2020年12月09日

景気ウォッチャー調査(20年11月)~感染拡大で、現状、先行きともに悪化。飲食の景況感悪化が顕著~

山下 大輔

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1.景気の現状判断DIは7か月ぶりに悪化、先行き判断DIも4か月ぶりに悪化

12月8日に内閣府が公表した2020年11月の景気ウォッチャー調査(調査期間:11月25日~30日)によると、3か月前との比較による景気の現状判断DI(季節調整値)は45.6と前月から8.9ポイント下落した。また、2~3か月先の景気の先行き判断DI(季節調整値)も36.5と前月から12.6ポイント下落した。
現状判断DI・先行き判断DIの推移 今回の結果からは、このところの新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、景況感が急速に悪化していることが示された。現状判断DIは前月まで6か月連続で改善し、前月には50を超えていたが、再び50を割り込む結果となった。また、先行き判断DIの改善も3か月で終わることとなった。

また、地域別でみても、現状判断DI(季節調整値)、先行き判断DI(季節調整値)の双方で、全ての地域で前月よりも悪化する結果となった。感染拡大が顕著な北海道の景況感の落ち込みが特に大きかった。
なお、景気の水準自体に対する判断を示す現状水準判断DI(季節調整値)についても37.1(前月差▲2.2ポイント)となり、6か月続いた改善は止まった。水準としての景況感は依然として低い状態が続いている。
地域別現状判断DI・先行き判断DIの前月差/現状判断DIと現状水準判断DIの比較

2.景気の現状判断DI(季節調整値):全ての内訳で前月より悪化

現状判断DI・回答者構成比 現状判断DI(季節調整値)は、4月に7.9まで落ち込んだ後に、5月から前月まで6か月連続で改善し、前月には50を超えたが、11月は7か月ぶりに悪化した。景気の現状判断DIの回答者構成比をみても、悪化と回答した割合(「悪くなっている」と「やや悪くなっている」の回答の合計)(10月:21.5%→11月:34.8%)が増加する一方で、改善と回答した割合(「良くなっている」と「やや良くなっている」の回答の合計)(10月:38.0%→11月:27.0%)や現状維持(「変わらない」)と回答した割合(10月:40.5%→11月:38.2%)は減少しており、景況感の悪化が鮮明となっている。
現状判断DI(季節調整値)の内訳においても、家計動向関連(前月差▲10.7ポイント)、企業動向関連(同▲4.9ポイント)、雇用関連(同▲5.7ポイント)の全てで悪化し、再び50を割り込んだ。また、家計動向関連の内訳をみても、小売関連(前月差▲9.4ポイント)、飲食関連(同▲24.5ポイント)、サービス関連(同▲11.6ポイント)、住宅関連(同▲3.0 ポイント)の全てで悪化しており、特に飲食の悪化度合いが大きい。飲食については、直近2か月は政策効果などから急激な景況感の改善がみられていたが(8月:36.9→9月:55.0→10月:60.4)、このところの感染拡大に伴う営業時間の短縮要請やGo to Eatの利用自粛などの影響が強く表れた模様だ(11月:35.9(前月差▲24.5ポイント))。また、企業動向関連の内訳においても、製造業(前月差▲4.9ポイント)、非製造業(同▲4.6ポイント)の双方で悪化し、再び50を下回った。
現状判断DIの内訳の推移/現状判断DI(家計動向関連)の内訳の推移
回答者のコメントからは、前月と同様に、Go To Travelキャンペーンなどの政策効果が景況感に好影響を与えたことが伺われる一方で、11月後半からの感染拡大による景況感の急速な悪化が多々言及されていた。また、感染拡大に伴う在宅勤務の増加を反映した需要増加への言及も見られた。

<Go To Travelキャンペーンなどの政策効果に関する主なコメント>
  • Go To Travelキャンペーンを利用した国内観光客が増えており、にぎわいを取り戻しつつある。地域共通クーポンを利用した土産品の購入に対しても意欲的な人が多い。現状、個人客はほぼ例年並みに戻っており、インバウンドの団体客のみゼロという状況である。(北海道・観光名所)
  • Go To Travelキャンペーン、Go To Eatキャンペーンにより、客数が戻りつつある。(沖縄・一般小売店)

<11月後半からの感染拡大による景況感の急速な悪化に関する主なコメント>
  • 11月に入り、Go To Travelが本格的に動き出し、人出が際立って増え、また、クーポンの使用も多く驚いている。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で、3連休を境に、急に人出が引いている。(甲信越・商店街)
  • Go To Eatキャンペーンが始まった頃から徐々にフリー客の予約が入るようになったのだが、このところの都内の新型コロナウイルス感染者数400~500人超えで、その後に入った宴会までも全てキャンセルの電話が鳴り始めている。年末から年始に掛けては相当ひどくなることが予想される。(東京都・一般レストラン)
  • 新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、11月24日~12月15日まで大阪市がGo To Travelキャンペーンの対象地域から除外されたことに伴い、宿泊予約がこの期間だけでなく、それ以降についてもキャンセルが多く発生している。また、宴会やレストランについても、大阪府から5名以上の宴会の自粛や営業時間の短縮要請が出され、多くのキャンセルが発生している。(近畿・都市型ホテル)

<感染拡大に伴う在宅時間の増加を反映した需要増加に関する主なコメント>
  • テレワークやステイホームによる在宅時間が増えていることで、家具インテリアに対する支出が増加している。また、停滞していた請負物件も動き始めた。(北海道・家具製造業)
  • テレワークによりネット環境の申込みが増えている。また、Webでのライブや舞台観賞等の利用による申込みもある。(東海・通信会社)
  • 有機ELテレビの買換えで、かなりテレビが売れている。また、巣籠り消費や自宅での食事の増加から、炊飯器やホームベーカリー、コーヒーメーカーが売れている。(近畿・家電量販店)

3.景気の先行き判断DI(季節調整値):内訳の全てで悪化

先行き判断DI・回答者構成比 2~3か月先の景気の先行き判断DI(季節調整値)は、7月に感染拡大への懸念で大きく落ち込んだ後に、8月から前月まで3か月連続で改善していたが、11月は4か月ぶりに悪化する結果となった。景気の先行き判断DIの回答者構成比でみても、悪化と回答した割合(「悪くなる」と「やや悪くなる」の回答の合計)(10月:25.6%→11月:50.6%)は倍増する一方で、改善と回答した割合(「良くなる」と「やや良くなる」の回答の合計)(10月:25.5%→11月:10.4%)は半減しており、先行きへの懸念が強く示されている。
先行き判断DI(季節調整値)の内訳をみると、家計動向関連(前月差▲14.0ポイント)、企業動向関連(同▲8.6ポイント)、雇用関連(同▲12.6ポイント)の全てで悪化した。また、家計動向関連の内訳でも、小売関連(前月差▲11.3ポイント)、飲食関連(同▲26.0ポイント)、サービス関連(同▲17.5ポイント)、住宅関連(同▲6.8ポイント)の全てで悪化した。上述の現状判断DIと同様に飲食の悪化度合いが大きく、回答者構成比でみると、悪化と回答した割合(「悪くなる」と「やや悪くなる」の回答の合計)は全体の71.1%に上った(10月は21.2%)。企業動向関連の内訳でも、製造業(前月差▲5.9ポイント)、非製造業(前月差▲11.1ポイント)の両方で悪化した。
先行き判断DIの内訳の推移/先行き判断DI(家計動向関連)の内訳の推移
回答者のコメントからは、感染拡大に伴う今後の先行きへの懸念が強く伺われた。他方、ワクチン開発に対する期待の声もみられた。

<感染拡大に伴う今後の先行きへの懸念に関する主なコメント>
  • 企業の冬のボーナス支給減少や、新型コロナウイルス感染第3波の拡大を受けて、再び行動制限や自粛の気運が高まり、景気は今よりも悪化する。(東京都・百貨店)
  • 10月で新型コロナウイルス禍の来客数最悪の状況を抜け出したかにみえたが、第3波の影響で、大きく来客数が減っている。気温の低下で、新型コロナウイルス感染者の増加が予想され、外食や宴会の自粛が広がる可能性が高く、景気が上向く気配を全く感じない。(九州・スナック)
  • 全国的に新型コロナウイルスの第3波が発生しており、本格的な冬を迎え、感染者がますます増加することが予想される。再度の緊急事態宣言が発出されれば、従来にないくらいの景気悪化が予想される。(東北・通信会社)
  • 体力のない中小零細企業がコロナ禍により決算期に倒産することが懸念される。(東北・職業安定所)

<ワクチン開発に対する期待に関する主なコメント>
  • 新型コロナウイルスのワクチンが開発され、今よりはやや良くなる。(中国・一般レストラン)
  • 新型コロナウイルスの感染状況次第で変わると考えているが、ワクチンの有効性が確認されれば劇的に好転することもあると思う。(四国・乗用車販売)。
  • 今後新型コロナウイルスのワクチンや治療薬が次々に出てくることが予想されるので、悲観的になる必要はない。安心感が生まれれば上昇していく。(東海・その他飲食)

11月調査の結果は、このところの新型コロナウイルス感染症の急激な感染拡大により、飲食を中心として景況感が著しく悪化していることを示すものであった。政策効果の発現による下支えが引き続き期待されるものの、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続く限り、今後も厳しい景況感が続くだろう。
 
 

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山下 大輔

研究・専門分野

(2020年12月09日「経済・金融フラッシュ」)

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