2021年03月23日

国際金融センター実現に向けた日本の取組み

総合政策研究部 研究員   坂田 紘野

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国際金融センターとしての地位向上を目指す動きが、日本で活発化している。国際金融センターに明確な定義はないものの、一般に、多数の金融機関や投資家等が集積し、世界中から優秀な人材や資金、情報が集まることで金融商品のグローバルな取引がなされている都市、を表すと考えられる。技術の進歩やコロナ禍に伴う環境変化によって、物理的な人材や市場の集積は以前ほど重要ではなくなったとする考えもある。一方で、金融ビジネスにおける人材や市場等の集積に魅力を覚える金融機関や投資家は今なお多い。本稿では、国際金融センターに関する規模や評価を確認した後に、日本の国際金融センター機能の強化に向けた取組みについて概観したい。
 

1――国際的に見た金融市場

1――国際的に見た金融市場

はじめに、定量的な指標から主要な国際金融センターの規模を確認する。国際金融センターとしては、歴史的に有力な金融機関が本拠地を構えるニューヨークやロンドンが広く知られている。しかし、この2都市の国際金融センターとしての強みは異なる。

ニューヨークは米国への企業・産業人材の集積を背景とした米国経済の水準の高さによる投資先の豊かさを強みの一つとする。証券取引所別の株式時価総額の推移を見ると、ニューヨーク証券取引所(NYSE)とナスダック市場の株式時価総額は他の取引所を大きく上回る(図表1)。2020年12月時点の世界全体の株式時価総額約110兆ドルのうち、約43兆ドルを米国のNYSEとナスダックが占める。また、世界の基軸通貨がドルであることも、ニューヨークの国際金融センターとしての発展を支える。BISによると、2019年の外国為替市場取引高の通貨別シェアにおいて、米ドルは88%を占める(為替取引は2通貨でなされるためシェアの合計は200%)。
(図表1)株式市場時価総額推移(各年12月時点)
一方、ロンドンは、外国為替市場における取引が盛んな英国において、その中心的な役割を果たす。国際決済銀行(BIS)によると、OTC(店頭取引)による外貨取引は全世界で2019年に1日あたり約8.3兆ドル行われた。そのうちの約43%にあたる約3.6兆ドルが英国で実施された取引だ。外国為替市場における影響力を有することで、ロンドンは金融市場の仲介者としての強みを発揮している(図表2)。
(図表2)外貨取引規模(1日平均取引高)
なお、日本は、株式時価総額が約6.7兆ドル(東京証券取引所、2020年)、外貨取引規模は1日あたり約3,760億ドル(2019年)であった。いずれも一定程度の規模を有してはいるものの、アジアの都市の中で優位性を発揮するには至っていない。
 

2――国際金融センターインデックスランキング

2――国際金融センターインデックスランキング

国際金融センターとしての世界の都市の比較に関しては、英国のシンクタンクであるZ/Yenグループが年2回公表する国際金融センターインデックス(The Global Financial Centres Index ,GFCI)ランキングが有名だ。GFCIにおいても、ニューヨークやロンドンは安定した評価を得ている。もっとも、ロンドンは英国のEU離脱による地位低下が懸念されている。例えば、英国で免許を取得すればすべてのEU加盟国で事業可能となる「シングルパスポート・ルール」が適用されなくなる可能性があるため、フランクフルトやパリなどの都市へ人員や資産を移転する動きが見られる。

日本の都市で最も高評価を得ているのは東京だ。香港、シンガポール、上海といったアジアの他都市とランキングを競う。近年は、ランキング上位のアジアの都市間での順位の変動が大きい。ニューヨークを除く上位都市の点数の差は小さく、国際金融センターの地位をめぐる争いは激しさを増している。トピックとしては、香港における国家安全維持法施行を発端とする政情不安が国際金融センターに与える影響が注目されている。また、シンガポールでは、経済の減速を受けて外国人のビザ取得の厳格化が打ちだされたこと等の規制強化がビジネス環境に与える影響が懸念される。最近の結果では、上海や北京など中国の都市の順位の上昇が目立つ。国際金融センターにおける中国の影響力が強くなりつつある(図表3)。
(図表3)GFCI ランキング 上位推移
GFCIを作成するZ/Yenグループは、国際金融センターの競争力について、「ビジネス環境」「人的資本」「インフラ」「金融セクターの発達」「評判」の5分野に分類し、上位の都市をランキング形式で公表している。税制は「ビジネス環境」に含まれる。東京は多くの分野において、順位が公表される15位以内の評価を得ており、一定の評価を獲得していると言える。しかし、アジアの他都市と比較した際には、相対的な下位に位置しているケースが多い(図表4)。
(図表4)GFCIモデルに用いられている競争力の分類
また、GFCI策定にあたってZ/Yenグループが実施したアンケート調査によれば、国際金融センターの競争力に関わる最も重要なものは何か、という問いに対しては、「ビジネス環境」との回答が最も多い。だが、税制や都市の評判等を重視する回答も多く、各分野においてバランスよく競争力を高める必要があると言えるだろう(図表5)。
(図表5)競争力に影響する要素は何か

3――国内の発言・動向

3――国内の発言・動向

菅首相は、昨年10月の所信表明演説において、「海外の金融人材を受け入れ、アジア、さらには世界の国際金融センターを目指します。そのための税制、行政サービスの英語対応、在留資格の緩和について早急に検討を進めます。」1と発言し、国際金融センターを目指すとの方針を改めて示した。

さらに、昨年12月に閣議決定された総合経済対策2においても、「海外と比肩しうる魅力ある金融資本市場への改革と海外事業者や高度外国人材を呼び込む環境構築を戦略的に進め」ることで、世界に開かれた国際金融センターの実現を目指すことを明記した。

現在、日本においては、東京、大阪、福岡の3都市が国際金融センターを目指す方針を表明している。

このうち、最も早い時期から構想を打ち出していたのは東京だ。80年代からしばしば、アジアの金融ハブとして世界に冠たる国際金融都市を目指す、との戦略を打ち出してきていた。近年では、小池東京都知事を中心とした、「国際金融都市・東京」構想が2017年10月に示されている。現在は、構想策定から約3年を経ての、Brexit、香港の政情不安、新型コロナウイルス等の環境・国際情勢の変化を踏まえた構想の改訂に向けた検討が進められている。

大阪では、11月に吉村大阪府知事が国際金融都市を目指す方向性を表明したことで、本格的な検討がスタートした。大阪が目指すのは、「エッジを利かせた、特定の項目に集中した特徴のある国際金融都市」3だ。大阪は江戸時代に米の先物取引をはじめた、先物取引(デリバティブ)発祥の地だ。この歴史的経緯を活かし、アジアのデリバティブ拠点を目指す。同時に、2025年の大阪万博を踏まえ、ESG投資も推進する方針だ。アメリカという大国にありながら、世界最大のデリバティブ取引所という点でニューヨークとは異なる機能を有するシカゴのような、特徴ある国際金融センターを目指すと見られる。

福岡は、アジアに近いという地理的な優位性を活かしたい考えだ。外資系金融機関等の誘致を目指す産官学連携組織「TEAM FUKUOKA」を立ち上げ、一丸となって取り組む方針だ。

これらの各都市の方向性を表にまとめると(図表6)のようになる。

菅首相は、「東京の発展を期待するが、他の地域でも金融機能を高めることができる環境をつくりたい」と発言している。政府はこれらの3都市をまずは競わせる方針だ。

日本が国際金融センターを目指すことの効果としては、(1)雇用・産業の創出や経済力向上の実現に資する、(2)リスク分散を通し、アジアひいては世界の金融市場の災害リスク等に対する強靭性を高める、等が挙げられている。4また、各都市は国際金融センターとなることによる地域経済の成長や資産運用・形成への好影響を期待する。
(図表6)各都市の国際金融都市構想
 
1 首相官邸より
2 「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」(令和2年12月8日閣議決定)
3 吉村大阪府知事記者会見(2020年11月18日)
4 金融庁「令和2事務年度 金融行政方針」より(2020年8月)
 

4――国際金融センターに向けた日本の課題と取組み

4――国際金融センターに向けた日本の課題と取組み

国際金融センターに向けた日本の課題としては、(1)他国と比較して高い税率、(2)相対的に英語話者が少ないことによる業務進行の難しさ、(3)個人金融資産の多くが預金・貯金に滞留している状況、(4)資産運用業やフィンテック産業の誘致・育成、等が指摘される。以下では、各課題及び課題改善に向けた取組みについて概観したい。
1税制改正による税の軽減措置の実施
諸外国と比較した際の日本の税負担は重いと考えられており、国際金融センターの実現に向けた課題として指摘されることが多い(図表7)。国際金融センター実現に向けて誘致が望まれる高度金融人材等は、高所得層が多いと考えられる。そのため、税率を下げることで負担軽減を行うことが人材や企業の誘致につながる、という主張が従来よりなされてきた。
(図表7)各国の税率
このような状況を受け、昨年12月10日に閣議決定された2021年度税制改正大綱において、相続・法人・所得の各税における国際金融都市に向けた税制上の措置が定められ、税負担が軽減されることとなった。具体的には、(1)相続税:就労等のために日本に居住する「高度専門職」の在留資格を有する外国人が死亡した際に、居住期間にかかわらず、外国に居住する家族等が相続により取得する海外の財産を相続税の課税対象としない、(2)法人税:投資ファンドなどを含む非上場の非同族会社等が支払う役員報酬を損金算入することを一定の要件の下で認め、実質的に法人税を軽減する、(3)所得税:日本でファンドマネージャーが自社の運用成果として高額報酬を得た場合、一定の要件の下で総合課税(最高税率55%(住民税含む))を適用せず、金融所得の分離課税(株式譲渡益、一律20%)の対象とすることで税率を実質的に軽減する、といった措置が行われる。

海外人材の呼び込みという点から見ると、税の軽減措置が実施されること自体は望ましい流れだと言える。

もっとも、今回の税制改正では、税の公平性の観点から税率そのものの引き下げは行われなかった。所得税の税率引き下げについて、甘利自民党税制調査会長は「そういう(呼び込みたい)人材だけ安く、というのはできない話だ」と発言した。5吉村大阪府知事などは法人税や所得税の減税を受けるための「国際金融特区」を要望するが、現在のところ、大きな動きは見られない。
 
5 日本経済新聞(令和2年12月2日)より
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総合政策研究部   研究員

坂田 紘野 (さかた こうや)

研究・専門分野
日本経済

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