2020年09月14日

女性の通勤時間に見るリモートワークの少子化対策への貢献可能性

保険研究部 准主任研究員 岩﨑 敬子

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1――同居の子の有無の通勤時間への影響の男女差

分析に利用したデータは、全国の 18~64 歳の男女被用者を対象2にしたニッセイ基礎研究所独自のWEBアンケート調査である。回答期間は2020年2月28日~3月25日。回答数は5,594件。回答は全国 11 地区の性・年齢別の分布を2015年の国勢調査の分布に合わせて収集した3。このデータを用いて性別及び同居の子の有無別の片道通勤時間の分布を確認したものが図1である。まず、同居の子がいない場合は、男女で通勤時間の分布に大きな違いは違いは見られない。しかし、女性の間では同居の子がいると同居の子がいない場合に比べて通勤時間が短い傾向が見られる。一方で男性は同居の子がいると同居の子がいない場合に比べて通勤時間が長い傾向が見られる。このことは、同居の子の有無の通勤時間への影響が男女で不均一であることを示唆する。
図1. 性別及び同居の子の有無別の片道通勤時間の分布
しかし、上記の分布の比較では、通勤時間と同居の子の有無の両方に影響を与えていると考えられる年収や健康状態等の影響を考慮できていないことから、同居の子の有無の通勤時間への影響を捉えることはできていない。そのため、通勤時間の変数を被説明変数にした順序プロビットモデルを用いて、年収や健康状態等を調整した上での同居の子の有無の通勤時間への影響を検証した。推計結果は表1の通りである。コントロール変数を入れた推計で、男性の間では子の有無と通勤時間の間に有意な関係は見られない一方(列2)、女性の間では同居の子がいる人の通勤時間が短い傾向が確認できる(列4)。これは、女性は同居の子を持つことで通勤時間が長い仕事の継続を諦めていたり、同居の子がいる場合には通勤時間が短くなるように考慮して職業選択を行ったりする傾向があることを示唆する結果である。
表1. 同居の子の有無と通勤時間
 
2 株式会社クロス・マーケティングのモニター会員
3 「第2回被用者の働き方と健康に関する調査」
 

2――リモートワーク普及の少子化問題への貢献可能性

2――リモートワーク普及の少子化問題への貢献可能性

ニッセイ基礎研究所の独自調査のデータ分析から、女性は子を持つと通勤時間が長い仕事の継続を諦めたり、通勤時間が短い職業を選択したりする傾向が示唆された。このことは、リモートワークの普及が、女性の出産離職率を下げたり、同居の子を持つ女性の職業選択の幅を広げたりすることで、少子化による労働力不足の改善につながる可能性があることを示唆する。また、女性の働く時間の柔軟性は出生率の向上につながる可能性があることがこれまでの研究で明らかになっている4ことから、リモートワークの普及は働く時間の柔軟性を通して出生率の向上にも貢献する可能性がある。さらに、リモートワークによって男性の通勤時間が短縮されれば、男性の家事育児への参加時間の確保につながる可能性がある。男性の家事・育児参加についても出生率の向上につながる可能性があることがこれまでの研究で明らかになっている5。つまり、新型コロナ感染症対策として拡大するリモートワークは、女性の社会進出を通した少子化による労働力不足の改善への貢献の他、働く時間の柔軟性と男性の育児参加の増加による出生率の向上を通しても少子化対策に貢献することが期待できるであろう。
 
4 Kinoshita & Guo 2015
5 荻原, 2012; Kinoshita & Guo 2015

参考文献
 
Kinoshita, Y. & F. Guo (2015) Female Labor Force Participation in Asia: Lessons from the Nordics. RIETI Discussion Paper Series 15-E-102.
 
有留順子, 小方登(1997)「性差からみた大都市圏における通勤パターン-大阪大都市園を事例として-」人文地理 第49巻 第1号.
 
荻原里紗(2012)「結婚・出産前後の女性の生活満足度・幸福度の変化―「消費生活に関するパネル調査」を用いた実証分析―」慶応大学出版会.
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保険研究部   准主任研究員

岩﨑 敬子 (いわさき けいこ)

研究・専門分野
応用ミクロ計量経済学・行動経済学 

経歴
  • 【職歴】
     2010年 株式会社 三井住友銀行
     2015年 独立行政法人日本学術振興会 特別研究員
     2018年 ニッセイ基礎研究所 研究員
     2021年7月より現職

    【加入団体等】
     日本経済学会、行動経済学会、人間の安全保障学会
     博士(国際貢献、東京大学)
     2022年 東北学院大学非常勤講師
     2020年 茨城大学非常勤講師

(2020年09月14日「基礎研レター」)

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