2020年07月31日

放射線の画像検査への活用-放射線医療の現状 (前編)

保険研究部 主席研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任   篠原 拓也

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0――はじめに

放射線は、現代の医療に欠かせない存在となっている。さまざまな検査法を通じて、身体の中の様子を撮影して、その画像をもとに正確な診断が行われている。また、悪性腫瘍などの病巣に、放射線を照射することにより、適切な治療が行われている。

しかし、放射線医療に対する一般の人の理解は、残念ながらあまり進んでいないものと思われる。2011年の東日本大震災での原子力発電所事故による放射能漏れや土壌汚染をはじめ、放射性物質が環境にもたらす悪影響、「グレイ」「シーベルト」等の聞きなれない放射線量の単位、被曝による発がんのリスクなど、マイナスのイメージばかりが先行してしまう。

このように、放射能は、こわいもの、近づかないほうがよいもの、という認識が広く浸透しており、このままでは、放射線医療の恩恵を受けることの妨げにもなりかねないと考えられる。現に、日本では、欧米よりも圧倒的に放射線医療の実施割合が低い。

そこで、一般の人が理解を高めることを目指して、本稿(前編)と次稿(後編)の2回に分けて、放射線医療の現状をみていきたい。ただし、筆者は、医師などの医療関係者ではない。医学書等をもとに、理解した内容をまとめていく。もし記載内容に誤り等があれば、ご指摘をいただければ幸いである。

ここで、簡単にテーマについて触れておく。まず、前編では、放射線とはどういうものか、放射線を用いた医療診断にはどのようなものがあるか、を中心にみていくこととしたい。

そして、後編では、放射線を用いた治療を概観することとしたい。そのうえで、最後に、放射線医療に関する私見を述べることとしたい。

本稿と次稿を通じて、読者の放射線医療への興味が高まれば幸いである。
 

1――放射線、放射能とは

1――放射線、放射能とは

放射線医療に入る前に、まず、放射線や放射能とはどういうものか、からみていくこととしたい。

1|一般の人が、放射線の医療への活用について学ぶ機会はほぼない
放射線について、学校ではどのように学習しているのだろうか。現在の学習指導要領によると、中学の理科では、電流とその利用に関する項目のなかで、放射線について学習することになっている。

そして、高校に進んで、物理の科目を選択すると、α線、β線、γ線、中性子線といった放射性物質に関する半減期などの基本的な性質や、放射線に関する単位について学ぶこととなる。そのうえで、医療、工業、農業等での利用状況など、放射線や原子力の利用と課題についても学習する。

その後、放射線の専門性を身に付けようと思えば、理工系や農学系もしくは医歯薬系の大学に進んで放射線物理や放射線医学を専攻する、もしくは医療系の専門学校に進んで放射線医療の実務を学ぶ、といった道が用意されている。

一方、放射線関係の仕事には就いていない一般の人が、放射線の医療への活用について、学ぶ機会はほぼない。ただし、健康診断や人間ドックなどで胸部X線検査等の放射線検査を受けたり、自分や家族ががんにかかって放射線治療を受けたりすることは、誰にでも普通に起こりうることだろう。

そこで、本稿では、そもそも放射線や放射能とはどういうものか、から概観していきたい。

2|放射線は、目には見えないが、高いエネルギーを持つ
まず、放射線についてみてみよう。いくつかの書籍をもとに、筆者がまとめてみたところ、放射線とは、「電磁波(電波、光など)や粒子などのうち、そのものが当たると、当たった相手の分子構造や原子・原子核などを破壊してしまうもの」といった説明が得られた。放射線は、目には見えないが、高いエネルギーを持っている。

そして、その放射線が、人間の身体に吸収されて、臓器、組織、細胞などに当たり、その構造を電離1 させて壊してしまうことは、「被曝(ひばく)」といわれる2

放射性物質とは、原子が不安定で、自然に壊れて(「放射性崩壊」や「壊変」などといわれる)、放射線を出す物質をいう。放射性物質が、放射線を出して放射性崩壊を起こす能力を、放射能という。
 
1 電気解離の略で、中性の原子や分子が電気を帯びた原子や原子団(イオン)に分かれることをいう。(「広辞苑 第七版」(岩波書店)をもとに、筆者がまとめた。)
2 「曝」は、常用漢字ではない。そこで、「被ばく」と表記することも考えられるが、その場合、爆撃を受けることや原水爆の被害を受けることを意味する「被爆」と混同してしまう恐れがある。このため、本稿では、「被曝」という表現を用いていくこととする。
3|放射線は、自然環境のなかにも存在する
放射線は、見えず、聞こえず、臭わないため、五感でとらえることは難しい。そのため、あまり身近に感じられないかもしれない。しかし、放射線は、自然環境のなかに、自然放射線として存在しており、誰もが日常生活の中で少量の被曝をしている。

自然放射線の例として、空気中の放射性物質からの被曝、宇宙線による被曝、土壌や建築物などから受ける被曝、食物に含まれている微量の放射性物質からの被曝などがあげられる。

一方、人工放射線もある。たとえば、放射線医療で診断や治療に使われるX線やγ線などの放射線や、原子力発電所で核分裂のエネルギーを取り出す際に生まれる放射線などである。
図表1. 自然放射線と人工放射線の例 (実効線量)
4|宇宙線や土壌からの自然放射線は場所によって異なる
自然放射線は、どこにでも一様に存在するわけではない。場所によって、大きく分布が異なる。

(1) 宇宙線
宇宙線は、太陽や他の宇宙から飛来するX線や粒子などからなる。宇宙線の多くは、大気により防がれるため、地上では被曝が少ない。しかし、地磁気の影響により粒子が集まりやすい極地方や、大気の薄い山頂・高地では、被曝が多くなる。たとえば、北極などで見られるオーロラは、これらの粒子が作り出している。また、富士山頂では、平地の5倍程度被曝が多くなるという。さらに、宇宙線の影響で、飛行機に搭乗したときにも、被曝が多くなる。東京-ニューヨーク間を北極近くのルートで往復飛行すると、胸部単純X線撮影3回分程度の被曝があるとされる。

(2) 土壌からの自然被曝は場所によって異なる
土壌に含まれる放射性物質による被曝もある。被曝の程度は、場所によって大きく異なる。東京や神奈川は、関東ローム層があるために低い(1.0 mSv/年)。日本の平均は1.5 mSv/年、世界の平均は2.4 mSv/年程度とされる。

ブラジルの海岸沿いの観光地ガラパリでは10 mSv/年、インドのケララ州の高地では70 mSv/年にも達するという。いずれも、放射性トリウムを含むモナザイト鉱石があることが原因となっている。また、イランのラムサールの温泉地では、200 mSv/年に達する場所もある。こちらは、放射性ラジウムが、土壌に大量に含まれていることが影響している。3
 
3 「知っていますか? 放射線の特性と画像原理 -すべての医療従事者(事務職員、看護師、技師、研修医、医師)のための放射線科ガイダンス-」今西好正編著(医療科学社, 2013年)より。
5|一般の人が経験しやすい人工放射線として医療被曝がある
一方、人工放射線のうち一般の人が経験しやすいものとして、医療被曝がある。通常、放射線検査や放射線治療を受けると、ある程度の医療被曝は避けられない。医療被曝には、放射線防護の線量限度は適用されず、上限は設定されていない。受検者や患者に利益があり、被曝のリスクはその利益よりも十分に小さいことなどが、その理由とされている。計画的な医療被曝の最終責任は、医師にある。

放射線検査では、防護策として、なるべく被曝を抑えることとされている。放射線治療では、線量投与自体が治療の目的であるため、比較的に被曝線量は多くなる。その防護策として、腫瘍の周辺の正常組織の放射線有害作用を最小化することがあげられる。
 

2――医療で活用される放射線

2――医療で活用される放射線

本章では、医療で放射線を活用する際の、メカニズムを概観していこう。

1|医療で用いられる放射線には、X線、γ線、陽子線などいくつかの種類がある
医療で用いられる放射線には、いくつかの種類がある。まず、放射線は、大きく光子線、電子線、重粒子線に分けられる。

(1) 光子線
光子線は、波長が、ごく短く、エネルギーが強い電磁波のことをいう。X線と、γ線がある4

X線は、電子が厚い金属板に当たったときなどに発生する。主に、加速器で発生させる。γ線は、放射性同位元素の壊変の過程で発生する。X線とγ線は、電荷や質量を持たない。そのため、高い透過力を持つ。

(2) 電子線(広義)
狭義の電子線、β- 線、β+ 線がある。電子線(狭義)は、X線と同じ加速器で、電子を加速させることで発生させる。β- 線は、原子の原子核内で中性子が陽子に変わる変化に伴って、飛び出してくる電子でできている。β+ 線は原子の原子核内で陽子が中性子に変わる変化に伴って、飛び出してくる陽電子(プラスの電荷を持ち、「ポジトロン」とも呼ばれる)でできている。

電子線は、電荷を持っている。また、陽子線などに比べると極端に小さいが、質量も持っている。

(3) 重粒子線
重粒子線は、電子より重い粒子による放射線をいう。陽子線、α線、炭素イオン線、中性子線などがある5。陽子線と炭素イオン線は、大型の円形加速器によって作られる。α線は、原子核の崩壊によって発生するヘリウムの原子核からなる。中性子線は、核分裂や核融合の過程で作られる。陽子線、α線、炭素イオン線は電荷を持っているが、中性子線は、電荷を持っていない。
図表2. 医療で用いられる放射線 (主なもの)
放射線医療の点からみると、X線、γ線、電子線、α線は、一般の医療施設で、さまざまな検査や治療に用いられている。一方、陽子線、炭素イオン線は、治療に用いる放射線を作るために、一定規模の円形加速器(サイクロトロンやシンクロトロン)が必要となる。このため、現状では、陽子線、炭素イオン線を使用する施設は、限られている6,7施設名は後編参照)。
 
4 主な電磁波を、波長が長いほうから並べると、MRI検査の静電磁界からはじまって、地中探査の極超長波、海上無線の長波、AMラジオ放送などのラジオ波、FMラジオ放送などの超短波、地デジTV放送や携帯電話などの極超短波、電子レンジや衛星TV放送や電波望遠鏡などのマイクロ波、リモコンなどの赤外線、光学機器の可視光線、殺菌灯の紫外線、レントゲン撮影のX線、放射線治療のγ線という順番になる。
5 ネオン原子、シリコン原子、アルゴン原子が、医療に用いられることもある。
6 医療施設内で陽子線をつくる「ベビーサイクロトロン」という小型のサイクロトロンもある。徐々に普及が進んでいる。
7 中性子線については、従来、原子炉で作られたものを用いてきた。近年、直線加速器を用いた発生法の開発が期待されている。ただし、普及には、まだ時間がかかるとみられている。
2|X線や電子線などは加速器で作られる
放射線医療では、人工放射線が必要となる。X線や電子線などは、加速器を用いて作られる。その仕組みを簡単にみてみよう。

(1) X線発生装置
真空中で電子を加速して、銅、タングステン、モリブデン等でできた金属板のターゲットに当てると、X線が発生する8。具体的には、フィラメントを陰極、ターゲットの金属板を陽極につないでおく。フィラメントを加熱すると、表面から電子が出て、ターゲットに向かって加速される。この加速された電子を、ターゲットに衝突させると、X線が出る。
図表3. X 線発生装置 (イメージ)
 
8 ターゲットに衝突した電子の運動エネルギーは、大部分が熱エネルギーとして失われる。通常、ターゲットが加熱して溶けたり、変形したりするのを防ぐために、ターゲットは冷却水で強制的に冷却される構造となっている。また、タングステンやモリブデンといった融点の高い金属をターゲットに用いることで、加熱に耐える構造としている。
(2) 電子線発生装置
X線発生装置で、ターゲットに穴をあけておくと、電子線となって電子が出る。
図表4. 電子線発生装置 (イメージ)
(3) 陽子線・炭素イオン線発生装置
陽子線は、サイクロトロンまたはシンクロトロンで発生させる。炭素イオン線は、シンクロトロンで発生させる。

サイクロトロンは、一様な磁場を発生させる電磁石と、その磁場の中に入れられた電極からなる。加速された荷電粒子の軌道は、螺旋(らせん)形となる。高エネルギーの重粒子線を得るには磁石を大きくする必要があるが、それには限界がある。

一方、シンクロトロンは、磁場をエネルギーの増加に合わせて時間とともに変化させていき、軌道半径を一定に保ちながら加速させる。荷電粒子の軌道は円形となる。一つのシンクロトロンでは、到達エネルギーに限界があるため、何段かの円形加速器で、次々とエネルギーを上げていくブースター方式がとられることもある。このため、通常、サイクロトロンよりも大きな規模の施設が必要となる。
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保険研究部   主席研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品、保険計理

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