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新型コロナ ワクチン開発の苦境-ワクチン実用化に時間がかかる理由は何か?
基礎研REPORT(冊子版)7月号[vol.280]

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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◆3つのフェーズで行われる臨床試験
フェーズIは、通常、少人数の健康な成人を対象に、小規模な試験として行われる。ワクチンの有効性と安全性に関する、予備的な探索が主な目的となる。
フェーズIIは、健康な人を対象に行われることが多い。対象に、未成年者や高齢者を含むこともある。ワクチン接種の量、スケジュール、経路が明確化される。
フェーズIIIは、数千人の大規模な集団を対象に、有効性と安全性が確認され、多くの研究開発費が使われる。開発の成否が決まる、最大のヤマ場といえる。
◆ワクチンにはいくつかの種類がある
ワクチンには、はしかのように免疫を獲得すれば二度とかからないものもあるが、インフルエンザのように予防接種をしても感染してしまうものもある。ただ、重症化を抑止できるため、有効性はある。
ワクチンには、微生物を発症しない程度に弱毒化して使う「生ワクチン」と、無毒化して用いる「不活化ワクチン」がある。生ワクチンは、わずかに発症のリスクが残るため、免疫不全者や妊婦には使用できない。一方、不活化ワクチンは、これらの人にも使用できるが、獲得する免疫が限られ、持続期間が生ワクチンより短い。
そしていま注目されるのが、遺伝情報(ウイルスの設計図)を使う「遺伝子ワクチン」。ウイルス本体ではなく、遺伝子を用いるため、理論上、安全性の問題は少ないとされる。開発されれば、ウイルス遺伝子を組み込んだプラスミドというDNA分子を、大腸菌などでタンク培養し、ワクチンが大量生産できる。鶏卵を用いる従来の方法に比べて、短期化や低コスト化も可能とされる。ただし、これまでに遺伝子ワクチンの人での実用化事例はない。
いずれのワクチンにしても、発症のリスクを減らす、もしくは無くす一方で、免疫を
獲得できることが条件となる。
◆有効性は発症予防効果でみる
たとえば、ワクチンとプラセボ(偽薬)を100人分ずつ被験者に投与する。ワクチンから20人、プラセボから50人が発症した場合、ワクチンにより30人(=50人-20人)の発症が予防でき、発症予防効果は、60%(=30人÷50人)となる。
感染症により、発症予防効果は異なる。たとえば、はしかでは90%以上との研究結果がある。一方、季節性インフルエンザでは65歳以上の健常者で約45%との報告もある。このように、ワクチンを打っても、感染しないとは言い切れない。
しかし、多くの人がワクチンを打てば、「集団免疫」が働いて、感染者の数が減り、感染拡大が抑えられる。このために、早期のワクチン開発が望まれるわけだ。
◆「副反応」が大きければ開発ストップ
ワクチンは、発症予防効果が高くても、副反応のリスクが大きければ、開発はストップされる。開発のハードルは高い。
◆感染が収束すれば開発中止の事態も
ワクチン開発には、リスク軽減の支援も必要と思われるが、いかがだろうか。
(2020年07月07日「基礎研マンスリー」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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