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- 株式リターンの平均回帰と年金運用
赤が出た後により出やすいのは赤か、黒か。「統計」はこうした賭けの役に立つのか。残念ながら、過去の統計は役に立たない。トランプに仕掛けがなければ、赤が出る確率も黒が出る確率もいつも同じだからである。このようにそれまでの経緯とは無関係に、同じ確率分布が繰り返される状況を独立同一分布と呼ぶ。そうではなく、赤が出た後にもう一度赤が出る、あるいは反対の黒がより多く出る傾向があれば、分布に系列相関があると言う。
では資産のリターンは独立同一分布なのか、それとも系列相関があるのか。実際に内外株式のリターンをみると独立同一分布ではなく、系列相関が見られる。すなわち、数ヶ月単位でみると平均より高いリターンがしばらく続き(トレンド)、その後数年の単位では反対に低いリターンが現れる(平均回帰)傾向がある。平均回帰といっても出現までの明確な期間はなく、数年のうちには反対の値動きが出現するといった程度の確実さである。そうではあっても、この平均回帰が「株式が年金のような長期投資家に適している」とする議論の重要な根拠になる。具体的に長期の年金資産運用にはどのような示唆があるのか。
第1に平均回帰のない、独立同一分布の場合よりも、株式への配分が高まる。一例として債券・株式の2つの資産に投資する投資家の効用が、以下の式(1) によって決まるとする。期待リターンが高いほど効用が大きく、分散(リスク)とリスク回避度が大きいほど小さい、標準的な形である。この場合、債券と株式の期待リターンが1%、6%、標準偏差が4%、20%、相関が0、リスク回避度λを2.0とすれば、効用を最大化する配分は債券66%、株式が34%である。ところが、図表1のように平均回帰によって株式の標準偏差が18%、16%になれば、最適な株式への配分が41%、52%に増加するのである(債券への配分は59%、48%)。なお、株式ほど平均回帰が見られないので、債券の標準偏差は一定としている。
ただし、損失発生確率が低下することだけで、長期間の投資ほど株式が有利といえるかどうかは経済学上の議論がある。期間がn倍になると、債券・株式の期待リターンがn倍、(共)分散もn倍になる。したがって、(1)式の効用関数が変わらなければ、2つの資産の最適な構成は1期間の場合と変わらないのである。直感的に言えば、(ア)債券など株式以外の資産のリスク(標準偏差)も同様に低下し、(イ)長期投資により損失が発生する確率は小さくなっても、期間に応じてバリューアットリスクなど損失が発生した場合の額が大きくなる、からである。
他方で平均回帰はポートフォリオのリバランスにもメリットをもたらす。リバランスの第1の目的は株価の上下などによって変動した資産配分を、基本ポートフォリオ(最適資産配分)に戻すことにある。その上で平均回帰があると、リバランスにより高く(安く)なった株式を売って(買って)おけば反対の値動きが起こるので、リスク当たりのリターン(運用効率)を改善することができる1。リバランスルールの策定においてもリターンの平均回帰を考慮に入れるべきであろう。
最後にリターンの平均回帰のメリットを定量的につかむ方法に何があるのか。一例として、過去の分布(経験分布)を使う移動ブロックブートストラップ法と呼ばれるシミュレーションがある。これは、(ア)期待リターンだけを修正した、過去に出現した複数期間・複数資産ごとのリターン群に番号を振り、(イ)発生させた乱数と同じ番号のリターン群を引いてくる、手法である。毎期のリターンの独立を前提とする標準的なシミュレーションにこうした方法を加えて、基本ポートフォリオやリバランスルールを策定する際の参考にしてはどうだろうか。
1 リバランスにはこの他、ポートフォリオを構成する各資産の幾何平均リターンの加重平均値よりもポートフォリオのリターンを大きくする効果(リバランス・ボーナス:年金ストラテジーVol.219参照)がある。
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(2019年04月03日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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