2020年07月13日

なぜテレワークは日本で普及しなかったのか?-経済、働き方、消費への影響と今後の課題-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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■要旨
 
  • 新型コロナウイルスの感染拡大防止のために政府により緊急事態宣言が発令されて以降日本企業にテレワークが少しずつ導入されはじめている。
     
  • 今まで、日本でテレワークが普及しなかった理由としては、1)メンバーシップ型雇用が主流、2)ハンコや紙書類中心の企業文化の残存、3)セキュリティに対する不安と財政負担の増加、4)設備や機器の不足、5)テレワークに適していない業務の存在などが挙げられる。
     
  • テレワークの経済効果:ワーク・ライフ・バランスが実現しやすくなることにより女性の労働市場参加が増加すると共に高齢者がより長く労働市場に滞在することも可能になる。→ 少子化に歯止めをかける効果や労働力不足問題を解消する効果が期待される。
     
  • テレワークの普及は、日本の「メンバーシップ型雇用」を、個人の仕事と責任の範囲が明確になる「ジョブ型雇用」に変える要因にもなりえる。そうなると、現在、政府が働き方改革の一環として実施している「同一労働同一賃金」がより実現しやすくなり、非正規労働者の処遇水準は今より改善されると予想される。
     
  • 消費への影響:自宅でより楽に仕事をしたり過ごすための消費は増え、外食よりはフードデリバリーや中食、そして内食の割合が増加。自宅でより楽に仕事をしたり過ごすための消費は増え、外食よりはフードデリバリーや中食、そして内食の割合が増加する。また、NetflixやU-NEXTのようなサブスクリプションを利用して映画などを鑑賞しようとする傾向が強くなる。
     
  • 今後テレワークをより普及させるためには、1)業務の電子化の推進、2)通信環境を改善するためのインフラの整備と社員の出費増加に対する支援制度の拡充、3)セキュリティ対策の徹底と、人を信じる企業風土の構築、4)評価システムの整備と評価者に対する教育の徹底、5)長時間労働防止対策の実施、6)中小企業に対する支援拡大や雇用形態による働き方の格差の解消などを推奨・実施する必要がある。


■目次

1――テレワークや在宅勤務の現状
2――なぜ今までテレワークは普及しなかったのか?
  1) メンバーシップ型雇用が主流
  2) ハンコや紙書類中心の企業文化の残存
  3) セキュリティに対する不安と財政負担の増加
  4) 設備や機器の不足
  5) テレワークに適していない業務の存在
3――テレワークで変わる経済、働き方、消費
4――今後の課題
  1) 業務の電子化の推進
  2) 通信環境を改善するためのインフラの整備と社員の出費増加に対する支援制度の拡充
  3) セキュリティ対策の徹底と、人を信じる企業風土の構築
  4) 評価システムの整備と評価者に対する教育の徹底
  5) 長時間労働防止対策の実施
  6) 中小企業に対する支援拡大や雇用形態による働き方の格差の解消

(2020年07月13日「基礎研レポート」)

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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

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