2021年03月05日

オフィス市場は調整色が強まる。 コロナ再拡大がホテル・商業の回復に打撃。ー不動産クォータリー・レビュー2020年第4四半期

基礎研REPORT(冊子版)3月号[vol.288]

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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緊急事態宣言の再発令によって、回復途上にあった経済の正常化がまた遠のいた。東京Aクラスビルの20年第4四半期の成約賃料は前期比▲8.9%下落し、オフィス市場の調整色が強まった。一方、物流施設市場では、旺盛なEC関連需要を背景に、首都圏・大阪圏ともに需給が引き締まり、賃料も緩やかに上昇している。

1―経済動向と住宅市場

20年10-12月期実質GDP成長率は(1次速報)前期比年率+12.7%と2期連続のプラス成長になった。一方、今年1月に緊急事態宣言が再発令されたことで、21年1-3月期は3四半期ぶりにマイナス成長となる見通しである。また10-12月の鉱工業生産指数は前期比+6.2%と2期連続でプラスとなった[図表1]。
鉱工業生産指数
国内外でのコロナ感染再拡大により、先行きは減速する見通しだが、景況感の改善に見られるように製造業は引き続き堅調を維持しており、底堅さを維持する見込みである。
 
20年10-12月の首都圏マンション新規発売戸数は13,510戸(前年同期比不動産投資レポート+15.5%)となった。また10-12月の首都圏中古マンション成約件数は9,789件(前年同期比+11.8%)となり、調査開始以来、過去最高を記録した[図表2]。
 
中古マンション
緊急事態宣言と営業自粛の影響で大幅に減少した4-6月期を底にマンション取引は新築・中古ともに回復している。

2―地価動向

地価は、都心商業地を中心に下落している。「地価LOOKレポート(2020年第3四半期)」によると、全国100地区のうち上昇が「1」、横ばいが「54」、下落が「45」となった[図表3]。
地価
同レポートでは、「新型コロナウイルス感染症の影響により、ホテルや店舗等の収益性低下による需要の減退が一部で見られるが、全体としては需要者の様子見傾向が継続している」としている。

3―不動産サブセクターの動向

1│オフィス
 
20年12月の東京都心5区の空室率は10カ月連続上昇の4.49%( 前月比+0.16%)、平均募集賃料は5カ月連続下落の21,999円( 前月比▲1.0%)となった。他の主要都市では、空室率は上昇基調にあるものの、募集賃料は底堅く推移している[図表4]。
 
空室率
成約賃料データに基づくオフィスレント・インデックスによると、20年第4四半期の東京都心部Aクラスビル成約賃料は34,669円(前期比▲8.9%)となり、2017年第4四半期の水準まで下落した。またAクラスビルの空室率は1.6%( 前期比+1.0%)となった[図表5]。
 
Aクラスビル
新築ビルへ移転したテナントの二次空室などを背景に空室率は上昇に転じたが、今後はコロナ禍を経て、企業が働き方やオフィスの使い方をどのように再構成していくのかに注目が集まる。
 
 2│賃貸マンション
 
東京23区のマンション賃料は底堅く推移している。20年第3四半期は前年比でシングルタイプが+1.5%、コンパクトタイプが+2.9%、ファミリータイプが+6.6%となった。
 
一方、都心エリアの賃貸マンションでは転入者数の減少を背景に需要が弱含みの傾向にある。住民基本台帳人口移動報告によると、20年の東京都の転入超過数は+31,125人と、前年の+82,982人から減少した[図表6]。
 
転入超過数
今回の緊急事態宣言の発令が10都府県において3月7日まで延長されるなか、人口の移動が集中する年度末にかけての動向を注視したい。
 
3│商業施設・ホテル・物流施設
 
商業セクターは、引き続きテナントの業態により、明暗が分かれている。20年12月の小売販売額( 既存店、前年同月比)は百貨店が▲13.0%、コンビニが▲4.0%、スーパーが+1.6%となった。
 
コロナ禍により甚大なダメージを受けたホテルセクターは、依然として厳しい状況にある。宿泊旅行統計調査によると、2020年10-12月の延べ宿泊者数は前年同期比▲34.5%減少し、このうち外国人が▲95.6%、日本人が▲19.8%となった[図表7]。
 
延べ宿泊者数
CBREによると、20年12月の首都圏の大型物流施設の空室率は前期比横ばいの0.5%となった。また近畿圏の空室率は▲0.3%低下の3.7%となった[図表8]。EC関連企業の需要が市場拡大を牽引しており、堅調に推移している。
 
大型マルチテナント

4― J -REIT(不動産投信)市場・不動産投資市場

20年第4四半期の東証REIT指数は、前期比3.3%上昇した。セクター別では、オフィス(+5.8%)と商業・物流等(+2.2%)が上昇した一方で、住宅( ▲2.0%)は下落した。12月末時点のバリュエーションは、NAV倍率は0.98倍、分配金利回りは4.0%となった。
 
20年のJ-REIT市場を振り返ると、東証REIT指数は▲16.9%下落し、3年ぶりの下落となった[図表9]。
 
J-REIT市場まとめ
2月下旬以降、新型コロナ拡大を受けて急落し、高値からの下落率は一時リーマン・ショック時(2008年)に次ぐ大きさを記録した。その後は上昇に転じたものの、オフィス市況の先行き懸念などを背景に上値の重い展開となった。
 
また、J-REITによる物件取得額は、投資口価格が堅調な物流施設が牽引し、1兆3,932億円(前年比▲2%)となり例年並みの水準を確保した。
 
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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴
  • 【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2021年03月05日「基礎研マンスリー」)

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