コラム
2020年06月17日

あなたの金融リテラシーは高い?-OECDの問題に基づく15歳への金融教育

  水野 友理那

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OECDを中心とするPISAプログラムは、15歳の金融リテラシーに関する調査を2018年に実施した。試験は、金融リテラシーに関する問題43問を1時間、学生自身に関するアンケート96項目を35分で構成された。受験した学生は20ヵ国・地域1の約117,000人であり、金融リテラシーに関する調査としては大規模なプログラムである。

PISAでは、出題問題の難易度に応じて、生徒の金融リテラシー習熟度を5つのレベルに分ける。各レベルに応じた能力を図表1に具体的に示す。レベル1では、日常生活で必要な能力だとし、レベルが上がるにつれて、15歳の日常生活ではなかなか経験しないような出来事にも対処できる能力としている。日常生活で必要な能力を、請求書の読み取りや簡単な演算(加減算)などとし、より高いレベルでの能力に関しては、銀行との取引やローン、複利計算などの理解や高度な対応力が必要とされている。

しかし、正直なところ、どの程度の能力が要求されているのかわかりづらい。そこで、PISA2018の金融リテラシー問題として公開されるサンプル問題から各レベル1問ずつ紹介する2

実際に読者自身で問題を解いてみてほしい。そしてどのくらい正解できたかとか、金融リテラシーを把握するためのテストとはどんなものかとかを体感していただきたい。
図表1 PISA基準金融リテラシーレベル別の特徴
 
1 OECD参加国およびパートナーの中から20ヵ国・地域(エストニア,フィンランド,カナダの一部地域,ポーランド,オーストラリア,アメリカ,ポルトガル,ラトビア,リトアニア,ロシアの一部地域,スペイン,スロバキア,イタリア,チリ,セルビア,ブルガリア,ブラジル,ペルー,ジョージア,インドネシア)
2 PISA2018金融リテラシー試験の一部項目を翻訳、編集した(”Financial Literacy test – PISA”. OECD. http://www.oecd.org/pisa/test/financialliteracytest/ 、“PISA 2018 released financial literacy items”. OECD. http://www.oecd.org/pisa/test/PISA2018-financial-literacy-items.pdf より)(参照2020/5/19)

問題A:請求書
XXさんは、下記の内容の請求書をメールで受け取りました。
問題A:請求書
問1: この請求書がXXさん宛てに送られたのはなぜでしょうか。【レベル1】
(ア)   XXさんはZZ社にお金を支払わなければならないから
(イ)   ZZ社はXXさんにお金を支払わなければならないから
(ウ)   XXさんがZZ社にお金を支払ったから
(エ)   ZZ社がXXさんにお金を支払ったから
 
問2: ZZ社が衣類の配送代金として請求した金額はいくらでしょうか。【レベル2】

問題B:Zサイクル
自転車シェアリングサービス「Zサイクル」がY市に新しく導入されました。利用者は、自転車を借りる停留所と返す停留所を自由に選択できます。Zサイクルを利用するには、年間会員、月額会員のどちらかを選び、会員登録をしなければなりません、会員費はプランによって異なり、乗車1回あたりの時間に応じた追加料金は、月額会員のみ発生します。
問題B:Zサイクル
XXさんは、通勤用と休日用にZサイクルを利用します。XXさんの家と会社の最寄り停留所間を移動するのに自転車で片道45分かかります。また、休日には、月2回、自転車で片道3時間以上の停留所間を移動するのに利用します。
 
問3: XXさんが月額会員の場合、1カ月あたりに払う金額はいくらでしょうか。【レベル4】
 
問4: XXさんがZサイクルを6カ月間だけ利用する場合、年間会員か月額会員6カ月間では、どちらが安くなりますか。また、6か月間でどれほど安くなるかも答えなさい。【レベル5】
 
問5: XXさんが月額会員の場合、XXさんは1カ月後に下記のような請求書を受け取りました。間違っている金額はどれでしょうか。【レベル3】
利用プラン
(ア) 1カ月の会員費:2,000円
(イ) 10回×60分以内利用:1,000円
(ウ) 0回×61-120分利用:0円
(エ) 2回×121分以上利用:2,000円

答えは以下のとおりである。
 
問1:(ア)XXさんはZZ社にお金を支払わなければならないから
問2:1,000円(送料)
問3:3,200円=2,000円(月額会員費)+2回×600円(乗車1回121分以上の追加料金)
問4:年間会員のほうが1,200円安くなる
   月額会員の場合、月3,200円(問3から)×6か月=19,200円
問5:(イ)(60分以内の利用は追加料金がないため0円)
 
請求書の問題は、インターネットショッピングをしたことがない学生にとっては不利になるかもしれない。一般的な実店舗では、商品を買ってその場で支払うため、請求書ではなく領収書が発行されるためだ。実際、PISA2018では、直近12カ月間にインターネットショッピングをした学生はしていない学生よりもスコアが高かった。

Zサイクルの問題は、自転車のシェアリングサービスが都市部で一般的になりつつある昨今の状況を踏まえ、2018年の調査で初めて導入された問題だ。自転車のシェアリングサービス自体は都市部が多いものの、問題の内容は文章や図表を読み取ることと計算能力で解けるため、学生の住んでいる場所等の属性に影響されない問題と考えられる。なお、PISA2018の試験はパソコンで実施されるが、上記の問題で実際に計算を必要とするのはレベル5の問4のみだった。

PISA2018のサンプル問題は、上記以外にも文章や図表の読み取りと計算で解けるものが多い。PISA2018は、金融リテラシースコアの8割は、数学スコアもしくは読解力スコアで説明できることを示した。この結果は、金融リテラシー評価が開始した2012年から観測されている。図表2は、各国の「金融リテラシースコア平均」と「数学スコア平均」もしくは「読解力スコア平均」を比較したものだ。それぞれ、金融リテラシースコアが高い国では、数学スコアまたは読解力スコアが高くなる傾向がある。
図表2 各国の金融リテラシースコアと数学スコア・読解力スコア
確かに、銀行口座を管理するにしても、入出金の結果を概算するための演算が必要となり、各種契約資料を理解するためには、単語や文脈から自分にとって重要なことを正確に把握する必要がある。PISA2018では、金融単語を知っているかについての質問項目もあるが、金融リテラシースコアには反映していない。OECDが金融教育として重要としているのは、単なる金融知識以上に、得る情報をもとに自分にとって有益な行動ができる能力なのではないだろうか。

以上、金融リテラシーの習熟レベルに応じた問題をほんの一部だけ紹介したが、実際に問題を解いてみてどうだったろう。イメージしている金融リテラシーのテストと多少違ったと感じる人も多かったのではないだろうか。もちろん、年代別に求められる金融リテラシーは異なるため、大人向けには単語知識の問題を増やしたり、より複雑な状況を想定したりするなどの工夫が必要である。しかし、OECDの問題はケース問題として場面が具体的に想定されており、金融リテラシーが日常的に問われていたことに気づかされる。

翻って、日本においては金融リテラシーというと難しい専門知識が必要というイメージが強いのではないだろうか。金融という言葉には、複雑な仕組みの金融商品が思い起こされる。加えて、日本では2015年ごろから学校での金融教育が整備されはじめたが、既に成人になった大人たちは金融教育に触れる機会に恵まれず、社会人として必要な常識として、個々で情報を集めざるを得なかった。そのような背景もあり、金融に関する知識について体系的に習得し、金融関係で自分から積極的に適切な対応ができる人は少ない気がする。

本来、金融リテラシーには、家計管理、生活設計、金融商品の利用、金融・契約トラブルの対処法などが含まれる。個人のお金に関する課題を個々人で合理的に考え、それぞれの項目に対し適切に対処できることが望ましい。しかし、現状の日本ではまだまだ充分に対処できているとはいえない。例えば、日本人は堅実だと言われることもあるが、意外にも家計管理の考え方は他の先進国と比べて甘い。金融広報中央委員会「金融リテラシー調査」(2019年)によると、「お金に関する長期計画の策定3」「将来に向けた貯蓄の選好4」は先進国よりも低い(図表3)。
図表3 家計管理に関する望ましい行動・考え方をする人の割合(日、英、独、仏)
低いと言われて久しい日本の金融リテラシーを今後どのように向上させていくべきかを考える上で、今回紹介した実際の問題と解答は、金融リテラシーはどうあるべきかということを含め、今後のヒントを与えてくれるような気がする。
 
3 質問項目「お金を貯めたり使ったりすることについて、長期の計画を立て、それを達成するよう努力する」に対して「あてはまる」「ややあてはまる」と回答した人の割合
4 質問項目「先行きのためにお金を貯めるより、今お金を使う方が満足感が高いと思う」に対して「あてはまらない」「ややあてはまらない」と回答した人の割合
 
 

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水野 友理那

研究・専門分野

(2020年06月17日「研究員の眼」)

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