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- オルタナティブデータで見る不動産市場(2020年12月)-新型コロナ第3波に直面する宿泊・消費動向
2020年12月11日
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1――はじめに
新型コロナウイルスの感染拡大以降、オルタナティブデータへの関心が高まっている。オルタナティブデータとは、経済統計や財務情報などこれまで伝統的に活用されてきたデータ以外の非伝統的なデータの総称である。オルタナティブデータによって、頻度の高いデータや粒度の細かいデータをタイムリーに取得できるため、「これまでより速報性・リアルタイム性の高い分析」や「これまで定量化されてこなかった定性的な情報を活用した分析」などが可能になる。コロナ禍によって不確実性が高い現在の不動産市場においては、これまでの伝統的なデータとあわせて、オルタナティブデータの活用が期待される。そこで本稿では、新型コロナウイルス感染の第3波のさなかにある不動産市場の現状について、ホテル・商業施設セクターを中心1にオルタナティブデータをもとに確認したい(図表1)2。
1 宿泊・消費動向に関する経済指標と「ヒトの流れ」の相関は特に高い(井上祐介・川村健史・小寺信也(2019)「位置データを用いた滞在人口の分析─働き方改革の進展─」経済財政分析ディスカッション・ペーパー 19-3)
2 これまでの筆者によるオルタナティブデータを活用した不動産市場の分析は、以下のレポート参照。
- 佐久間誠 (2020)「オルタナティブデータで見る不動産市場(2020年11月)-正常化へ向けて改善の動きが見られる宿泊・消費動向」、不動産投資レポート、ニッセイ基礎研究所、2020年11月5日
- 佐久間誠 (2020)「オルタナティブデータで見るオフィス出社率の国別比較-日本は低い感染リスクを考慮してもオフィス出社率が高い」、不動産投資レポート、ニッセイ基礎研究所、2020年9月30日
- 佐久間誠 (2020)「オルタナティブデータで見る新型コロナウイルスと人の移動-各都道府県の新型コロナ感染リスクと流動人口の比較」、基礎研レポート、ニッセイ基礎研究所、2020年9月23日
- 佐久間誠 (2020)「オルタナティブデータから見たコロナ禍における宿泊業の現状-不動産市場分析におけるオルタナティブデータの応用可能性(1)」、不動産投資レポート、ニッセイ基礎研究所、2020年9月15日
2――コロナ感染再拡大が影を投げかける宿泊動向
まず、内閣府が提供するV-RESAS3における観光予報プラットフォーム推進協議会のデータをもとに、宿泊者数の推移を「家族」「夫婦・カップル」「一人」の宿泊者属性別に確認する(図表2)。宿泊者数は、緊急事態宣言が発令された後の4月第2週には「全体」で前年同期比▲94%となり、全ての宿泊者属性が同様の水準にまで落ち込んだ。その後、5月25日に緊急事態宣言が全国で解除されると、少人数の旅行から順に改善に向かった。Go Toトラベルが開始された後の7月4連休は「夫婦・カップル」が、8月のお盆シーズンは「一人」が、そして9月の4連休には「家族」が大きく改善し、Go Toトラベルに東京が含まれた10月は宿泊需要の回復が幅広いセグメントに広まった。
一方、新型コロナウイルス感染の第3波が拡大した11月以降、宿泊業は再び向かい風を受けている。政府は、札幌市と大阪市を目的地とする旅行をGo To トラベルから一時除外とし、出発に対して自粛を要請した。また、高齢者等に対して東京都を出発・目的地とする旅行を自粛するよう要請した。V-RESASにおけるヤフー・データソリューションのデータをもとに、検索サイトにおける「旅行・観光」に関する検索トレンド(検索数)を確認すると、10月第4週をピークに旅行に対する関心が低下しており、宿泊者数の回復も鈍化する可能性がある。
一方、新型コロナウイルス感染の第3波が拡大した11月以降、宿泊業は再び向かい風を受けている。政府は、札幌市と大阪市を目的地とする旅行をGo To トラベルから一時除外とし、出発に対して自粛を要請した。また、高齢者等に対して東京都を出発・目的地とする旅行を自粛するよう要請した。V-RESASにおけるヤフー・データソリューションのデータをもとに、検索サイトにおける「旅行・観光」に関する検索トレンド(検索数)を確認すると、10月第4週をピークに旅行に対する関心が低下しており、宿泊者数の回復も鈍化する可能性がある。
3 V-RESASは、2020年6月に内閣府地方創生推進室と内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局が、コロナ禍の地域経済への影響を迅速かつ詳細に可視化するため、リリースしたオルタナティブデータのプラットフォーム。
4 宿泊旅行統計における2019年の宿泊者数の上位10都道府県
3――対面型サービスで感染再拡大の影響が顕在化し始めた消費動向
まず、経済産業省が発表するMETI POS小売販売額指標をもとに、モノ消費の動向を「スーパー」「ドラッグストア」「コンビニ」「家電量販店」「ホームセンター」の主要テナント業態別に確認する(図表4左図)。生活必需品を取り扱う「スーパー」では、外食を控えた消費者が自宅で食事をとる機会が増えたため、コロナ禍においても売上が堅調に推移している。また、「ドラッグストア」は都心店舗におけるインバウンド需要の消失もあり、一時的に売上が前年同期比マイナスに転じる時期もあったが、概ね前年から横ばいと、底堅く推移している。「コンビニ」は、在宅勤務の拡大により都心のオフィスエリアを中心に売上が減少した後、8月のお盆明け以降はオフィス回帰が徐々に進んだことから改善傾向を見せたが、力強さに欠ける状況にある。「家電量販店」や「ホームセンター」は、巣ごもり消費の恩恵を受け、売上が増加した。ただし、2020年9月以降の前年比データは、2019年10月の消費増税による駆け込み需要とその反動減の影響があるため、大きく上下している。METI POS小売販売額指標の推移を見ると、「家電量販店」と「ホームセンター」の特需は一巡したことがわかる(図表4右図)。
このように、モノ消費においては新型コロナ第3波の影響が依然として限定的である一方、コト消費では影響が顕在化している(図表5)。V-RESASにおけるRetty株式会社のFood Data Platformをもとに飲食店ページ閲覧数を見ると。コロナ禍で最も閲覧数が減少した5月第1週は、「すべての飲食店」が前年同期比▲77%となった。業態別では、「ファミレス・ファーストフード」が同▲46%、「居酒屋・バー」が同▲84%となった。閲覧数は緊急事態宣言が全国で解除された5月後半に底打ちし、6月から8月は「すべての飲食店」が概ね2割減~4割減、「ファミレス・ファーストフード」が1割減~2割減、「居酒屋・バー」が4割~6割減で推移した。10月からはGo To Eatが開始されたこともあり回復傾向となった。しかし、新型コロナの感染再拡大に加え、11月後半には同キャンペーンの予算616億円に到達したことで、予約サイトでのポイント付与が終了したため、11月第4週には、「すべての飲食店」が前年同期比▲24%、業態別では「ファミレス・ファーストフード」が同▲15%、「居酒屋・バー」が同▲37%、と再び落ち込んでいる。2020年11月の景気ウォッチャー調査(調査期間:11月25日~30日)では、景気の現状判断DIが7か月ぶりに悪化、先行き判断DIも4か月ぶりに悪化し、特に飲食の景況感の悪化度合いが大きかった。このところの感染拡大に伴う営業時間の短縮要請やGo to Eatの利用自粛などの影響が強く表れた模様だ5。
一方、V-RESASにおけるヤフー・データソリューションのデータをもとに、検索サイトにおける「イベント」に関する検索トレンド(検索数)を確認すると、5月第3週に前年同期比▲78%まで落ち込んだ後、11月第4週に同▲18%に改善した。また、東宝によれば10月の映画興行収入は、前年同月比+33.6%と、「鬼滅の刃」の大ヒットを受けて急回復している。このように、一部では明るいニュースも見られるが、飲食店を筆頭に対面型サービスでは第3波の影響が顕在化している。
一方、V-RESASにおけるヤフー・データソリューションのデータをもとに、検索サイトにおける「イベント」に関する検索トレンド(検索数)を確認すると、5月第3週に前年同期比▲78%まで落ち込んだ後、11月第4週に同▲18%に改善した。また、東宝によれば10月の映画興行収入は、前年同月比+33.6%と、「鬼滅の刃」の大ヒットを受けて急回復している。このように、一部では明るいニュースも見られるが、飲食店を筆頭に対面型サービスでは第3波の影響が顕在化している。
次に、NTTドコモのモバイル空間統計をもとに、主要都市の都心商業エリアにおける流動人口を確認する(図表6)。緊急事態宣言のさなかにあったゴールデンウィーク明けの一週間は、前年同期比で減少率が大きい順に、大阪(▲68.3%)>東京(▲67.8%)>福岡(▲63.1%)>名古屋(▲62.4%)>札幌(▲56.3%)>広島(▲46.3%)>仙台(▲42.6%)となった。8月のお盆明けから改善傾向が強まったが、11月の感染再拡大以降、再び流動人口は減少傾向を強め、12月9日では、一週間の前年同期比で札幌(▲31.9%)>大阪(▲29.1%)>東京(▲24.7%)>福岡(▲18.7%)>名古屋(▲18.6%)>広島(▲18.3%)>仙台(▲14.3%)となった。特に、重症者向けの病床の逼迫感が強まっている大阪と北海道の落ち込みが大きい。
5 山下大輔 (2020)「景気ウォッチャー調査(20年11月)~感染拡大で、現状、先行きともに悪化。飲食の景況感悪化が顕著~」、経済・金融フラッシュ、ニッセイ基礎研究所、2020年12月9日
4――おわりに
新型コロナウイルス感染の第3波が押し寄せるなか、「ヒトの流れ」が再び止まりだしている。NTTドコモのモバイル空間統計をもとに、東京都の流動人口を「生活」、「商業」、「オフィス」、「トラベル」の行動圏に分類して確認すると、11月以降は再び全てのエリアで落ち込みを見せ、12月9日時点では、前年同期比で減少率が大きい順に、トラベルエリア(▲42.1%)>オフィスエリア(▲31.7%)>商業エリア(▲24.7%>生活エリア(▲12.3%)となった(図表9)。ヒトの流れは感染動向に翻弄される状況がしばらく続き、不動産市場も左右されるだろう。そのため、今後も定期的にオルタナティブデータを活用してモニタリングしていくことが重要であろう。
(ご注意)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2020年12月11日「不動産投資レポート」)
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経歴
- 【職歴】 2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行) 2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX) 2015年9月 ニッセイ基礎研究所 2019年1月 ラサール不動産投資顧問 2020年5月 ニッセイ基礎研究所 2022年7月より現職 【加入団体等】 ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター ・日本証券アナリスト協会検定会員
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