コラム
2019年09月24日

ファイナンスの世界での様々なファンタジー~精緻な理論の本当の実力~

金融研究部 専務取締役 部長 CFA   安孫子 佳弘

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株式市場等のファイナンスの世界を研究対象にする「ファイナンス理論」は数学が高度に応用されて発展し、投資実務でも幅広く使われているが、数式を多用するものが多く、論理的かつ精緻であり、難解なものも多い。そのため、投資をあまり知らない人からは極めて科学的に見えるらしい。

しかし「ファイナンス理論」は数学を高度に活用しているものの、物理の法則とは異なり、そもそも正確な株価予測等はできないのであるが、案外誤解している人も多いようだ。

そこで「ファイナンス理論」がどのように発展し、構築されているかを踏まえて、その特徴を知り、実際に投資をする上で、どのように利用すべきかについて考えてみたい。

まず、最初に「ファイナンス理論」がどのように発展して来たかを振り返ってみたい。

1――「ファイナンス理論」の発展

「ファイナンス理論」の誕生は実質的には1952年のモダンポートフォリオ理論で、歴史は結構浅いが、その後、コンピューターの性能向上とともに凄まじい発展を遂げている。

最初にルイス・バシュリエの「投機理論」(1900年)は言及すべきであろう。ファイナンスに数学を応用した最初と言われている。株価変動をブラウン運動を用いて説明した。

ファイナンス理論の始まりはマーコウィッツの「ポートフォリオ選択理論」(1952年)と言われている。リターンに加え、リスクを標準偏差、その2乗である分散とし、銘柄数を増やすことで分散効果リスクが減少するとした。マーコウィッツはノーベル賞を受賞。この理論は現在でも「モダンポートフォリオ理論(MPT)」として活用されている。

コーポレートファイナンス分野でのモジリアーニとミラーの「MM(エムエム)理論」(1958年)も重要である。MM理論のMMは二人の名前のイニシャルである。この理論も数式を多用し、税金の無い世界では企業の借入や新株発行等の資金調達行動は企業価値に関係なく、また配当をどれだけ出すかの配当政策も企業価値には関係ない。企業価値に関係するのは資産サイドの生産活動であるとした。この二人もノーベル賞を受賞。

そして有名なウィリアム・シャープの「CAPM理論」(1964年)。キャップエムと呼ばれる資本資産価値モデル。投資家が期待する株価収益率を簡単な数式で表現した。簡単に言うと、株式市場の平均リターン(正確にはリスクフリーレートを引いたリスクプレミアム)とどのくらい連動するかで、特定の株式銘柄の期待収益率は決まるという考え方である。CAPMは現在でも実務で幅広く活用されている。シャープもノーベル賞を受賞。

その後も各種理論が数多く提唱された。各企業の株価には公開情報が速やかに反映されるというファーマの効率的市場仮説(1970年)。デリバティブの価格を比較的簡単な式で表現したオプション価格理論(1973年)。この理論はブラック・ショールズ(・マートン)と投資実務で言われることが多い。ショールズとマートンがノーベル賞受賞。

CAPMと並び重要だと思われるのがスティーブン・ロスの裁定価格理論(Arbitrage Pricing Theory=APT、1976年)。各種マルチファクターモデルの理論的基礎となっている。

その後も様々なファイナンス理論が登場したが、紹介しきれないので割愛する。

2――「ファイナンス理論」の特徴

○数学の活用と大まかな仮定
「ファイナンス理論」は科学であるので、論理的でなければならない。実際、各種理論では多くの仮定を置いて論理的な整合性を図り、数学を活用し、モデルが構築されている。「ファイナンス理論」の特徴は数学やモデルの活用と「大まかな仮定」にあると思う。

「ファイナンス理論」は実際の投資で活用されることが多いため、実務的に活用できるように、実用的で簡単な式で一義的に結果が出ることが優先される傾向がある。

そのため、使い勝手が良い簡単な式になるように結構「大まかな仮定」が置かれることが多い。例えばCAPMのβ(ベータ)を過去60ヶ月の実績から算出するケースの場合、今後の株価推移は過去60ヶ月と同じと暗黙上仮定しているが、実はこの仮定が正しいとは限らない。また、各種資産価格推計モデルも過去データから価格を推計する場合がある。例えば、株価リターンの分布を正規分布と仮定することが多いが、実際の株価リターンの分布が正規分布であるとは限らない。ただ、正規分布を前提すると平均と標準偏差の2つで分布が定義でき計算が便利なので、特段不具合がない限り、実際の分布と大して違わないとして正規分布と仮定する。

最近はコンピューターの性能アップとともに簡単な式でなくとも、より複雑なモデルを構築することも可能となっている。しかし、過去のデータを用いて、将来を予想するモデルにおいては、まず例外なく「過去と未来が同じ」もしくは「理論やモデルの背景に物理法則のような再現性のある法則(真理・真実)が存在する」ことを大胆に仮定している。

「ファイナンス理論」では、過去データの観察や直感等により、相関関係等の法則性を見出し、様々な仮説を立てるが「大まかな仮定」なので、実はそれほど再現性は高くない。ある程度の再現性があり、因果関係がそれなりに論理的に説明でき、多くの人が納得すれば、実際に投資の世界で活用されていくことになる。
 
このように、「ファイナンス理論」には、実際は違うのだが大胆で大まかな仮定を置いて、その上で数学を活用し、精緻な理論やモデルで計算するという特徴がある。
○将来の正確な予測は不可能
以上のように、「ファイナンス理論」は数式を活用し、複雑で難解なモデルも多いため、見た目は精緻で正確なように見えるが、そもそも前提や仮定が大まかなので、精緻なモデルを使っても、結果は大雑把なものとなる。「ファイナンス理論」で不特定多数の人間の行動を正確に予測できるはずもなく、ある特定資産の将来価格やリターンを推定はできるが、それほど正確に当てることはできない。今後の株価を予想するのはやはり難しいのである。

しかし、「ファイナンス理論」があまり役に立たないということを言いたいわけではない。「ファイナンス理論」は少なくとも投資判断、リスク管理にとっては必要不可欠で有益なものである。ただ、万能ではないので、使い方を間違ってはならないし、予測可能性に関しては過度な期待はすべきではないということである。

また、特定の投資理論に基づくモデルに従い投資を行うと、より多くの投資収益が得られるという情報が拡散した場合、多くの人がそれは良いと、同じようなモデルを活用しはじめる。すると徐々にその投資モデルでは特段の収益を得ることができなくなり、有効性がなくなったりする。特定の理論やモデルが普及することで研究対象である投資等に影響が及ぶという特徴は、将来の投資予測を一層困難にしている。
○皆が信じると現実化する
一部の投資実務分野では、多くの人が特定の「ファイナンス理論」に基づく価格が正しいと信じることにして納得すると、その価格で取引が成立してしまうということがある。

例えば、デリバティブでオプション理論のブラック・ショールズ方程式を用いると特定のデリバティブの価格は一定の範囲内に収斂する。同じ計算式であれば、誰が計算しても同じ結果になるということである。実際の投資実務ではデリバティブの価格はブラック・ショールズを用いることが多く、このことで価格の交渉や相互確認も効率的になっている。ファンタジーの世界のように、皆がそれで良いと信じることにすると、それが現実化してしまうのである。この特徴は取引実務効率の必要性から生まれており、人為的に価格の安定性、予想可能性を高くしているものと解釈できる。

また、「ファイナンス理論」とは言えないが、世界的に有名な投資家が、ある会社は素晴らしいと言って株式を買うと、多くの投資家が追随し、株価が上がったりするし、株価のチャートで株価は底値だとのサインが出て、多くの人がそれを信じて株を買えば、株価は上がる。皆が信じれば現実化するというのもファイナンスの世界のファンタジーである。

3――「ファイナンス理論」の正しい活用方法

○物理の法則のように扱ってはならない
投資の世界では、より良い投資をするために、先人の知恵が集約された多くの「ファイナンス理論」が投資現場で実際に幅広く活用されている。

投資の世界でプロとして従事する人は、多くの場合、「ファイナンス理論」に加え、経済学や会計等の勉強をする。会社によっては「証券アナリスト」や「CFA」等の資格を取得することが求められる。勿論、そのような資格がなくても投資実務はできるが、プロとして投資の世界で活躍するには、一定レベル以上の専門的な知識は必須となる。

こうした知識習得の過程で学ぶ「ファイナンス理論」の考え方、各種数式・モデルは、新しく学ぶ者にとって新鮮な知識であり、刺激を受けることも多いであろう。

しかし、こうした「ファイナンス理論」の教本における各種数式には、
(1)定義上100%正しい金利の複利計算式等や取引慣行上ほぼ正しい数式
(2)CAPMのように「大まかな仮定」を置いて推計する数式
等が混在している。両者は峻別すべきである。後者(2)はあくまで推計式であり、再現性はあまり高くないので、物理の法則のように扱ってはならない。
 
数式を活用し精緻に見える「ファイナンス理論」を使えば、特定株式銘柄の株価のボトムやピークをかなり正確に予想できるはずというのは、ファンタジーであり、思い違いだ。できるはずと思う人も、明日のサッカーの試合や競馬の結果を正確に当てるのは無理というのは理解できるのではないだろうか。それであれば人間の行動の結果である明日の株価を当てることも無理だと感覚的に分かるのではないだろうか。

尚、最近流行りのAIを活用すれば、人間より上手な株価予想が可能となるかもしれない。但し、AIを活用しても市場平均より高い収益を継続することはやはり難しいと思う。

AIは人より早く情報を入手し、大量のデータをより速く分析し、合理的な投資判断をすることが可能なので、AIの活用可能性はかなり高いと思われる。しかし、そもそもファイナンスの世界では将来の予測は正確にできないし、同様のAIが普及していけば、超過収益の機会は無くなっていくので、AIを使っても特段に良い投資成果は期待できないと思う。
 
投資のプロの世界では、素晴らしい投資成果を挙げるモデルを開発する努力が続けられているが、投資モデル構築でも間違った「ファイナンス理論」の活用方法が見受けられる。例えば、過去から現在までのデータを全て使い、素晴らしい成果が出るモデルができたと勘違いするオーバーフィッティングという問題である。こうしたモデルでは過去の高い相関関係はあるが、再現性が検証されていないため、今後本当に役に立つかは分からない。

本来であれば、過去データのうち最近の部分を用いずにモデルを開発し、残った最近のデータで慎重にモデルの有効性を検証すべきものだ。より確実なのは実際に投資運用し実績を積み検証することだ。この観点で言うと、余談だが、実際の投資家向けの運用実績表示においても、シミュレーションなのか実際の運用実績なのかは、小さい文字での注記ではなく、もっと大きく目立つように投資家に表示すべきであると思う。
○「美味しい儲け話」はファンタジー
ファーマの裁定価格理論(APT)で示された「裁定」という考え方はファイナンスでの基本的な考え方として重要である。これは証券市場では、投資家がリスクに見合う以上の高いリターンを長期に亘り得ることがないように裁定が働き、各資産のリスクプレミアムやリターンが決まるという理論である。リスクが同じ証券でリターンが異なれば、リターンの高い証券が買われ、価格が上昇してリターンが下がり、リターンの低い証券が売られ、価格が下がりリターンが上がり、結局同じリターンになるということである。簡単に言うと、投資では基本的に等価交換が原則なので「美味しい儲け話」というのはファンタジーであり、理論上は存在しないということである。
 
現実の世界でも裁定取引を行うアービトレイジャー(裁定取引業者)が活躍することで、同じようなリスクの資産や資産の組み合わせは同じような値段になっていく。実際の取引でも時間差や取引場所の違いがあるので、全く同じ資産であっても価格が違うことがある。アービトレイジャーはそれを見つけて裁定取引で利益を得ようと競争している。
 
結局、「ファイナンス理論」の正しい活用方法とは、より良い投資成果を目指すが、短期的に大きな成果は期待せず、長い目で成果を見守りつつ、逆に、将来の正確な予測は難しいので、今後の様々なリスクに備えるということなのだと思う。

4――最後に

ファイナンスの世界はとても面白い。皆が利益を求めて創意工夫し、熾烈な競争をしている。何らかの新しい投資手法で人より投資を上手くやろうと多くの人が頑張っている。でも新しい投資手法の多くは短命である。長期間に亘って素晴らしい投資成果を挙げることは極めて難しい。多くのプロが目を光らせ、良い手法はあっという間に普及していく。または普及した手法の裏をかき、利益を得るチャンスを得ようとする投資家も出てくる。それでも多くのプロが新しい投資手法を求め、あきらめずにチャレンジしている。

こうしたファイナンスの競争の中で重要なのは、健全な競争を担保するための公正なルールと投資家への投資内容の分かりやすい情報開示だと思う。一部の投資家が不公正な利益を得たり、一部の金融業者が自分の利益を優先し、一般投資家に不十分な説明で不適切な投資をさせて損させるようなことは許されるべきでない。

また、投資家向けの投資内容の開示も引き続き改善が必要だと思う。運用業者側のリスク説明義務が重いためなのだろうが、投資に関する注意書きがやたら多く細かすぎ、投資を良く知らない人には難しすぎる。目標リターン(不明も明示)、最大損失予想もしくは元本損失確率(不明も明示)、手数料等、もっと大事なことを簡潔に明記すべきだと思う。
 
再三の繰り返しになるが、普通の投資家にとっては「リスクに見合う以上の高いリターン」を得る投資の機会は、まず存在しないと考えた方が良い。一般の人が「美味しい儲け話」で騙されるというニュースを聞くたびにとても残念に思う。勿論、騙す方が悪いのだが、一般の人に「美味しい儲け話」は来ないはずなので、こうした怪しい話には警戒心を持って対応する必要があるのに、何故、騙されるのかと思ってしまう。

そこまで怪しくなくとも、「過去実績を見ると損することがない素晴らしい投資」というのも、投資の内容を良く見てから判断すべきだ。少なくとも、シミュレーション上の実績なのか、実際に投資した実績なのか、手数料はどのくらいなのか、どのような時に損が発生し、その場合どのくらいの損失になるのかは、必ず確認すべきだ。

加えて、それぞれの個人投資家は、収入や保有資産規模、年齢や性別、家族構成、普段の性格、投資するときの性格等が違う。従って、各人にベストな資産運用というのは本来、他人には分かるものではないし、自分自身でも分からない人が多いと思う。

従って、各人にとってベストな投資とか資産構成というのはファンタジーなのだと思う。そんなことは簡単に分かるはずがない。投資の将来の結果は事前には予測できないので、投資の判断をする際に十分検討し、これで良いと自分で納得するしかない。
 
結局、ファイナンスの世界では、自分自身で基本的なファイナンスの知識を勉強し、信頼できる専門家に相談して、自分が信じることができる資産運用を自分で決めるしかない。ファイナンスについて何も知らないのであれば、「貯蓄から投資」のトレンドに乗っかるのは危険だと思う。政府が何を言おうと投資に手を出すべきではない。

やはり、投資の制度や仕組みをある程度は勉強して、専門家と意味のある会話ができて初めて、専門家との信頼関係が醸成できるのだと思う。「ファイナンス理論」を知っていても、将来の正確な予測はできない。しかし、知っているのと知らないのでは、人生において極めて重要な「老後の生活資金の確保」のための資産運用、投資選択等の実際の場面で本当に大きな差が出ると思う。

一人でも多くの人、特に若い人が、基本的なファイナンスの知識を勉強し、少ない額でも良いので、税制上優遇されている企業型DC、iDeCoの確定拠出年金やNISA、つみたてNISA等で株式投資等の実践経験を積んでいくことを心より願いたい。
【参考】
-「60歳を迎えて老後の生活資金を考える-お得な年金受取方法と資産運用とは何か-」
  2019年01月08日(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=60495?site=nli)

-「投資判断でのAI活用はどのくらいできるのか~自動車の自動運転と比べて~」
  2017年10月04日(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=56824?site=nli)
 
 

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金融研究部   専務取締役 部長 CFA

安孫子 佳弘 (あびこ よしひろ)

研究・専門分野
資産運用、運用リスク管理

(2019年09月24日「研究員の眼」)

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