2021年03月10日

EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関する意見をECに提出(9)-助言内容(再建及び破綻処理)-

中村 亮一

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(5) 国境を越えた協力と調整
EIOPAは、危機的状況に対する国家破綻処理当局間の国境を越えた協力と調整の取り決めを確立すべきであるとの見解であり、これには、管轄区域間での安全かつ確実な情報交換のための取り決めも含める必要がある。

12.2.破綻処理措置
12.2.1.破綻処理権限
12.9 EIOPAは、加盟国が(再)保険会社の破綻処理のために公式に指定された行政破綻処理機関を設置すべきであるとの見解である。

12.10複数の機関を有する加盟国は、明確な権限、役割と責任の割当て、及び高度な調整を確保する必要がある。

12.2.2.破綻処理の目的
12.11 EIOPAは、事前の事前定義されたランク付けなしで、破綻処理の目的を法的枠組みに明確に設定することを勧告している。

・保険契約者、受益者、請求者を保護するため
・特に、連鎖を防ぎ、市場規律を維持することにより、金融の安定性を維持すること
・混乱が金融の安定性及び/又は実体経済に悪影響を与える可能性のある会社の機能の継続性を確保するため
・公的資金を保護するため

12.2.3.破綻処理計画
12.12 EIOPAは、破綻処理当局が破綻処理計画を作成及び維持し、会社に対して先制的な方法で破綻処理可能性評価を実施することを要求すべきであるとの見解である。破綻処理計画の作成、維持、更新に関するガバナンスプロセスは、保険会社の監督と破綻処理に関与する全ての関連当局、及び適切な場合はCMGs(危機管理グループ)と保険会社自体の参加から恩恵を受けるはずである。破綻処理当局が破綻処理計画プロセスの主導権を握っているのに対し、監督者は破綻処理当局にサポートを提供するという点で基本的な役割を果たす。監督者は、破綻処理当局が計画を起草、維持、更新するために必要となる可能性のある全ての関連情報を提供する必要がある。また、機関の法的又は組織構造、あるいはその会社又は財務状況に対する重要な変更を伝達する必要がある。EIOPAは、破綻処理当局と監督者の間の協力と調整を期待している。

12.13この要件は、EUの各国内市場のかなりのシェアを獲得する必要がある。正確な市場カバレッジレベルを慎重に決定するには、さらなる作業が必要になる場合がある。EIOPAは、破綻処理計画の範囲は先制再建計画の範囲よりも小さいと考えている。

12.14破綻処理当局は、調和のとれた基準に基づいて、要件の対象となる会社を決定する必要がある。これらには、ビジネスの規模、国境を越えた活動、ビジネスモデル、リスクプロファイル、相互接続性、及び代替可能性が含まれる。

12.15(分析背景文書のボックス12.4で提案されているように)欧州又は国レベルでの金融システム又は実体経済にとって重要な必須の機能及びその他の機能の存在が比例した破綻処理計画の必要性の検討のために考慮に入れられるべきである。委員会が最終的にアプローチを採用した場合、EIOPAは、範囲の決定の一貫性を確保するために、破綻処理で保持される関連機能の決定基準をさらに指定するガイドラインを発行する必要がある。

12.16比例原則に従い、EIOPAは、適格な会社に対して簡素化された義務を導入することを勧告する。

12.17さらに、EIOPAは、正当な理由がある場合、破綻処理当局に、会社の破綻処理可能性に対する特定された重大な障害の除去を要求する権限を与えるべきであるとの見解を有している。

12.2.4.破綻処理権限
12.18 EIOPAは、各国の破綻処理当局が幅広い破綻処理権限を備えているべきであるとの見解を有している。少なくとも、一般的な破綻処理権限のセットには次のものが含まれている必要がある。

・管理、経営、又は監督機関、上級管理職、管理機能の主要人物及び主要なリスクテイクスタッフへの変動報酬のクローバックを含む変動報酬の支払いを禁止し、回収を認める。
・会社に付与された認可を撤回し、保険契約の全部又は一部をランオフさせる(つまり、保有契約の既存の契約上の義務を履行するための要件)。
・破綻処理中の会社の株式を第三者に売却又は譲渡する。
・破綻処理中の会社の資産及び負債の全部又は一部を、ソルベントな会社又は第三者(ブリッジ機関又は管理ビークルを含む)に売却又は譲渡する。
・破綻処理中の会社の資産と負債が移転されるブリッジ機関を設立し、運営する。
・適用法に基づく破綻処理中の会社の資産及び負債の(部分的)譲渡に対する制限を無効にする(例:株主による承認、保険契約の譲渡に関する保険契約者の同意、又は再保険の譲渡に関する再保険会社の同意の要件)。
 ・保険契約を放棄する保険契約者の権利を一時的に制限又は一時停止する。
・契約上のカウンターパーティの破綻処理開始後の期間に関連するカバレッジを終了又は復活しない再保険会社の権利を維持する。
・デリバティブ及び証券貸付取引に関連する早期解約権を維持する。
・無担保債権者への支払いの停止や、資産の差押え、又はその他の方法で破綻処理中の会社からお金や財産を回収する債権者の行動を停止するモラトリアムを課す。
 ・同じグループ内の他のエンティティに、破綻処理の会社、承継者、又は買収エンティティに不可欠なサービスを提供し続けることを要求することにより、不可欠なサービス(ITなど)と機能の継続性を確保する。
・破綻処理中の会社を管理及び経営するか、そうする管財人を任命する。
 ・(再)保険負債を含む負債を再構築、制限、又は評価減し、株主、債権者、保険契約者に損失を割り当てる。

12.19上記の権限の順序は、これらの権限を行使できる順序を示すものと見なされるべきではない。 EIOPAは、会社を破綻処理する際には、過去に適切であることが証明されているポートフォリオ移転や(ソルベント及びインソルベントな)ランオフなどの従来の破綻処理ツールを優先する必要があると考えている。

12.20破綻処理権限の行使は、適切な保護措置の対象となる必要がある。

・同じクラスの債権者の平等な(pari passu)扱いの一般原則から逸脱する柔軟性を提供しながら、請求の階層を尊重する必要がある。
・保険契約者を含む債権者は、通常の破産手続きの下での清算時に発生するよりも大きな損失を被る べきではない(「清算よりも悪い債権者はいない」(NCWOL)原則)。
12.21保険負債を再構築、制限、又は評価減する破綻処理権限に関して、破綻処理当局は、分析背景文書のボックス12.5に記載されているいくつかの追加のセーフガードを考慮に入れる必要がある。

12.2.5.国境を越えた協力と調整
12.22 EIOPAは、危機的状況に対する国家破綻処理当局間の国境を越えた協力と調整の取り決めを確立すべきであるとの見解である。これらの取り決めは、重要性と比例原則を考慮に入れて、現在存在する取り決めに基づくことができる。

12.23これには、管轄区域間での安全かつ確実な情報交換のための取り決めも含める必要がある。

12.24 EIOPA規則の第21条(1)に定められた原則に従い、EIOPAは、EU全体でこれらの国境を越えた取り決めの整合的で一貫した機能を確保する上で主導的な役割を果たすべきである。

4|トリガー
(1) 予防措置の使用のトリガー
EIOPAは、予防措置を使用するための適切なトリガーをEUレベルで導入する必要があると考えている。これらのトリガーは判断に基づいており、状況を評価し、予防措置の必要性を決定するための十分な監督上の裁量を認める必要がある。また、トリガーには、関連する定性的及び定量的要因が含まれている必要があるが、新しい事前定義された介入レベルが発生することはない。

(2) 再建への参入のトリガー
EIOPAは、ソルベンシーII指令で定義されているように、SCRへの不遵守が再建への参入の適切なトリガーであると考えている。ただし、ソルベンシーIIフレームワークは、予防措置の導入によって補完されるべきである。

(3) 破綻処理への参入のトリガー
EIOPAは、破綻処理への参入のための適切なトリガーをEUレベルで導入すべきであるとの見解である。トリガーは判断に基づいており、状況を評価し、破綻処理措置の必要性を決定するための十分な裁量を認める必要がある。

破綻処理のトリガーには次のものが含まれている必要がある。

a)会社はもはや存続可能ではないか、存続可能でなくなる可能性が高く、存続可能になる合理的な見通しがない。
b)考えられる再建措置が尽きてしまった-試みられて失敗したか、会社を存続可能に戻すのが妥当でないとして外された-又はタイムリーに実施できない。
c)公益のために破綻処理措置が必要

12.3.トリガー
12.3.1.予防措置の使用のトリガー
12.25 EIOPAは、予防措置を使用するための適切なトリガーをEUレベルで導入する必要があると考えている。

12.26これらのトリガーは判断に基づいており、状況を評価し、予防措置の必要性を決定するための 十分な監督上の裁量を認める必要がある。

12.27トリガーには、関連する定性的及び定量的要因が含まれている必要があるが、新しい事前定義された介入レベルが発生することはない。

12.3.2.再建への参入のトリガー
12.28 EIOPAは、ソルベンシーII指令で定義されているように、SCRへの不遵守が再建への参入の適切なトリガーであると考えている。

12.29ただし、ソルベンシーIIフレームワークは、予防措置の導入によって補完されるべきである。

12.3.3.破綻処理への参入のトリガー
12.30 EIOPAは、破綻処理への参入のための適切なトリガーをEUレベルで導入すべきであるとの見解である。

12.31トリガーは判断に基づいており、状況を評価し、破綻処理措置の必要性を決定するための十分な裁量を認める必要がある。

12.32破綻処理のトリガーには次のものが含まれている必要がある。

a)会社はもはや存続可能(viable)ではないか、存続可能でなくなる可能性が高く、存続可能になる合理的な見通しはない。
b)考えられる再建措置が尽きてしまった-試みられて失敗したか、会社を存続可能に戻すのが妥当でないとして外された-又はタイムリーに実施できない。
c)公益のために破綻処理措置が必要である。

3―まとめ

3―まとめ

以上、今回のレポートでは、EIOPAの意見書の中の助言内容のうち、「再建及び破綻処理」について報告してきた。

EIOPAは、EUの枠組みを国際基準に引き上げる必要があるだけでなく、加盟国間の再建及び破綻処理に関する不一致が問題を引き起こす可能性があり、国境を超えてビジネスを行う保険会社の能力とうまく調和していないと考えている。こうした観点から、保険会社に対しては先制的な再建計画の策定を求め、監督当局には無秩序な破綻を回避するための予防措置を講じる権限が与えられること、また、各国が措定された破綻処理機関を設置すること等を提案している。

ただし、こうした各種の提案については、懸念される状況を回避するためのリスク管理ツールとして、その重要性等については理解されているものの、その実際の実施・適用等については、国際的なレベルでの対応状況等も考慮しながら、過度な対応が要求されるものにならないように、と保険業界からは多くの懸念が示されてきている。

次回のレポートでは、「保険保証制度等」について報告する。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2021年03月10日「保険・年金フォーカス」)

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