2020年05月29日

キャッシュレスを学ぼう(3)-資金移動業

保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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3――資金移動業にかかる規制改正の概要

第201回通常国会に資金決済法の改正案が付議されており、資金移動業に関する大きな改正がなされる予定である8。改正のポイントは大きく二つあり、100万円を超える金額の送金を、認可を条件に認める(第一種資金移動業)ことと、少額の送金のみを取り扱う事業者(第三種資金移動業)のカテゴリーを設けて、規制緩和することである(図表6)。
資金移動業にかかる規制改正の概要
 
8 金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」報告(2019年12月20日)。金融庁HP国会提出法案概要https://www.fsa.go.jp/common/diet/201/01/gaiyou.pdf
1|高額送金を取り扱う事業者(第一種資金移動業)の新設
高額、すなわち、現行政令で定める100万円を超える金額の為替取引を行うことを、新たに認めることとした(第一種資金移動業)。第一種資金移動業を営もうとする者は、資金移動業の登録を行ったうえで、業務実施計画を定めて、内閣総理大臣の認可を受けなければならない(改正法第40条の2)。業務実施計画にはシステムリスク管理、セキュリティ対策、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策等にかかる体制整備が規定されることとなる9。なお、送金可能額の上限は法律では規制されず、各事業者が定めるものとされた。

そして、資金の滞留規制が新たに導入された。送金額や送金日時等が明らかでない資金を受け入れてはならず、資金移動に必要とされる期間を超えて資金を滞留させてはならないとされた(改正法第51条の2)。これは出資法(出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律)第2条の定める預り金禁止規定に抵触しないため、また資金移動業者が万一破綻した場合であっても、社会的・経済的に大きな影響を与えないためにとられた措置である10
 
9 前掲注8報告p6参照。
10 前掲注8報告P6~P7参照。
2|現行規制を前提に事業を行う事業者(第二種資金移動業)に対する規制改正
現行の規制と同様に100万円以下の資金移動の事業を行う者(後述の第三種資金移動業を行う者を除く)は第二種資金移動を行う者として、ほぼ現行の規制を受けることとなるが、一部変更がある。

すなわち、利用者から受け入れる資金のうち為替取引に用いることがないと認められるものを保有しないための措置を講ずることが求められる(改正法第51条)。第一種資金移動業ほどは厳格ではないものの、資金の滞留を防止するための措置を取られなければならないとされた11
 
11 なお、前掲注8報告では銀行との間で保全契約を締結したときに、滞留資金を貸し付けに流用することのないように、規律を定めることとされている。この点は今後、政省令レベルで定められるものと思われる。
3|少額送金のみを取り扱う事業者(第三種資金移動業)の新設
資金移動業を行う者の取り扱う送金額のほとんどが数万円程度ということである。この点を踏まえ、少額を取り扱う資金移動業を行う者に対しては、規制緩和をすることとなった(第三種資金移動業)。

第三種資金移動業を行う者の扱う送金は、特定の利用者からのトータルの上限金額(特定の利用者が同時に2件資金移動委託をした場合は2件を合計した金額)が政令で定められる額以下であることが求められる。実態として数万円程度の送金が多く行われているという実態を踏まえて、政令で金額が指定されることとなる(5万円程度と考えられている)。

ところで、上述した、第一種資金移動業や第二種資金移動業では、現行規制と同様、要履行保証額相当額を供託や信託すること、あるいは銀行との保全契約を締結することが求められている 。したがって、利用者資金の100%を供託や信託をすることにより、送金に充てる資金は別途調達する必要がある。また、銀行との保全契約を締結した場合にも、銀行に手数料を払う必要がある。

一方、第三種資金移動業を行う者は、利用者資金を、自己資金とは別の預金で管理することが求められる。その代わりに、上述の要履行保証額相当額について供託等を行う必要がなくなった。このように簡易な規制とされたのは、利用者ごとの利用金額が少額に限定されるため、仮に破綻しても影響がさほど大きくならないと判断されたためである。
4|収納代行についての規制
上述の通り、収納代行の典型的な事例として、公共料金等をコンビニのレジで支払う方法が挙げられる。また、最近では割り勘アプリが登場し、食事会などの幹事が店に料金を一括で立替支払いの後、参加者から会費を徴収することがアプリでできるようになった。今回の法改正においては、後者の、個人の依頼により収納代行を行う取引について、為替取引に該当することを明示した(改正法第2条の2)。これは割り勘アプリでは取立を依頼する逆為替という取引と同視できるとしたうえで、個人間の決済であることから消費者保護の必要性が高く、規制をかけることとしたものである12

割り勘アプリとは、①幹事が割り勘アプリの支払い機能で一括して飲食店に支払いを行う、②参加者に各々の負担分を割り勘アプリ経由で請求する、③割り勘アプリが参加者のアカウントから幹事のアカウントに残高を振り替える、といったものである(図表7)。
収納代行についての規制
法文の立て付けとしては、収納代行のうち、受取人が個人であること等の府令で定める要件を満たす場合に限り、為替取引に該当するとしている。逆に読むと、そもそも収納代行は為替取引に該当しない性格のものであるとのことのようだ。しかし、そもそも取引の性格が、受取人が個人か事業者かで変わるというのは、理解しにくい。事業者の委託による代行収納では、利用者がコンビニ店頭で支払った段階で、コンビニの倒産等による不払いリスクが事業者に移転するため、利用者保護の観点からの規制は不要といの判断13だが、何らかの規制(開示規制など)をかけることを前提に、事業者が受取人の場合も、個人間の割り勘アプリのような収納代行と同様に、為替取引であると位置付けてもよかったのかもしれない14。この点、報告でも継続課題とされている。
 
12 前掲注8報告P17参照。
13 前掲注8報告P16参照。
14 ただし、このことにより、後払い方式電子マネーが広く資金決済法の資金移動業の規制対象になる可能性もあるため、慎重な議論が必要である。
 

4――おわりに

4――おわりに

資金移動業者の果たす機能は相当程度、銀行に近いものになってきている。この点、資金決済法は、資金移動業者に、(1)資金の滞留を認めないこと、および(2)為替取引と貸付をあわせて行わせないことにより、預金受け入れや信用創造といった機能を持つ銀行と、差別化させている。

しかし、昨今のマイナス金利下の経済状況をみると、預金の金利はほぼつかない実態にあるので、預金と貸付の間の利ザヤを稼ぐという銀行のビジネスモデル自体、限界がきているようにも思える。銀行としては、手数料ビジネスへの移行を迫られているが、その一つの柱となる決済ビジネスに直接影響を及ぼし、変革を迫るであろう規制緩和が、今回の改正である。

ところで、為替取引について、筆者の個人的な経験から言えば、海外への送金は結構厄介である。送金できるかどうかわからない国もある。海外からの労働者を受け入れることが推進されてきたが、これらの人たちの海外送金を簡単・安価に行えるようにすることは、銀行にとってのビジネスチャンスにならないだろうか15

また、為替取引はそれ自体の利潤もあるが、昨今は、為替取引に付随する決済データから利益を生じさせるビジネスモデルも台頭しつつある。高度技術を活用した決済ビジネスには、銀行の保有する膨大なデータを生かすことのできるビジネスモデルを生み出していく、大きなチャンスがあるものと考える。

次回はフィンテックの代表的な事業として取り上げられることも多い、電子決済等代行業について解説を行う。
 
15 いわゆる地下銀行の存在が報道されることがあるが、これは国内で労働する外国人が家族のもとへ安価に送金したいというニーズがあることが理由の一つとされている。
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保険研究部   常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

(2020年05月29日「基礎研レター」)

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