コラム
2020年06月18日

金融リテラシーが高い15歳の特徴-PISA「Are Students smart about money?」からわかること

  水野 友理那

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全国の25,000人(18~79歳)に対して行われた金融広報中央委員会「金融リテラシー調査」(2019)によると、学校において金融教育を「行うべき」との意見は67.2%あった。2016年に行われた同調査では62.4%であり、若干ではあるが金融教育を求める声は高くなったと言える。

こうした中、日本の学生の金融リテラシー状況は先進国の状況と比較してどうなのかを見てみたい。具体的にはOECDを中心とするPISAプログラムにより判明した15歳の学生の金融リテラシーの特徴を見て、日本の状況と比較していきたい。

1.PISAプログラムとは何か

PISAプログラムでは、15歳を対象に、国際的な学力調査を3年おきに実施している。読解力、数学リテラシー、科学リテラシーの3分野の調査が中心だが、2012年からは読解力などの主要な調査に加え、金融リテラシー評価も実施してきた。直近、2018年に行われたPISAプログラム(以下、PISA2018)では、金融リテラシー評価を受験した学生は、20ヵ国・地域1の約117,000人だった。試験は、金融リテラシーに関する問題43問を1時間、学生自身に関するアンケート96項目を35分で構成された。残念ながら日本は金融リテラシー評価に参加していない。
 
1 OECD参加国およびパートナーの中から20ヵ国・地域(エストニア,フィンランド,カナダ,ポーランド,オーストラリア,アメリカ,ポルトガル,ラトビア,リトアニア,ロシア,スペイン,スロバキア,イタリア,チリ,セルビア,ブルガリア,ブラジル,ペルー,ジョージア,インドネシア)

2.PISA2018の結果と日本の現状の推定

まず、PISA2018が示した金融リテラシーに関しての分析結果として以下の2項目を説明し、その上で日本の15歳程度の金融リテラシー状況を推定し、分析していきたい。

(1)金融リテラシーの8割は、数学リテラシーもしくは読解力で説明が可能である
(2)金融リテラシーの1割は、社会経済文化的背景で説明が可能である
 
(1)金融リテラシーの8割は、数学リテラシーもしくは読解力で説明が可能である
金融リテラシー評価を受ける学生は、数学リテラシーあるいは読解力に関する試験も受験している。OECD参加国において、金融リテラシースコアとの相関係数は、数学スコアが0.87、読解力スコアが0.83と非常に高かった。この高い相関関係は、金融リテラシー調査が初めて開始された2012年から一貫して観測されている。

日本は、PISAにおいて、数学リテラシーおよび読解力に関する試験には参加している。日本の数学スコア、読解力スコアを用いて、上述の関係から推計してみると、日本の金融リテラシースコアは数学スコアからは544、読解力スコアからは518と推計され、上から数えて、それぞれ2位、5位だった(図表1、日本(比例))。
図表1 金融リテラシーと数学リテラシー、読解力の関係
(2)金融リテラシーの1割は、社会経済文化的背景で説明が可能である
PISAでは、保護者の学歴や家庭の所有物に関する質問項目から、各学生の社会経済文化的背景を指標化し、「ESCS(the index of economic, social and cultural status)」としている。ESCSの数学リテラシーに対する説明力は13.8%、読解力に対しては12.0%だ。同様に、金融リテラシーに対しては10.2%で、数学リテラシーや読解力に対する説明力の8割程度である。この数値だけ見ると、家庭の資産の多さなどは学生の金融リテラシーを特別に高めるわけではないことになる。資産を多く持っている家庭では自然と子供は金融リテラシーが高くなる、と一般的に考えられるが、今回の結果ではその傾向はあまりみられなかった。
図表2 金融リテラシーとESCSの関係
数学リテラシー、読解力と同様に、日本のESCSから推計される日本の金融リテラシースコアは497であり、上から数えて11位だった(図表2、日本(比例))。ESCSから推計される金融リテラシーは数学リテラシーや読解力から推計されたのと違い、先進国の平均とみなせるOECD平均(505)よりもやや低いスコアとなった。

3.PISA2018と日本の調査の類似問題を使っての分析

以上見てきたように、PISA2018が示した金融リテラシーから推計される日本の金融リテラシーはOECD平均より概ね高い傾向にあると予想され、そう悪くない結果となっている。

しかし、残念ながら、日本の実際の調査から推計される金融リテラシースコアは、他の先進国と比べて低く、さらに、PISA2018から推計した日本の金融リテラシーよりもかなり低いと思われる。日本の高校生を対象とした調査、金融広告中央委員会「子どものくらしとお金に関する調査(高校生)」(2015)(以下、子どものくらし調査(2015))では、PISA類似問題4問が出題された。4問の有効回答の正答率と、PISA2018が公表する各問題のスコアから、日本の高校生の金融リテラシースコアを推計すると489となり、上から数えて12位で、OECD平均より低かった(図表3)。

PISAの問題は、金融リテラシー習熟度を5段階で評価できるようになっている。図表3では、各国のレベル別割合を、平均スコアの高い順に左から並べた。子どものくらし調査(2015)から推計される日本のレベル別割合において、レベル4以上の割合は、平均スコア1位のエストニアよりも高く、申し分なかった。一方、レベル1やレベル2に該当する問題の正答率が低い。こうしたレベル2以下の簡単な問題の正答率が低いことが影響して、全体として低い平均スコアになってしまったと考えられる。
図表3 各国の習熟度レベル別割合

4.日本の学生の金融リテラシーが低い理由

こうした日本の学生の金融リテラシーの低さについて、PISA2018で示された金融リテラシーが高い学生の特徴のうち、数学リテラシーと読解力以外の特徴から考察する。

まず、最初に注目すべきは「おこづかいをもらうのに何の前提条件もない」割合が日本は高い点だ。同割合は、日本で71%(子どものくらし(2015)より推計2)、OECD平均で48%(PISA2018)だ。図表4では、横軸各項目の特徴がある学生とそうでない学生との間に生じた金融リテラシースコアの差を示す。なお、男女の性差、移民背景、ESCSなどの違いを勘案してスコアの差分を算出している。金融リテラシーはプラス(ピンク)の項目で高くなり、マイナス(青)の項目で低くなるということになる。PISA2018では、前提条件がなくおこづかいをもらう学生は、相対的に金融リテラシースコアが低かった。従って、「おこづかいをもらうのに何の前提条件もない」割合が高い日本の学生の金融リテラシーは低いと推定できる。

次に注目したのは、「おつりをもらったら、確認している」割合が日本の学生は低い点だ。同割合は、日本で60%(子どものくらし(2015))、OECD平均で86%(PISA2018)であった。PISA2018では、「おつりをもらったら、確認している」学生は、金融リテラシースコアが相対的に高いことが分かっており、「おつりをもらったら、確認している」割合の低い日本の学生の金融リテラシーは相応に低くなると推定できる。
図表4 各特徴のある学生の金融リテラシースコアの高さ
最後に、金融に関する単語を知っている学生が日本では少ない点だ。PISA2018の調査では、複利、分散投資、デビットカード、年金制度といった単語を知っている学生は、相対的に金融リテラシースコアが高かったが、日本は複利、分散投資、デビットカードについて「聞いたことがない」という学生の割合がOECD平均より高かった(図表5)。唯一、年金制度については、ほとんどの学生が「聞いたことがある」と回答した。
図表5 金融知識認知度に関する日本とOECDの違い
参考として、稿末の図表6では、PISA2018で示された金融リテラシースコアの高い学生、低い学生の特徴(95%以上で統計的に有意)を紹介している。

以上のように、実際の日本の学生の特徴を踏まえると、日本の金融リテラシーが低いという理由も解決策も分かるような気がする。

しかし、一方で、子どものくらし調査(2015)から推定した日本の学生の金融リテラシーが低いという理由は別にあるかもしれない。

子どものくらし調査(2015)で出題された問題自体の表記に要因があるとも考えられる。子どものくらし調査(2015)にて出題されたPISA2018類似問題のうち、レベル1、2に該当する問題は請求書に関する問題2問(参照:研究員の眼「あなたの金融リテラシーは高い? ―OECDの問題に基づく15歳に求められる金融リテラシー―」(2020.6.17))だ。この2問の正答率が他国と比べて低かったため、図表3の日本の金融リテラシースコアも低く推定された。PISA2018問題の請求書は、「小計(税別)」「消費税(10%)」「送料」「合計金額」の順序で記載されていた。一方、子どものくらし調査(2015)の問題では、「小計(税別)」「送料」「消費税」「合計金額」の順序で記載され、消費税率は8%となっていた。送料はいくらかという問に対し、子どものくらし調査(2015)の表記では、送料に消費税がかかると考えてもおかしくない順序である。「合計金額」から逆算すればそうでないことはわかるが、直感的にわかるPISAの問題と比べ、やや分かりにくく、他国と比較したとき不利であったかもしれない。

また、子どものくらし調査(2015)の問題数は4問であるのに対しPISAの問題は小問含めて43問と多い点や、子どものくらし調査(2015)が高校ごとに任意で行われた点などから、正答率がどちらかに偏っている可能性もあり、PISA2018での金融リテラシー評価とは単純には比較できない。
 
2 質問項目「『おこづかい』をもらっていますか」に対して「必要の都度もらっている」と回答した学生の割合と、「定期的にもらっている」と回答した学生のうち「おこづかいをもらうのに何の条件もない」と回答した学生の割合の合算値

5.今後に向けて

様々な制約条件はあるものの、結論として、PISA2018と子どものくらし調査(2015)から日本の学生の金融リテラシーについて分析したところ、OECD各国平均より低いと推定される。一方で、金融リテラシーと相関が高いとされる数学リテラシーと読解力について日本の学生はかなり高いことが分かっており、今後のポテンシャルは高いと思われる。

では何故、実際の金融リテラシーが低いのかというと、無条件でおこづかいがもらえておつりを確認しない割合が相対的に多いということと、中学生くらいまでに複利、分散投資、デビットカードといった金融の基本的な知識をあまり習得できていないということが関係しているかもしれない。つまり、実際の生活の中でお金を得る方法を模索する必要もなく、学校で金融を学ぶ機会も少ないということが考えられる。そもそも日本ではお金に関する知識の重要性があまり知られていないのが本質的な問題なのかもしれない。

やはり、大人になった時に困らないような、実生活で役に立つ金融教育を義務教育で充実させることが必要なのだと思う。また、「おこづかい」をどうやって調達するか、といったところから子どもに考えさせさせ、お金の管理をさせることも本人の将来にとって必要なのかもしれない。

稿末の図表6で示されているように、「お金の管理・契約への自信」「お金に関する興味」がある15歳の金融リテラシーは高いとされている。日本では子供にお金を任せるというより、親が管理するというのがおそらく一般的ではあるが、子供を自立させるための金融教育をもっと広めていかなければならないのではないだろうか。
図表6 各特徴のある学生の金融リテラシースコアの高さ(全体)
 
 

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水野 友理那

研究・専門分野

(2020年06月18日「研究員の眼」)

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