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コラム
2011年10月26日
♪Tokyo, Seoul, London, New York・・・と日本語、韓国語、英語が入り混じった歌詞のダンスナンバーを歌い踊る韓国人気ガールズグループ「少女時代」の音楽アルバムは、日本での発売後3ヶ月間で60万枚を売り上げた。積極的に海外市場開拓を進める日本企業では、採用の多国籍化が進み、正社員の外国人比率が急上昇している。また、東証一部上場の家具・生活雑貨専門店運営会社は、海外展開加速のためMBO(経営陣による企業買収)による非上場化と香港やシンガポールでの上場を目指し、すでに社長は香港に移住したという。国内投資信託最大手のCIO(最高投資責任者)のうち、株式担当者はシンガポールからアジア全体の市場動向を見る。日本の電機メーカーや不動産会社などが提案する次世代の街づくり、「環境共生都市」や「スマートシティ」は、中国などアジアでの計画が日本と同時並行で進められている。また、円高の恩恵もあり、日本企業のアジアでのM&A(合併・買収)も急拡大している。このようなクロスボーダー的な企業活動や消費動向は、アジア経済圏の成長とともに加速しており、もはや後戻りすることはないだろう。
時代の変化をこのように捉えれば、東京の位置づけは、経済と政治の中心として国内で圧倒的な存在である “日本の東京”としてだけでなく、上海や香港、シンガポールなどのライバル都市と競い合う“アジアのTokyo”として相対的に見る必要もあるだろう。現在、日本のGDPは中国に抜かれたとはいえ世界第3位で、中でも東京は、周辺3県を合わせれば3千数百万人の人口(商圏)を擁し、都心部には中央官庁や大企業の本社、研究機関・大学、マスメディアなど日本の中枢機能が集積する世界最大級の巨大都市であり、クール・ジャパンの発信基地でもある。しかし、今後、人口の高齢化がさらに進み、東京といえどもその潤沢な内需が縮小に向かうことが明らかな以上、拡大する新たな市場を求めて日本企業がグローバルに事業を展開し、魅力的な商品やコンテンツをインターネットで世界中から選べる消費者がメイド・イン・ジャパンにこだわらなくなるのは必然であろう。
早晩、香港やシンガポールで上場する日本企業は珍しくなくなり、東京・上海二本社制を採用する企業も出てくるだろう。ホーム・カントリー・バイアス(自国資産への偏重)が目立つ不動産投資においても、地震リスクの高い日本国内で分散するよりも、アジア全体での分散投資が当たり前になるはずで、東京は重要な候補地のひとつであることは間違いないが、ライバルはさらに強力に、また多くなるだろう。今や、観光立国や金融立国、環境技術立国は日本や東京だけのスローガンではなく、世界の大都市が争って取組む成長戦略のテーマとなっている。東日本大震災と原発事故で安全・安心神話が崩壊した日本が背負ったハンディキャップは大きいが、Tokyoがアジアにおける都市間競争に本気で立ち向かう時は今をおいて他にない。
とはいえ、総合特区指定で最新の国際会議場やオフィスビルなどのハコモノをいくら建設しても、その都市に大きなビジネスチャンスがなければ外資の積極的な進出は期待できないし、徹底的な放射線量測定と除染を踏まえた明確な証拠に基づく安全宣言がなければ海外からの観光客は戻ってこない。そこで、震災と原発事故を逆手に取り、省エネ・創エネや防災・減災、放射能の除染・廃棄物処理、原発廃炉化などにおいて、世界の最先端を行く安全かつ革新的な技術やシステムの開発に社会的資源を集中することを国の新たな成長戦略とし、その象徴的な実践都市として、東京に本格的なスマートシティを開発してはどうだろうか。スマートシティを実現するための先端的な技術や優秀な人材・研究機関を集中させると同時に、誰でも安心して快適な生活が享受できる都市基盤を整備することができれば、世界中から企業や資金、人材を引き寄せる強力な磁場がTokyoに備わるのではないだろうか。
(注)ニッセイ基礎研究所『基礎研REPORT』2011年11月号の巻頭コラムに加筆したものです。
時代の変化をこのように捉えれば、東京の位置づけは、経済と政治の中心として国内で圧倒的な存在である “日本の東京”としてだけでなく、上海や香港、シンガポールなどのライバル都市と競い合う“アジアのTokyo”として相対的に見る必要もあるだろう。現在、日本のGDPは中国に抜かれたとはいえ世界第3位で、中でも東京は、周辺3県を合わせれば3千数百万人の人口(商圏)を擁し、都心部には中央官庁や大企業の本社、研究機関・大学、マスメディアなど日本の中枢機能が集積する世界最大級の巨大都市であり、クール・ジャパンの発信基地でもある。しかし、今後、人口の高齢化がさらに進み、東京といえどもその潤沢な内需が縮小に向かうことが明らかな以上、拡大する新たな市場を求めて日本企業がグローバルに事業を展開し、魅力的な商品やコンテンツをインターネットで世界中から選べる消費者がメイド・イン・ジャパンにこだわらなくなるのは必然であろう。
早晩、香港やシンガポールで上場する日本企業は珍しくなくなり、東京・上海二本社制を採用する企業も出てくるだろう。ホーム・カントリー・バイアス(自国資産への偏重)が目立つ不動産投資においても、地震リスクの高い日本国内で分散するよりも、アジア全体での分散投資が当たり前になるはずで、東京は重要な候補地のひとつであることは間違いないが、ライバルはさらに強力に、また多くなるだろう。今や、観光立国や金融立国、環境技術立国は日本や東京だけのスローガンではなく、世界の大都市が争って取組む成長戦略のテーマとなっている。東日本大震災と原発事故で安全・安心神話が崩壊した日本が背負ったハンディキャップは大きいが、Tokyoがアジアにおける都市間競争に本気で立ち向かう時は今をおいて他にない。
とはいえ、総合特区指定で最新の国際会議場やオフィスビルなどのハコモノをいくら建設しても、その都市に大きなビジネスチャンスがなければ外資の積極的な進出は期待できないし、徹底的な放射線量測定と除染を踏まえた明確な証拠に基づく安全宣言がなければ海外からの観光客は戻ってこない。そこで、震災と原発事故を逆手に取り、省エネ・創エネや防災・減災、放射能の除染・廃棄物処理、原発廃炉化などにおいて、世界の最先端を行く安全かつ革新的な技術やシステムの開発に社会的資源を集中することを国の新たな成長戦略とし、その象徴的な実践都市として、東京に本格的なスマートシティを開発してはどうだろうか。スマートシティを実現するための先端的な技術や優秀な人材・研究機関を集中させると同時に、誰でも安心して快適な生活が享受できる都市基盤を整備することができれば、世界中から企業や資金、人材を引き寄せる強力な磁場がTokyoに備わるのではないだろうか。
(注)ニッセイ基礎研究所『基礎研REPORT』2011年11月号の巻頭コラムに加筆したものです。
(2011年10月26日「研究員の眼」)
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