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中国経済の現状と今後の見通し-新型コロナ禍に“新型インフラ”で応じる中国の出口戦略
基礎研REPORT(冊子版)7月号[vol.280]
三尾 幸吉郎
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1―中国経済の現状
その後、新型コロナ禍がほぼ収束し新規感染者数が100人を上回らなくなったことを背景に、習近平国家主席は4月8日、防疫対策を常態化する中で生産・生活秩序の全面回復を加速する必要があるとして、「防疫対策を常態化する」という条件付きながらも、経済活動の本格再開に舵を切った。そして、実質GDP成長率との連動性が高い工業生産(実質付加価値ベース)は、1-2月期の前年比13.5%減をボトムに徐々に持ち直し、4月以降は前年水準を上回ってきた。特にハイテク製造業は10%前後の高い伸びを回復している[図表2]。
また、投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)を見ると、1-5月期は前年比6.3%減と1-3月期の同16.1%減からマイナス幅を縮めており、筆者が推計した4-5月期の伸び率は前年比8.3%増と前年水準を大きく上回った模様である。内訳を見ると、製造業の回復力は鈍く1-3月期の前年比25.2%減から4-5月期には同0.7%増へ僅かに前年水準を上回った程度だが、不動産開発投資が同7.7%減から同10.7%増へ、インフラ投資も同19.7%減から同13.7%増へ急回復し、景気を牽引し始めている[図表3]。
2―全人代と財政金融政策
また、財政政策に関しては、「積極的な財政政策はより積極的かつ効果的なものにする必要がある。今年の財政赤字の対GDP比は3.6%以上とし、財政赤字の規模は前年度比1兆元増とするほか、感染症対策特別国債を1兆元発行する」としたのに加えて、「今年は地方特別債を昨年より1兆6000億元増やして3兆7500億元」とするとしており、20年の財政出動は19年より3兆6千億元(日本円換算で約54兆円)拡大する計画となった。
他方、金融政策に関しては、「穏健な金融政策はより柔軟かつ適度なものにする必要がある。預金準備率と金利の引き下げ、再貸付などの手段を総合的に活用し、通貨供給量(M2)・社会融資総量(企業や個人の資金調達総額)の伸び率が前年度の水準を明らかに上回るよう促す」としている。新型コロナ禍に際して中国人民銀行(中央銀行)は、旧正月(春節)連休明けの2月初めに1.7兆元(日本円換算で26兆円)の大量資金供給に踏み切ったのに加えて、新型コロナウイルスが猛威を振るっていた1月31日には防疫物資の生産・輸送・販売を担う企業を金融支援し、新型コロナ禍が峠を越えた2月26日には企業の業務・生産再開に対する金融支援を始めるという手順を踏んだ。また、3月1日には資金繰りに窮した中小零細企業を救済するため、6月30日*までに期限がくる元本償還・利払いを一時的に延期する“疫情融資”と呼ばれるモラトリアム措置を発動した。そして、5月の通貨供給量(M2)は前年比11.1%増まで伸びを高め、社会融資総量残高も同12.5%増まで伸びを高めた[図表4]。
*この処置は5月の全人代で21年3月末まで延長された
3―今後の見通し
中国では新型コロナ禍がほぼ収束したため、経済活動はゆっくりとだが着実に正常化し始めている。新型コロナ禍の“第2波”を恐れる中国政府は、消毒などの防疫措置を維持しつつ、通行証明書となる”健康コード”を活用した健康管理手法を導入し、社会的距離(ソーシャル・ディスタンス)を維持したまま経済活動を回復させる“非接触型”の極めて慎重な出口戦略を採用しているため、景気回復の勢いは緩やかなものとならざるを得ない。
しかし、その出口戦略で新型コロナ禍の“第2波”を小振りに抑え込むことができれば、4-6月期にはBeforeコロナ(19年10-12月期)を僅かに下回る水準まで回復し、20年下半期にはそれを上回る水準まで回復すると予想している[図表5]。前述のとおり今回の全人代では20年の財政支出を19年より3兆6千億元上乗せすることを決定しており、Withコロナ時代の新たな経済発展を支える“新型インフラ”の建設が中国経済を牽引し始めると見ているからだ。
なお、新型コロナウイルス(SARSCoV-2)は未だ正体不明な点が多く、“第1波”を超える大波が“第2波”として襲来する恐れもある。その場合、経済活動を正常化する過程は途中で頓挫し、20年はマイナス成長を覚悟せざるを得なくなる。ここもと人類の英知を結集してワクチンや治療薬の開発に取り組んでいるため、20年中にはメドが立つと想定しているものの、不確実性が高いことを十分に踏まえておきたい。およそ百年前のスペイン風邪では、世界的流行の大波が3波も押し寄せたため、その終息まで約3年を要した。
(2020年07月07日「基礎研マンスリー」)
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