2020年10月05日

投資信託の購入経験がある人と他の特徴との関連

水野 友理那

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昨今、個人投資家の資産形成に資する金融サービスの枠組みが充実しつつある。政府によって取り組まれている内容は、つみたてNISAやiDeCoなどの税制優遇制度だけでなく、販売会社における顧客本位の業務運営の原則の策定、スチュワードシップ・コード策定による機関投資家の経営監視機能の強化など、多岐にわたる。しかし、個人の投資経験者は依然として少なく、金融広報中央委員会の金融リテラシー調査(2019)によると、投資信託の購入経験者は全国平均で27.3%にすぎない。

投資信託の購入経験者と未経験者の特徴に違いはあるのだろうか。金融リテラシー調査(2019)の全国データを利用し、54 種類の特徴(性別、年齢、日常や投資の行動、金融リテラシー問題の正答率など)のうち、購入経験者(商品性の理解あり・なし)、未経験者それぞれと関連性が確認されたものを図表1に示した。購入経験有無の区分ごとの特徴の順序は、最も上にある項目が単独での関連性が最も強く、下に行くにつれて(上の項目にある特徴の影響を取り除いた上で)関連性は徐々に弱まっていく記載とした。
図表1:投資信託の購入経験うむと関連する特徴
図表1における各特徴の「寄与の方向」から、購入経験有無の特徴の違いを確認する。まず、購入経験者(理解あり、理解なし)と購入未経験者のすべてに関連する特徴は、「横並び行動バイアスが強い(◆)」だ。横並び行動バイアスとは、自分の考えとは異なっていたとしても周囲に合わせることを指し、調査項目では、『類似する商品が複数あるとき、自分が「良い」と思ったものよりも、「これが一番売れています」と勧められたものを買うことが多い』に対して「あてはまる」「ややあてはまる」を選択した人が該当する。図表1の結果から、この「横並び行動バイアスが強い」の購入経験者に対する寄与の方向は「+」、購入未経験者に対しては「-」である。これは、横並び行動バイアスの傾向が強いほど、購入経験者である可能性が高く、購入未経験者である可能性が低いことを意味する。

購入経験者(理解あり)と購入未経験者の両方に関連する特徴は、「金融・経済の基礎に関する問題の正答率(★)」、「消費者ローンの利用(●)」だ。「金融・経済の基礎に関する問題の正答率」は、利息・複利計算や物価上昇率と値段の関係(高インフレの時には、生活に使うものやサービスの値段全般が急速に上昇するか)などの基礎的な知識を問う項目の正答率であり、「金融・経済の基礎に関する問題の正答率」が高いほど、購入経験者(理解あり)である可能性が高く、購入未経験者の可能性は低い。また、消費者ローンの利用者ほど、購入経験者(理解あり)である可能性は低く、購入未経験者の可能性は高い。

また、購入経験者(理解あり)は「投資や預金をするときには、お金を損することがあってもしかたがないと思う」傾向が強い。金融・経済に関する情報を収集する段階か、損失を経験した段階か、どの過程で納得できるのかは不明だが、金融リテラシーが高い(金融商品のリスクについて理解がある)ゆえに関連性が強く出ているのではないだろうか。

一方、筆者が意外に思ったのは、購入経験者(理解あり)と「最終学歴が大学・大学院」との関連性が確認されたことだ。15歳を対象とした調査(OECD「PISA2018」)において、金融リテラシーの水準と数学力や読解力との関連性が高いことが確認された1ことから、「金融・経済の基礎に関する問題の正答率」の影響を除くと、「最終学歴が大学・大学院」との関連性はなくなると予想されるからだ。そこで、「最終学歴が大学・大学院」と最も関連する特徴を調べると、「年収1,000万円以上」であることがわかった。投資する原資を確保できるかどうかも重要な要素のようだ。

購入経験者(理解なし)で注意が必要なのは、横並び行動バイアスの傾向が強いにもかかわらず、金融リテラシーの水準との関連性が確認されない点だ。鈴木ほか(2018)2では、「横並びバイアスは金融トラブルに巻き込まれる可能性を高める」一方、「金融リテラシーの高さは株式投資経験者に限ると金融トラブルに巻き込まれる可能性を低めている」ことが指摘されている。商品性を理解せずに購入する人は、金融商品のリスクを把握できないままに金融トラブルに巻き込まれることが危惧される。

他にも、購入未経験者は「自信過剰度(自己評価-実際の正答率)3」「資産形成に関する問題の正答率4」が共に低いという結果から、実際の正答率が低いだけでなく、それ以上に自己評価も低いことがわかる。また、「先行きのためにお金を貯めるより、今お金を使う方が満足感が高いと思う」傾向は弱い点から、購入未経験者は投資する原資がないという訳ではなく、単に投資に対する不安の強さから投資をしていないだけなのかもしれない。
2 鈴木、高橋、竹本「金融教育と行動バイアスが金融行動と金融トラブルへの巻き込まれやすさに与える影響-金融リテラシー調査データを利用した分析」『山形大学紀要(社会科学)』第49巻第1号、2018年
3 対象者自身の金融知識は高いかどうかについての自己評価と、金融リテラシーに関する問題の実際の正答率との差を対象者全体で相対評価した数値。
4 「金融・経済の基礎に関する問題の正答率」同様に金融リテラシーを問う項目の正答率で、1社の株を買うことは、通常、株式投資信託を買うよりも安全な投資であるか、などが出題された。
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水野 友理那

研究・専門分野

(2020年10月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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