コラム
2020年08月13日

コロナ禍でも正常化に向かう投信市場~2020年7月の投信動向~

金融研究部 主任研究員 前山 裕亮

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新設ファンドに大規模、資金流入

2020年7月の日本籍追加型株式投信(ETFを除く。以降、ファンドと表記)の推計資金流出入をみると、外国株式に6,000億円を超える資金流入があった【図表1】。国内株式などからは資金流出していたものの外国株式の資金流入が大きかったため、ファンド全体で6月の1,300億円の資金流出から7月は5,100億円の資金流入となった。7月の流入金額は2020年に入って最大であり、ファンド全体への流入金額が5,000億円を超えたのは実に2018年10月以来のことである。

7月は久々の大規模な資金流入となり、投信販売が好調であったといえよう。そんな7月に投信販売を牽引したのが新設ファンドであった。7月に新規設定された32ファンドで6,300億円の資金を集めた。6,300億円のうち5,400億円は7月に資金流入が突出して大きかった外国株式の新設ファンドへの資金流入だった。
【図表1】 2020 年7月の日本籍追加型株式投信(除くETF)の推計資金流出入
個別でみても7月に資金流入が大きかったファンド10本のうち4本(赤太字)が7月に新規設定されたファンドであった【図表2】。特に、「グローバルESGハイクオリティ成長株式ファンド(為替ヘッジなし)」は4,000億円をこえる資金流入があった。環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)を意味するESGは、どちらかというと年金基金といった機関投資家に注目されているテーマであるため、個人投資家だけでなく機関投資家の資金も加わり資金流入が一段と膨らんだ可能性がある。
【図表2】 2020 年7月の推計純流入ランキング

正常化に向かう投信市場

このように7月に新設ファンドが人気を集めたのは、コロナ禍でも投信市場が徐々に正常化に向かいつつあることの表れなのかもしれない。新規設定されたファンドの本数は、4月から6月にかけて毎月10本前後と3月以前と比べて明らかに少なかった。それが7月は新規設定されたファンドが32本と増え、コロナ禍以前と変わらない本数が新規設定された。さらに大規模な資金流入があった新設ファンドは対面(非ネット)が主な販路であったことから、4月や5月に対面営業が自粛されていたが、7月は以前と変わらない営業活動が再開されていたことがうかがえる。
 
ただ、投資家の立場から考えると大規模な新規設定は、あまり望ましくない面がある。それはファンドの新規設定に応募して一括購入すると、当然、投資するタイミングが設定日に集中してしまうことになるためである。どんなに優れた運用を行っているファンドでも、基準価格が一本調子で右肩上がりに上昇していくことはなく、短期的には需給等の市場環境の影響を大きく受ける。やはり長期投資であったとしても、購入(投資)するタイミングを設定日などに一極集中させず、日にちを空けて数回に分けて購入するなど、ある程度は分散した方が無難だと思われる。
 
7月に新設された外国株式ファンドに大規模な資金流入があったことは、時間分散という観点が投資家もしくは販売側にあまりなかった可能性がある。仮に個人投資家が前のめりで一括購入を希望した場合でも、販売側は数回に分けて購入することを提案してほしいところである。投信市場が正常化しつつあることによって、改めて以前からの問題が浮き彫りになったといえる。

既設ファンドからは資金流出

7月は新設ファンドを中心に大規模な資金流入があったが、既設ファンドに限ると資金流出していた。既設ファンドからの資金流出は1,200億円と6月の1,900億円と比べると縮小したが、2カ月連続の資金流出であった。

その中で外国株式の既設ファンドには大規模な資金流入があったが、既設のアクティブ・ファンドに限ると金額こそ小さいが資金流出していた。外国株式では既設ファンド全体では800億円弱の資金流入であったが、既設のインデックス・ファンドに800億円を超える資金流入があり、既設のアクティブ・ファンドは100億円の純流出であった。
 
個別にみると既設の外国株式のアクティブ・ファンドの一部は引き続き人気で100億円以上の資金流入があるファンド(青太字)もあった【図表2】。ただ、その一方で大きく資金流出しているファンドには外国株式のアクティブ・ファンド(青太字)が多かった【図表3】。外国株式のアクティブ・ファンド以外にも「ひふみプラス」や「グローバル3倍3分法ファンド」(赤太字)など、大規模な資金流出があったファンドの多くが2017年から2019年初にかけて投資家の人気を集めたファンドである。
 
このように過去に投資家の人気を集めたファンドの資金動向からは、2年や3年といった期間で売買してしまう投資家が多いことがうかがえる。販売会社には新設の投資信託を重点販売するだけでなく、投資家に分散投資や長期投資の重要性を説き、啓蒙していくことも期待したい。
【図表3】 2020 年7月の推計純流出ランキング

金関連ファンドが好調

7月にパフォーマンスが良好であったファンドをみると、金価格が上昇していることもあり金関連ファンド(黄太字)が好調であった【図表4】。また、中国の景気回復期待から中国本土株などが7月上旬に大きく上昇したため中国株式ファンドの一部(赤太字)も好調であった。その他、ハイテク系や医薬系などのテーマ型の外国株式ファンド(青太字)の一部も高パフォーマンスであった。
【図表4】 2020 年7月の高パフォーマンス・ランキング
 
 

(ご注意)当資料のデータは信頼ある情報源から入手、加工したものですが、その正確性と完全性を保証するものではありません。当資料の内容について、将来見解を変更することもあります。当資料は情報提供が目的であり、投資信託の勧誘するものではありません。
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金融研究部   主任研究員

前山 裕亮 (まえやま ゆうすけ)

研究・専門分野
株式市場・投資信託・資産運用全般

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和総研入社
    2009年 大和証券キャピタル・マーケッツ(現大和証券)
    2012年 イボットソン・アソシエイツ・ジャパン
    2014年 ニッセイ基礎研究所 金融研究部
    2022年7月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」 客員研究員(2020・2021年度)

(2020年08月13日「研究員の眼」)

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