2020年12月10日

ASEANの貿易統計(12月号)~10月の輸出は対米向けが好調も、今後は欧米の感染再拡大を受けて回復ペースは鈍化へ

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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20年10月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)は前年同月比0.9%増(前月:同7.1%増)と低下したものの、2カ月連続で増加した(図表1)。輸出の伸び率は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大と商品価格の下落、国内外で実施された活動制限措置の影響が4月に本格化して急減したが、6月から経済活動の再開を反映して持ち直しの動きが続いている。新型コロナ感染対策によるテレワーク需要の増加を受けて、電気・電子製品の出荷が順調で輸出を押し上げているが、足元では経済再開後の反動増が一巡しつつあるほか、感染が再拡大している欧米向けの輸出停滞が懸念される。

ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、10月は北米向け(同22.9%増)の好調が続いたほか、EU向け(同4.8%増)が2ヵ月連続で増加した(図表2)。一方、東アジア向け(同3.3%減)が再び減少したほか、回復の遅れる東南アジア向け(同14.1%減)が感染対策強化に伴う内需鈍化を受けて低迷した。
(図表1)アセアン主要6カ国の輸出額/(図表2)アセアン6ヵ国仕向け地別の輸出動向
ベトナムの20年10月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比12.2%増となり、前月の同16.6%増から低下したが、2ヵ月連続の二桁増となった。輸出は今年1~2月に旧正月の連休時期のずれを受けて上下に振れた後、4~5月に新型コロナ感染対策として国内外で実施された活動制限措置の影響により落ち込んだが、6月から経済活動の再開を反映して持ち直しが続いている。また輸入額も前年同月比9.2%増(前月:同12.6%増)と低下した結果、貿易収支は+29.4億ドルとなり、前月から0.2億ドル縮小した(図表3)。

輸出を品目別に見ると、まず輸出全体の約2割を占める電話・部品が前年同月比では3.5%増(前月:同4.0%減)とプラスに転じたほか、電気製品・同部品が同20.7%増(前月:同28.9%増)と9ヵ月連続の二桁増となった(図表4)。またアパレル関連では、織物・衣類が同4.7%減(前月:同1.7%減)、履物が同12.3%減(前月:同5.4%減)と、それぞれ減少した。農林水産物を見ると、コーヒー(同4.9%増)と水産物(同10.3%増)、カシューナッツ(同4.5%増)などが増加したものの、コメ(同7.7%減)と野菜(同18.2%減)が減少するなど、品目毎にバラつきがみられた。

輸出を資本別に見ると、地場企業が同7.2%減(前月:同40.9%増)が急減した一方、全体の7割を占める外資系企業が同21.5%増(前月:同5.9%増)と大幅に増加した。
(図表3)ベトナムの貿易収支/(図表4)ベトナム輸出の伸び率(品目別)
タイの20年10月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比6.7%減(前月:同3.9%減)と6カ月連続で減少した。輸出は今年3月から新型コロナ感染拡大の影響が現れて4~6月に大きく減少した後、経済活動の再開を反映して7-8月にやや持ち直したが、足元では頭打ち感がみられる。また輸入額が前年同月比14.3%減(前月:同9.1%減)と7カ月連続で減少した結果、貿易収支は+20.5億ドルとなり、前月から1.8億ドル縮小した(図表5)。

輸出を品目別に見ると、全体の約7割を占める工業製品が同5.5%減(前月:同4.4%減)と7カ月連続の減少となった(図表6)。製造品の内訳を見ると、自動車・部品(同8.7%減)や石油化学製品(同3.5%減)など依然として減少した品目が多いものの、外出自粛の影響で家電製品(同11.9%増)が増加傾向にあるほか、電子機器(同3.5%増)や機械・装置(同7.0%増)など幾つかの品目が増加した。また鉱業・燃料は同36.9%減(前月:同33.0%減)となり、石油製品(同45.4%減)を中心に8カ月連続で減少した。また農産物・同加工品が同3.5%減(前月:同6.5%増)と再び減少した。果物(同24.3%増)や畜産物(同13.8%増)、ゴム製品(同40.8%増)、天然ゴム(同13.1%増)が大幅に増加する一方、加工食品(同15.8%減)やコメ(同20.1%減)、タピオカ(同10.5%減)が減少するなど、品目毎にバラつきがみられた。なお、非貨幣用金(同36.9%減)は2カ月連続で減少した。
(図表5)タイの貿易収支/(図表6)タイ輸出の伸び率(品目別)
マレーシアの20年10月の輸出額(ドル建て換算、通関ベース)の伸び率は前年同月比1.1%増(前月:同14.5%増)と大きく低下した。輸出は今年4~5月に新型コロナ感染拡大と国内外の活動制限措置の影響が本格化して約3割の減少を記録した後、経済活動の再開に伴う反動増を受けて持ち直しの動きが続いている。また輸入額が前年同月比5.1%減(前月:同2.8%減)と低迷した結果、貿易収支は+53.3億ドルとなり、前月から0.4億ドル増加した(図表7)。

輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同3.2%増(前月:同27.4%増)となり、主力の電気・電子製品(同4.0%増)を中心に5カ月連続で増加した(図表8)。また鉱物性燃料は同40.3%減(前月:同29.1%減)と低迷した。天然ガス(同57.3%減)と石油製品(同21.0%減)に加えて、原油(同44.3%増)が減少した。このほか、ゴム手袋(同186.3%増)とパーム油などの動植物性油脂(同48.1%増)の大幅な増加が続いた一方、化学製品が同14.4%減(前月:同1.9%減)と落ち込んだ。
(図表7)マレーシア貿易収支/(図表8)マレーシア輸出の伸び率(品目別)
インドネシアの20年10月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比3.5%減(前月:同0.8%減)とマイナス幅が拡大した。輸出は今年3~5月にかけて新型コロナの感染拡大と国内外で実施された活動制限措置の影響を受けて最大約3割減まで落ち込んだが、6月以降は経済活動の再開を反映して持ち直してきている。一方、輸入額は前年同月比26.9%減(前月:同18.9%減)と低迷しており、貿易収支は+35.8億ドルとなり、前月から11.9億ドル増加した(図表9)。

全体の9割を占める非石油ガス輸出が同1.8%減(前月:同0.1%増)が再び減少したほか、石油ガス輸出が同26.9%減(前月:同16.8%減)と低迷した(図表10)。品目別にみると、自動車・同部品(同15.8%減)や鉱産物(同32.2%減)、織物類(同16.4%減)、機械類(同16.5%減)が低迷した一方、電気機械(同13.2%増)、動植物性油脂(同26.1%増)、プラスチック・ゴム製品(同15.3%増)と好調だった。
(図表9)インドネシア貿易収支/(図表10)インドネシア輸出の伸び率(品目別)
シンガポールの20年10月の輸出額(石油と再輸出除く、ドル建て換算、通関ベース)は前年同月比2.3%減(前月:同6.8%増)と減少した。輸出はコロナ禍でも概ね増加傾向で推移しているが、10月は前月まで好調だった電子製品が失速したほか、石油化学製品の低迷が続くなど勢いを欠いた。なお、総輸出額は同7.9%減(前月:同1.2%減)、総輸入額は同8.6%減(前月:同0.7%減)となり、それぞれマイナス幅が拡大した。結果として、貿易収支が+32.6億ドルとなり、前月から5.0億ドル増加した(図表11)。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別に見ると、まず全体の約3割を占める電子製品が同0.3%増(前月:同22.5%増)と鈍化した(図表12)。電子製品の内訳を見ると、主力のIC(同12.1%減)とPC部品(同0.2%減)が再び減少した一方、PC(同25.8%増)とディスクメディア(同14.5%増)が好調だった。また電子製品と並び全体の約3割を占める化学品は同0.9%減(前月:同16.3%減)と6カ月連続で減少した。化学品の内訳を見ると、医薬品(同3.5%減)が2ヵ月ぶりに増加したものの、石油化学製品(同14.6%減)が低迷した。
(図表11)シンガポール貿易収支/(図表12)シンガポール輸出の伸び率(品目別)
フィリピンの20年10月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比2.2%減(前月:同2.9%増)と低下して2カ月ぶりに減少した。輸出の基調は、今年3月から新型コロナ感染拡大と国内外で実施された活動制限措置の影響が現れて幅広い品目で落ち込んだ後、5月から経済活動の再開を反映して概ね持ち直しの動きが続いている。また輸入額が前年同月比19.5%減(前月:同15.3%減)と大幅な落ち込みが続いた結果、貿易収支は▲17.8億ドルとなり、前月から0.1億ドル改善した(図表13)。

輸出シェア上位10品目を見ると、まず輸出全体の6割弱を占める電子製品が同0.3%減(前月:同0.8%増)と小幅に減少した(図表14)。電子製品の内訳を見ると、電子データ処理機(同3.8%増)と消費者向け電子製品(同12.5%増)が増加した一方、主力の半導体デバイス(同1.0%減)が減少したほか、オフィス機器(同28.2%減)が低迷した。その他9品目については増減まちまちだった。製錬銅(同367.8%増)とその他鉱物製品(76.6%増)、金属部品(同14.9%増)、化学品(同11.2%増)、その他製造品(同8.6%増)は増加が続いた一方、生鮮バナナ(同42.5%減)とイグニッションワイヤーセット(同9.5%減)、雑品(同7.0%減)、機械・輸送用機器(同6.3%減)が減少した。
(図表13)フィリピンの貿易収支/(図表14)フィリピン 輸出の伸び率(品目別)
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2020年12月10日「経済・金融フラッシュ」)

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