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預金の県外流出と地域経済の今後

上智大学 経済学部 中里 透
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このことを考えるには、「お金を貸す」「お金を借りる」というのはどのようなことなのかを改めて確認することが役に立つ。銀行からお金を借りる場合、個人や企業は必要書類を整えて融資の申し込みを行う。銀行の審査を経て融資が可能となれば契約が結ばれ、融資の申し込みをした人の預金口座に融資額と同額の資金(融資代わり金)が入金されることになる。これは貸主(銀行)と借主(融資先)の間の債権債務関係(金銭消費貸借契約)の成立であり、銀行はこの契約に際して融資の元手となるお金を用意する必要はない。融資を実行する際には、借主がその銀行に開設した口座の預金通帳に融資額と同じ金額を記帳しさえすればよいからだ。このようにして貸出が行われると、それと同額の預金が自動的に生み出されることになる。
もちろん、このような形で預金が増えれば、銀行はその金額に法定準備率を乗じた分だけ準備預金を中央銀行(日銀)に積む必要があるし(準備預金制度)、日々のさまざまな資金の受け入れと払い出しの結果としてその銀行に資金不足が生じれば、不足分を調達する必要が生じることになる。だが、そのための資金は、個人や企業から預金の形で受け入れた現金(本源的預金)による必要は必ずしもなく、不足分は銀行間で資金を融通する市場(代表的なものはコール市場)で調達することもできる。
このように書くと、「それではなぜ1980年代頃までは銀行間で熾烈な預金獲得競争が繰り広げられていたのか(上記の説明に従えば、あえて預金集めをしなくても、市場から資金を調達することができたはずではないか)」という疑問が生じるかもしれない。だが、企業の資金需要が旺盛で短期金融市場の資金需給も極めてタイトであったかつての状況と、日銀当座預金に大幅な超過準備があり、コール市場において極めて低い金利で簡単に資金を調達することができる現在の状況には大きな違いがあり、両者を同視することはできない。
もちろん、預金口座に安定的に滞留する預金(コア預金)の残高が十分に確保されることは、金融機関の経営の安定性の確保に大きく寄与するが、そのことは相続に伴う預金の県外流出を懸念する議論とは分けて考える必要があるだろう。
相続との関係で留意すべきなのは、預金の流出というよりはむしろ人口減少とそれに伴う顧客基盤の脆弱化である。預金の県外流出が懸念されるということは、家を継ぐ人がその地域にはいないということを意味するわけであり、そうなると、このような相続が発生する度にその地域の人口が減り、それに応じて資金需要も弱まっていくことになる。
長らく低下傾向にあった預貸率(預金残高に対する貸出金残高の比率)には下げ止まりがみられ、地方銀行についてはここ数年上昇傾向にある。だが、こうした中にあっても預金と貸出の関係が預金超過の状況にあることには変わりがない。都道府県別に最近時点における預貸率の状況をみると(図表1)、地域によって状況はまちまちではあるが(九州・沖縄の各県は総じて高めとなっている)、預貸率は50%ないし60%程度にとどまっているところが多い。預金の県外流出が貸出の元手(原資)となる預金の減少を通じて設備投資などの足かせとなり、地域経済にマイナスの影響がもたらされるという見方については、預金と貸出をめぐるこのような現状も踏まえて再考する必要があるだろう。
(2020年11月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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