2020年07月31日

バイデン大統領は誕生するか(1)経済政策-バイデン元副大統領が経済政策を発表。“Build Back Better“「より良い復興」をスローガンに、トランプ大統領に挑む

経済研究部 主任研究員   窪谷 浩

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1――はじめに

新型コロナ対策や全米規模に拡大した反人種差別デモ対応の不手際などから、トランプ大統領が支持率を落とす結果、民主党の大統領候補となることが確実視されているバイデン元副大統領の支持率はトランプ大統領を10%ポイント程度上回っている1。このため、未だ予断を許さないものの、11月の大統領選挙まで100日を切る中で、バイデン大統領が誕生する可能性が俄かに現実味を帯びてきた。

バイデン候補は、“Build Back Better”「より良い復興」をスローガンとする経済政策を7月9日以降順次発表している。同氏は新型コロナで米経済が大きな打撃を受ける中、経済を元に戻すだけでは不十分で、将来に向けて新型コロナ流行前よりも良い経済を実現する、との思いを「より良い復興」のスローガンに込めたとしている。

本稿では一連の経済政策についての概要をまとめた。これから大統領選挙に向けて選挙活動が本格化する中、今後もバイデン候補の動向について逐次情報発信する予定だ。
 
1 リアルクリアポリティクスによる7月9日~24日の支持率平均
 

2――“Build Back Better”「より良く復興」をスローガンとする経済政策

2――“Build Back Better”「より良く復興」をスローガンとする経済政策

1|経済政策に4本の柱、5百万人の新規雇用を創出
バイデン候補は、従前から経済政策に言及してきたものの、大統領選挙に向けた正式な経済政策案は、7月9日に発表した“Build Back Better” 「より良い復興」である。

「より良い復興」を初めて公表した演説でバイデン候補は、米国が直面している危機として、「新型コロナの大流行」、「経済」、「人種正義」の3つを挙げると共に、目前に迫った将来の脅威に備え、国家の根本的な不平等や、貧富の差の拡大に対処する上で、これらの危機が国家にとっての大きなチャンスでもあると主張した。

一方、「より良い復興」は大きな政策項目として、米製造業への投資、環境・インフラ投資、教育・介護、人種平等の4本柱で構成されている(図表1)。それぞれの政策項目について、バイデン候補は政策概要を演説や選挙用のHPを通じて順次発表しており、7月28日のデラウエア州で4本目の柱となる人種平等政策に対する演説で政策提言の全容が明らかになった。

バイデン候補はこれらの経済政策を実現することで、新型コロナで喪失した雇用に加え、新たに500万人の雇用が創出されるとしている。
(図表1)
2製造業・テクノロジー企業への投資:米国製品や研究開発に4年間で7,000億ドル投資
7月9日に経済政策の第1段として、製造業・テクノロジー企業支援策や、政府調達における優先的に米国製品を購入するバイ・アメリカン政策を含む“Made in All of America”「すべての米国製」の概要が発表された。

「すべての米国製」は、「米国製品の購入」、「米国で作る」、「米国のイノベーション」、「全米に投資する」、「米国のために立ち上がる」、「米国を供給」の6項目から成っている(図表2)。
(図表2)
これらの政策のうち、政権発足後4年間で政府調達を4,000億ドル増額し、電気自動車や先端技術分野などで米国製品を購入するとしているほか、研究・開発(R&D)や電気自動車、5G、AIなどにも3,000億ドル投資するなど、合計7,000億ドルを米国製品や研究開発に投資することが目玉となっている。

また、通商政策では中国その他の国による為替操作、反競争的ダンピング、国有企業の乱用、不公正な補助金などの不公正な貿易慣行に対して、積極的な貿易執行措置をとるとしている。もっとも、トランプ政権とは異なり、制裁関税を通商交渉手段とすることは否定しており、同盟国などと協調的かつ効果的な戦略をとるとしている。

さらに、新型コロナの感染で米国内の医療現場で個人防護具(PPE)が不足したことなどを踏まえ、医療品などの重要な製品の生産を中国やその他の国に依存しないように、重要なサプライチェーンを米国に戻すことも掲げた。
3環境・インフラ投資:4年間で2兆ドルを投資。35年までに炭素排出ゼロの発電を目指す
7月17日に経済政策の第2弾として、「近代的で持続可能なインフラと公平なクリーンエネルギーの未来を築く」とのタイトルで環境・インフラ投資政策が発表された。

環境・インフラ政策案では、「近代的インフラの構築」、「21世紀を勝ち抜ける米自動車産業」、「2035年までに炭素排出ゼロの電力セクターの実現」、「エネルギー効率化のための建設投資」、「クリーン・エネルギーイノベーションへの投資」、「持続可能な農業」、「環境正義と公正な経済機会の確保」の7項目を示し、今後4年間で2兆ドルを投資するとしている(図表3)。
(図表3)「近代的で持続可能なインフラと公平なクリーンエネルギーの未来を築く」計画の概要
環境・インフラ投資計画では、道路や公共交通網、ユニバーサル・ブロードバンドアクセスなど従前からあるインフラ投資に限らず、気候変動対策として戦略的に電気自動車やクリーンエネルギー投資が重視されている所に特徴がある。

電気自動車では、普及を促進するために全米に充電施設を50万ヵ所設置することや連邦政府の公用車300万台を電気自動車に切り替える方針が示された。さらに、個人向けにも電気自動車への買い替えを促す奨励金を支給する方針を盛り込んだ。バイデン候補は連邦政府が持つ購買力、研究開発、税制、、貿易、投資政策など、あらゆる手段を用いて米国を電気自動車の製造に必要な素材や部品も併せて世界的なリーダーにすることを目指している。

電力セクターでは2035年までに炭素排出ゼロを目指すとしており、エネルギー効率やクリーンエネルギーの基準を新たに設け、基準を満たす電力事業者に対して税控除などの税制優遇を与えるとしているほか、太陽光パネルや風力発電タービンなどの再生可能エネルギーに積極的に投資する方針を示している。また、クリーン・エネルギーイノベーションへの投資として、前述の政府調達(4,000億ドル)を蓄電池や次世代素材、エネルギー設備の開発に充当することが示されている。

一方、エネルギー効率化を向上させるために、商業用建物400万棟を対象にエネルギー・空調システムを刷新することなどを盛り込んだ。また、家庭向けにもエネルギー効率の高い家電製品の買い替えやエネルギー効率の高い窓の設置などに現金給付や低利融資を提供するとしている。
4教育・福祉:子育て支援、高齢者・障害者介護支援に10年で7,750億ドル支出
7月21日に経済政策の第3弾となる教育・福祉政策の概要が発表された。教育・福祉政策では今後10年間に子育て支援に3,250億ドル、高齢者介護に4,500億ドルと合計7,750億ドル支出するとしている。

子育て支援では3~4歳児向け保育の無償化や新しい保育施設の建設に資金提供するほか、低所得層向けに育児のための最大8,000ドルの税額控除を創設することなどを提案した。

また、高齢者・障害者介護ではメディケアの元で自宅や地域で介護を受けられていない80万人に対して、州政府へ資金支援を行うことで地域医療従事者を追加するとしている。また、家族の介護を支援するための、5,000ドルの税額控除と社会保障控除も含まれる。

一方、バイデン氏はこれらの財源として不動産投資家向けの税制優遇の見直しなど、高所得者層への課税強化で賄うとした。
5人種平等:人種的マイノリティ―を支援するために税額控除などを活用
7月28日に経済政策の第4弾となる人種平等政策が発表された。人種平等政策では、制度的な人種差別に対処し、人種的平等を推進するとし、人種的マイノリティを経済的に支援するための連邦政府との請負契約や税額控除などの政策を示した。

人種的マイノリティが所有するビジネスへの支援では、連邦政府との請負契約を現在の5%から15%に3倍に引き上げるほか、経済政策第1弾で提示された3,000億ドルの研究開発投資のうち、人種的マイノリティによるビジネスに300億ドルを充当することなどを盛り込んだ。また、黒人やラテン系のコミュニティに対して、1,000億ドルの低金利ビジネスローンを提供することも提示された。

一方、人種的マイノリティ―の資産形成を支援するために、低所得者が最初の家を購入する際に15,000ドルの税額控除を提供することや、1人当たり10,000ドルの学生ローン免除や収入が12.5万ドル未満の家庭に対し、公立大学の学費を免除することも盛り込まれた。
 

3――経済政策の評価

3――経済政策の評価

「より良い復興」としてこれまで提示された政策をみると、中間層や人種的マイノリティ―を支援するための政策や、環境・インフラ投資など従前の民主党が重視する政策項目が並んでいる。

一方、米国製品や米国での研究開発に7,000億ドルを投資するなど、多分にトランプ大統領が掲げる「米国第一」を意識した経済ナショナリズム的な要素も盛り込まれており、経済ナショナリズム的な政策からトランプ大統領を支持する有権者にもアピールする内容となっている。もっとも、通商政策などでは中国の知的財産権侵害に対して同盟国と協調して対峙することも示されており、トランプ大統領の孤立主義的な政策とは一線を画していると言えよう。

また、「より良い復興」では政府調達の増額や、インフラ投資の拡大をはじめ、総じて連邦政府の歳出を増加させる提案が並んでいるものの、財源については高所得者層や企業に対する課税強化の方向性は示されているだけで、包括的な財源案について示されていない。新型コロナに伴う経済対策などから米国の財政状況は急激に悪化しており、米経済に与える影響も含めて、増税による財源確保が可能か、大統領選挙に向けて議論が深まろう。

今後、より詳細な経済政策が明らかになってくるとみられるものの、これまでバイデン候補が提示した経済政策は、増税や環境などの規制強化が盛り込まれていることから、バイデン大統領が誕生する場合には、米資本市場はネガティブに反応する可能性が高い。また、米経済への影響も短期的にはネガティブなものとなろう。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

(2020年07月31日「基礎研レター」)

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