2021年03月02日

EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関する意見をECに提出(8)-助言内容(マクロプルーデンス政策等)-

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1―はじめに

EIOPA(欧州保険年金監督局)が2020年12月17日に、EC(欧州委員会)にソルベンシーIIレビューに関する意見を提出したと公表1した。このテーマに関しての最初のレポートでは、このEIOPAの意見書の全体概要と、Insurance Europe及びAMICEの意見表明、さらに保険業界とは異なるスタンスからの批判的な意見を有する欧州議会議員の意見の内容を報告した。また、このシリーズの2回目のレポートから、EIOPAの意見書の中の助言内容について報告しており、これまで、「長期保証(LTG)措置及び株式リスクに関する措置」、「技術的準備金」、「自己資本」、「SCR(ソルベンシー資本要件)」、「MCR(最低資本要件)」、「報告と開示」、「比例性」及び「グループ監督」について報告してきた。

今回のレポートでは、EIOPAの意見書の中の助言内容のうち、「サービスを提供する自由と設立の自由」及び「マクロプルーデンス政策」について報告する。  

2―EIOPAの意見書からの助言

2―EIOPAの意見書からの助言―サービスを提供する自由と設立の自由

EIOPAは、国境を越えるビジネスに関連する提案を提供している。

まずは、保険会社の承認プロセス中及び国境を越えた活動に重大な変更があった場合に、監督者間の効率的な情報収集や情報交換をサポートするために、指令の修正を提案している。

さらに、監督者が共通の見解に到達できない国境を越えたビジネスの監督をサポートする協力プラットフォームにおけるEIOPAの役割を強化することを勧告している。

加えて、継続的な監督中の母国NSAと受入国NSAs間の協力についても少なくともカバーすべき分野を明確に指令に規定することを勧告している。

また、タイムリーに情報を要求する受入国監督者の明示的な権限についての規定も勧告している。

10.サービスを提供する自由と設立の自由

10.1.承認プロセス中の効率的な情報収集
10.1 EIOPAは、現在コラボレーションに関する決定のパラグラフ2.5.1に含まれている要件を、次のように追加することにより、ソルベンシーII指令の第18条の最初のパラグラフを修正することを勧告している。

「(i)拒否又は撤回された別の加盟国又は第三国で保険又は再保険会社又はその他の金融会社又は仲介業者を設立する許可を求める公式又は非公式の要求があったかどうか、及び拒否又は撤回の理由を宣言すること。」

10.2.FoS(サービス提供の自由)活動に重大な変更があった場合の、本国監督者と受入国監督者間の情報交換
10.2 EIOPAは、次のように新しいパラグラフを追加して、ソルベンシーII指令の第149条を修正することを勧告している。

「サービスを提供する自由の下で保険会社が追求する事業に重大な変更があった場合、保険会社は直ちに本国(home)の加盟国の監督当局に通知するものとする。本国の加盟国の監督当局は、遅滞なく、関係する受入(host)加盟国の監督当局に通知するものとする。」

10.3 EIOPAは、文の最後に「及びその地理的焦点」というフレーズを追加して、ソルベンシーII指令の第23条(1)(a)を修正することを勧告している。

10.3.NSAs が協力プラットフォームで共通の見解に到達できない複雑な国境を越えるケースにおけるEIOPAの強化された役割

10.4 EIOPAは、次のように新しいパラグラフを追加することにより、ソルベンシーII指令の新しい第152b条を修正することを勧告している。

「・関係する監督当局がEIOPAによって設定された期限内にコラボレーションプラットフォームで共通の見解に到達できない場合、EIOPAは、規則(EU)No 1094/2010の第16条に従って、関係する監督当局に勧告を発行することができる。
・関係する監督当局が2か月以内にその勧告に従わない場合、関係する他の監督当局の懸念に対処するために講じた措置又は講じる予定の措置を含む理由を記載するものとする。
・EIOPAはこれらのステップを評価し、それらが十分かつ適切であるかどうかを判断するものとする。それらが適切であるとみなされない場合、EIOPAはそれらの理由及び提案されたステップとともにその勧告を公表するものとする。」

10.5さらに、EIOPAは、ソルベンシーII指令の新しい第152a条の第2項を次のようにわずかに修正するよう勧告している。

「(2)本国の加盟国の監督当局は、サービスを提供する自由又は国境を越える影響を与える可能性のある設立の自由に基づいて活動を行う保険又は再保険会社によってもたらされる、悪化する財務状況又は消費者保護リスクを含むその他の新たなリスクを特定する場合、EIOPA及び関連する受入加盟国の監督当局にも通知するものとする。受入加盟国の監督当局はまた、消費者保護に関して深刻かつ合理的な懸念がある場合、EIOPA及び関連する本国加盟国の監督当局に通知するもの とする。監督当局は、問題をEIOPAに照会し、二国間解決策が見つからない場合は支援を要請することができる。」

10.4.継続的な監督中の本国NSAと受入国NSAs間の協力

10.6 EIOPAは、次のように新しいパラグラフ7を追加することにより、ソルベンシーII指令の第36条を修正するよう勧告している。

「7.設立又はサービス提供の自由の権利に基づく重要な国境を越える保険事業の場合、本国加盟国の監督当局は、受入加盟国の監督当局と積極的に協力して、保険会社に、受入加盟国で直面している、又は直面する可能性のあるリスクの明確な理解があるかどうかを評価するものとする。
この協力は、少なくとも以下の分野をカバーするものとする。
(a)国境を越えた市場の特異性、リスク管理ツール、実施されている内部管理、及び国境を越える事業のコンプライアンス手順を理解する本社の経営陣の能力を含むガバナンスシステム
(b)アウトソーシングの取り決め及び販売流通パートナー
(c)ビジネス戦略とクレーム処理
(d)消費者保護
8.必要に応じて、本国加盟国の監督当局は、特に国境を越える活動に関係する監督審査プロセスの結果について、受入加盟国が既に懸念を表明している場合、受入加盟国の監督当局に適時に通知するものとする。」

10.5.タイムリーに情報を要求する受入国監督者の明示的な権限

10.7 EIOPAは、ソルベンシーII指令の第153条のタイトルとテキストを次のように修正することを勧告している。

第153条のタイトルは、「情報要求の時間枠と言語」に置き換えられる。

第153条のテキストは、次のように置き換えられる。

「受入加盟国の監督当局は、その加盟国の領土で運営されている保険会社の事業に関して要求する権限を与えられた情報を、合理的な時間枠で、その国の公式言語又は複数の言語で、本国の加盟国の監督当局又は保険会社から提供することを要求する場合がある。監督当局は、適切な適時性を保証するために、情報要求をどのように進めるかについて話し合うものとする。受入加盟国の監督当局が保険会社に直接対処する場合、情報要求について本国加盟国の監督当局に通知するものとする。」

 

3―EIOPAの意見書からの助言

3―EIOPAの意見書からの助言―マクロプルーデンス政策

1|全体像
EIOPAは、マクロプルーデンスの視点を、法律の改正を通じて現在の健全なソルベンシーIIフレームワークに組み込む必要があると考えている。以前の作業に基づいて、助言は保険のシステミックリスクへの概念的アプローチを開発し、特定されたシステミックリスクの原因に対してソルベンシーIIフレームワークの現在の既存のツールを分析し、現在のフレームワークをさらに改善する必要があると結論付けている。

このアプローチは、ソルベンシーII指令に、マクロプルーデンスの目的の定義と、この意見に記載されている追加のツールと措置を含める必要があるとして、これらには、資本、流動性、エクスポージャー、及びプリエンプティブベースのツールと、監督当局が自由に使えるマクロプルーデンス措置の現在のツールキットを拡大する措置で構成されている。なお、提案されたマクロプルーデンスアプローチは、既に特定のマクロプルーデンスに影響を与えている特定の条項、特に長期保証措置及び株式リスクに関する措置に言及している条項も補足している。

また、EIOPAは、特定されたシステミックリスクの全ての原因に対処するのに十分な権限を監督者に提供するために必要と考えられる全てのツールを網羅する包括的なフレームワークを提案している。
 

11.1 EIOPAは、マクロプルーデンスの視点を、法律の改正を通じて現在の健全なソルベンシーIIフレームワークに組み込む必要があると考えている。

11.2現在のマイクロプルーデンスアプローチを整合的な一貫した方法で補足するこのアプローチは、ソルベンシーII指令に、マクロプルーデンスの目的の定義と、この意見に記載されている追加のツールと措置を含める必要がある。これらには、資本、流動性、エクスポージャー、及びプリエンプティブベースのツールと、監督当局が自由に使えるマクロプルーデンス措置の現在のツールキットを拡大する措置で構成されている。

11.3提案されたマクロプルーデンスアプローチは、既に特定のマクロプルーデンスに影響を与えている特定の条項、特に長期保証措置及び株式リスクに関する措置に言及している条項も補足している。

2|システミックリスクに対する資本サーチャージ
EIOPAは、監督当局は、エンティティ、活動又は行動に基づくシステミックリスクの原因に対処するために資本サーチャージを設定する権限を有するべきであると考えており、監督当局は、特定されたシステミックリスク又はその蓄積を軽減する必要があると判断した場合はいつでも、このツールを利用する裁量権を有するべきである、としている。

なお、適用の一貫した条件を支援し、EU全体での一貫性のない使用を回避するために、EIOPAは、システミックリスクの資本サーチャージをトリガー、設定、計算、及び削除する決定の手順に関する技術的基準又はガイドラインを作成する必要がある、としている。

また、別の第2の柱ツールとして設定する必要があるが、EIOPAは、現在の資本アドオンの有用な補足として、システミックリスクの資本サーチャージを考慮する、としている。
 

11.1.システミックリスクに対する資本サーチャージ

11.4 EIOPAは、監督当局は、背景分析文書で定義されているように、1つ以上のエンティティ、活動又は行動に基づくシステミックリスクの原因に対処するために資本サーチャージを設定する権限を有するべきであると考えている。

11.5監督当局は、特定されたシステミックリスク又はその蓄積を軽減する必要があると判断した場合はいつでも、このツールを利用する裁量権を有するべきである。彼らは、サーチャージの論理的根拠を明確に文書化し、それに比例して、サーチャージの適用につながる条件が有効である限り、そ れを適用する必要がある。監督当局は、このツールの使用を検討する際に、プロシクリカルな影響も考慮に入れる必要がある。

11.6ただし、適用の一貫した条件を支援し、EU全体での一貫性のない使用を回避するために、EIOPAは、システミックリスクの資本サーチャージをトリガー、設定、計算、及び削除する決定の手順に関する技術的基準又はガイドラインを作成する必要がある。

11.7別の第2の柱ツールとして設定する必要があるが、EIOPAは、SCRが会社の特定のリスクプロファイルを適切に反映していない場合に適用できる、現在存在するマイクロプルーデンス資本アドオン(ソルベンシーII指令の第37条)の有用な補足として、システミックリスクの資本サーチャージを考慮する。

3|保険会社の財務状況を強化するための追加措置
EIOPAは、セクター全体のショックに対処するために保険会社の財務状況を強化するための追加措置を監督当局に付与すべきであるとしている。これらの措置は、株主への配当又はその他の支払いを制限又は一時停止する可能性と、保険会社自身の株式の購入を制限する可能性で構成される。

監督当局は、例外的な状況でこれらのツールを使用する裁量権を有している必要があるが、一貫した適用条件を支援するために、EIOPAは「例外的な状況」の存在をさらに特定するためのガイドラインを発行する必要がある、としている。

11.2.保険会社の財務状況を強化するための追加措置
11.8 EIOPAは、セクター全体のショックに対処するために保険会社の財務状況を強化するための追加措置を監督当局に付与すべきであるとの見解である。

11.9これらの措置は、株主への配当又はその他の支払いを制限又は一時停止する可能性と、保険会社自身の株式の購入を制限する可能性で構成されるべきである。

11.10監督当局は、例外的な状況でこれらのツールを使用する裁量権を有している必要がある。特定の状況に応じて、これらの措置は、市場全体又は潜在的に脆弱なリスクプロファイルを持つ会社に適用できる。後者の場合、決定は、監督プロセスから生じる証拠(例えば、ストレステストの結果、将来を見据えた評価など)によって裏付けられるべきである。申請は、措置を正当化する根本的な理由が存在する限り継続し、定期的に(たとえば、3か月ごとに)レビューし、措置の動機となった根本的な条件が終了したらすぐに削除する必要がある。

11.11一貫した適用条件を支援するために、EIOPAは「例外的な状況」の存在をさらに特定するためのガイドラインを発行する必要がある。

4|集中臨界値
EIOPAは、特定のエクスポージャーが劇的に増加したり、大幅なレベルに達したりして、これにより、金融安定性の観点から懸念が生じる場合に、市場レベルでの行動のソフト臨界値を定義する権限を監督者に付与する必要があるとしている。また、一貫した適用条件を支援するために、EIOPAは、様々な市場の条件を考慮しながら、EUレベルでソフト臨界値を設定する決定の手順をさらに指定するガイドラインを発行する必要がある、としている。
 

11.3.集中臨界値

11.12 EIOPAは、特定のエクスポージャーが劇的に増加したり、大幅なレベルに達したりして、これにより、金融安定性の観点から懸念が生じる場合に、市場レベルでの行動のソフト臨界値を定義する権限を監督者に付与する必要があると考えている。

11.13監督者は、介入するかどうか、及び介入する方法について裁量権を持つ必要がある。 高集中自体は、監督者が介入するための前提条件である金融安定性へのリスクを示していないことを強調する必要がある。

11.14一貫した適用条件を支援するために、EIOPAは、様々な市場の条件を考慮しながら、EUレベルでソフト臨界値を設定する決定の手順をさらに指定するガイドラインを発行する必要がある。

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中村 亮一

研究・専門分野

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