- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- アジア経済 >
- インド経済の見通し~4-6月期は全土封鎖の影響が本格化、封鎖解除後も経済正常化が遅れて20年度はマイナス成長へ(2020年度▲1.5%、2021年度+7.7%)
インド経済の見通し~4-6月期は全土封鎖の影響が本格化、封鎖解除後も経済正常化が遅れて20年度はマイナス成長へ(2020年度▲1.5%、2021年度+7.7%)

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
経済概況:都市封鎖の影響が出始め、11年ぶりの低成長


純輸出については、成長率寄与度が▲0.2%ポイント(前期:+1.7%ポイント)と縮小した。まず輸出が同8.5%減(前期:同6.1%減)と、新型コロナの流行による物流網の混乱や世界経済の減速を受けて減少した。また輸入は同7.0%減と、前期の同12.4%減からマイナス幅が縮小したものの、3期連続で減少した。
セクター別の粗付加価値生産(GVA)をみると、1-3月期は製造業が同1.4%減(前期:同0.8%減)と、3期連続のマイナス成長となった。またサービス業は同4.4%増(前期:同5.7%)と鈍化した。一方、農業は同5.9%増(前期:同3.6%増)と健闘した。
1 2019-20年度の成長率は前年比4.2%増(2018-19年度:同6.1%増)となり、3年度連続で減速した。
経済見通し:都市封鎖と経済正常化の遅れで41年ぶりのマイナス成長に
インド政府は3月25日から実施している全国的な都市封鎖2を5月末に解除3、6月から経済活動の再開に本腰を入れ始めた。新型コロナ感染者の多い「封じ込め地区」は6月末まで封鎖を継続するが、段階的に活動が再開されるなかで、景気は持ち直しに向かうだろう。もっともインドは、これまでの都市封鎖もむなしく、新型コロナの新規感染者数は1日8千人超のペースで増え続けており、累計感染者数は20万人を突破している(6月3日時点)。感染拡大が収まる見通しが立たないなかでの封鎖解除となったことから、感染ペースが加速する事態が懸念される。今後は「封じ込め地区」の指定を増やすといった規制強化や段階的な封鎖解除の遅れが予想されるほか、州政府が独自に実施する制限措置が残るなど経済活動の正常化がスムーズに進むとは考えにくい。また突然の都市封鎖によって数百万人もの出稼ぎ労働者が職を失って故郷に帰省したとみられている。全土封鎖が解除されたとはいえ、帰省した労働者が直ぐに都市部に戻るとは考えにくく、当面は労働力不足が企業の活動再開を阻む障害となるだろう。
需要面をみると、民間部門は都市封鎖の影響が本格的に表れる4-6月期に大幅に減少し、その後の回復にも時間がかかりそうだ。地場シンクタンクCMIEによると、失業率は4月に23.5%(3月:8.7%)と急上昇(図表5)、雇用者数は約1.2億人減少したとみられているほか、賃金カットに伴う収入減も含め、雇用所得環境は著しく悪化している。生活困窮者が増え、政府は食料の無料配給や現金給付などの対応を迫られることとなった。封鎖解除による経済活動の正常化が進むにつれて雇用情勢も回復していくことになるが、国民の生計が成り立つようになるまでは消費需要が低迷しそうだ。また新型コロナの感染防止策として社会的距離の確保が続くことも消費者心理に悪影響が及ぶほか、海外出稼ぎ労働者からの本国送金が減少することも民間消費の重石となるだろう。民間投資については、コロナ禍では需要の減少が生産能力の減少より大きくなるものとみられ、民間消費に遅れて回復していくことになると予想する。
政府部門は景気悪化に伴い歳入不足に陥いるが、政府は財政健全化を一時棚上げすることによって支出を続けるものとみられ、引き続き成長を下支えるだろう。政府は5月にGDPの1割に相当する総額20兆ルピー(約28兆円)の経済対策パッケージを公表した。これは3月と4月に打ち出した第1弾と第2弾のパッケージ(合わせて10兆ルピー規模)に、更に10兆ルピー規模の対策を上乗せするものであり、中小企業や貧困層への財政的な支援に加え、農業インフラの拡充や規制緩和などが盛り込まれた。もっとも、既に2019年度の財政収支(GDP比)が▲4.5%(前年度:▲3.4%)と拡大しており、野放図な財政拡張政策は難しく、更なる財政支出の拡大までは望めない。
以上の結果、20年度は新型コロナの流行と都市封鎖の影響を受けて民間消費と投資を中心に減少して、実質GDP成長率が▲1.5%(19年度:+4.2%)となり、1979年度以来、41年ぶりのマイナス成長に陥るだろう(図表6)。21年度は経済正常化と前年からの反動増により、成長率が+7.7%まで上昇すると予想する。
2 4-5月は全土封鎖を継続する一方で、感染が抑制されている地域では4月20日から製造業や建設業、貨物輸送などの操業再開を許可、5月4日と18日にも活動再開の対象を拡大させるなど、部分的な活動制限の緩和は先行的に実施されていた。
3 6月1日から人やモノの無制限の移動を許可、6月8日からの「フェーズ1」ではショッピングモールやホテル、レストラン、宗教施設などの再開を許可、「フェーズ2」では教育施設の再開(決定時期は7月の予定)、「フェーズ3」では国際線の運航やメトロ、映画館、娯楽施設、大規模集会の再開を許可する方針。このほか、封じ込めゾーン以外では、夜間外出禁止令の時間帯を「午後7時~午前7時」から「午後9時~午前5時」に短縮された。
(物価の動向)当面は農業生産の回復で食品インフレ沈静化

先行きのインフレ率は、都市封鎖に伴う物流網の混乱や消費者の買いだめなどが一時的に物価を押し上げるだろうが、収穫した乾季作物が国内市場に行き渡るなか、新型コロナ感染拡大を背景とする油価下落や需要減少の影響を受けることにより、中央銀行のインフレ目標圏内まで低下していくだろう。更に年度後半は前年の食品インフレからの反動が加わり、インフレ率は物価目標の中央値を下回るまで低下するだろう。しかし、21年度は景気回復による需給改善が進み、インフレ率が再び上昇しよう。CPI上昇率は2019-20年度の+4.8%から20年度が+3.9%に低下、21年度が+4.0%と予想する。
(金融政策の動向)年内1回の追加利下げを予想

先行きについては、年内1回の追加利下げを実施を予想する。今後、都市封鎖による経済への深刻な影響とこれまでに打ち出された経済対策の効果が明らかになるに従い、RBIは追加的な金融緩和策の必要に迫られるだろう。高インフレが沈静化していくことも金融緩和の追い風となり、年内に▲0.5%の追加利下げを実施すると予想する。また来年度は経済の正常化が進む中で政策金利を段階的に引き上げていくものとみられる。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2020年06月04日「基礎研レター」)

03-3512-1780
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
斉藤 誠のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/16 | インド消費者物価(25年3月)~3月のCPI上昇率は+3.3%、約6年ぶりの低水準に | 斉藤 誠 | 経済・金融フラッシュ |
2025/04/08 | ベトナム経済:25年1-3月期の成長率は前年同期比6.93%増~順調なスタート切るも、トランプ関税ショックに直面 | 斉藤 誠 | 経済・金融フラッシュ |
2025/03/21 | 東南アジア経済の見通し~景気は堅調維持、米通商政策が下振れリスクに | 斉藤 誠 | Weekly エコノミスト・レター |
2025/03/13 | インド消費者物価(25年2月)~2月のCPI上昇率は半年ぶりの4%割れ | 斉藤 誠 | 経済・金融フラッシュ |
新着記事
-
2025年05月02日
ネットでの誹謗中傷-ネット上における許されない発言とは? -
2025年05月02日
雇用関連統計25年3月-失業率、有効求人倍率ともに横ばい圏内の動きが続く -
2025年05月01日
日本を米国車が走りまわる日-掃除機は「でかくてがさつ」から脱却- -
2025年05月01日
米個人所得・消費支出(25年3月)-個人消費(前月比)が上振れする一方、PCE価格指数(前月比)は総合、コアともに横這い -
2025年05月01日
米GDP(25年1-3月期)-前期比年率▲0.3%と22年1-3月期以来のマイナス、市場予想も下回る
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【インド経済の見通し~4-6月期は全土封鎖の影響が本格化、封鎖解除後も経済正常化が遅れて20年度はマイナス成長へ(2020年度▲1.5%、2021年度+7.7%)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
インド経済の見通し~4-6月期は全土封鎖の影響が本格化、封鎖解除後も経済正常化が遅れて20年度はマイナス成長へ(2020年度▲1.5%、2021年度+7.7%)のレポート Topへ