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EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関する意見をECに提出(9)-助言内容(再建及び破綻処理)-
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1―はじめに
今回のレポートでは、EIOPAの意見書の中の助言内容のうち、「再建及び破綻処理」について報告する。
2―EIOPAの意見書からの助言―再建及び破綻処理
EIOPAは、(再)保険会社が欧州連合で保険契約者の保護と金融の安定性を高めるために、最小限の調和のとれた包括的な再建及び破綻処理のフレームワークを求めている。既存のフレームワークの調和と、再建及び破綻処理の基本要素への共通のアプローチの定義は、現在の断片化された状況を回避し、国境を越えた協力を促進する。
助言では、EIOPAは、先制的な再建計画の要求や予防措置の導入などの再建措置に焦点を当てている。その後、助言は、破綻処理機関の指定、破綻処理の目的、破綻処理計画と幅広い破綻処理権限が、特定のセーフガードを条件に、比例的な方法で実施される必要性など、破綻処理プロセスに関連する全ての側面をカバーしている。助言の最後の部分は、予防措置の使用、再建及び破綻処理への参入のトリガーに専念している。
EIOPAは、加盟国間の再建及び破綻処理に関する不一致が問題を引き起こす可能性があることから、その調和を図ること及びその枠組みを国際基準に引き上げることの必要性を数年前から提案してきている2。国境を超えるビジネスを行う保険会社の破綻等への対応を強化する観点から、今回の提案が行われている。
なお、あくまでも比例関係が考慮されており、また再建プロセスを開始するためのトリガーも、既存のソルベンシーIIの比率であり、追加のトリガーは導入されない。
12.再建及び破綻処理
12.1 EIOPAは、(再)保険会社のための最小限の調和のとれた再建及び破綻処理の枠組みを確立すべきであるとの見解である。調和のとれた再建及び破綻処理の原則が比例して適用されることは、EUの金融の安定性を維持するだけでなく、保険契約者を適切に保護することに貢献する。
12.2最小の調和は、EUレベルで設定された原則、最小要件、及び目的と互換性のあるこれらの措置を条件として、加盟国が国レベルで追加の措置を採用する余地を残しながら、再建及び破綻処理の基本要素への共通アプローチの定義を伴う。
2 最初のコンサルテーションペーパーは2016年12月に公表されている。
(1) 先制再建計画
EIOPAは、ソルベンシーIIに、会社が先制的な方法で再建計画を策定及び維持する要件を追加する必要があると考えている。要件は、EUの各国内市場の非常に重要なシェアを獲得する必要がある。
監督当局は、調和のとれた基準に基づいて、要件の対象となる会社を決定する必要があるが、これらには、会社の規模、国境を越える活動、ビジネスモデル、リスクプロファイル、相互接続性、及び代替可能性が含まれる。
(2) 予防策
EIOPAは、(再)保険会社の再建に関するソルベンシーIIの規則は、監督者向けの一連の予防措置を導入することでさらに発展させる必要があると考えている。ソルベンシーIIでは、次の一連の措置を導入する必要がある。
・会社とのより集中的な対話、会社の経営陣との定期的な会議のスケジュール
・追加又はより頻繁なレポート
・会社にストレスを与え、会社の不作為が保険契約者へのリスクの増加につながる可能性のある資本ポジションの進行的かつ構造的な悪化の具体的なリスクがある場合、会社の管理、経営、又は監督機関に特定の時間枠内で予防措置を講じることを要求
・変動報酬とボーナスを制限することを要求
12.1.再建措置
12.1.1.先制再建計画
12.3 EIOPAは、ソルベンシーIIに、会社が先制的な方法で再建計画を策定及び維持する要件を追加 する必要があると考えている。
12.4要件は、EUの各国内市場の非常に重要なシェアを獲得する必要がある。正確な市場カバレッジレベルを慎重に決定するには、さらなる作業が必要になる場合がある。
12.5監督当局は、調和のとれた基準に基づいて、要件の対象となる会社を決定する必要がある。これらには、会社の規模、国境を越える活動、ビジネスモデル、リスクプロファイル、相互接続性、及び代替可能性が含まれる。
12.6さらに、比例原則に従って、EIOPAは適格な会社に対して簡素化された義務を導入することを勧告している。
12.1.2.予防策
12.7 EIOPAは、(再)保険会社の再建に関するソルベンシーIIの規則は、監督者向けの一連の予防措置を導入することでさらに発展させる必要があると考えている。措置の使用は、合理的な正当化、リスクの評価、及び比例原則に従う必要がある。
12.8ソルベンシーIIでは、次の一連の措置を導入する必要がある。
・会社の戦略、最近の技術的及び財務実績、保険商品と投資の最近の変化、及びソルベンシーポジションへの影響をよりよく理解するために、また、SCRのカバー率を改善するために、その資本支援の可能性に関する会社と適格株主/所有者との間の最近の対話を含む、会社によって取られた又は取られることになっている措置に関する最新の情報を得るために、会社とのより集中的な対話、会社の経営陣との定期的な会議のスケジュールを必要とする。
・追加又はより頻繁なレポートが必要となる。
・会社にストレスを与え、会社の不作為が保険契約者へのリスクの増加につながる可能性のある資本ポジションの進行的かつ構造的な悪化の具体的なリスクがある場合、会社の管理、経営、又は監督機関に特定の時間枠内で予防措置を講じることを要求する。これには、初期計画に設定された前提が現実的でないと思われる場合に先制再建計画を更新し、更新された計画に設定された措置を講じるという要件も含まれる可能性がある。
・会社に変動報酬とボーナスを制限することを要求する。
(1) 破綻処理権限
EIOPAは、加盟国が(再)保険会社の破綻処理のために公式に指定された行政破綻処理機関を設置すべきであるとし、複数の機関を有する加盟国は、明確な権限、役割と責任の割当て、及び高度な調整を確保する必要がある、としている。
(2) 目的
EIOPAは、事前の事前定義されたランク付けなしで、以下のような破綻処理の目的を法的枠組みに明確に設定することを勧告している。
・保険契約者、受益者、請求者の保護
・連鎖を防ぎ、市場規律を維持することにより、金融の安定性を維持
・混乱が金融の安定性及び/又は実体経済に悪影響を与える可能性のある会社の機能の継続性を確保
・公的資金の保護
(3) 破綻処理計画
EIOPAは、破綻処理当局が破綻処理計画を作成及び維持し、会社に対して先制的な方法で破綻処理可能性評価を実施することを要求すべきであるとの見解である。破綻処理当局が破綻処理計画プロセスの主導権を握っているのに対し、監督者は破綻処理当局にサポートを提供するという点で基本的な役割を果たしており、破綻処理当局が計画を起草、維持、更新するために必要となる可能性のある全ての関連情報を提供する必要がある。
破綻処理当局は、調和のとれた基準に基づいて、要件の対象となる会社を決定する必要がある。これらには、ビジネスの規模、国境を越えた活動、ビジネスモデル、リスクプロファイル、相互接続性、及び代替可能性が含まれる。
EIOPAは、正当な理由がある場合、破綻処理当局に、会社の破綻処理可能性に対する特定された重大な障害の除去を要求する権限を与えるべきであるとの見解を有している。
(4) 破綻処理権限
EIOPAは、各(4) 国の破綻処理当局が幅広い破綻処理権限を備えているべきであるとの見解を有している。少なくとも、一般的な破綻処理権限のセットには次のものが含まれている必要がある。
・主要人物等へのクローバックを含む変動報酬の支払いの禁止及び回収の認容
・会社に付与された認可の撤回、保険契約の全部又は一部のランオフ
・破綻処理中の会社の株式の第三者への売却又は譲渡
・破綻処理中の会社の資産及び負債の全部又は一部のソルベントな会社又は第三者(ブリッジ機関又は管理ビークルを含む)への売却又は譲渡
・破綻処理中の会社の資産と負債が移転されるブリッジ機関の設立及び運営
・適用法に基づく破綻処理中の会社の資産及び負債の(部分的)譲渡に対する制限の無効
・保険契約を放棄する保険契約者の権利を一時的に制限又は一時停止
・契約上のカウンターパーティの破綻処理開始後の期間に関連するカバレッジを終了又は復活しない再保険会社の権利を維持
・デリバティブ及び証券貸付取引に関連する早期解約権を維持
・無担保債権者への支払いの停止や、資産の差押え、又はその他の方法で破綻処理中の会社からお金や財産を回収する債権者の行動を停止するモラトリアムの賦課
・不可欠なサービスと機能の継続性の確保
・破綻処理中の会社を管理及び経営、又はその管財人の任命
・(再)保険負債を含む負債を再構築、制限、又は評価減し、株主、債権者、保険契約者に損失を割り当て
なお、破綻処理権限の行使は、適切な保護措置の対象となる必要がある。
(2021年03月10日「保険・年金フォーカス」)
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