2020年06月04日

日銀も低コスト投信にシフト!? 国民負担の軽減は極めて限定的

金融研究部 上席研究員 チーフ株式ストラテジスト   井出 真吾

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1――はじめに

日本銀行がETF(上場投資信託)の買入方法を変更した。結果的にコストの安いETFを従来よりも多く購入することになりそうだ。背景は何か、そしてコスト削減効果はどのくらいか検証する。
 

2――ETF買入方法を変更

2――ETF買入方法を変更

日銀は年間6兆円ペースでETFの買入れを続けている(現在はコロナ禍対応で一時的に年間12兆円を上限に拡大中)。買入対象ETFはTOPIX(東証株価指数)連動型、日経平均連動型、JPX日経400連動型の3種類で計5.7兆円、残りの0.3兆円は設備投資及び人材投資に積極的に取り組んでいる企業を支援するためのETF、いわゆる「賃上げETF」だ。
 
TOPIX連動型のETFと一口に言っても複数の運用会社が同様のETFを出しており、いずれも日銀の買入対象となっている。従来は各ETFの時価総額に応じて買入れていたが、20年5月以降については各ETFの市中流通額に比例して買入れることとした。
【図表1】ETF買入方法の変更
市中流通額とは各ETFの時価総額から日銀の保有額を差し引いた分なので、いわば「日銀以外の投資家の需要の大きさ」を表すと解釈できる。図表1の例では、時価総額はB社のETFの方が大きいが、市中流通額はA社のETFの方が大きい。
 
つまり(日銀以外の)多数の投資家はA社のETFを好んでいるにもかかわらず、従来の日銀の買入れ方法ではB社のETFを多く買っていたわけだ。市中流通額に応じて買入れる新ルールではB社よりもA社のETFを多く買うので、市場の需要と平仄を合わせることになる。
 
なお、従来ルールは時価総額が大きいETFほど日銀が大量に買うため、さらに時価総額が大きくなる“雪だるま式”だったと言えよう。
 

3――なぜ類似商品で需要に差があるのか

3――なぜ類似商品で需要に差があるのか

日銀が買入対象としているETFは値動きがTOPIXや日経平均に連動するように運用されるので、基本的に運用会社による運用成果の差はほとんど無い。運用実務は決して容易ではないが、指数採用銘柄の入れ替えや企業の合併・増資などが発生する都度、各指数が定めたルールに忠実に対応すれば、ほぼ完璧に指数に連動させることができる(筆者は指数連動型運用の実務経験が20年超)。
 
では、なぜ類似のETFなのに需要の差があるのか。考えられるのは保有コストだ。
 
ETFの保有者は保有額に応じて信託報酬(運用・管理費用)という保有コストを負担する。主に運用会社の手数料で、前述の運用実務等の対価だ。実際は投資家が別途支払うわけではなく、保有する時価に対して「年率○%」という形でETFの純資産から日々差し引かれる。したがって保有額が大きいほど、また信託報酬率が高いほど、ETF保有者が負担する信託報酬の実額も大きくなる。
 
前述のように各ETFの運用成果はほぼ同じなので、「高いものが良い」とか「安かろう悪かろう」といったことはない。ましてや日銀の買入対象は日本を代表する運用機関のETFだ。いずれも最高品質の商品と考えてよい。
 
品質が同じなら、よりコストが安いETFを選ぶのが一般的だろう。実際、各ETFの信託報酬率と市中流通額の割合を見ると(図表2)、TOPIX型、日経平均型ともに低コストETFほど市中流通額の割合が大きい。
 
このことは、日銀以外の投資家がコストのより低いETFを好んでいることを示唆している。逆に言えば、高コストETFを保有しているのは主に日銀ということだ。
【図表2】各ETFの信託報酬率と市中流通額の割合
ただ、これは結果論でもある。従来、日銀は「各ETFの時価総額に応じて買入れる」という方法を採用してきた。これは時価総額が小さく品薄なETFを大量に買入れると適正な価格形成を阻害するなど、日銀がETF市場に弊害を与える可能性に配慮したためと推測される。
 
また、信託報酬率が相対的に高いETFは運用開始時期が早かったため、日銀が買入れを開始した2010年から買入対象になっていた。一方、相対的に低コストのETFは後発組であり、自社商品にコスト競争力を持たせるために信託報酬率を低く設定したと考えられる。
 
こうした歴史的な経緯もあるので、日銀が高コストETFを中心に保有している現状を一概に批判できるものではない(もう少し早く是正する余地があったことは否定しないが)。
【図表3】主な買入対象ETF

4――新ルールで買入額・保有残高はどう変わるか

4――新ルールで買入額・保有残高はどう変わるか

次に、今後の買入額と保有残高がどう変わるか検証してみよう。図表3最下段のとおり、指数ごとの合計額では時価総額はTOPIX型が日経平均型の2倍弱だが、市中流通額は日経平均型が約2倍となっている。また、JPX日経400型も時価総額では見劣りするが、市中流通額ではTOPIX型を上回る。このため新ルールでは日経平均型とJPX日経400型の買入額が増えると想定される。
 
また、各ETFの市中流通額は時価総額ほどの差がないので、新ルールによって相対的に時価総額が小さいD社~F社のETF購入額が増えることが予想される。
 
試算結果を図表4に示す。まずタイプ別ではTOPIX型の買入額が5,687億円減る一方、日経平均型は2,124億円の増加、JPX日経400型も3,563億円増える結果となった。運用会社別ではA社が9,769億円の減少で最もマイナスの影響を受ける。C社と合わせて1兆円を超える減額となりそうだ。
 
その分、B社およびD社~G社は増額となる見通しだ。特に旧ルールでは1,000億円に満たなかったE社は6倍強の年間5,983億円に、従来579億円に過ぎなかったF社は3.7倍の2,158億円に増える。この試算結果に近い買入れが実施されれば、ETF市場におけるD社~F社の存在感は徐々に高まるだろう。
【図表4】年間買入額の変化(試算)
新ルールで年間6兆円買い続けた場合の「10年後の残高」を試算した結果が図表5だ。新ルールで買入額が減るTOPIX型が約5兆円少なくなる(72兆円→67兆円)一方、日経平均型とJPX日経400型はそれぞれ2兆円、4兆円ほど増える。全体では94兆円と、現在の国の一般会計に近い。
 
運用会社別ではA社が10兆円規模でマイナスの影響を受けるが、B社とC社は1兆円程度の増減にとどまり、大手3社の中でも明暗が大きく分かれる。飛躍的に伸びるのがE社で、10年後の残高は旧ルールと比べて4.3倍になる計算だ。
【図表5】10年後の保有残高(試算)
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金融研究部   上席研究員 チーフ株式ストラテジスト

井出 真吾 (いで しんご)

研究・専門分野
株式市場・株式投資・マクロ経済

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