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20年を迎えた介護保険の再考(19)高齢者の住まいとの関係-サービス付き高齢者向け住宅の囲い込みが問題に
保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳
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1――はじめに~介護保険と住まい~
第19回のテーマは住まいです。まず、高齢者の住まいを巡る制度・サービスが複雑に分かれている点を見るほか、介護保険制度の創設に際して、特別養護老人ホームなどの取り扱いが論点となった歴史を振り返ります。さらに、2011年にスタートした「サービス付き高齢者向け住宅」の動向を概観した上で、高齢者福祉と住宅政策の連携が取れていない一つの表れとして、特定の介護事業所のサービスしか使わせない「囲い込み」問題を取り上げ、今後の方向性を模索します。
2――高齢者福祉と住宅政策の関係
例えば、1990年代から両者の連携を意識した書籍1が出版されるようになり、介護保険制度創設の流れを作った1994年12月の高齢者介護・自立支援システム研究会報告書でも「高齢者が住み慣れた地域や家庭で生活を続けていくための基盤」として、住宅や住環境の整備などがうたわれていました。
さらに、第9回で述べた地域医療介護総合確保推進法に基づく地域包括ケアの定義でも医療、介護などと並んで「住まい」が言及されており、2013年8月に公表された政府の社会保障制度改革国民会議報告書では「住まい」という言葉は9回使われています。このほか、高齢者の住まいに関する根拠法である高齢者居住安定確保法(以下、高齢者住まい法)は国土交通省と厚生労働省の共管となっており、両者の連携は一定程度、意識されていると言えます2。
ただ、「住宅=国土交通省」「高齢者福祉=厚生労働省」という縦割りの問題が常に付きまといます。先行研究でも「住宅政策と住宅市場に対する視野の狭い関心しかもっておらず、より広範な争点群を無視している」3、「住宅問題を福祉国家論の視点から考察することは最近に至るまで必ずしも十分に行われてこなかった」4とされており、住まいは福祉分野で見落とされがちなテーマと言えます。
1 例えば、早川和男(1997)『居住福祉』岩波新書、社会保障研究所編(1990)『住宅政策と社会保障』東京大学出版会などを参照。2001年1月には居住福祉学会が発足している。
2 高齢者以外の分野では、低所得者や被災者、高齢者、障害者、子育て世帯などに配慮するための「住宅確保要配慮者居住支援協議会」の設置も進んでいる。
3 Jim Kemeny(1992)“Housing and social theory”[祐成保志訳(2014)『ハウジングと福祉国家』新曜社p6]。
4 菊地英明・金子能宏(2005)「社会保障における住宅政策の位置づけ」『海外社会保障研究』No.152。
3――複雑に分かれている住まいに関わる制度・サービス
このほか、▽認知症の人に少人数で集団生活を送ってもらうグループホーム、▽短期間の泊まりを提供する短期入所生活介護や短期入所療養介護、▽高齢者を受け入れる宅老所を制度化したサービスとして、訪問や通い、泊まりを組み合わせられる小規模多機能居宅介護――があります6。
5 2002年度から新設する特養に関しては、多くの人が同じ部屋で生活を送る多床室ではなく、ユニット型(個室と共同のリビングスペースを持つタイプ)に切り替えられた。
6 ここでは詳述しないが、介護保険では個人住宅のバリアフリー改修工事について、20万円を支給する仕組みがある
さらに、ややこしいことに介護保険の枠組み以外にも、高齢者の住まいに関する制度があります。例えば、有料老人ホームは一般の高齢者向け住宅であり、身寄りのない高齢者向けの軽費老人ホーム(ケアハウス)、生活困窮者などを対象とした養護老人ホームという仕組みも整備されています。
実際、多くの事業者が参入している結果、質のバラツキが指摘される一方、良質なケースでは従来の「高齢者施設」「高齢者住宅」のイメージを覆す事例が生まれています。その一例として、筆者が昨夏、見学した千葉県浦安市の「銀木犀」は写真の通り、オシャレな雰囲気とともに、近所の子ども達が遊びに来る開放性を備え、一角には昔懐かしい駄菓子の販売ゾーンも置かれています。
もちろん、入居には相応の家賃が必要ですし、全ての地域で同じ住宅ができるとは限りませんが、サ高住の創設で民間企業の創意工夫が発揮され、利用者の選択肢が広がっていると言えます。
ただ、ここまで読まれた方は制度・サービスの複雑さにウンザリされたかもしれません。これ以外でも細かく見ると、特養には「地域密着型」という類型がありますし、介護保険以外の仕組みやサービスとして、自治体の高齢者向け公営住宅とか、通所介護(デイサービス)で夜間に高齢者を受け入れる「お泊まりデイ」があります。その上、地方創生では高齢者が終身でケアを受けられる「CCRC」(Continuing Care Retirement Community)という米国の制度の導入論議まで浮上しました7。経済産業省主導で有料老人ホームの入居者に働いてもらう「仕事付き高齢者向け住宅」も整備されています。
このように枝分かれしている理由としては、建て増しで制度・サービスを微修正して来たことが影響しています。以下、介護保険制度創設時の議論を振り返りつつ、複雑化のプロセスを見ます。
7 CCRCについては、政府の有識者会議が2015年12月に最終報告書を作成し、全世代・全員活躍型のコミュニティづくりを掲げた「生涯活躍のまち」が進められている。松田智生(2017)『日本版CCRCがわかる本』法研を参照。
4――住まいを巡る制度・サービスの複雑化の経緯
介護保険制度の創設に際しては、以前から存在していた特養、老健、老人病院(後に介護型療養病床)の取り扱いが焦点の一つとなりました。中でも、老健から自宅に帰れない人が半数近くに上るなど、特養と老健の機能が近付いている点が論点となり、一元化の可能性が模索されました。
しかし、運営主体を見ると、特養は社会福祉法人、老健や老人病院は医療法人といった形で違いがありました。さらに法律の根拠を見ても、特養は社会福祉事業法、老健は老人保健法、老人病院は医療法に分かれていました。そこで一元化の選択肢を取らず、自己負担の違いなどを揃えることで、3つを介護保険サービスに位置付けて整合性を図ることにしました。
この辺りについては、当時の厚生省幹部が「問題は、双方(筆者注:特養と老健)の出自が違う点だ」と述べていた点から読み取れます8。実際、両論併記、多論羅列となった1996年4月の老人保健福祉審議会(厚相の諮問機関)中間報告も「事業主体等の取扱いが異なっていること等を踏まえ、一元化は漸進的な方法で進めていく」と書かれていました。
このような方法を取った結果、幾つかの論点が残されました。まず、在宅と施設の負担格差です。在宅の場合、食費や居住費は自己負担なので、施設入居者からも費用を徴収しないと不平等になります。結局、この問題は2005年改正で決着し、食費などの経費を徴収する一方、低所得者の負担は「補足給付」として給付で支援する仕組みになりました9。さらに第16回で述べた通り、特養と社会福祉法人の位置付けも課題として残されました。実際、制度創設に関わった厚生省元幹部も「『特養ってそもそも何か』という議論をしないままに持ってきた」「もう少しサービスの中身を洗い直して、きちんと整理し直すことをすべきだったのかもしれません」と振り返っています10。このほか、第1回で述べた通り、介護型療養病床については、小泉純一郎政権期に廃止論議が浮上。2度の期限延長を経て、介護医療院への段階移行が決まりましたが、その取り扱いは課題として残されています。
8 朝日新聞社西部本社編(1999)『介護保険の現場から』雲母書房pp179-180における堤修三氏インタビュー。
9 しかし、補足給付については、保険給付ではなく、生活保護を含めた租税財源で対応すべきという意見がある。例えば、飛田英子(2019)「介護保険制度の見直しに必要な視点」『JRIレビュー』Vol.11 No.72。さらに住宅手当の創設を通じた支援が必要との指摘がある。丸山桂(2018)「住宅手当の構想」山田篤裕ほか編著『最低生活保障の実証分析』有斐閣、2020年4月1~8日『高齢者住宅新聞』における東京通信大学教授の髙橋紘士氏インタビューなどを参照。
10 2019年9月号『文化連情報』No.498における堤修三氏インタビュー。
制度創設時には有料老人ホームの取り扱いも焦点となり、「家」として定義されるとともに、高齢者が受けるサービスを特定入居者生活介護として、介護保険に位置付ける形になりました。制度創設に関わった官僚などの書籍11によると、これらの住まいは要介護の高齢者だけでなく、介護を必要としない高齢者も受け入れていたため、「家」として位置付ける代わりに、制度的には外部からサービスを導入している形にしたとのことです。
その際、デンマークの事例が影響した面もあります12。同国は1980年代後半、高齢者施設で住まいとサービスを一体的に提供するのではなく、施設建設を禁止して高齢者住宅に切り替えるとともに、外部サービスとしてケアを提供する「住まいとサービスの分離」を実行しました。そこで、有料老人ホームなどの特定入居者生活介護に関しては、「介護サービスの革新が図られるのではないか」という期待の下、住まいとサービスを分離させる考え方を取り入れたと説明されています。
このほか、ショートステイとグループホームは制度創設時から介護保険に位置付けられており、小規模多機能型居宅介護については、多様な「住まい方」の実現を打ち出した2003年6月の「高齢者介護研究会」報告書に沿って、2006年度制度改正で創設されました。
以上のような説明を通じて、住まいの制度・サービスが細かく分かれている理由の一端をご理解いただけると思います。つまり、制度設計に際して、何かグランドデザインがあったわけではなく、その時々で最適な制度改正、言い換えると漸増主義的に制度改正が積み重ねられてきたわけです。
11 介護保険制度史研究会編著(2019)『介護保険制度史』東洋経済新報社pp153-154。
12 デンマークに関しては、松岡洋子(2011)『エイジング・イン・プレイス<地域居住>と高齢者住宅』新評論、同(2005)『デンマークの高齢者福祉と地域居住』新評論を参照。
ただ、これで話は終わりません。住宅政策の流れを踏まえる必要があります。まず、高齢者を対象とした「高齢者専用賃貸住宅(高専賃)」が1998年に制度化されたほか、2001年に高齢者住まい法が制定された際、高齢者向けの賃貸住宅である「高齢者優良賃貸住宅(高優賃)」、高齢者の居住を拒まない「高齢者円滑入居賃貸住宅(高円賃)」が新設されました。その後、高齢者住まい法が改正され、高専賃などの制度がサ高住に一本化され、登録要件も定められました。現行の制度では、都道府県が「高齢者居住安定確保計画」を策定し、サ高住の整備方針などを定めることになっています。
では、こういった現状について、どういった問題が考えられるのでしょうか。それぞれの制度・サービスに論点があるのですが、ここでは全体的に制度・サービスが細分化している弊害として、(1)選択肢が多いように見えるが、選択しにくい弊害、(2)住宅政策と高齢者福祉の連携が取りにくい弊害――の2つを取り上げつつ、解決策の方向性を示したいと思います。
(2020年12月17日「研究員の眼」)
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03-3512-1798
- プロフィール
【職歴】
1995年4月~ 時事通信社
2011年4月~ 東京財団研究員
2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
2023年7月から現職
【加入団体等】
・社会政策学会
・日本財政学会
・日本地方財政学会
・自治体学会
・日本ケアマネジメント学会
【講演等】
・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)
【主な著書・寄稿など】
・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数
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