2020年07月31日

放射線の画像検査への活用-放射線医療の現状 (前編)

保険研究部 主席研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任   篠原 拓也

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4――放射線検査の種類

放射線を用いた検査には、いくつかの種類がある。一般には、人間ドックなどで肺や胃などの臓器を撮影する検査がなじみ深いところだろう。ほかにもケガで骨折の疑いがあるときの骨・関節撮影、歯科診療所での歯科撮影、乳がん検診で行われるマンモグラフィ検査など、よく知られた検査がある。これらの検査を受けると、少量ながら被曝する。被曝量についてまとめると、次表のとおりとなる。

(なお本章では、放射線を用いないMRIや超音波検査も、比較の観点からみていくこととする。)
図表6. 検査で受ける放射線量 (例)
1|一般撮影はさまざまな部位の検査に使われる
「X線検査」や「レントゲン検査」として、一般の人になじみ深い検査は、「一般撮影」と呼ばれる。X線で、胸部、腹部、骨・関節部などを撮影する。撮影では、X線を当てる部分の体の後ろに、フィルムや検出器25を置いて、体内を透過したX線を検出する。検出した部分は、黒く写る。X線が吸収された白い部分と、透過した黒い部分の白黒の画像で、体内の様子を見ることができる。

鮮明な画像を得るために、グリッドが用いられることもある26。グリッドは、コンプトン散乱により、X線が体内の病変等に当たって発生する散乱線がフィルムを感光して、画像がぼやけることを避ける。身体とフィルムの間に設置して、身体を直接透過したX線だけをフィルムに感光させる27,28

一般撮影は、さまざまな部位の検査に行われる。胸部を撮影する「胸部単純X線撮影」や、骨折の有無や変形などを撮影する「骨・関節撮影」が代表的な検査といえる。
 
25 イメージングプレート(IP)や、フラットパネルディテクター(FPD)のこと。IPは、フィルムと異なり繰り返し使用可能。FPDはデジタル画像として撮影後すぐに見ることができる。FPDは感度がよく被曝量が低減できるため、導入が進んでいる。
26 従来より行われてきたフィルムを感光させる方式では、体内を透過したX線がフィルムをも透過してしまうことを避けるため、蛍光塗料を主成分としたプラスチックなどの増感紙をフィルムの後ろに密着して設置することが一般的。X線が増感紙に当たると、蛍光を発し、フィルムを感光する。実際の撮影で、X線がフィルムを直接刊行するのは10%程度で、残り90%は増感紙の蛍光による感光とされている。<<p82>>
27 なお、グリッド線自身がフィルムに写ることを避けるために、グリッドを高速で動かしながら撮影する「ブッキー撮影台」という装置もある。
28 グリッドを使用した場合、グリッドによる吸収を考慮して、X線を多く出す必要があり、その分、被曝量が多くなる。一般に、手や足などあまり厚みのない部位の撮影では、被曝量を少なくとどめるために、グリッドは用いないことが多いとされる。
2|撮影室までの移動が困難な入院患者にはポータブル撮影が行われる
X線撮影室まで移動することが困難な入院患者に対して、病室に、移動型X線診断装置やポータブル撮影装置を持ち込んで撮影する。撮影時には、対象の入院患者から発生する散乱線により、撮影に従事した職員や周囲の患者が被曝してしまうリスクがある。また、グリッドが使用できないため、鮮明な画像が得られないことがある。

3|マンモグラフィ検査では、被曝量がある程度多くなる
マンモグラフィ検査は、乳がんの検査法として浸透している。乳房専用のX線撮影装置により、片方ずつ乳房を撮影する。撮影には、光電効果の強い低エネルギー(25~35kV)のX線を使用するため、被曝量は多くなる。また、通常、アクリル板を用いて乳房を圧迫することで、乳腺組織の重なりを少なくして、鮮明に病変を撮影する29

マンモグラフィ検査は、装置の設置台数が増えており、それを上回る勢いで受検者数が伸びている。
図表7. マンモグラフィ検査装置の設置台数と受検者数の推移
 
29 アクリル板による圧迫は、X線の被曝量を少なくすることにもつながる。ただし、圧迫により、受検者が痛みを伴うことがある。痛みの緩和のために、撮影前に深呼吸をしてもらったり、肩の力を抜いてもらったりすることが行われる。
4|X線透視検査では、体内を観察しながら撮影する
X線を用いて体内を透視し、リアルタイムに観察しながら撮影するものがX線透視検査である。受検者に、バリウムや発泡剤などの造影剤を服用してもらったうえで行う、上部消化管造影検査(胃透視)が代表的なものといえる。そのほかにも、大腸造影検査(注腸検査)、子宮卵管造影検査、関節造影検査、脊髄腔造影検査などが行われる。通常、検査で受検者が受ける実効線量は、一般撮影よりも多い。

5|CT検査で胸部や腹部を撮影するときは、両腕を頭側に挙げる
CT検査(コンピュータ断層撮影)30は、X線を使って身体の断面像を撮影する。CT装置といわれる、X線発生装置(X線管球)とX線検出器を相向かいに設置したドーナツ状の装置の穴の部分に、受検者の身体を入れていく。撮影部位や検査室の関係などから、頭部から入れる場合と足部から入れる場合がある。X線管球とX線検出器の組が、ドーナツ内を1回転すると、1枚分の断面像が得られる。鮮明な画像を得るために、頭部や頸部の撮影の場合を除いて、受検者の両腕を頭側に挙げて撮影する。

CT装置の種類として、受検者が横たわる寝台を、1枚ごとに移動させて何回も撮影する「ノンヘリカルCT」と、寝台を一定速度で動かして複数枚の断面像を撮影する「ヘリカルCT」がある。ヘリカルCTのうち、検出器を1列に設置するものを「シングルスライスヘリカルCT」、複数の列に配置するものを「マルチスライスヘリカルCT」という。近年、マルチスライスヘリカルCTの導入が進んでいる。

撮影法の種類としては、造影剤を用いない「単純CT」のほかに、ヨウ素造影剤を静脈内に注射したうえで撮影する「造影CT」がある。単純CTは、肺や骨の形態、組織の浮腫などの撮影に用いられる。造影CTは、主に血管の撮影に用いられる。

CT検査は、設置台数、受検者数とも年々、増加している。
図表8. CT装置の設置台数と受検者数の推移
 
30 CTは、Computed Tomography(コンピュータ断層診断)の略。
6|血管連続撮影検査では、アームの位置や角度を自由に動かして撮影が行われる
血管連続撮影検査では、受検者が横たわる寝台に対して、天井のレールから吊り下げられたアームの一端にX線発生装置、他端に大きな検出器が設置される。アームの位置や角度を自由に動かすことにより、さまざまな撮影が可能となる。

アームとX線発生装置と検出器が1セットの「シングルプレーン撮影装置」や、2セットの「バイプレーン撮影装置」がある。バイプレーン撮影装置は、同時に2方向からの透視や撮影ができるため、血管構造を立体的にとらえることができるという。

また、カテーテルと呼ばれる細い管を血管内に挿入して、造影剤を注入して撮影することもある31

血管連続撮影装置の設置施設数は、近年、若干微減傾向にあるが、受検者数は徐々に増加している。
図表9. 血管連続撮影装置の設置施設数と受検者数の推移
 
31 血管連続撮影検査を行う血管撮影室では、血管撮影のほかに、心臓カテーテル検査などの検査や、ペースメーカー植え込み術、動脈内薬剤投与、血管塞栓術、ステント挿入・血管拡張術などの治療を行うこともある。
7|核医学検査では、臓器や組織の機能が検査できる
核医学検査(RI検査32, アイソトープ検査)では、テクネチウム-99m33などの放射性同位元素を含む薬剤を使って、受検者の特定の臓器・組織の機能の検査が行われる。受検者に薬剤を投与した後、しばらくすると、標的臓器にその薬剤が集まってくる。薬剤中の放射性同位元素が発する放射線(γ線)を、ガンマカメラでとらえて画像化する。このような放射性同位元素の分布状態を画像化する検査法は、「シンチグラフィ」と呼ばれる。シンチグラフィとして、代表的なものを2つみておこう。34

(局所脳血流シンチグラフィ)
核医学検査により、頭部の断面像を撮影する。脳の血流機能の変化をとらえる検査であり、形態の変化をみるCT検査やMRI検査よりも、早期に脳梗塞などの異常を画像化できるというメリットがある。

(骨シンチグラフィ)
核医学検査により、骨の無機質の代謝を画像化する。代謝機能の変化をとらえる検査であり、カルシウムが増減した後の様子を写し出す一般撮影よりも、早期に病変が検出できる利点がある。

核医学検査の設置台数や受検者数は、近年、減少傾向にある。その背景として、核医学検査と同様、臓器や組織の機能をみるための検査である、PET検査装置が普及してきたことにより、一部の核医学検査がPET検査に置き換わっていることが考えられる。
図表10. 核医学検査装置の設置台数と受検者数の推移
 
32 RIは、Radio Isotope(放射性同位元素)の略。
33 テクネチウム-99mは、モリブデン-99という放射性同位元素がβ- 壊変することで生じる。原料のモリブデン-99は、海外の原子炉で作られ、日本に輸入されている。
34 なお、核医学検査は、妊婦や妊娠の可能性のある人には行えないことがある。また、授乳中の女性が検査を受ける場合は、一時的に授乳を中止することとされている。
8|PET検査では、陽電子による放射線が検出される
PET検査35は、がん細胞が正常細胞に比べて3~8倍多くブドウ糖を取り込む、という性質を利用する検査法である。ブドウ糖に近い化学構造を持つ、フルオロデオキシグルコース(FDG)36を、体内に注射する。FDGに含まれる放射性同位元素フッ素-18は、β+ 壊変を起こして、陽電子(β+ 粒子)を放出する。この陽電子による放射線を検出する37ことで、全身でのFDGの分布状態がわかる。すなわち、FDGが多い部位にがん細胞がある、という形で、がんを発見する手がかりとなる。PET検査は、細胞の機能を利用して診断画像をつくることから、機能画像をみる検査といわれる。

PET検査を、形態画像をみるCT検査と同時に行い、得られた画像を重ね合わせることで、異常部位を正確にとらえる検査法は、「PET-CT検査」と呼ばれる。

なお、放射性同位元素には、それぞれ固有の半減期がある。たとえば、核医学検査で用いられるテクネチウム-99mの半減期は約6時間、PET検査で用いられるフッ素-18の半減期は約110分となっている。放射性同位元素の半減期が短い場合には、作ってからすぐに検査に使用する必要がある。

近年、PET装置の設置台数は増加しており、受検者数も急速に伸びている。
図表11. PET検査装置(PET-CT検査装置を含む)の設置台数と受検者数の推移
 
35 PETは、Positron Emission Tomography(陽電子放出断層撮影)の略。
36 グルコースの一部の水酸基をフッ素-18で置換してつくる。フッ素-18は、陽子をサイクロトロン(もしくは小型のベビーサイクロトロン)で加速して、水の酸素原子に衝突させてつくる。
37 放出された陽電子が、水などの分子中の電子とぶつかり、消滅(「対消滅(ついしょうめつ)」という)すると、電子の静止質量に等しいエネルギー(511keV)のγ線が2つ、反対方向に放出される。この2つのγ線を検出器でとらえることで、放射線の飛来方向が把握できて、FDGの位置がつかめるという。
9|MRI検査では、水素の原子核の歳差運動の違いを画像化する
MRI検査38は、磁石と電磁波を使って、体内の様子を画像化する。その原理を簡単にみてみよう。

人体の組織や臓器には、多くの水や脂肪が含まれている。水や脂肪の分子中の水素の原子核は、コマのように自転しながら、首振り運動(「歳差運動」という)をしている。それぞれの原子核は自転により、微弱な磁石となっている。ただし、原子核ごとに周囲の磁場が異なるため、歳差運動の回転速度が速い原子核と、遅い原子核がある39。すなわち、N極の向きが原子核ごとに異なっている。

この状態に、原子核を揃える電磁波を当てると、原子核のN極の向きが揃う。しかし、時間の経過とともに、その向きは、再びバラバラとなっていく。この状態で、原子核を反転させる電磁波を当てると、バラバラだった歳差運動がいずれ揃ってくる。N極の向きが揃う様子を、位置ごとにとらえて、エコー信号として画像化する40

身体のなかに出血していたり、タンパク質が多く存在していたりする部分があると、鉄分やベンゼン環、二重結合を多く含む物質が水や脂肪に溶け出している。その付近の水素の原子核は、歳差運動の速度が変化するため、電磁波を当てても、他の原子核のN極が揃う時期に揃わず、エコー信号が低下する。このエコー信号の低下する場所を解析することで、体内の様子を画像化することができる。

なお、MRIは磁石を用いる検査のため、MRI検査室には金属類の持ち込みはできない。たとえば、原則として、義歯、歯科矯正機器、補聴器、ヘアピンなどをつけて、MRI検査室に入ることはできない。

近年、MRI検査は設置台数が増加しており、受検者数も、年々伸びている。
図表12. MRI検査装置の設置台数と受検者数の推移
 
38 MRIは、Magnetic Resonance Imaging(磁気共鳴画像診断)の略。
39 一般に、歳差運動の回転速度は、周囲の磁場が強いほど速くなる。
40 原子核を揃える電磁波は「90°パルス」、原子核を反転させる電磁波は「180°パルス」と呼ばれる。90°パルスを当てると、半分の原子核だけが影響を受けて、N極が揃う。180°パルスを当てると、すべての原子核が影響を受けて、一番速く回転していた原子核が最後尾に、一番遅く回転していた原子核が先頭にくる。90°パルスを当ててから、180°パルスを当てるまでの時間と同じ時間が経つと、すべての原子核のN極が揃う。
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保険研究部   主席研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

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