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オルタナティブデータで見るオフィス出社率の国別比較-日本は低い感染リスクを考慮してもオフィス出社率が高い

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠
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1――オフィス市況の長期的な見通しを左右するオフィス出社率
ただし、2007年からの世界金融危機に匹敵する急激なオフィス市況の悪化1を見込む声は少ない。吉田(2020)2では、東京都心部Aクラスビルの成約賃料は、2019年末から2024年にかけて▲14%の下落にとどまり、最悪期においても2017年の賃料水準を維持すると予測している。2020年に新規供給されるオフィスビルの多くはテナントが契約・内定済であることに加え3、2021年から2022年の供給が限定的なため、空室率の上昇が穏やかにとどまると予想している。
在宅勤務は、通勤などによる移動時間を節約できるなど様々なメリットがある一方、現在のデジタル技術水準では、コミュニケーションや人材育成などの課題があることも明確になってきている。また、日本では在宅勤務はなかなか馴染まないとの見方も根強い。雇用制度や商慣習、デジタル化の遅れなど企業側の要因に加えて、住宅が狭いなど従業員側の事情もあり、在宅勤務で生産性を保つのは難しいとの声も聞かれる。Lenovoの2020年5月の調査4によれば、日本において在宅勤務はオフィスより生産性が低いと回答した割合は40%と、調査対象10カ国で最も高い結果となっている(図表 2)。
1 世界金融危機時には、三幸エステート・ニッセイ基礎研究所による東京都心部Aクラスビルの成約賃料(オフィスレント・インデックス)は2008年第1四半期のピーク45,513円/坪から2011年第3四半期のボトム19,706円/坪まで▲57%下落した。また、三鬼商事による東京ビジネス地区の平均募集賃料は、2008年8月のピーク22,901円/坪から2013年12月のボトム16,207円/坪まで▲29%下落した。
2 吉田(2020)「「東京都心部Aクラスビル市場」の現況と見通し~新型コロナウィルスの感染拡大を踏まえて見通しを改定」、不動産投資レポート、ニッセイ基礎研究所、2020年5月27日)
3 高田(2020)によると、2020年竣工の延べ床面積1万m2以上の賃貸オフィス14棟のうち、9棟が稼働・内定率100%、3棟が95%以上、1棟が90%以上、1棟が85%以上となっている。
4 レノボ・ジャパン(2020)
5 同データのようなオルタナティブデータは、これまで日本において活用が進んでこなかったが、新型コロナウイルスの感染拡大以降、関心が高まっている。オルタナティブデータとは、経済統計や財務情報などこれまで伝統的に活用されてきたデータ以外の非伝統的なデータの総称である。伝統的なデータと比べて、オルタナティブデータは頻度が高いデータや粒度が細かいデータをタイムリーに取得できることが多い。
6 日本、米国、カナダ、英国、ドイツ、フランス、豪州、シンガポールに加え、アジア太平洋地域の主要な不動産市場でもある香港を加えた。
2――オルタナティブデータで見る主要先進国のオフィス出社率の動向
まず、主要先進国のオフィス出社率の推移を確認する(図表 3)。新型コロナウイルスの感染が世界中に本格的な広がりを見せた2020年3月以降、厳格なロックダウンを実施したフランス9をはじめ多くの主要先進国でオフィス出社率が急低下した。一方、日本は4月6日に緊急事態宣言が発令されたものの、在宅勤務への移行はゴールデンウィークの5月初旬まで緩やかに進んだ。また直近は全ての国で、オフィスへの回帰が徐々に進んでおり、その中でも日本のオフィス出社率が最も高くなっている。
7 住宅については滞在時間、その他カテゴリは訪問者数を示している。
8 以下、本稿では職場の流動人口を、オフィス出社率として分析を進める(2020年1月3日~2月6日の 5週間における該当曜日の中央値=100とする)。ただし、職場の流動人口は、オフィス出社率の水準を正確に表しているわけではないことには留意が必要である。本稿では主要国間の違いや時系列での変化を読み解く指標として利用している。日本のオフィス出社率の水準を推定する上では携帯各社・グループ会社が提供する、スマートフォンの位置情報をもとにした流動人口データが参考になる。例えば、NTTドコモが提供する「モバイル空間統計」では、2020年9月25日時点の大手町や品川エリアの流動人口(過去7日平均)は前年同期比▲35%の水準であり、同エリアのオフィス出社率は6割~7割程度であると推測できる。
9 フランスは3月19日から5月11日にかけてロックダウンを実施した。
10 水野ほか(2020)は、各都道府県の自粛率と感染者数、佐久間(2020a)では、各都道府県の宿泊者数と新規感染者数、佐久間(2020b)では、各都道府県の外出自粛動向と新規感染者数を分析し、全て外出自粛動向が感染者数の対数関数に従うとしている。
3――おわりに
ただし、今後のオフィス出社率の動向は、依然として新型コロナウイルスの感染動向やワクチン・治療薬の開発に左右されるだろう。第二波の最中にある英国では、ジョンソン英首相の在宅勤務要請を受けて、ロンドンでオフィス回帰を進めていた複数の金融機関が計画の停止を余儀なくされている11。このように政府や企業のオフィス出社方針は今後も紆余曲折が予想される。現在のところ、ウイズコロナ/アフターコロナにおける働き方は模索の段階にあり、今後もオフィス出社率やコロナ感染リスクの動向を継続的にモニタリングしていくことが重要であろう12。
11 Bloomberg(2020)
12 今後、本稿で示した図表などを定期的にアップデートし、公表していく予定である。
(2020年09月30日「不動産投資レポート」)

03-3512-1778
- 【職歴】 2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行) 2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX) 2015年9月 ニッセイ基礎研究所 2019年1月 ラサール不動産投資顧問 2020年5月 ニッセイ基礎研究所 2022年7月より現職 【加入団体等】 ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター ・日本証券アナリスト協会検定会員
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