2020年06月03日

キャッシュレスを学ぼう(4)-電子決済等代行業

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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1――はじめに

「キャッシュレスを学ぼう」シリーズの四回目は、電子決済等代行業についてである。前回の基礎研レター「キャッシュレスを学ぼう(3)-資金移動業」で解説した資金移動業では、送金(決済)を行うにあたって自社で資金を受け入れ、送金に自社インフラを用いる。他方、電子決済等代行業においては、資金は自社では受け入れず、送金インフラは既存の銀行のシステムを利用する。言い換えると、電子決済等代行業者は、銀行と預金者(ユーザー)を仲介する事業者である(図表1)。なお、電子決済等代行業は銀行だけではなく、信用金庫や農林水産系の金融機関に関しても認められるが、本稿ではこれらの金融機関をまとめて銀行と表示する。
【図表1】資金移動業と電子決済等代行業との比較(イメージ)
フィンテックを説明するときには、まず、この電子決済等代行業が取り上げられることも多い。銀行の機能をアンバンドリング(分解)するものであり、他のサービスとセットされることで新たな価値を創造するものである。この電子決済等代行業は2017年に法制化された。

今国会でも、主にはフィンテック業者が、銀行・証券・保険の提供する商品のうち、高度に専門的なもの以外を販売可能にする法案(金融サービス仲介法制)が審議されている。これについては、別稿を期したい。
 

2――電子決済等代行業とは何か

2――電子決済等代行業とは何か

電子決済等代行業には二種類の事業形態がある。ひとつは、ユーザーからの送金指図を銀行に伝達するもの(送金サービス等、一般に更新系と呼ばれる)と、銀行の預金材高や取引状況などの結果をユーザーに示すもの(家計簿サービス等、一般に参照系と呼ばれる)である。

これらの電子決済等代行業では、単にこれらの機能を提供するわけではなく、たとえば、更新系では、カード決済などのタイミングをとらえ、余剰資金を投資に回すなどのアルゴリズム貯金サービス、スマートフォンに表示されるQRコードによる決済の支払を、預金から行うQRコード決済サービスなどがある。また、参照系では、銀行やクレジットカード、証券会社の残高などをまとめて表示する家計簿アプリ、中小企業向けに口座の入出金やインターネットバンキングの取引状況の情報を取り込み、経費精算を行うような会計アプリがある1

電子決済等代行業においては、銀行とのシステムの接続の仕方が課題である。従来は電子決済等代行業者(図表では電代業者とも表記する)が、預金者(ユーザー)から銀行ID(口座番号等)およびパスワードを取得して、銀行システムにログインしてサービスを提供する方式(スクレイピング、図表2)が行われていた。電子決済等代行業者が銀行IDやパスワードを取得することで、情報漏えいや不正利用の問題が懸念されており、また、銀行がインターネットバンキングの仕様を変えると接続できなくなるなどの問題が指摘されていた。
【図表2】スクレイピング(更新系の例)
そこで、2017年の銀行法改正により、電子決済等代行業者と銀行とのシステムを直接つなぐ方式(オープンAPI)への転換が進められてきた。APIとはApplication Programming Interfaceの略で、一般にはアプリがOSで動くための手順のことを指す。そして、ここでのオープンAPIとは、銀行の預金管理システムへ接続するための仕様が、さまざまな電子決済等代行業者に対して広く解放され、電子決済等代行業者と銀行のシステムが接続されるものを指す(図表3)。
【図表3】オープンAPI(更新系の例)
 

3――電子決済等代行業への規律

3――電子決済等代行業への規律

1|電子決済等代行業(更新型)
電子決済等代行業は銀行法で定義されている。上述のような更新系と参照系のサービスに合わせて、二つのカテゴリーが規定されている。まず一つ目は、預金者の委託を受けて、電子情報処理組織を使用する方法により、銀行に対して、預金者による為替取引の内容の伝達を行うものである(銀行法第2条第17項第1号)。これは、いわゆる電子送金サービス(更新系)であり、図表4がその例を示したものである。この図では、預金残高やクレジットカード利用履歴等から判断して、資金余剰があると電子決済等代行業者が判断して、証券口座に資金を送金することを提案し、預金者がその旨の送金指示を行うというスキームを示したものである2
電子決済等代行業(更新型)
送金サービス型にはいくつかの適用除外があり、次に記載するケースでは電子決済等代行業者の登録を要しない。まず、(1)定期的な支払いを目的とするもの、たとえば家賃や公共料金の振り込みを指図するもの、(2)同一預金者の本支店間の口座での振替を指図するもの、(3)ふるさと納税など国や公共団体等への振り込みを指図するもの、(4)保険会社や貸金業者が行う保険料や弁済金などの支払い指図、証券会社による自社口座への入金指図など、商品・役務売買にかかる契約の債務の履行をするものである(施行規則第1条の3の3)。これらは電子決済等代行業者ではない一般の企業から、銀行に対して振替指図が行われるもの等であり、規制の適用外となる。
 
2 具体的な指図を行わない形態、すなわち、電子決済等代行業者が送金内容を取りまとめ、銀行のインターネットバンキングの画面に遷移し、預金者が送金指図するというものも規制対象となる(銀行法第2条第17項第1号、施行規則第1条の3の4)。
2|電子決済等代行業(参照型)
カテゴリーの二つ目は、いわゆる口座管理・家計簿サービスである(参照系)。具体的には、預金者の委託を受けて、電子情報処理組織を使用する方法により、銀行から口座に関する情報を取得し、この情報を預金者に提供するものである(銀行法第2条第17項第2号)。図表5は、銀行2行の情報をまとめて家計簿として表示する例のイメージである。

預金者は複数の銀行口座や、業者によっては証券口座などの残高を一括して参照することができ、資金の有効活用に関する情報の提供が可能になる。
電子決済等代行業(参照型)
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保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

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