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- ECB政策理事会-政策変更なし、経済見通しも想定内
2021年01月22日
1.結果の概要:金融政策は変更なし
1月21日、欧州中央銀行(ECB:European Central Bank)は政策理事会を開催し、金融政策について決定した。概要は以下の通り。
【金融政策決定内容】
・政策の変更なし
・PEPPの金額について、良好な資金調達環境に応じて柔軟に変わること(全額を利用する可能性、増額をする可能性)を声明文に明記
【記者会見での発言(趣旨)】
・現在の経済状況は12月の経済見通しとおおむね整合的と評価できる
・PEPPは良好な資金環境を維持するという目的が達成されるかに応じて、柔軟に利用される
2.金融政策の評価:ECBの金融政策への姿勢を再認識
今回は前回12月にコロナ禍対応の緊急策をまとめて拡充したこともあり、金融政策は現状の政策を維持した。
景気見通しについては、足もとで感染拡大が続きロックダウン(都市封鎖)が長期化している国も多く、変異種の脅威なども指摘されているが、現時点ではプラスの要因(質疑応答では、ワクチン接種開始、英EU間の交渉合意、「次世代EU」の最終合意、製造業景況感の良好さ、米ジョージア州上院選挙の確定)にも触れ、また、ロックダウンが1-3月期まで続くとの前提を置いた12月時点の見通しと概ね整合的であるとしている。経済分析でも先行きのリスクについて「下方に傾いているが、やや後退している」という判断を据え置いている。
質疑応答では、前回は冒頭説明で触れたのみであったPEPPの購入枠を全額利用しない可能性について、今回は金融政策方針の声明文にも明記されたこともあってその判断根拠を求める質問が見られた。また企業への貸出に鈍化がみられること、金融機関への貸出態度が厳格化していることにも関連して、TLTROの評価や不良債権の増加リスクなどの質問も多かった。
ラガルド総裁の回答では、PEPPの購入枠については、「良好な資金調達環境(favourable financing conditions)」を維持できるかに実際利用する金額が依存するという点を強調し、それ以外の回答は避けている。
金融機関への貸出についえは、TLTROは民間部門への貸出を増加させることに寄与していること、貸出金利を低位に押さえられていることに触れ、ECBとしてやるべきことをしている点を強調する一方で、個別の貸出先に関するリスク管理は銀行自身の問題である点に触れている。
今回の政策理事会はECBの金融政策の姿勢が改めて確認される一方で、特段新しい材料はなかった内容だったと言えるだろう。
景気見通しについては、足もとで感染拡大が続きロックダウン(都市封鎖)が長期化している国も多く、変異種の脅威なども指摘されているが、現時点ではプラスの要因(質疑応答では、ワクチン接種開始、英EU間の交渉合意、「次世代EU」の最終合意、製造業景況感の良好さ、米ジョージア州上院選挙の確定)にも触れ、また、ロックダウンが1-3月期まで続くとの前提を置いた12月時点の見通しと概ね整合的であるとしている。経済分析でも先行きのリスクについて「下方に傾いているが、やや後退している」という判断を据え置いている。
質疑応答では、前回は冒頭説明で触れたのみであったPEPPの購入枠を全額利用しない可能性について、今回は金融政策方針の声明文にも明記されたこともあってその判断根拠を求める質問が見られた。また企業への貸出に鈍化がみられること、金融機関への貸出態度が厳格化していることにも関連して、TLTROの評価や不良債権の増加リスクなどの質問も多かった。
ラガルド総裁の回答では、PEPPの購入枠については、「良好な資金調達環境(favourable financing conditions)」を維持できるかに実際利用する金額が依存するという点を強調し、それ以外の回答は避けている。
金融機関への貸出についえは、TLTROは民間部門への貸出を増加させることに寄与していること、貸出金利を低位に押さえられていることに触れ、ECBとしてやるべきことをしている点を強調する一方で、個別の貸出先に関するリスク管理は銀行自身の問題である点に触れている。
今回の政策理事会はECBの金融政策の姿勢が改めて確認される一方で、特段新しい材料はなかった内容だったと言えるだろう。
3.声明の概要(金融政策の方針)
1月21日の政策理事会で発表された声明は以下の通り。
- 政策金利の維持(変更なし)
- 主要リファイナンスオペ(MRO)金利:0.00%
- 限界貸出ファシリティ金利:0.25%
- 預金ファシリティ金利:▲0.50%
- フォワードガイダンス(変更なし)
- インフレ見通しが、見通し期間において2%に十分近いがやや下回る水準へと確実に収束し、かつ、インフレ動向に一貫して反映されるまで、政策金利は現行水準もしくはより低い水準を維持する
- インフレ見通しが、見通し期間において2%に十分近いがやや下回る水準へと確実に収束し、かつ、インフレ動向に一貫して反映されるまで、政策金利は現行水準もしくはより低い水準を維持する
- PEPPの継続(文言の追加、政策上の変更なし)
- 総枠を5000億ユーロ増額し、合計1兆8500億ユーロの資産購入を実施
- 購入期間は少なくとも2022年3月末まで実施
- 理事会は、PEPPによる資産購入を新型コロナ危機が去るまで実施する
- PEPPは良好な資金調達環境を維持するために実施され、この条件が満たされる場合は総額を利用する必要はない。平等に、必要があれば枠(増額)の再調整を行う。
- PEPP元本償還分の再投資の実施(変更なし)
- PEPPの元本償還の再投資は少なくとも2023年末まで実施する
- 将来のPEPPの元本償還(roll-off)が適切な金融政策に影響しないよう管理する
- 資産購入プログラム(APP)の実施(変更なし)
- 月額200億ユーロの購入を実施
- 毎月の購入は、緩和的な政策金利の影響が強化されるまで必要な限り継続
- 政策金利の引き上げが実施される直前まで実施
- 十分な流動性供給の実施(文言の変更、政策上の変更なし)
- リファイナンスオペを通じて十分な流動性供給を継続
- 特にTLTROⅢは銀行の魅力的な資金源であり、企業・家計への貸出支援となっている
- 追加緩和へのスタンス(変更なし)
- インフレが目標に向け推移するよう、必要に応じ、すべての手段を調整する準備がある
- インフレが目標に向け推移するよう、必要に応じ、すべての手段を調整する準備がある
4.記者会見の概要
政策理事会後の記者会見における主な内容は以下の通り。
(冒頭説明)
(経済分析)
(冒頭説明)
- (新年の挨拶、コロナウイルスの被害にあった人たちへのお見舞いの言葉)
- 本日の理事会には欧州委員会のドンブロウスキス副委員長も出席した
- ユーロ圏でのワクチン接種開始は、公衆衛生危機の解決への重要なマイルストーンである
- しかし、引き続き感染拡大はユーロ圏及び世界経済の深刻なリスクとなっている
- 新型コロナウイルスの感染再拡大と多くのユーロ圏の国で厳格化・長期化する封じ込め政策が経済活動を停滞させている
- 製造業は引き続き堅調だが、サービス業の活動は2020年初頭の第一波よりは軽度であるものの厳しく抑制されている
- 2020年10-12月期の成長率は縮小したと見られ、感染拡大の深刻化が短期的な経済見通しに下方リスクをもたらしている
- インフレ率は需要の弱さと労働市場・生産市場の停滞を反映して引き続き非常に低い
- 最新の情報は、パンデミックが短期的な経済活動に影響を及ぼし、低インフレを長期化させるという、(前回の)我々の評価を裏付けるものとなっている
- すべての経済部門にとって、パンデミック期間中に良好な資金調達環境を維持できる十分な金融緩和が引き続き重要である
- 不確実性の軽減と景況感の改善を支援することで、消費支出・設備投資を促進し、経済活動および中期的な物価の安定に資するだろう
- なおも感染拡大やワクチン接種といった不確実性は高い
- 我々は引き続き、為替相場について引き続き中期的な物価見通しへの影響という観点から注視する
- また、インフレ率を、対称性へのコミットメントに沿った形で、目標へ着実に収束させるよう、必要に応じてすべての手段を調整する用意がある
- 上記のような背景から、十分な金融緩和姿勢を続けることを再確認した
- (金融政策の具体内容は上記第3節記載の通り)
(経済分析)
- ユーロ圏の実質GDPは20年上半期に急激に縮小した後、7-9月期には前期比+12.5%まで強く反発したが、コロナ禍前の水準は下回っている
- 最新の経済統計、景況感調査、高頻度データからは、感染再拡大とそれに対する封じ込め政策の厳格化によって、20年10-12月期はマイナス成長となる見込みで、今年1-3月期の経済活動への重しにもなっている
- これは12月の経済見通しとおおむね整合的と評価できる
- 経済活動状況は、引き続き部門によって不均一であり、サービス部門の活動は交流や移動への新しい制限によって、工業部門の活動よりも悪影響を受けている
- 財政政策は家計と企業を支えているものの、消費者は感染拡大と雇用・所得への影響を危惧している
- 加えて財務状況の悪化と先行きの経済に対する不透明感が設備投資の重しとなっている
- 今後については、12月下旬に開始されたワクチン接種が、公衆衛生危機の解決への大きな自信につながり得る
- しかしながら、(ワクチン普及による)広範囲の免疫獲得には時間を要し、さらなる感染拡大も否定できない
- 中期的には、良好な資金調達環境と拡張的な財政政策、封じ込め政策の緩和と不確実性の後退によってユーロ圏経済の回復は支えられるだろう
- ユーロ圏経済の見通しを取り巻くリスクは引き続き下方に傾いているが、やや後退している
- 世界経済見通しに関するニュースとしては、英EUの将来関係合意やワクチン接種に関する事項が明るいものだが、パンデミックがもたらす経済や金融に関連する下方リスクは引き続き残っている
- 世界経済見通しに関するニュースとしては、英EUの将来関係合意やワクチン接種に関する事項が明るいものだが、パンデミックがもたらす経済や金融に関連する下方リスクは引き続き残っている
- 12月のインフレ率は前年比▲0.3%で変化がなかった
- 原油価格の動向を考慮すると、一時的なドイツ付加価値税(VAT)の引き下げが終了したこともあり、インフレ率は数か月後には上昇する見込みである
- しかしながら、需要の弱さ、特に観光・旅行関連業の弱さ、賃金上昇圧力の弱さ、為替相場の増価(上昇)による物価基調の弱さは続くだろう
- 感染拡大の影響が剥落すれば、緩和的な金融・財政政策に支えられた需要回復が中期的な物価上昇圧力となるだろう
- 市場観測のインフレ期待は若干上昇しているものの、市場観測・サーベイ調査による長期的インフレ期待は引き続き低水準にとどまっている
(2021年01月22日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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