2021年03月05日

新型コロナ「感染症法・特措法」何が変わったかー入院措置の強化、まん延防止等重点措置等の導入

基礎研REPORT(冊子版)3月号[vol.288]

保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長・ジェロントロジー推進室研究理事兼任   松澤 登

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1―はじめに

2021年2月3日、通常国会において、「新型インフルエンザ等対策特別法等の一部を改正する法律」(以下、改正法)が可決・成立し、即日公布された。すでに2月13日から施行されている。
 
改正法は感染症の予防及び感染症法の患者に対する医療に関する法律(以下、感染症法)、新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、特措法)など11本の法律を改正したものである。
 
本稿では、改正法のうち感染症法と特措法の概要を解説する。なお、感染症法は感染症の患者が発生した場合の対応と医療について定めた法律であり、特措法は社会的な感染症のまん延防止を予防的に行うための法律である。

2―感染症法の改正

従来は、新型コロナを政令により指定して、時限的に適用するものにすぎなかった。改正感染症法では、新型コロナを新型インフルエンザ等感染症の一類型として、法律上明確に位置付けた(第6条第7項第3号)。このことにより、新型コロナに対して感染症法が恒久的に適用されるようになった。
 
改正感染症法にかかる、主なポイントは以下の通りである。
 
第一に、感染経路やクラスターなどを調査する積極的疫学調査の実効化である。改正感染症法では、患者が積極的疫学調査への協力を拒否した場合には、協力に応ずべきことを命ずることができる(改基礎研レポート正感染症法第15条第8項)。ここでいう患者には、疑似症患者のうち、り患していると疑うに足る正当な理由のある者、および無症状病原体保有者をも含む(感染症法第8条第2項、第3項)。以下、改正感染症法について、患者というときはこれらの者も含む。ただし、協力の命令にあたっては所定の項目を記載した書面を交付しなければならない(改正感染症法第15条第10項、第11項)。正当な理由なく命令に違反した患者に対しては30万円以下の過料を課す(改正感染症法第81条)。
 
第二に、入院措置等についての改正である。新型コロナの患者のうち、高齢者など重症化のおそれがある患者には入院を勧告する(改正感染症法第26条第2項で準用する同法第19条第1項)。入院勧告に従わない者には入院させることができる(入院措置、改正感染症法第26条第2項で準用する同法第19条第3項)。
 
それ以外の患者には宿泊療養・自宅療養の協力を求める(改正感染症法第44条の3第2項)。宿泊療養・自宅療養の協力要請に従わない者に対しては入院の勧告および入院措置をすることができる(改正感染症法第26条第2項)。患者が入院勧告・入院措置を受けた入院期間中に逃げたとき、および正当な理由がないのに入院措置に反して入院しなかったときには、50万円以下の過料が課される(改正感染症法第80条)。
 
第三に、厚生労働大臣と都道府県知事の権限強化である。各種の権限強化や国や都道府県間の情報共有等の円滑化が図られているが、ここでは感染症法第16条の2の改正を取り上げる。この条文は、もともと厚生労働大臣および都道府県知事の、医療関係者に対する協力要請権限を定めていた。改正法は協力要請の対象者に民間検査機関を追加するとともに、「協力要請」を行った対象者が正当な理由がなく協力しなかった場合は「勧告」を行うことができ、さらに勧告に従わない場合にはその旨を公表できるとした(改正感染症法第16条の2)。この条文は、民間病院に新型コロナ患者の受け入れを求め、従わない民間病院を公表する根拠ともなりうる。しかし、実態として、新型コロナ患者を受け入れる設備や要員がない病院に一方的な勧告を行うことは考え難い。

3―特措法の改正

新型コロナ対策として、従来、特措法附則で新型コロナに法律を時限的に適用していた。改正特措法では、法律本体で新型インフルエンザ等に含まれるものと定義した(改正特措法第2条第1項第1号)。これにより、特措法が恒久的に適用されることとなった。以下で新型インフルエンザ等をいうときは新型コロナを含む。
 
具体的な改正の主なものとしては、以下の通りである。
 
第一にまん延防止等重点措置制度の導入である。新型インフルエンザ等が特定の区域でまん延し、国民生活や経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある場合には、まん延防止等重点措置を公示することができる(改正特措法第31の4)。まん延防止等重点措置は、緊急事態宣言のように全国的なまん延を要件とはせず、限定された区域でのまん延状態が生ずることで公示できる。
 
まん延防止等重点措置で可能になるのは、特定の業態の事業者に対する営業時短要請等である(改正特措法第31条の6第1項)。営業時短要請に従わない事業者には要請されている措置をとるよう命ずることができ、命令違反に対しては20万円以下の過料が課される(改正特措法第80条)。これらの要請・命令にあたっては学識経験者の意見を聞き(改正特措法第31条の6第4項)、命令を行ったときは、その旨を公表することができる(同条第5項)。なお、都道府県知事には命令を出すにあたっての報告徴収、立入検査等の調査権限が認められる(改正特措法第72条)。
 
第二に、緊急事態宣言に基づく営業自粛や営業停止などの協力要請に従わない事業者に対する「指示」を、「命令」に格上げし(改正特措法第45条第3項)、命令違反に対しては30万円以下の過料を課すことができる(改正特措法第79条)こととした。要請・命令にあたっての学識経験者の意見聴取や命令したときの公表、命令を出すにあたっての立入検査等の調査権限はまん延防止等重点措置と同様である。
 
第三に、国および地方自治体は、新型インフルエンザ等、および新型インフルエンザ等に関する措置により影響が及んだ事業者に対して、財政上の支援を効果的に講ずるものとした(改正特措法第63条の2)。改正特措法では、政府は義務的に財政支援を行うものとされており、また柔軟な支援が可能となるような書きぶりとなっている。

 

4―刑事罰か行政罰か

改正特措法のまん延防止等重点措置に基づく命令違反、および緊急事態宣言に基づく命令違反には、提案時点で行政罰である過料とされていた。
 
他方、改正感染症法の入院拒否には、刑事罰として1年以下または100万円以下の罰金を科すとの原案となっていたが、50万円以下の過料を課すものと修正された。
 
過料とは、行政上の義務違反に対して金銭的に負担を課すというペナルティであり、社会的な非難の意味合いを持たない。他方、刑事罰は社会的に非難される行為を行ったことに対するペナルティであり、前科もつく。
 
改正特措法の規定はまん延を防止するためという、社会的な予防措置であるため、過料にとどめたことは首肯できる。
 
他方、改正感染症法の入院拒否は、感染者が自由に外出することで感染者が更なる感染者を生じせしめるという危険が具体的に存在する。
 
これは、たとえば軽症者や無症状病原体保有者が、自宅・宿泊療養先から外出し、飲食店や温浴施設など各種施設に訪問することが想定される。このようなことが判明した場合は、飲食店等は営業を停止し、消毒作業を行わなければならない。
 
ただし、患者が自発的に訪問先を申告するとは限らない。そうすると、入院を拒否する行為は感染を拡散させる危険のある行為であって、刑事罰を科すとすることも十分に考えられた。
 
関係各所が忙殺される中で、伝家の宝刀、あるいは一罰百戒的な使い方しかできないものだとすると、懲役刑はともかく、過料ではなく、罰金とすることも議論の余地があったのではないか。仮に最終的に過料で決着するとしても、このあたりの議論がもっとなされてもよかったと思われる。
 

5―おわりに

改正特措法は、外出自粛要請違反に何らの罰則は課してない。外出の自由は移転の自由や表現の自由と密接な関係があるためである。

しかし、たとえば日本国内で鳥インフルエンザの人から人への感染が、地域的であるが多数発生したようなケースを考える。この場合、国内での感染のまん延防止だけではなく、海外への感染拡大を防止する責務を日本は負うこととなる。このことは、新型コロナの中国政府による初動対応の遅れに、各国から批判が出ていることからも理解ができよう。

そうであるとするならば、私権制限を最小化するために、どのような要件の下で、どのような手続きを経れば外出制限が可能になるのかを踏み込んで議論しておく必要があるのではないだろうか。この論点は、新型コロナ対応が喫緊の課題である今回の改正法制定にあたっては避けられてきたと思われるが、今後の課題として積み残されたものといえよう。
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保険研究部   常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長・ジェロントロジー推進室研究理事兼任

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

(2021年03月05日「基礎研マンスリー」)

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