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医業の損益状況-収支面で、医療機関の経営状態は安定しているのか?
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
1――はじめに
そもそも、医療機関の損益は、いまどのような状況にあるのか? 以前と比べて、どのように変化しているのか? 本稿では、医業の損益状況について、みていくこととしたい。
2――医業の損益の統計
そんななか、診療報酬改正に先立って改正の方向性を検討するための統計として、2年に1度、「医療経済実態調査」が厚生労働省により行われている。この調査は、全国の医療機関から病院や診療所を抽出してアンケート調査を行う形式となっている。直近の調査結果(2019年11月公表)をもとに、みていこう。
1 医療施設の形態については、「医療施設の設立形態-病院の開設者はどのように分類されるか?」(基礎研レター, 2020年2月3日)、財務会計については、「病院の会計規則-医業の会計には、施設と開設主体の2つの基準がある」(基礎研レター, 2020年2月21日) (いずれも拙稿)を、ご覧いただきたい。
つぎに、費用をみていく。病院、一般診療所とも、給与費が50前後で最大の費目となっている。医療は、医師等のスタッフによるサービス業であることがあらわれている。医薬品費と材料費は、合計すると、病院が22、一般診療所が15程度と、病院のほうがやや大きい。外部への検査等の委託費、建物などの減価償却費は、それぞれ1桁の数字で、いずれも病院のほうがやや大きい。一方、福利厚生費、光熱水費、賃借料などからなる経費等は、病院よりも一般診療所のほうが大きい傾向にある。
以上をあわせて、平均的な損益は、病院が赤字、一般診療所が黒字、となっている。4入院のウェイトが大きい病院は経営が苦しい一方、外来中心の一般診療所は収支が良好との傾向がうかがえる。
2 本稿では、病院については、医業・介護収益に占める介護収益の割合が2%未満の施設の集計結果をみる。また、一般診療所については、青色申告者による個人設立の施設を含んだ集計結果をみる。なお、本稿では、一般診療所には、歯科医業を行う歯科診療所は含まないこととする。
3 図表は、「2018年度」としているが、正確には、2019年3月末までに終了する直近の事業年度を表す。(以下の図表においても同様)。
4 ただし、個人開設の施設では、開設者の報酬分は費用に含まれていないため、損益から捻出する点に注意が必要。
3――損益率分布の変化
そこで、前章のように平均で比較することはあきらめて、損益率ごとに、医療機関がどのように分布しているかを比較することで、変化の様子を捉えることとしたい。
4――おわりに (私見)
ただ一方で、民間が設立主体となることが多い日本の医療供給体制では、一定の収益性を確保して経営の安定性を高めることが、患者ひいては国民の安心感の充足につながることも確かであろう。国公立の医療機関についても、赤字補填等の国民負担を軽減する観点から、経営の収益性を向上させることは必要と考えられる。特に、今後、地域医療を推進していくためには、地域の医療機関が安定して医療サービスを供給していくことが、患者が安心して受療するための必須条件となるだろう。
コロナ禍だけではなく、全国各地で徐々に進む高齢化に伴い、人々の医療ニーズはますます高まっていくものと考えられる。地域医療の質を落とさずに、医業の収益性をどのように確保して、そのニーズに応えていくことができるか。引き続き、動向を注視していくこととしたい。
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
(2020年11月04日「基礎研レター」)
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