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2020年01月08日
年金運用においては、基本資産配分を策定する方法として、平均分散法が良く利用されている。平均分散法は、リスクの抑制とリターンの獲得のバランスから、投資家にとって最適な資産配分を特定する方法のひとつだ。平均分散法で考慮するリスクは、リターンのブレ(標準偏差)である。運用期間が長期に及ぶ年金基金では、ポートフォリオ全体のリスクを推定する際、多くの場合、各資産のリスク、相関係数の過去の長期データを用いている。
なお、年金基金における基本資産配分の策定では、過度な利回りの下振れを抑制することも重要だ。実際の運用収益が予定利率を大きく下回った場合、母体企業は追加負担をしなければならない。母体企業の財務状況に悪影響を及ぼしかねないため、負担額に耐えられる範囲(許容リスク)に応じて、基本資産配分を策定する必要がある。しかし、平均分散法だけでは、基本資産配分の下振れリスクをどの程度抑制できるのかについては勘案できない。そのため、下振れリスクは、追加的に把握する必要がある。
下振れリスクを定量化する手法の1つに、「リターンが何%以下になる確率」を表す方法がある。平均分散法におけるリターンの平均と標準偏差を用いて、正規分布に従うことを前提に、下振れリスクを計算することも可能だ。しかし、実際の下振れリスクは、正規分布を想定して算出した下振れリスクより高くなる可能性がある。
実際のデータを用いて、「リターンがマイナス10%以下となる割合」を計算してみた。評価対象は、国内株式と外国株式を50%ずつ均等に組み入れたポートフォリオ(以下、均等ポートフォリオ)、国内株式100%、外国株式100%である。マイナス10%以下の割合について、実績値と、同期間におけるリターンの平均・標準偏差を用いた正規分布を想定した理論値とで比較したところ、いずれも、実績値の方が高かった(図表2)。実際のリターンは、正規分布ではなく、マイナスの分布が厚いことが示されている。
なお、年金基金における基本資産配分の策定では、過度な利回りの下振れを抑制することも重要だ。実際の運用収益が予定利率を大きく下回った場合、母体企業は追加負担をしなければならない。母体企業の財務状況に悪影響を及ぼしかねないため、負担額に耐えられる範囲(許容リスク)に応じて、基本資産配分を策定する必要がある。しかし、平均分散法だけでは、基本資産配分の下振れリスクをどの程度抑制できるのかについては勘案できない。そのため、下振れリスクは、追加的に把握する必要がある。
下振れリスクを定量化する手法の1つに、「リターンが何%以下になる確率」を表す方法がある。平均分散法におけるリターンの平均と標準偏差を用いて、正規分布に従うことを前提に、下振れリスクを計算することも可能だ。しかし、実際の下振れリスクは、正規分布を想定して算出した下振れリスクより高くなる可能性がある。
実際のデータを用いて、「リターンがマイナス10%以下となる割合」を計算してみた。評価対象は、国内株式と外国株式を50%ずつ均等に組み入れたポートフォリオ(以下、均等ポートフォリオ)、国内株式100%、外国株式100%である。マイナス10%以下の割合について、実績値と、同期間におけるリターンの平均・標準偏差を用いた正規分布を想定した理論値とで比較したところ、いずれも、実績値の方が高かった(図表2)。実際のリターンは、正規分布ではなく、マイナスの分布が厚いことが示されている。
さらに分析すると、リターンがマイナス10%以下の月では、均等ポートフォリオで想定される分散投資効果は効いていなかった。理論上、均等ポートフォリオのリターンがマイナス10%以下となる割合は、国内株式、外国株式どちらよりも低くなるような、分散投資効果が効くはずである。しかし、実績では、均等ポートフォリオの当該値は、外国株式と同程度、国内株式より高かった。
分散投資効果が効かなかったのは、一時的に、国内株式と外国株式の相関係数が高く変化したからだ。両資産の相関係数は、2006年1月以降の全期間においては0.83であったのに対し、均等ポートフォリオのリターンがマイナス10%以下の月のみで計測した場合は0.97だった(図表3)。平均分散法では、リスク特性をリターンの標準偏差だけで表し、これは、両資産の相関係数がリターンの水準に関わらず全期間一定であることを前提としている。実際、図表2の均等ポートフォリオの理論値は、両資産の相関係数を0.83として計算したものである。過度な下振れ期では相関係数が高くなるため、平均分散法では十分に対応しきれないと言える。
分散投資効果が効かなかったのは、一時的に、国内株式と外国株式の相関係数が高く変化したからだ。両資産の相関係数は、2006年1月以降の全期間においては0.83であったのに対し、均等ポートフォリオのリターンがマイナス10%以下の月のみで計測した場合は0.97だった(図表3)。平均分散法では、リスク特性をリターンの標準偏差だけで表し、これは、両資産の相関係数がリターンの水準に関わらず全期間一定であることを前提としている。実際、図表2の均等ポートフォリオの理論値は、両資産の相関係数を0.83として計算したものである。過度な下振れ期では相関係数が高くなるため、平均分散法では十分に対応しきれないと言える。
平均分散法は、効率的な資産配分を特定するツールとして有用である。しかし、過度な下振れ期には、各資産の標準偏差が高まる可能性があること、分散投資効果が低くなるという2つの事実が、平均分散法の前提と異なる。下振れリスクを平均分散法に基づき計算すれば、この相違により、過少に評価される可能性がある。このように、下振れリスクを平均分散法のみで定量的に把握するには限界があるため、別途の判断が必要になる。例えば、下方リスクを適切に評価するために、過去の最大損失が発生したイベントを再現したときの損失額を評価する方法などがある。あるいは、相場急落時において、標準偏差や資産間の相関係数が高くなる場合に備えて、損失額をある程度高く想定するなどの手法も考えられる。
(2020年01月08日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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