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- ECB政策理事会-コロナ禍対策の措置をまとめて拡充
1.結果の概要:各種金融緩和策の拡充を決定
【金融政策決定内容】
・資産購入策の拡充
-PEPP拡充(実施期間を22年3月末までに延長(9か月延長)、総額を1.85兆ユーロに拡大(5000億増額)、償還再投資期間を1年間延長)
-APPは3月以降の追加購入分1200億ユーロは打ち切り(月間200億ユーロの購入は継続)
・流動性供給策の拡充
-TLTROⅢの実施期間を延長・引き下げ金利適用期間延長・貸出上限の引き上げ
-PELTROの実施期間延長
-適格担保要件の緩和期間延長
【記者会見での発言(趣旨)】
・実質GDP成長率は20年▲7.3%、21年3.9%、22年4.2%、23年3.1%と予想
・資産購入策は購入枠を全額使用する必要はない
・ワクチン普及による集団免疫獲得としては2021年末が妥当な見通し
2.金融政策の評価:コロナ禍対応の緊急策を軸に拡充
PEPPでは、半年間で5000億ユーロの拡大を予想する向きが多かったため、予想と比較すると金額は予想通りだったが期間についてはやや長めとなったと言える。なお、PEPPの目的としては、今回は「良好な資金調達環境の維持」であることを強調しており、資金調達環境の状況に応じて購入額が決まるため、必ずしも全額利用するとは限らない点も明示している。
TLRTOIIIの拡充については、実施回数を3回増やし21年12月まで実施し、貸出上限も引き上げた。さらに適用金利1から▲0.5%分の引下げ金利を適用する期間を1年間延長し、この追加の1年間について、優遇金利の適用対象か否かを判定する参照期間を別途設定している。ラガルド総裁が会見でも述べているように、金融機関の貸出態度がやや厳格化していることを受けて、すでに利用している銀行への追加優遇ではなくて、今後に貸出を増やすことに対してのインセンティブであることが明確化されている。
また、担保要件の緩和やPELTRO(パンデミック緊急長期リファイナンスオペ)といったコロナ禍対応を受けてこれまで実施してきた政策を総じて延長している。一方で、PEPP導入前に拡充していたAPPの追加購入枠(20年12月末までで1200億ユーロ)は終了し、来年以降はAPPでは月間200億ユーロの購入のみがされることとなる。
さらに、今回は政策理事会と同時にスタッフ経済見通しを公表している。実質GDP成長率は20年▲7.3%、21年3.9%、22年4.2%と予想しており、前回9月見通しと比較すると、足もとの20年10-12月期以降の実質GDPの水準は、第2波による再ロックダウンなどを勘案して下方修正しているが、21年後半からは9月見通しより高い水準に戻る。ラガルド総裁は記者会見でワクチン普及によって21年末には集団免疫が獲得できる見通しであることに言及しており、ウイルス収束を受けた経済回復の期待値が高まっていることが反映されていると見られる。
今回の一連の追加緩和は、延長を前提とした当面の措置というよりも、実際にワクチン普及などによってウイルスが収束に向かう蓋然性などにも配慮して決定されたように思われる。
1 MRO金利、貸出条件を満たした場合の優遇金利は預金ファシリティ金利
3.声明の概要(金融政策の方針)
- 政策金利の維持(変更なし)
- 主要リファイナンス・オペ(MRO)金利:0.00%
- 限界貸出ファシリティ金利:0.25%
- 預金ファシリティ金利:▲0.50%
- フォワードガイダンス(変更なし)
- インフレ見通しが、見通し期間において2%に十分近いがやや下回る水準へと確実に収束し、かつ、インフレ動向に一貫して反映されるまで、政策金利は現行水準もしくはより低い水準を維持する
- インフレ見通しが、見通し期間において2%に十分近いがやや下回る水準へと確実に収束し、かつ、インフレ動向に一貫して反映されるまで、政策金利は現行水準もしくはより低い水準を維持する
- PEPPの継続(規模・期間を延長)
- 総枠を5000億ユーロ増額し、合計1兆8500億ユーロの資産購入を実施
- 購入期間を少なくとも2022年3月末までに延長する(9か月の延長)
- 理事会は、PEPPによる資産購入を新型コロナ危機が去るまで実施する
- PEPP元本償還分の再投資の実施(期間を延長)
- PEPPの元本償還の再投資は少なくとも2023年末まで実施する(12か月の延長)
- 将来のPEPPの元本償還(roll-off)が適切な金融政策に影響しないよう管理する
- TLTROIIIの再調整(実施期間・引き下げ金利適用期間の延長、貸出上限の引き上げ)
- 引き下げ金利の適用期間を12か月延長し、2022年6月までとする
- 2021年6月から12月まで追加で3回のオペを実施する(従来は21年3月で終了予定)
- 貸出上限を基準残高の50%から55%に引き上げ
- 貸出残高維持を促進する目的で、今回の再調整金利の適用には新しい貸出目標を設定
- 4月7日・22日に決定した適格担保要件の緩和を2022年6月まで延長(9か月の延長)
- この延長で、銀行は引き続き十分な流動性供給オペ、特に追加のTLRTOを利用可能
- 理事会は2022年6月に先立って担保緩和について再評価し、TLTROIIIへの参加への悪影響がないようにする
- PELTROを2021年に追加で4回実施し、引き続き効果的に流動性供給を支援する
(従来は20年12月で終了予定)
- 資産購入プログラム(APP)の実施(実質的に削減)
- 月額200億ユーロの購入を実施(年末までの1200億ユーロの追加購入枠はそのまま終了)
- 毎月の購入は、緩和的な政策金利の影響が強化されるまで必要な限り継続
- 政策金利の引き上げが実施される直前まで実施
- APPの元本償還再投資(変更なし)
- APPの元本償還分は全額再投資を実施
- 利上げ後の相応の期間、十分な流動性と金融緩和を維持するために必要な限り実施
- EUREP2および非ユーロ圏との一時的なスワップ・レポ協定を2022年3月まで延長
(EUREPは9か月延長)
- 定例オペについて、必要な限り有利な条件による固定金利・全額割当の実施を継続
(文言の追加、政策上の変更なし)
- 追加緩和へのスタンス(文言の変更、政策上の変更なし)
- 本日の決定は、パンデミックの期間にわたって良好な資金調達環境を維持し、経済のすべての部門への信用を支援し、経済活動を支え、中期的な物価の安定をもたらす
- パンデミックの動向やワクチン普及の時期といった観点からも不確実性は引き続き高い
- また、中期的な物価安定への影響という観点から、為替レートの状況を引き続き注視する
- インフレ率の対称性へのコミットメントに沿った形での持続的な目標への収束を確実にするため、理事会は必要に応じ、すべての手段を調整する用意がある
2 非ユーロの中央銀行がユーロ圏の国債・金融機関債を担保にユーロを借り入れる制度で、2020年6月25日に導入
4.記者会見の概要
(冒頭説明)
- 本日の理事会には欧州委員会のドンブロウスキス副委員長も出席した
- 7-9月期の経済活動回復は予想以上に力強く、ワクチン普及の見通しは明るいものの、パンデミックは引き続き、公衆衛生およびユーロ圏・世界経済に深刻な懸念をもたらしている
- 感染再拡大と封じ込め政策の強化はユーロ圏の経済活動を制限しており、2020年10-12月期の経済は縮小する見込みである
- 製造業は引き続き堅調だが、サービス業の活動は感染率上昇と交流・移動の制限によって厳しく抑制されている
- インフレ率は需要の弱さと労働市場・生産市場の停滞を反映して引き続き非常に低い
- 最新の情報とスタッフ見通しでは、予想していた以上にパンデミックが短期的な経済に影響を及ぼし、低インフレを長期化させることを示唆している
- 金融政策の決定内容
- 感染再拡大の経済への影響を考慮し、理事会は金融政策手段を次のように再調整した
- (具体内容は上記第3節記載の通り、以下の記載は冒頭説明のみのもの)
- (PEPPの)資産購入はインフレ経路の下方圧力に対抗することへの障害となる金融収縮を防ぐため、柔軟性もって実施する
- PEPPの実施期間中、購入枠を使い切らずに良好な資金調達環境を維持できる場合は、購入枠を全額使用する必要はない
- 同様に、インフレへの負の影響に対抗するために資金調達環境の良好さを維持する必要がある場合には、購入枠を再調整する
- PEPPの延長はパンデミックの経済とインフレ率への影響が長期化していることを反映している
(経済分析)
- ユーロ圏の実質GDPは20年上半期に急激に縮小した後、7-9月期には前期比+12.5%まで強く反発したが、コロナ禍前の水準は下回っている
- 10月中旬以降の感染拡大第2波と封じ込め政策は、4-6月期に見られた政策よりも範囲は狭いものの、10-12月期の活動の大きな落ち込みをもたらすと見られる
- 10月中旬以降の感染拡大第2波と封じ込め政策は、4-6月期に見られた政策よりも範囲は狭いものの、10-12月期の活動の大きな落ち込みをもたらすと見られる
- 経済活動状況は、引き続き部門によって不均一であり、サービス部門の活動は交流や移動への新しい制限によって、工業部門の活動よりも悪影響を受けている
- 財政政策は家計と企業を支えているものの、消費者は感染拡大と雇用・所得への影響を危惧している
- 加えて財務状況の悪化と経済見通しの不確実性が設備投資の重しとなっている
- 今後については、ワクチン普及見通しのニュースが、公衆衛生危機の段階的な解決という見通しへの信頼性を高めている
- しかしながら、(ワクチンにより)広範囲に免疫が獲得されるには時間を要し、公衆衛生と経済が脅かすような、さらなる感染拡大も否定できない
- 中期的には、良好な資金調達環境と拡張的な財政政策、封じ込め政策の緩和と不確実性の後退にユーロ圏経済の回復は支えられるだろう
- ユーロ圏の2020年12月スタッフ経済見通しには、こうした評価が広く反映されている
- 実質GDP成長率は20年▲7.3%、21年3.9%、22年4.2%、23年3.1%と予想している
- 9月の見通しと比較すると短期的には下方修正しているが、中期的には9月の水準よりも回復するとしている
- ユーロ圏経済の見通しを取り巻くリスクは引き続き下方に傾いているが、やや後退している
- 近い将来のワクチン普及の見通しに関するニュースは明るいものの、パンデミックがもたらす経済や金融に関連する下方リスクは引き続き残っている
- 近い将来のワクチン普及の見通しに関するニュースは明るいものの、パンデミックがもたらす経済や金融に関連する下方リスクは引き続き残っている
- 11月のインフレ率は前年比▲0.3%で変化がなかった
- 原油価格の動向と一時的なドイツ付加価値税(VAT)の引き下げを考慮すると、21年初までマイナス圏で推移する可能性が高い。
- その後は、一時的なVAT引き下げの終了とエネルギー価格における原油価格底打ちによる影響で上昇するだろう
- 同時に、需要の弱さ、特に観光・旅行関連業の弱さ、賃金上昇圧力の弱さ、為替相場の増価(上昇)による物価基調の弱さが続くだろう
- 感染拡大の影響が剥落すれば、緩和的な金融・財政政策に支えられた需要回復が中期的な物価上昇圧力となるだろう
- 市場観測・サーベイ調査による長期的インフレ期待は引き続き低水準にとどまっている
- ユーロ圏の2020年12月スタッフ経済見通しには、こうした評価が広く反映されている
- インフレ率は20年0.2%、21年1.0%、22年1.1%、23年1.4%と予想している
- 9月の見通しと比較すると20年から22年にかけて下方修正している
(2020年12月11日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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