2020年09月18日

資金循環統計(20年4-6月期)~個人金融資産は株高・給付金・消費減の影響で3月末比55兆円増と急回復、現預金は過去最高に

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.個人金融資産(20年6月末):前年比では34兆円増

2020年6月末の個人金融資産残高は、前年比34兆円増(1.8%増)の1883兆円となった1。年間で資金の純流入が42兆円あったが、今年1-3月の株価急落などによって、時価変動2の影響がマイナス8兆円(うち株式等がマイナス6兆円、投資信託がマイナス1兆円)発生したことで、残高がやや目減りした。

一方、四半期ベースで見ると、個人金融資産は前期末(3月末)比で55兆円増と大幅に増加した。増加額は現行基準で遡れる2005年以降で2番目の規模にあたり、残高もコロナ前の2019年12月末(1893兆円)に次ぐ過去2番目の水準を回復した。例年、4-6月期は一般的な賞与支給月を含むことから資金が純流入となるうえ、特別定額給付金の支給3や緊急事態宣言発令等に伴う消費の大幅減少もあって、例年を大きく上回る30兆円の純流入となった。また、経済活動の再開や世界的な金融緩和を受けて株価が急回復したことで、時価変動の影響がプラス24兆円(うち株式等がプラス16兆円、投資信託がプラス6兆円)発生し、資産残高を押し上げた(図表1~4)。
(図表1) 家計の金融資産残高(グロス)/(図表2) 家計の金融資産増減(フローの動き)
(図表3) 家計の金融資産残高(時価変動)/(図表4) 株価と円相場の推移(月次終値)
(図表5)家計の金融資産と金融純資産 なお、家計の金融資産は、既述のとおり4-6月期に55兆円増加したが、この間に公的金融機関からの借入など金融負債が2兆円増加したため、金融資産から負債を控除した純資産残高は53兆円増の1538兆円となった(図表5)。

ちなみに、例年7-9月期は一般的な賞与月を含まないことから、個人金融資産への資金流入がほぼ途絶える。ただし、今年は7月以降も特別定額給付金の支給が続いた一方で消費は戻り切らず、株価がさらに上昇していることから、現時点の個人金融資産残高は6月末と比べてやや増加している可能性が高い。
 
1 今回、年次遡及改訂に伴い、2005年以降の値が遡及改定されている。
2 統計上の表現は「調整額」(フローとストックの差額)だが、本稿ではわかりやすさを重視し、「時価(変動)」と表記。
3 総務省によれば、5月以降、6月26日までに予算額12.73兆円のうちの9.12兆円が支給された。

2.内訳の詳細:「貯蓄から投資へ」の動きは進まず

4-6月期の個人金融資産への資金流出入について詳細を確認すると(図表6)、既述の通り、賞与や特別定額給付金の支給、消費の減少によって現預金が大幅な純流入(積み増し)となり、現預金残高は1031兆円と過去最高を更新した。内訳では、流動性預金(普通預金など)への純流入が例年の3倍近くに達したほか、現金も増加が顕著になっている(図表7)。一方、定期性預金では、純流出が続いている。
(図表6)家計資産のフロー(各年4-6月期)/(図表7)現・預金のフロー(各年4-6月期)
(図表8)流動性・定期性預金の個人金融資産に占める割合/(図表9)外貨預金・投信(確定拠出年金内)・国債のフロー
なお、定期性預金からの純流出は18四半期連続となっており、この間の累計流出額は50兆円に達している。一方で、この間の流動性預金への資金流入は137兆円に達しており、6月末残高(514兆円)は前年比で約10.2%も高い水準にある。直近の流動性預金の急増には、既述のような特殊要因も影響しているが、コロナ前から6%前後の高い伸びが続いていた。この結果、流動性預金が個人金融資産に占める割合は27.3%と過去最高を更新している(図表8)。

預金金利がほぼゼロであるにもかかわらず、引き出し制限があって流動性の低い定期性預金からの資金流出には歯止めがかかっていない。定期性預金の残高は未だ411兆円もあるため、今後も大幅な資金流出が避けられない情勢にある。これまで受け皿となってきたのは主に流動性預金だが、今後、定期性預金の資金の行く先に変化(株や投信、消費など)が出てくるかが注目される。
 
なお、リスク性資産への投資については、代表格である株式等が0.7兆円の純流出(前年同期は0.8兆円の純流出)となった。個人投資家は基本的に逆張りスタンスであるため、株価回復局面で利益確定売りが優勢になったと推察される。一方で、投資信託は0.04兆円の純流出とほぼ動きなしであった(図表6)。

その他リスク性資産では、企業型確定拠出年金(401k)内の投資信託は堅調な資金流入が続いているものの、純流入額は1-3月期を下回った(図表9)ほか、対外証券投資は純流出となった。一方で、外貨預金が純流入に転じたものの、総じて、リスク性資産への投資が活発化したとは言えない。既述の通り、4-6月は個人金融資産への資金流入(積み増し)が進んだものの、大半は流動性預金に滞留しており、「貯蓄から投資へ」の動きは見られない(図表9)。

3.その他注目点:企業の現預金が過去最高を更新、日銀の国債保有シェアも過去最高に

(図表10)部門別資金過不足(季節調整値) 4-6月期の資金過不足(季節調整値)を主要部門別にみると(図表10)、特別定額給付金の支給や消費の減少によって、家計部門の資金余剰が大幅に拡大(4.2兆円→18.3兆円)する一方で、家計や企業への各種給付金支給などの影響で政府部門の資金不足が大幅に拡大(▲3.9兆円→▲19.0兆円)した。それぞれ、資金余剰・不足の額は過去最高となる。

なお、長らく資金余剰が続いていた企業部門は、4-6月に資金不足(6.0兆円→▲1.0兆円)に転じている。政府や自治体からの各種給付金があったものの、緊急事態宣言発令に伴う売上の急減が響いたと考えられる。
(図表11)民間非金融法人の現預金・借入・債務証券残高 6月末の民間非金融法人のバランスシートにおける借入金残高は454兆円、社債等の債務証券残高は83兆円と、それぞれ3月末から32兆円、7兆円増加した。新型コロナの拡大に伴って資金繰り悪化への対応や手元資金積み増しの動きが広がったことで、企業債務は急増している(図表11)。

こうした借入等の増加や政府・自治体からの給付金受給の結果、現預金残高は308兆円と3月末から29兆円増加し、初めて300兆円を突破している。
(図表12)民間非金融法人の対外投資額(資金フロー) なお、4-6月期の民間非金融法人による対外投資状況(フローベース)を確認すると、対外直接投資は3.9兆円と、1-3月期の3.0兆円を上回った。近年の平均レベルでもあり、堅調を維持している4(図表12)。また、昨年10-12月から1-3月にかけてマイナス(売り越し)となっていた対外証券投資もプラス(買い越し)に転じている。

コロナ禍にあっても、今のところ日本企業の前向きな海外投資スタンスに大きな変化は見られない。
政府による経済対策の財源として国債増発が行われた結果、国庫短期証券を含む国債の6月末残高は1170兆円(3月末比40兆円増)と急増した。主な経済主体の保有状況を見ると(図表13)、預金取扱機関(銀行ほか)の保有高が3月末比13兆円増の164兆円(シェアは0.6%上昇)、海外部門の保有高が同5兆円増の150兆円(シェアは0.03%低下)と、それぞれ増加した。海外部門の保有高は預金取扱機関に肉薄していたが、預金取扱機関の増加幅が海外部門を大きく上回ったことで、再び差が開いた。海外投資家は円を調達する際に上乗せ金利を得られる状況が続いてきたため、マイナス金利の日本国債へ投資してもトータルでプラス利回りが確保できていた。このことが、従来、海外勢による積極的な日本国債投資を促してきたわけだが、4月以降、上乗せ金利が低迷したことが海外勢による日本国債投資の抑制要因になったと考えられる。

なお、日銀の国債保有高は521兆円と3月末から21兆円増加し、全体に占めるシェアも44.5%(3月末は44.2%)と過去最高を更新している。政府の国債増発に呼応する形で、日銀が国庫短期証券を中心に国債買入れを積極化したことが背景にある。
(図表13)預金取扱機関と日銀、海外の国債保有シェア/(図表14)公的年金の株・対外証券・国債投資(資金フロー)
なお、GPIFなどの公的年金は、4-6月期に対外証券を1.0兆円買い越した(図表14)。買い越し額は1-3月期の4.9兆円を下回るものの、長期にわたって買い越しが続いている。GPIFは今年4月から外国債券への投資割合を従来の15%から25%へと引き上げたことを受けて(代わりに国債の割合を引き下げ)、4-6月にも外債の積み増しを続けたとみられる。なお、上場株式も1-3月に続いて買い越しとなっている。
 
4 2019年1-3月期の対外直接投資額は10.6兆円と突出しているが、これは国内製薬大手による総額6兆円の大型海外M&A完了という特殊要因が影響したものと推測される。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2020年09月18日「経済・金融フラッシュ」)

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