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インド経済の見通し~制限緩和と感染改善を受けて3期ぶりのプラス成長、今後はワクチン普及につれて景気回復が安定的に(2020年度▲7.4%、2021年度+10.1%)

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠
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経済概況:3期ぶりのプラス成長

2020年10-12月期の実質GDP成長率は同+0.4%と3四半期ぶりにプラス成長となり、Bloombergが集計した市場予想(同+0.1%)を上回った1(図表1)。10-12月期の景気の持ち直しは、活動制限措置の緩和と感染状況の改善によって投資を中心に内需が回復した影響が大きい。
政府消費は同1.1%減(前期:同24.0%減)と減少幅が縮小した。連邦政府が需要拡大に向けて支出を拡大(同29.1%増)させたことが下支えとなった。
純輸出は成長率寄与度が+0.1%ポイント(前期:+0.8%ポイント)となり、小幅のプラス寄与となった。輸出は同4.6%減(前期:同2.1%減)となり、世界的な新型コロナの感染再拡大を受けて低迷した一方、輸入は同4.6%減(前期:同18.2%減)と、内需拡大を反映して減少幅が縮小した。

産業別に見ると、第一次産業は同3.9%増(前期:同3.0%増)となり、堅調な拡大が続いた。これは農業が都市封鎖の影響を受けにくく、乾季(ラビ)の作付けと雨季(カリフ)の生産が好調であったことによるものとみられる。
第二次産業は同2.7%増(前期:同3.0%減)と上昇した。製造業が同1.6%増(前期:同1.5%増)と6期ぶりのプラス成長となると共に、電気・ガス(同7.3%増)と建設業(同6.2%増)が大きく増加した。一方、鉱業は同5.9%減(前期:同7.6%減)と引き続き減少した。
第三次産業は同1.0%減(前期:同11.3%減)と3期連続のマイナス成長となったが、大きく持ち直した。対面型サービス業を中心に行動制限の影響が残っており、商業・ホテル・運輸・通信が同7.7%減と回復が遅れているものの、金融・不動産(同6.6%増)が大幅に増加したほか、行政・国防(同1.5%減)の減少幅が小幅に止まった。
1 2月26日、インド統計・計画実施省(MOSPI)が2020年10-12月期の国内総生産(GDP)統計を公表。
2 インド政府は4月14日から感染が抑制されている地域で製造業や建設業、貨物輸送などの操業再開を許可、5月4日と18日にも対象業種を拡大するなど部分的な活動制限の緩和を先行的に実施した。そして、6月1日から「アンロック1.0」を開始して封鎖措置の緩和に舵を切った。人やモノの無制限の移動を許可したほか、夜間外出禁止令の時間を短縮、ショッピングモールやホテル、レストラン、宗教施設などの再開を許可した。7月1日から「アンロック2.0」を開始して、夜間外出禁止令の時間を短縮。8月1日から「アンロック3.0」を開始して夜間の外出を解禁、スポーツジムを再開した。9月1日から「アンロック4.0」を開始、地下鉄を再開したほか、宿泊・飲食の人数制限を緩和した。10月1日から「アンロック5.0」を開始、学校や収容率に制限を設けて娯楽施設を再開した。
経済見通し:ワクチンが普及するに従って景気回復が安定的に
21年度はワクチンの普及により、これまで回復が遅れていた対面型サービス業が持ち直し、景気回復は安定感が増していくものとみられる。また国内外の需要拡大を受けて製造業が経済成長の牽引役となるほか、緩和的な金融政策の継続と積極財政による景気の底上げも見込まれる。2月1日に公表された来年度予算は、インド政府が財政赤字の拡大を容認して拡張的な予算編成(歳出が前年度比+14.5%)となった。公共部門の民営化によって収入を確保する一方、歳出面では新型コロナ対策など保健関連(同+10.5%)とインフラ関連(同+34.5%増)を拡大させる予算内容となっている。
もっとも、このままV字回復に至るかどうかは、今後も新型コロナの感染状況に左右されることとなりそうだ。1日あたりの新規感染者数は今年2月に1万人前後で推移していたが、足元では1.5万人前後まで増加しており、感染第二波が到来して再び都市封鎖が実施されるリスクが浮上している。
また13.5億人もの人口を抱えるインドが新型コロナウイルスのワクチンの投与で集団免疫を獲得するには時間がかかる。現在インド政府は今年8月までに3億人に予防接種を行う計画だが、順調に計画が進んだとしても集団免疫獲得には程遠い水準である。EIU調査によると、インドでワクチンが十分に行き渡るには2022年末までかかると予測されている。集団免疫を獲得までは感染再拡大のリスクがくすぶるほか、外出の自粛やソーシャルディスタンスの確保等の感染予防の取り組みを継続せざるを得ず、景気は不安定化しやすい状況が続くとみられる。
実質GDPは20年度後半にプラス成長を確保するが、年度前半の大幅な落ち込みが響いて20年度の成長率が▲7.4%(19年度:+4.1%)と、過去最大のマイナス成長を記録すると予想する(図表6)。21年度は前年度の実質GDPが低水準だったことによる反動増やワクチン普及による経済正常化などから成長率が+10.1%まで上昇すると予想する。
(物価の動向)経済再開と商品価格の高騰を受けて再びインフレ圧力が強まる展開に

先行きのインフレ率は、短期的には良好な収穫量が見込まれるラビ作物が国内市場に流通するなかで食品価格を中心に安定するとみられるが、経済再開による需要拡大や世界的な商品価格の高騰を受けて再び上向きに転じるだろう。インフレ率は19年度の+4.8%から20年度が+6.0%に上昇、その後も物価目標の中央値を上回って推移し、21年度が+4.9%と予想する。
(金融政策の動向)年内は金利据え置きを予想

先行きについては、RBIは年内まで政策金利を据え置くと予想する。足元ではインフレ率が目標内に収まってきたが、コアインフレ率の高まりに警戒感が広がることや経済再開によって景気の回復傾向が続くとみられることから、当面は現行の緩和的な金融政策を維持するだろう。ワクチンの普及が進み、景気回復が安定する22年度は物価上昇が続いて調整的な利上げを実施する展開を予想する。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2021年03月03日「基礎研レター」)
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03-3512-1780
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
斉藤 誠のレポート
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