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- Tokyoをアジアヘッドクォーターに~民間が出来ること、出来ないこと~
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東京都心部で開発される大型プロジェクトには、国内マーケットでの差別化戦略を超え、東京の魅力を世界にアピールするさまざまな新機軸や工夫が盛り込まれている。たとえば、英語対応が可能な外来病院の誘致、国際金融人材の育成・交流拠点の設置、天然温泉浴場つき和風ホテルの計画、外国人ビジネスマンの中長期滞在用サービスアパートメントの開設、皇居周辺ランナーのためにシャワーやロッカーを備えた拠点の設置、皇居のお堀の水質浄化システムの敷設、災害発生時の帰宅困難者受け入れスペースや備蓄の確保、200本以上の高木が密集する森の造成、ホタルの飼育実験やスマートグリッド(次世代送電網)の実証実験など枚挙にいとまがない。東京駅周辺は洗練されたデザインの高層ビルが林立し、街並みは緑やパブリックアートで美しく整備され、安全かつ清潔だ。皇居や東京駅舎などの歴史文化遺産、銀座や築地市場、臨海新都心などのレジャー空間を有する東京は、アジア有数のビジネス・観光都市のひとつであることは間違いない。
しかし、東京がアジア経済圏を統括するビジネス拠点、いわゆる「アジアヘッドクォーター(Asian Headquarters)」として最もふさわしい都市か、というと残念ながらそうとは言えない。たとえば、アジア金融センターの地位を争う都市は香港とシンガポールで、もはや東京ではない。昨年末の東証一部上場外国企業数は2005年末から18社減少してわずか10社だったが、香港は88社(2005年末から79社増加)、シンガポールは304社(同182社増加)1だ。最近は、東京から本社・本社機能(ヘッドクォーター)の一部を香港やシンガポールに移す日本の大企業も増えてきた。よく考えてみて欲しい。暴動やストライキによる被害を補償する損害保険特約(いわゆる「暴動特約」)の付保が必要で、深刻な大気汚染2で駐在員やその家族の健康被害すら心配される中国本土に、日本企業も含め世界の名だたる企業が争って進出するのはなぜなのか。答えは簡単だ。その国やその都市に大きなビジネスチャンスや収益機会があるためだ3。
だからこそ、危機感を強める東京都は、アジアヘッドクォーター特区政策4を推進しているわけだが、日本の経済的地位が低下する中、高層オフィスビルやホテルなどの受け皿施設ばかりを整備しても、外国企業のアジア拠点誘致にどれほど貢献できるか疑わしい。もちろん、特区での法人実効税率引き下げは、これから進出する外国企業にとっては魅力的だが、日本企業や既存の外国企業に恩恵はなく、韓国や中国、シンガポールの方が税制上有利だという現実は変らない。アジアのビジネス拠点にふさわしいビル建設に取組むのが民間の役割だとすれば、国や地方自治体に期待される最大の役割は、産業の成長や新たなビジネス創出を促す仕組みや制度づくりではないか。具体的には、日本の国家的課題でアジア新興国もいずれ直面する超高齢化や環境・エネルギーなどの先端分野に、グローバルな人材5と資金の大きな流れが生まれるような政策を講じることだ。
このとき、民間の不動産デベロッパーも、日本の未来を担う成長産業や新ビジネスを育てるつもりで、プロジェクトに超高齢化や環境・エネルギー問題へのソリューションを意欲的に取り入れて欲しい。たとえば、省エネ・蓄エネ・創エネの最先端技術を総動員して、オフィスビルや商業施設などのネット・ゼロ・エネルギー化を世界に先駆けて達成することだ。また、空き室利用してコワーキング(共働)スペース、シェア(共有)オフィスなど新しいビジネス・コミュニティの場を提供し、新商品の開発や起業を支援して欲しい6。経済活動や生活の基盤を提供する不動産ビジネスは、安全上や環境保全上の規制や公共的な負担が多く、震災後は帰宅困難者対策や防災備蓄を要請されるなど、その社会的な役割はこれまで以上に重要になっている。国内の成熟産業に器を提供するだけでなく、国や地方自治体と力を合わせ、本業を通じて新技術の採用や新規事業の創出を積極的に支援すれば、アジアヘッドクォーターの誘致どころか、日本経済の再生にも大いに貢献できると思うのだが。
(2013年03月06日「研究員の眼」)
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