの引き下げは行われなかった。所得税の税率引き下げについて、甘利自民党税制調査会長は「そういう(呼び込みたい)人材だけ安く、というのはできない話だ」と発言した。5吉村大阪府知事などは法人税や所得税の減税を受けるための「国際金融特区」を要望するが、現在のところ、大きな動きは見られない。
5 日本経済新聞(令和2年12月2日)より
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