2021年03月15日

コロナ禍に関する人々の不安や関心~コロナ禍に関するSNS投稿と投稿者の特徴の関係

金融研究部 准主任研究員・ESG推進室兼任 原田 哲志

文字サイズ

1――はじめに

昨年4月に最初の緊急事態宣言が発令され、新型コロナウイルスの感染対策が行われ始めてから、1年が経過しようとしている。今年1月7日には、首都圏1都3県を対象に再度緊急事態宣言が発令され、感染対策は長期化している。人々は、マスク着用、会食の抑制など日常生活の様々な場面で、制約を強いられている。

免疫力の弱い高齢者を持つ世帯では、特に注意を要する状況が続いている。また、経済の低迷により、失業や収入に不安を持つ人々もいる。感染対策が日常の様々な面に影響する中で、人々はそれぞれの状況により様々な不安や心配を持っていると考えられる(図表1)。

本稿では、SNS上の投稿から、人々の年齢や性別といった特徴毎のコロナ禍についての不安や関心について調べた。感染対策が長期化する中で、人々がどのようなことに不安や関心を持っているか、また求められる対策について考えたい。
図表1 感染に関わる不安

2――分析の概要

2――分析の概要

本稿では、Twitterでの「新型コロナウイルス」に関する投稿を収集・分析し、これに関する人々の不安や関心を調べた。また、投稿者のプロフィールから投稿者の特徴を示す単語を抽出した。抽出した投稿者の特徴と投稿内容の関係を調べることで、どのような人がどのようなこと事に不安や関心を持っているか調べた。本稿で行った分析の概略を説明する。

対象データ
Twitterの投稿から、下記の全ての条件を満たす1万件の投稿を抽出した。
  • 投稿文に「新型コロナウイルス」を含む
  • 投稿者のプロフィール(自己紹介文)に、投稿者の特徴を示す下記のいずれかの単語を含む
    「20代」、「30代」、「40代」、「男性」、「女性」、「会社員」、「学生」、「主婦」
  • 投稿日時:2020年11月1日~2020年11月30日

分析方法
・単語の共起関係
抽出した投稿文全体を対象に、一つの投稿文中でどの単語が同時に出現(共起)していたかを調べた。これにより、共起ネットワークを調べた(図表2)。これにより、「新しい生活様式」に関してどのようなことが話題になっているのか、どのように関連しているかを調べた。共起関係の分析にはKH Coder1を用いた。
図表2 単語の共起関係の分析のイメージ
・投稿者の特徴毎の投稿の傾向
また、抽出された投稿者の特徴毎に投稿文中の単語の出現頻度を調べた。これにより、投稿者の特徴毎にどのようなトピックに関心があるかについて調べた。
 
1 KH Coder3を使用した。(http://khcoder.net/
参考文献:樋口耕一(2014)『社会調査のための計量テキスト分析 ―内容分析の継承と発展を目指して―』 ナカニシヤ出版
 

3――「新型コロナウイルス」に関する投稿の傾向

3――「新型コロナウイルス」に関する投稿の傾向

1単語の共起関係
まず、「新型コロナウイルス」に関連して、どのようなことが投稿されているのか概観したい。図表3は、新型コロナウイルスに関連する投稿に含まれる主要な単語とその関係を示している。

これを見ると、投稿はいくつかのトピックに大きく分かれていることが分かる。投稿を詳細にみると、下記の特徴が見られた。
 
  • 「ワクチン」や「感染」といった「ニュース」についての投稿が多く見られた。新型コロナウイルスに関する状況が大勢の人に注目されている。
  • 「友達」、「イベント」といった単語を含む投稿が見られた。感染対策により、娯楽や交友が制限されることへの不満が上がっている。
  • 「お金」などの単語を含む収入や生活費について心配する投稿が見られた。

SNS上の投稿からは、人々は、コロナ禍に関連して様々なトピックに不安や関心を持っている様子が分かる。
図表3 「新型コロナウイルス」に関連する単語の関係(共起ネットワーク)
2投稿者の特徴と投稿内容の関係
次に、どのような人が特にこれらのトピックに関心があるのか見ていきたい。図表4は、SNS投稿で出現頻度の多かった単語と投稿者の属性区分毎に投稿数を集計した結果を示している。これを見ると、下記の特徴が見られた。
 
  • 「ニュース」や「ワクチン」といった時事関連の話題や「会社」、「仕事」が概ね投稿者の年齢・性別・職業等の属性によらず、幅広く注目されている。
     
  • 上記に加えて、年齢別の特徴を見ると20代の投稿者は「友達」や「イベント」に関する投稿が多かった。30代の投稿者は「子供」、「家族」、「旅行」に関する投稿が多かった。20代、30代で、こうした娯楽の減少への不満に関する投稿が特に多かった。一方で、40代の投稿者は「仕事」、「ニュース」に関する投稿が多かった。20代では友人や娯楽、30代では家族、40代では仕事や時事関連が関心の高いトピックとなっていると言えるかもしれない。
     
  • 性別毎に見ると、男性は投稿数が多いわりに特定の単語に集中しておらず、あまり特徴がない。一方、女性は「お金」、「収入」、「オンライン」や「GOTO」についての投稿が比較的多かった。「GOTO」に関する投稿では、GOTOキャンペーンを推進する政府の方針を批判する意見が多かった。また、「お金」に関する投稿の例を見ると「貯金が大切」といった、生活の維持のために貯蓄が大事という内容の投稿が見られた。お金や収入といった生活費に関する不安が、女性に多いのかもしれない。
     
  • この他の投稿者の特徴について見ると、会社員では「会社」、「ワクチン」に関する投稿が多かった。学生では「学校」、「オンライン」に関する投稿が多かった。主婦では「お金」や「家族」、「子供」に関する投稿が多かった。これらは当然の結果と言えるであろう。

このように、新型コロナウイルスの流行は単に感染による健康被害というだけでなく、娯楽の減少によるストレスの蓄積、経済の低迷による生活不安といった様々な影響を及ぼしていることが分かる。また、そうした影響はすべての人に同じように影響しているのではなく、人により異なっていることが伺える。
図表4 投稿者の特徴と単語の出現頻度の関係

4――新型コロナウイルス感染対策の今後の課題

4――新型コロナウイルス感染対策の今後の課題

SNS投稿の分析から、新型コロナウイルスとその感染対策について次のような課題が見えてくる。順にみていきたい。

心身の健康の維持
感染対策により、外出の機会が減少し、心身の不調を感じる人が増えている。特に20代や30代など比較的若い世代では、イベントや旅行といった娯楽の機会が減少することへの不満が見られた。こうした娯楽が少なくなることはストレスの蓄積を招く恐れがある。このように、行動の自由が制限されると、喜怒哀楽の感情が失われたり、強い不安を感じる「拘禁反応」という特有の心理状態に陥る恐れがある2

感染を避けられる風通しの良い屋外への外出や自宅でできる運動などにより、心身の健康を維持することが望ましいだろう。
 
2 筑波大学付属病院『新型コロナウイルス(COVID-19)に関するこころのケアについて』
http://www.hosp.tsukuba.ac.jp/care.html
情報との接し方
ニュースや時事関連の話題は年齢や性別を問わず、関心が高かった。しかし、こうした情報に過度に気をとられることは不安を増幅させる恐れがある3。新型コロナウイルスに関連した様々な情報が溢れているが、信頼できる情報源を参考にする必要があるだろう。また、テレビやネットなどを見ない時間を作ることで、情報から離れる時間を設けることが必要かもしれない。
 
3 一般社団法人 日本産業カウンセラー協会『新型コロナウイルスによる不安やストレスなどの心の問題に対処するために』
https://www.counselor.or.jp/covid19/covid19column7/tabid/513/Default.aspx
生活の維持・支援
コロナ禍による経済の低迷から、収入の減少や失業が問題となっている。SNS上の投稿では、お金や収入といった生活費に関する不安が、女性に多く見られた。コロナ禍により、生活の維持が難しくなる人が増えており、生活費の支援などが必要となっている。
 
外出の機会が減少する中で、適度な運動による心身の健康の維持が必要となっている。また、様々な情報が溢れる中、ストレスをためないためにも過度に情報に振り回されないことが必要だろう。新しい生活様式に基づいた感染対策に加え、心身の健康の維持や生活の維持の支援が求められている。
 

5――まとめ

5――まとめ

本稿では、SNS上の投稿データを分析することで、「新型コロナウイルス」について人々がどのように感じているかを調べた。また、投稿者のプロフィールから投稿者の特徴を示す単語を抽出し、投稿者の特徴と投稿内容の関係を調べることで、どのような人がどのようなこと事に不安や関心を持っているか調べた。

その結果、新型コロナウイルスの感染状況に関するニュース報道は年代や性別に関わらず、関心が高かった。年代毎の特徴について見ると、20代など若い世代でイベントなど娯楽の機会が減少することへの不満が見られた。性別毎に見ると、収入や生活費に関する不安が、女性に多かった。SNS上の投稿の分析から、人々はその状況や立場により、それぞれ様々なトピックに不安や関心を持っていることが分かった。

こうした、収入の減少や仕事の安定性への不安等、人々の経済的な様々な不安に対しては、政府、地方自治体等の政府機関による迅速かつ適切な支援が必要となっている。

一方、感染対策や外出自粛が長期化する中で、漠然たる不安やストレスによる悪影響が徐々に蓄積していると思われる。しかし、政府機関は感染対策重視のため当面は自粛のお願いや規制強化・維持を続けざるを得ず、感染対策によるストレスの緩和は難しい。

従って、こうした漠然としたストレスに対しては、家族や友人等の周囲の人々と協力し、お互いに健康状況等に注意し、自らも自分自身の心身の健康の維持を心がけることくらいしか、残念ながらできることはないかもしれない。感染防止はもちろん重要だが、長期に亘る自粛生活を強いられている一般の人々のストレスを、もう少し真剣に考慮する時期に来ているのではないだろうか。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

金融研究部   准主任研究員・ESG推進室兼任

原田 哲志 (はらだ さとし)

研究・専門分野
資産運用、オルタナティブ投資

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
         大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
    2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)

    【加入団体等】
     ・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
     ・修士(工学)

(2021年03月15日「基礎研レポート」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【コロナ禍に関する人々の不安や関心~コロナ禍に関するSNS投稿と投稿者の特徴の関係】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

コロナ禍に関する人々の不安や関心~コロナ禍に関するSNS投稿と投稿者の特徴の関係のレポート Topへ